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grace 8  #ルート:S





空がすこしずつ夜をなくしていく。


夜明けの明るさは、カルナークの表情をハッキリと俯瞰の目で見ているあたしに明かしてくれる。


うっとりとした目であたしを見つめ、髪にキスをした後にだらりと垂れ下がり空いている左手を取って。


「陽向は…俺のモノだ」


何かの誓いのように、手の甲にもキスをした後に。


「そろそろ観客にも登場させるとしよう。浄化の瞬間を証言させないとな」


そう呟いたかと思えば、至近距離であたしへと人差し指で銃でもかまえたみたいに指先を向け。


『集いしモノらよ。姿かたちを変え、聖女に翼を与えよ』


呟き、黒い球体をあたしへと撃ち放った。場所は心臓の位置。


どうして? と思った。


カルナークが呟いたのは、あたしが元いた世界の英語にあたるもので、聖女が浄化の際に使う言語だと辿ったこれまでの聖女らの記憶で知ったものなのに。


使い方も言葉もなにも教えていなかった。


カルナークには伝わるはずがなかったんだ。その言語を知った時には、彼との関係に異変が起きつつあったから知らせるはずもなかったもの。


弧を描き吸い込まれてきた瘴気が一度あたしの体を通り抜け、通過した先の肩甲骨へと徐々に集まっていく。


すこしずつ羽根が生えていくかのような、そんな光景だ。


あたしの背後から陽が昇り、どこかでみた後光が射す神様みたい。


カルナークとは違った意味で、綺麗だ……と思った。たとえるなら、怖いほどに整えられた漆黒の女神みたい。


カルナークは浄化に関する属性を持たないはずなのに、あたしの中の魔力と混ざり合っているからか、浄化が不思議なくらいその手順を踏もうとしているのを察する。


毎回何か違う形での浄化をしてきた聖女たちの記憶。


あたしが行なう浄化も違うやり方なんだろうという漠然とした感覚しかつかめず、でもどの流れが必要で光属性で何を後押ししてもらえばいいのかは把握していた。


だから、今カルナークがあたしにさせている浄化の最初の段階が、正解か不正解か最適解か否かを判断できないとはいえ、合っているといえば合っている気もする。


一旦どんな形にせよ、巣くっている瘴気を浄化の魔法が効果を出しやすい程度集約っていうのかな? 一か所にまとめた方がいい。


広範囲で浄化をするということは、かなりな魔力を消費するだろうし、いわゆる漏れがあったら瘴気がなくなったと国民を安心させられることは難しくなる。


浄化の周期が短くなるだけで、また同じような生け贄や聖女の召喚が繰り返されてしまうだけ。


(結果論みたいに、浄化が出来ればすべてよしってわけじゃないんだと、変更と修正をしていかなきゃダメでしょう)


国を支える頭脳の役割みたいな人たちは、王族にまつわらないから自分の子どもを捧げずにすむ上に浄化が出来るならいいかなぁーみたいにでも思ってきたのかもしれない。


人は、自分の身が一番可愛いんでしょ? だから、人の痛みを知らない人が存在するのでしょ?


高みの見物みたいになった浄化システムは、あたしからすればクソだ。


王族だって、女の赤ちゃんが産まれても感情を持たなきゃいいと思ってきたんだろうか。


浄化の周期が早まっても、その子どもを愛していなきゃなんの痛みも抱えずに差し出せるから。


――それは、非情だ。あまりにも冷たすぎる。


男だったから生き永らえたと手放しで喜んで、本当にいいの? と思えるシステム。


女として産まれてもある程度まで成長を迎える時まで、いつ浄化のために死んでくれと言われるのかを気にしながら生きるなんて。


もしくは、本人には知らせずに、母親が浄化が来なければと日々祈るように過ごすとかも考えられるよね。


常にナイフを首元にあてられているようで、生きている心地がしなさそうだ。


そもそもで、矛盾に気づけないのもおかしいんじゃない?


男だろうが女だろうが、その命を産み出すのは、同じ女…なのに、大事にされているのかわからなくなりそうな扱いは。


命がけで十月十日だっけ? お腹の中で大事に守り、育て、そしてこの世にようこそ! と迎えるものじゃ?


命は平等でいちゃ、いけないの?


あたしだって、このまま生きていきたい。死にたくなんかない。


死亡予定は未定のまま、なかったことにしてしまいたい。


(あぁ、夜が明けた)


空はすっかり明るくなって、白い鳥が羽ばたいてどこかへと飛んでいく。


まぶしいほどに白い鳥だった。


あたし自身が何も手出しできないまま、着々と瘴気が集まって羽根へと姿かたちを変えていく。


遠く眼下から、あたしの名を呼ぶ声がした。


最初に見つけたのは、あの人だ。


大好きで、こんな風に悲しそうな顔をさせたくなかった人。ずっと笑っててほしい人。


なのに、この状況をどうにかする術を持っていない。今のあたしは。


眺めるしか出来ない歯がゆさに、唇を噛む。


(…………誰?)


うつむくそのあたしを誰かが見ている気がして、感じる方へ視線を向ける。


右へ左へと視線を彷徨わせるけど、ただ景色が広がっているだけにしか見えない。


見えないはずの自分に気づいてもらえたかと、一瞬ぬか喜びをしてしまった。


(やっぱりこのまま、カルナークの助けだけで浄化は進むの? 出来るの? “あたし”はこのまま、誰にも気づかれないままで消えてしまうの?)


切なさに涙がこぼれた刹那、カルナークの声がして。


「舞台はととのった」


と、告げた。



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