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grace 9  #ルート:S





(あたしの声なのに、違う人の声みたい)


「役に立たないやつらばかりが、何の用?」


そんなことないのに、どうしてそんなことを言うの? あたしの姿で。


「国王…いるー?」


眼下からみんなが何か叫んでいるのに、全部無視するようにこっちから一方的に声掛けをするだけのあたし。


「いないのぉー? 国の一大事なんじゃないのー? ねぇー! 人を喚びだしといて、自分は普段通りの生活していただけの、無能な国王様ぁー。まだ寝てますかー。老人は早寝早起きするもんなんでしょー? ねぇー! こーくーおーうーさーまぁーーーー」


無表情で、蔑むような言葉を淡々と吐き続ける。――あたしの姿で。


そう話しかけるあたしの左手を、エスコートするようにずっとカルナークが支えている。


服装はいつの間にか、まるでそのために(しつら)えたかと思えるほどの、黒いタキシードに黒い宝石が飾りつけられている。


よく見れば、あたしのドレスの胸元には金色に輝くブローチが飾られていて。


ここに来てから学んだ、互いに想いあう人の瞳や髪の色を着けることでまわりへアピールするっていうのを思い出した。


カルナークは今のあたしの髪色と同じ黒髪で、瞳は金色。


あたしは、黒髪にピンクのカラコンはとっくになくなってて、カルナークが好きだという黒い瞳だ。


アピールが過ぎる。


こんなことされちゃ、ジークが寂しい気持ちになってしまう。というか、あたしがすでに寂しくて耐えられない。


とはいえ、カルナークは忘れているのかもしれないけど、ジークも瞳の色だけでいえばカルナークと同じ金色。


ただし、ジークの方が金色の発色がまぶしい気がする。


髪がアッシュグレーで目が金で、顔の造形が整いすぎててイケボ……。出来過ぎ感しかない。


カルナークは自分の色を纏わせたつもりだとしても、あたしはひっそりとジークの色だと思っておくことにしよう。


そうすれば、この寂しさに取り残されないでいられるかもしれない。そんな期待をしたい。この後がどうなるかわからないけれど。


「なんだ! 貴様は、それでも聖女か! 聖女の色はどうした!」


国王様よりも先に声をあげたのは、教会の人たち。


「邪気ばかりを感じられる色ではないか。浄化はどうなる! 貴様は浄化のために喚ばれたのだ! 今すぐその色を元に戻すのだ」


聖女の色…色…色…って、そればっかり。


あたしの髪が金髪でカラコンのニセモノな瞳を見ては、うっとりしていたもんね。


能力とかあたしという人間とか、色以外のものを見ようとはしてくれなかったな。最後の最後まで。


「うるさいなぁー。見てわかんないの? 教会の人間のくせに、この色の正体に気づけていないわけぇー?」


もうその体から離れたはずなのに、またいつも痛かったあの場所が疼くように痛む。


じくじくと、中からじわりと膿んでくるみたいに。


痛みが体に滲みこんでいく、そのまま染まってしまいそうで……怖い。


感じないはずの痛みに、顔を歪めた。その刹那、耳に直接声がした。


『聞こえてるか?』


何度か聞いたことがある、あの声だ。


『聞こえていたら、右向いて手を振れ』


さっき見まわした時には、彼はいなかった。そして今、眼下にも姿はない。


でもどうやって? と思うけど、答え合わせは生きていられれば叶うはず。


右へ振り向き、どこかへと手を振った。なるべく大きく、オーバーなくらいに。


『……くっくっく…。ガキみてぇ』


人を小バカにする口の悪さは、あたしが知ってる中では一人しかいない。


『お前が理解できなかった方法使って、この声を届けてる。お前的に、浄化は出来そうだと思ってるのか? 出来ると思ったら片手、無理だと思ったら両手あげてみろ』


カルナークが自分の助けで浄化をと言っていたけど、今まであたしが得た情報の中にカルナークがサポートして浄化までいけそうな感じがしない。むしろ不安ばかり。


何のためにこんな状態にしたのか、あたしを聖女でいさせたいのかさせたくないのかもわからない。


ただただ…あたしのことを好きっていう事実だけが揺らがないってだけの話。


すこし考えてから、両手をあげる。お手上げとでもいっている格好に見える。


『…だろうな。パーツってか、ピースが絶対足りないはずなのに、アイツは何をどう考えたらこんだけ自信満々状態で事を起こせるんだか』


本当にそうだ。何で補うつもりなのかが、さっぱりわからないんだ。


その気持ち悪さをどうしていいのか、戸惑うだけのあたしはものすごく無力だなと思えた。


(……え!)


一瞬のこと。


背筋から一気に頭の先の痛みまで、ゾクリと寒気が走る。


バッ! と黒く染まったままの二人の方へと視線を向けると、眼下の教会の人たちへ唾でも吐くように言い切った。


「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」


その言葉そのものに反応したかのように、あの感覚が戻ってくる。


カルナークに体内の魔力を操作されて、自分じゃどうしようも出来なくなるあの感覚だ。


体がアツくなって、心臓がバクついて、切なさで満たされてしまう。


途端に、吸い込まれるように自分の体に引き戻されそうになる。


どこにいるのかわからない彼へと伸ばした手は、誰の手もつかめることなく宙を空振った。


(嫌な予感がする…!!)


さっきのあたしの言葉が、浄化のピースの一つだったよう。


だから引き戻されたんだ。


カルナークがしようとしている浄化方法が、いまだに見えてこない。


見えないものはなんでも怖い。


(怖いけど…これだけは、見ないわけにはいかない。ちゃんと見守らなきゃ…)


あたしであってあたしじゃないモノが、集まった人々へと向けて告げた。


『「聖女を誰より愛するモノを贄に、不浄の闇なる想いを彼方へ。捧げられし贄は、聖女と悠久の浄化の旅へと誘われよ。――祝福、あれ」』


声が重なる。副音声のような形で。


共鳴しているようで、不協和音のあたしの声が呪文を唱えた瞬間。


「う…あぁああああっっ」


叫び声が聞こえた。


痛みを耐えるその声に引き寄せられがごとく、あたしの姿をしたモノが彼へとその身を寄せた。




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