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grace 7  #ルート:S






ガラス張りの狭い空間に閉じ込められている、というイメージ。


そんな場所にいるのが、今のあたし。


といっても、そのガラス張りの場所はあたしの中なのだけれど……。


目の間にカルナークがいても、直接ここから出してと伝えられる術がないのが現実だ。


現実逃避したいほどの状況なのに、逃げられるわけがない。


それ以上に逃げられない現実にぶつかってしまえば、尚のこと…とガラス張りな場所でため息を吐いた。


何時なのかとか時間の感覚のない状態で、外のあたしが動き出す。


カルナークがまるでダンスにでも誘うみたいに、手を差し出してすこしだけ背筋を伸ばしてあたしへまっすぐに視線を向けてきた。


その表情は、わかりやすいほどにうっとりした顔とでも言えばいいのかな。


あたしのことが好き好きって顔面で言っていそうな、そんな顔。


あぁ、語彙力がない。その辺に語彙力は落ちていませんか?


出会って間もなくの時、カルナークがあたしのことを好きだと言った。


魔力が云々はあったけど、もしかして自分がわからないだけで、魅了の魔法みたいなものでも使っていたんじゃと思ったことがあるのを思い出す。


あたしが誰かに好かれるはずがないと思ったのも原因のひとつだったけど、カルナークの目が好きがあふれてたまらない…みたいな恋に恋してる目だったから。


(今、あたしの手を取っているカルナークは、あの時の目によく似ている。魅了の魔法をあたしがかけられるわけじゃないけど、誰かにかけられたとかそういうわけじゃないのかな)


あたしは恋を知っているようで、まだ何も知らないに等しい。


恋愛レベルは限りなく低いはず。


(だからわからないし、わかりたくないんだよ。カルナーク)


あたしのことを好きだというカルナークと、あたしの体に魔法で仕掛けをして苦痛を散々与えて微笑み、変化を遂げたあたしへ愛しい人でも見るように手を取っているカルナークが同一人物だなんて。


恋愛レベルが低いからなのか、どうしてもあの考えに至れない。


好きな相手が嫌だとか痛いとか感じることをする必要性と、それで本当に愛されると思えるのか。


好きな相手には、これをしたら喜んでくれるかなと思うことや、一緒にすると楽しいことをしようと願うものなんじゃないのかな。


少なくとも、あたしは相手が辛くなることはしたくない。痛みは悲しくて苦しくて、決して簡単に消せなくなる傷になるからだ。


そんな残り方をしたところで、あの人はいい人でしたとか言えるの?


今のままならば、まだカルナークとのことはいい思い出のほうが多い。


だから…と願いたいのに、カルナークはあたしの手を取って、その足を止める気配がない。


「さぁ、浄化の場所へ向かおうか」


なんていって、魔力をその身に纏って場所を変えた。


一瞬まぶしくなって、中で思わず目を強くつぶった。


次に目を開けたら、多分お城の外なんだろう。どこか高い場所なんだけど、まだ薄暗い景色に怖さを感じた。


なんとかカルナークと自分の表情が、おぼろげな感じでわかる程度の明るさだ。


「あとは、郊外の瘴気を集めて浄化するだけ。その後押しを出来るのは、この俺だけ。俺だけを頼って? そして、その瞬間に一番いらないものを排除しよう」


外のあたしが微笑んだ気がした。


全身真っ黒のまま、あたしが呪文のような言葉を呟く。


『集え。不浄のものよ。その姿かたちを、我に預けよ』


不思議なことに中にいるのに俯瞰の目で浄化を行おうとしている自分を見ている感覚があって。


なにもかもを黒く染めたあたしが、ドレスの裾を風にまかせて宙に浮いている姿は。


(……キレイ)


色を失ったような瞳が、まっすぐに瘴気が特に多い森の方へ向けられている。


呪文の後に右手をまっすぐ差し出せば、集うように瘴気がその場所から弧を描きつつ手のひらに吸い込まれていく。


今、浄化を進めようとしているあたしは無表情で、痛みも悲しさも嬉しさもなにもないかのようにみえる。


瘴気をその体に集めていても苦しいとか感じていないみたいなのに、なぜかあたしの胸が痛くなる。


真っ黒になる前に、カルナークが仕掛けたもので反応して痛みやアツさに耐えていた後の時ほど痛みはないけれど、ただそこに在るだけ…と言われたようで胸がもっと痛くなった。


「陽向……キレイだよ。俺はね、陽向に会うたびに、君を好きになった。陽向の魔力はもちろんのことで、陽向の外見で一番好きだと思ったのが、本当の陽向に会った時。黒く光る瞳に吸い込まれそうだった。後になって元いた世界の君を見せてもらって、黒髪の君はもっと素敵だと思った。聖女の色じゃなくても、君は紛うことなく聖女だよ。たとえ、聖女の色にこだわるクソ教会がなにを言ったところで、浄化さえしてしまえば聖女として認められるだけの話。だからね、陽向」


淡々と瘴気を集めるあたしの横で、長くなったあたしの髪をひと束すくい、キスをして。


「俺が一番そうであってほしい色を纏って、俺だけの支え(ちから)で、この国を救って、そしてそのまま俺と一生を共にしてよ。――俺が好きな陽向でいて?」


そう囁いた。




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