第40話 五十%達成
森の妖精たちを救った翌朝。
妖精の家の庭では、避難してきた妖精たちが新しい花の家を飛び回っていた。
ピーチも妖精工房へ入り、傷薬や解毒薬の補充を始めている。
俺は朝食を終えると、《スキル図鑑》を開いた。
「そういえば、ピーチが仲間になってから確認してなかったな」
「なにを?」
ピクが俺の肩へ飛んでくる。
「図鑑だよ」
これまで新しい仲間を迎えた時は、その仲間が身につけている技能が図鑑へまとめて登録されていた。
ピーチが加わった直後は、妖精露草を探しに行き、そのまま森の妖精たちを助けることになった。
落ち着いて確認する暇がなかったのだ。
図鑑を開く。
【登録技能数 40/100】
表示された数字は、ピーチが仲間になる前のものだった。
次の瞬間。
図鑑が強く光り始めた。
【新しい仲間が所有する未登録技能を確認しました】
【技能を登録します】
《錬金術》
《調合》
《薬草知識》
《素材鑑定》
《毒物知識》
《薬品保存》
《乾燥》
《粉砕》
《計量》
《抽出》
《蒸留》
《濾過》
《煎じ》
《軟膏作り》
《解毒薬作り》
「多い!」
ピクが目を丸くする。
登録表示は止まらない。
【登録技能数 41/100】
【登録技能数 42/100】
【登録技能数 43/100】
数字が次々と増えていく。
図鑑のページが光るたび、妖精たちが集まってきた。
「ぴかぴか!」
「また増えた!」
「いっぱい!」
工房から出てきたピーチも、何が起きているのか分からないように眼鏡を押し上げる。
「これは……私の技能ですか?」
「ああ。ピーチが仲間になったことで、まとめて登録されているみたいだ」
「私だけで、これほど?」
ピーチは驚いたように図鑑を見る。
【登録技能数 48/100】
【登録技能数 49/100】
そして――。
【登録技能数 50/100】
図鑑から、それまでとは比べものにならない光が溢れた。
【スキル図鑑の登録率が50%に到達しました】
【達成報酬を解放します】
【任意の技能を三つ獲得できます】
【特殊能力《技能の羅針盤》を獲得しました】
「半分!」
ピクが嬉しそうに叫ぶ。
「もう半分まで埋まった!」
ラベンダーとローズも近づいてくる。
「昨日まで四十だったよね?」
「ピーチさんだけで十個以上増えたのですか?」
「まだ増えてるぞ」
登録表示は、五十%を達成しても終わっていなかった。
【登録技能数 51/100】
【登録技能数 52/100】
【登録技能数 53/100】
【登録技能数 54/100】
【登録技能数 55/100】
光が収まる。
図鑑に表示された数字は、
【登録技能数 55/100】
になっていた。
「十五個……」
ローズが呆然と呟く。
「ピーチさん一人で、十五個も埋めてしまいました」
「私も、こんなに持っているとは思いませんでした」
ピーチは戸惑いながらも、どこか嬉しそうだった。
錬金術師になるために学んだこと。
妖精の薬を作るために積み重ねたこと。
誰にも必要とされないと言われても、諦めずに続けてきた研究。
そのすべてが、図鑑を一気に十五個も埋めた。
「ピーチが頑張ってきた証拠だな」
俺がそう言うと、ピーチは少しだけ俯いた。
「無駄ではなかったのですね」
「ああ」
妖精を治した。
森を救った。
そして、今度は図鑑を半分以上まで埋めた。
「これからも頼りにしてるぞ」
「はい」
ピーチは胸元に飾った白い花へ触れ、笑顔で頷いた。
「妖精薬師として、皆さんのお役に立ってみせます」
◇
「それより、報酬!」
ピクが図鑑の上で飛び跳ねる。
「新しいの、見よう!」
「分かってるよ」
俺は新しく追加されたページを開いた。
《技能の羅針盤》
現在の仲間や周辺環境から、習得可能な未登録技能を表示する。
ただし、詳しい習得方法は表示されない。
「これは便利だな」
今までは何をすれば新しい技能を覚えられるのか、手探りで探すしかなかった。
だが、《技能の羅針盤》があれば、少なくとも今覚えられる技能は分かる。
「使ってみて!」
俺は《技能の羅針盤》を意識した。
図鑑の空白だったページに、文字が浮かび上がる。
【現在習得可能な未登録技能】
《釣り》
《水泳》
《園芸》
《農耕》
《保存食作り》
《染色》
《編み物》
《陶芸》
《地図作成》
「まだこんなにあるのか」
「妖精の家の中だけでも、いくつか覚えられそうですね」
ローズが一覧を覗き込む。
「でも、前よりずっと楽になりそう」
ラベンダーの言う通りだ。
目標が見えているだけでも、技能集めはかなり進めやすくなる。
さらに、もう一つ報酬が残っている。
【任意の技能を三つ選択してください】
「三つも好きな技能をもらえるんだよね?」
「ああ」
「なににするの?」
ピクが期待した目で俺を見る。
だが、今すぐ必要な技能は思いつかない。
戦闘に使える技能。
探索に役立つ技能。
仲間を守れる技能。
選択肢が多すぎた。
「必要になった時に選ぼう」
【技能の選択を保留しました】
【任意の技能を三つ獲得する権利は、いつでも使用できます】
「今は選ばないの?」
「本当に困った時に使った方がいいだろ」
「そっか!」
ピクはすぐに納得した。
俺は改めて図鑑を見る。
【登録技能数 55/100】
残りは四十五。
それでも、これまでより先が見えるようになった。
仲間が増えるたび。
家族が新しいことを覚えるたび。
図鑑はこれからも埋まっていく。
「次は何を覚える?」
ピクが尋ねる。
俺は《技能の羅針盤》の一覧を見ながら答えた。
「せっかくだから、すぐにできそうなものから試してみるか」
図鑑は半分を越えた。
完全達成までの道は、ようやく折り返し地点に入った。




