表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかえり!妖精の家へようこそ ~スキル図鑑で家族が増えていく物語~  作者: 月瀬 リュカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/58

第39話 おかえり、妖精薬師



 巨大な虫の魔物が倒れると、森は静寂に包まれた。


 先ほどまで響いていた地響きも、植物が枯れていく音も聞こえない。


 妖精たちは恐る恐る花の陰から顔を出した。


「終わった?」


 ピクが魔物を見つめる。


「ああ」


 俺は剣を鞘へ納めた。


「もう大丈夫だ」


 その言葉を聞いた妖精たちは、ようやく安心したように笑顔を見せた。


 だが、ピクはすぐに首を振る。


「まだだよ」


「どうした?」


「まだ帰ってきてない妖精がいる」


 助けた妖精たちも頷いた。


「一人だけ見つからないの」


「怖くて隠れたままかもしれない」


「探そう!」


 ピクが飛び上がる。


 俺たちは再び森の中を歩き始めた。


     ◇


 枯れた花畑を抜けると、大きな花が集まる場所へ出た。


 そこには潰れた花の家がいくつも残っている。


「ここで暮らしてたんだ」


 ラベンダーが辺りを見回す。


「うん」


 ピクは少し寂しそうだった。


「みんなのお家」


 ピーチは倒れた花びらをそっと持ち上げる。


 中には誰もいない。


 ほかの花も同じだった。


 その時だった。


「……ひっ」


 小さな声が聞こえた。


「いた!」


 ピクが一輪の大きな花へ飛んでいく。


 花びらの奥。


 小さな妖精が身体を丸めて震えていた。


「大丈夫だよ」


 ピクが声をかけても、妖精は首を横へ振る。


「もう、怖い……」


 花の外へ出ようとしない。


 俺が近づこうとすると、妖精はさらに奥へ隠れてしまった。


「無理に出さない方がいいですね」


 ピーチが静かに前へ出た。


 花の前へしゃがみ込み、小さな妖精と目線を合わせる。


「こんにちは」


 優しい声だった。


 妖精は少しだけ顔を上げる。


「……だれ?」


「私はピーチです」


 ピーチは微笑んだ。


「妖精のお薬を作っている薬師です」


「お薬?」


「はい」


 ピーチは小さな瓶を見せた。


「怪我をした妖精さんを治してきました」


 妖精は瓶をじっと見つめる。


「みんな……?」


「もう安全ですよ」


 ピーチはゆっくりと言葉を続ける。


「ピクさんもいます。」


「ミントさんたちもいます。」


「怖い魔物は、もういません。」


 妖精は震えながら花の外を覗く。


 本当にピクがいた。


 助けた妖精たちも笑顔で手を振っている。


「でも……」


「まだ怖いですか?」


 妖精は小さく頷いた。


 ピーチは急かさなかった。


「大丈夫です。」


「あなたが出てこられるまで、私はここにいます。」


 静かな時間が流れる。


 風が優しく花びらを揺らした。


 やがて、小さな手が花の中から伸びる。


 ピーチはそっと手を差し出した。


 妖精はその指を握る。


 温かい。


 安心したように笑うと、自分の足で花の外へ出てきた。


「出られた」


 ピクが嬉しそうに抱きつく。


「よかった!」


「うん……」


 妖精も小さく笑った。


 ピーチはほっと胸を撫で下ろす。


「怪我はありませんね」


「怖かっただけ」


「それなら安心しました」


     ◇


 全員の無事を確認し、俺たちは妖精の家へ戻った。


 光の扉を抜けると、庭で待っていた妖精たちが一斉に振り向く。


「帰ってきた!」


「みんな帰ってきた!」


「最後の子もいる!」


 庭いっぱいに歓声が響く。


 助けられた妖精たちは、仲間の元へ飛んでいく。


 抱き合い、笑い合い、泣きながら再会を喜んだ。


 その様子を見ていたピクが、大きく息を吸う。


「せーの!」


 その声に合わせ、妖精たち全員が叫んだ。


「ピーチ、おかえり!」


「妖精薬師、おかえり!」


 庭いっぱいへ響く、小さくて温かい声。


 ピーチは驚いて立ち止まった。


「私……ですか?」


「うん!」


 ピクが飛びつく。


「ピーチが森を助けてくれた!」


「みんなを助けてくれた!」


「だから、おかえり!」


 妖精たちは次々とピーチの周りへ集まる。


「ありがとう!」


「また来てね!」


「ずっと一緒!」


 ピーチは丸眼鏡を外した。


 涙が止まらない。


「私は……」


 幼い頃。


 雨の森で倒れた自分を助けてくれた妖精たち。


 今度は自分が助ける番だと決めて、薬師になった。


 何度も笑われた。


 妖精の薬なんて意味がないと言われた。


 それでも諦めなかった。


 その想いが、今ここで報われた。


「ただいま戻りました。」


 優しく微笑む。


「これからも、皆さんの薬を作ります。」


「やったー!」


 妖精たちは嬉しそうに飛び回った。


 すると、一人の幼い妖精が小さな花を抱えて歩いてくる。


「これ」


 ピーチへ差し出したのは、小さな白い花だった。


「ありがとうのお花」


 特別な薬草ではない。


 どこにでも咲く、小さな花。


 それでも、妖精にとっては一番大切な贈り物だった。


 ピーチは両手で受け取る。


「ありがとうございます。」


 胸へ抱きしめる。


 その瞬間――。


 庭が淡く光り始めた。


「なに?」


 ローズが辺りを見回す。


 花壇の隣に、小さな花の家が一つ現れる。


 続いて二つ。


 三つ。


 避難してきた妖精たちが暮らせるように、小さな家が次々と咲いていく。


「お家が増えた!」


 ピクが大喜びする。


「妖精の家が大きくなった!」


 俺はその光景を見上げた。


 この庭は、妖精が増えれば成長する。


 仲間が増えるたびに、もっと温かい場所になっていく。


「おかえり。」


 ピクが小さく呟く。


「みんなのお家へ。」


 夕暮れの庭には、妖精たちの笑い声がいつまでも響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ