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おかえり!妖精の家へようこそ ~スキル図鑑で家族が増えていく物語~  作者: 月瀬 リュカ


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第37話 妖精薬師



 どん――。


 森の奥から響く重たい音を警戒しながら、俺たちは花の家がある場所へ急いだ。


 ラベンダーが先頭で道を切り開き、ピクが妖精たちの暮らしていた場所を案内する。


「もう少し!」


 やがて木々が開け、小さな花畑が見えてきた。


 だが、その光景を見た全員が息を呑む。


「……そんな」


 ローズが言葉を失う。


 一面に咲いていたはずの花は、ほとんどが黒く枯れていた。


 色鮮やかな花畑は見る影もない。


 花で作られた小さな家も潰れ、花びらが地面へ散らばっている。


「みんな!」


 ピクが必死に呼びかける。


「返事して!」


 しばらく静寂が続いた。


 すると、倒れた花の陰から、小さな声が聞こえた。


「……ピク?」


「いた!」


 花びらをかき分けると、三人の妖精が身を寄せ合っていた。


 そのうち一人はぐったりとして動かない。


「怪我をしています!」


 ピーチがすぐに駆け寄る。


 腕には深い擦り傷。


 羽も傷つき、身体は冷え切っていた。


 ピーチは迷わず薬を取り出す。


 一本。


 また一本。


 妖精たちへ順番に飲ませ、傷へ塗っていく。


 淡い水色の光が傷口を包み、妖精たちの表情が少しずつ落ち着いていった。


「よかった……」


 ピクが胸を撫で下ろす。


 だが、ピーチは鞄の中を見て顔を曇らせた。


「……残り一本です」


 俺も鞄を覗く。


 本当に一本しか残っていない。


 その時だった。


「ピクー!」


 遠くから泣き声が響く。


 もう一人の妖精が、幼い妖精を抱えて飛んできた。


「助けて!」


 幼い妖精はぐったりと意識を失っている。


「お願い!」


 ピーチは薬瓶を握ったまま動きを止めた。


 残り一本。


 ここで使えば、次に怪我人が現れた時、もう薬はない。


 使わなければ、この子を助けられないかもしれない。


「……」


 ピーチの手が震えた。


「私……」


 小さく俯く。


「もっと薬を作れていたら……」


 丸眼鏡の奥に涙が浮かぶ。


「妖精さんたちを、もっと助けられたのに……」


 昔の記憶が蘇る。


『妖精の薬なんて、誰が使うんだ?』


『そんな研究、意味がない。』


『もっと売れる薬を作れ。』


 何度も笑われた。


 それでも、諦めなかった。


 けれど、足りない。


 今の自分では、全員を救えない。


「ピーチ」


 俺は静かに声を掛けた。


「お前の薬がなかったら、ここにいる妖精たちは助からなかった。」


 ピーチが顔を上げる。


「必要としている人がいる。」


 俺は傷ついた妖精たちを見る。


「だから、自分を責めるな。」


 妖精たちも頷いた。


「ピーチのお薬、あったかい。」


「助かった。」


「ありがとう。」


 幼い妖精を抱えた妖精も、涙を流しながら言った。


「お願い……助けて。」


 ピーチは小瓶を胸へ抱いた。


「……はい。」


 涙を拭う。


「私は、妖精さんを助けるために薬師になりました。」


 震えていた声が、少しずつ力を取り戻していく。


「だったら。」


「最後まで、諦めません。」


 その瞬間だった。


 ピーチの胸元が淡く光る。


 優しい緑色の光が身体を包み、《信頼の器》が静かに反応する。


『条件を達成しました。』


『ピーチが新たなJOB《妖精薬師》を獲得しました。』


 光はすぐに消えた。


 ピーチは驚いたように自分の手を見る。


「……頭の中へ、調合方法が。」


 薬草の配合。


 妖精露草の使い方。


 今まで知らなかった知識が自然と流れ込んでくる。


「そういうことだったんですね。」


 ピーチは微笑んだ。


 鞄から《妖精露草》を取り出す。


 近くに咲いていた薬草を数枚摘み取り、小さな乳鉢へ入れる。


 すり潰し、露草の雫を一滴だけ落とす。


 すると――。


 淡い緑色の光が薬全体へ広がった。


「できました。」


「もう?」


 ローズが驚く。


「はい。」


 さっきまで数十分かかっていた調合が、ほんの数分で終わっていた。


 ピーチは新しくできた薬を幼い妖精へ飲ませる。


 傷へ塗る。


 淡い緑色の光が身体を包み込んだ。


 苦しそうだった呼吸が落ち着いていく。


「治ってる!」


 ピクが目を輝かせる。


 幼い妖精がゆっくり目を開いた。


「……あれ?」


「大丈夫?」


「うん……」


 幼い妖精は小さく笑った。


「痛くない。」


 その言葉を聞いた瞬間、ピーチは安心したように座り込んだ。


「成功しました……。」


 妖精たちが一斉に集まる。


「ありがとう!」


「ピーチ!」


「妖精のお薬だ!」


 妖精たちは嬉しそうに飛び回った。


 その光景を見て、ピーチは照れたように笑う。


「皆さんが信じてくださったからです。」


 その時だった。


 どおん!!


 今までで一番大きな音が森中へ響いた。


 地面が大きく揺れる。


 花びらが一斉に舞い上がった。


 ラベンダーの耳がぴんと立つ。


「来る!」


 俺は盾を構えた。


「何が来る!」


 ラベンダーは森の奥を睨んだまま答える。


「地面の下を――何か巨大なものがこっちへ向かってる!」


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