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おかえり!妖精の家へようこそ ~スキル図鑑で家族が増えていく物語~  作者: 月瀬 リュカ


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第28話 家族が増えた日


 光の扉を抜けた瞬間、ローズの足が止まった。


 目の前に広がっていたのは、柔らかな陽射しに包まれた花の庭だった。


 色とりどりの花が風に揺れ、その向こうには透き通った泉と、赤茶色の屋根をした小さな家が見える。


「ここが……妖精の家……」


 ローズが呟いた直後、小さな影が勢いよく飛んできた。


「ローズ、おかえり!」


 ピクだった。


 その後ろからも、庭に暮らす小妖精たちが次々と集まってくる。


「おかえりー!」


「ぴぴっ!」


「家族が増えたー!」


「ちりりん!」


 妖精たちはローズの周りをぐるぐると飛び回りながら、思い思いに歓迎の声を上げていた。


 ローズは呆然と妖精たちを見つめている。


 故郷の村へ戻ったばかりだ。


 エルフたちからも温かく迎えられた。


 それなのに、ここでもまた、おかえりと言ってもらえた。


「私……ここへ来るのは初めてなのに」


「ピクたちは、ずっとローズのことを待ってたんだ」


 俺がそう答えると、ピクが胸を張った。


「ローズは、もう家族だからね!」


「家族……」


 ローズが同じ言葉を繰り返す。


 隣に立っていたラベンダーが、ローズの肩へ腕を回した。


「遠慮しなくていいからね。ここは私たちの家なんだから」


「はい……」


 ローズは小さく頷いた。


 その目元には、わずかに涙が浮かんでいる。


 俺は気づかないふりをして、家の方へ歩き出した。


「とりあえず荷物を置こう。ローズの部屋は……まだないけど」


「え?」


 ローズが顔を上げる。


「今までは俺とラベンダーだけだったからな。寝る場所はどうにかなるけど、三人分の部屋はない」


「私は床でも大丈夫です」


「だめだよ」


 ローズの言葉を、ラベンダーが即座に否定した。


「今日だけならともかく、ずっと床で寝るつもり?」


「ですが、私のために家を変えていただくのは……」


「ローズのためだけじゃない」


 俺が家の扉を開きながら言う。


「三人で暮らすには、この家は少し狭い。収納も足りないし、作業をする場所も欲しい。家族が増えたんだから、家も大きくすればいい」


 ピクが俺の肩へ降り立った。


「お家、大きくするの?」


「ああ。そのつもりだ」


「やったー!」


 ピクが両手を上げると、小妖精たちも一斉に騒ぎ出した。


「おっきくするー!」


「お部屋つくるー!」


「お手伝いするー!」


 ローズはまだ申し訳なさそうにしていたが、妖精たちの喜びようを見て、最後には困ったように笑った。


「ありがとうございます。ミントさん、ラベンダーさん」


「さんはいらないよ」


 ラベンダーが言う。


「これからずっと一緒に暮らすんだから、ラベンダーでいいよ」


「では……ラベンダー」


「うん」


 ローズが俺へ視線を向ける。


「ミント……と呼んでもよろしいですか?」


「もちろんだ」


 俺が答えた、そのときだった。


 腰に下げていた《スキル図鑑》が、突然強い光を放った。


「うわっ」


 慌てて図鑑を取り出す。


 表紙に刻まれた羽の紋章が淡く輝き、ひとりでにページが開いていく。


 白いページの上へ、次々と文字が浮かび始めた。


【新たな家族との信頼を確認しました】


【《信頼の器》がローズを家族として認めました】


「私を……?」


 ローズが図鑑を覗き込む。


 さらに次の文字が表示された。


【家族が習得している未登録技能を確認します】


【《風魔法》を登録しました】


【《精霊魔法》を登録しました】


 ページの端に表示されていた数字が変わる。


【《スキル図鑑》20/100】


 直後、図鑑全体が眩しいほどの光に包まれた。


【達成率が20%に到達しました】


「二十……!」


 ラベンダーが声を上げる。


 黒く塗り潰されていた報酬欄が、少しずつ白く変わっていく。


 だが、その途中にも登録は止まらなかった。


【《魔力操作》を登録しました】


【《魔力感知》を登録しました】


【《詠唱短縮》を登録しました】


【《魔力制御》を登録しました】


【《スキル図鑑》24/100】


「一気に六個も増えた……」


 俺が呟くと、ローズは申し訳なさそうに眉を下げた。


「多すぎましたか?」


「逆だよ」


 俺はすぐに答えた。


「ローズが努力して覚えた技能のおかげで、図鑑が一気に進んだんだ」


「そうだよ。すごいじゃん」


 ラベンダーも笑顔でローズの背中を叩く。


 ローズは少し驚いたあと、嬉しそうに図鑑を見つめた。


「私の力が、皆さんの役に立てたのですね」


「ローズも家族なんだから、皆さんじゃないよ」


「……私たちの役に立てたのですね」


「ああ」


 黒塗りが完全に消え、新たな報酬が表示される。


【20%コンプリート報酬】


【《早熟の器》を獲得しました】


【《家族の器》を獲得しました】


【耐性技能を二つ選択できます】


 新しい器が二つも表示されている。


 俺が《早熟の器》へ指を触れると、説明が浮かんだ。


【《早熟の器》】


【所有者と家族の技能習得を補助します】


【習得に近づいている技能を確認できます】


【技能の習得に必要な経験がわずかに軽減されます】


「覚えていない技能が、分かるようになるのか?」


「勝手に覚えられるわけではなさそうだね」


 ラベンダーが説明を読みながら言う。


「でも、何を練習すればいいのか分かるなら便利かも」


 ローズも頷く。


「あと少しで習得できる技能が分からず、別の訓練を始めてしまうこともありますから」


 次に《家族の器》へ触れる。


【《家族の器》】


【コンプリート報酬によって獲得した耐性技能を、家族全員へ共有します】


【新たに家族となった者にも、獲得済みの耐性技能が共有されます】


「これは……」


 俺が言葉を失っていると、ラベンダーが先に笑った。


「ミントらしい能力だね」


「俺らしい?」


「誰か一人だけが強くなるんじゃなくて、家族全員が一緒に強くなるんだから」


 ローズも、静かに頷く。


「誰かが危険な思いをして覚えた耐性を、他の家族にも分けられるのですね」


「そうみたいだ」


 毒への耐性や麻痺への耐性を、自力で身につけようとすれば危険が伴う。


 わざと毒を飲んだり、麻痺毒を受けたりするわけにはいかない。


 報酬として安全に手に入るなら、これほどありがたいものはない。


 ページをめくると、耐性技能の一覧が表示された。


【選択可能な耐性技能】


【毒耐性】


【麻痺耐性】


【睡眠耐性】


【混乱耐性】


【火傷耐性】


【寒冷耐性】


「二つか」


「毒耐性は欲しいね」


 ラベンダーが迷わず答えた。


「森には毒を持っている魔物も植物も多いから。斥候をしてると、誰より先に触る可能性もあるし」


「私も賛成です」


 ローズが続ける。


「もう一つは《麻痺耐性》がよいと思います。身体が動かなくなれば、剣も魔法も使えません」


「魔力操作もできなくなるのか?」


「程度にもよりますが、集中することが難しくなります」


 俺たちは顔を見合わせた。


 毒と麻痺。


 どちらも命に関わる危険な状態だ。


「なら、その二つにしよう」


 俺は《毒耐性》と《麻痺耐性》へ触れた。


【《毒耐性》を獲得しました】


【《麻痺耐性》を獲得しました】


【《家族の器》が耐性技能を共有します】


 次の瞬間、図鑑から柔らかな光が溢れた。


 光は俺だけでなく、ラベンダーとローズの身体も包み込んでいく。


 痛みや熱はない。


 胸の奥に、何か小さな器が増えたような不思議な感覚だけが残った。


「入った……のかな?」


 ラベンダーが自分の腕を触る。


「たぶんな」


「本当に私にも……」


 ローズが胸へ手を当てる。


 家族になったばかりのローズにも、同じ光が宿っていた。


 そして、図鑑に新たな表示が浮かぶ。


【《毒耐性》を登録しました】


【《麻痺耐性》を登録しました】


【《スキル図鑑》26/100】


「二十%になったと思ったら、もう二十六個だ」


 俺が笑うと、ピクが図鑑の上へ飛び乗った。


「いっぱい増えたー!」


「二十六ー!」


「すごいー!」


 小妖精たちは、まるで祭りでも始まったかのように庭を飛び回っている。


 ローズもその様子を見て、声を上げて笑った。


 村で笑っている姿は見た。


 けれど、今の笑顔は少し違う。


 肩の力が抜けた、安心した笑顔だった。


「ねえ、《早熟の器》も試してみない?」


 ラベンダーに言われ、俺は図鑑へ意識を向ける。


 すると、今までとは違う薄い文字がいくつも浮かんだ。


【ミント】


【習得候補:《伐採》】


【習得候補:《運搬》】


【習得候補:《修繕》】


【習得候補:《建築》】


「建築まであるのか」


 橋を直したり、妖精の家で木材を加工した経験が影響しているのだろう。


 まだどれも技能として登録されるほどではないが、確かに習得へ近づいているらしい。


【ラベンダー】


【習得候補:《狩猟》】


【習得候補:《罠設置》】


【習得候補:《聞き耳》】


「《狩猟》は、もう少しみたい」


 ラベンダーが嬉しそうに言う。


「今まで何度も獲物を追ってきたからかな」


「次は私ですね」


【ローズ】


【習得候補:《火魔法》】


【習得候補:《水魔法》】


【習得候補:《結界魔法》】


【習得候補:《魔力共有》】


 ローズの目が輝く。


「風以外の属性魔法も……」


「覚えられそうなのか?」


「まだすぐには無理でしょう。ですが、何も分からず訓練するよりは、ずっと希望があります」


 図鑑を閉じたあと、俺たちは改めて家の中を見回した。


 寝台は二つ。


 食卓も二人で使うには十分だが、三人だと少し狭い。


 武器や道具を置く場所も、ほとんど残っていない。


「やっぱり増築が必要だな」


「私は本当に、今のままでも……」


「だめ」


 またしてもラベンダーが即答した。


「ローズの寝台も必要。服を入れる箱も必要。あと、私はもっと大きな食卓が欲しい」


「作業小屋も欲しいな」


 俺も続ける。


「木工や素材加工をするたびに、庭へ道具を並べるのは大変だ。倉庫もあれば、集めた素材を置いておける」


「妖精たちのお部屋もー!」


 ピクが手を上げる。


「ピクたちは庭全体が家じゃなかったのか?」


「そうだけど、お部屋もほしい!」


「分かった。余裕があれば考えよう」


「やったー!」


 必要なものを書き出していく。


 柱や壁に使う木材。


 土台に使う石。


 屋根や壁を作るための粘土。


 木材を結ぶための縄。


 家具に使える乾燥した板も必要だ。


「木材は、私が風魔法で運べます」


 ローズが申し出た。


「大きな石も、数個ずつなら浮かせられると思います」


「それは助かる。でも、全部は頼まない」


「どうしてですか?」


 俺は《早熟の器》で表示された技能を思い出す。


「俺たちも自分で運べば、《運搬》を覚えられるかもしれない。木を切れば《伐採》も覚えられる」


「なるほど」


「持てないほど重いものだけ、ローズに手伝ってもらおう」


「はい。それなら私も、魔力の細かな制御を訓練できます」


 ラベンダーが腕を組む。


「森なら、倒れた木や枯れ木が集まっている場所を知ってるよ。生きた木を何本も切らなくても、最初の分くらいは集められると思う」


「なら、最初は木材集めだな」


「うん。蔓もあるから、縄にできるかもしれない」


「縄作りも技能になりそうだ」


 話しているうちに、必要な道具が次々と増えていく。


 斧。


 縄。


 食料。


 木材を引きずるための板。


 傷を負ったときの薬も必要だ。


 ローズのために部屋を作るつもりだった。


 だが、いつの間にか、三人と妖精たち全員で新しい家を作る話になっている。


「私の部屋を作るだけなのに、こんなに大変なのですね」


 ローズが呟く。


「ローズの部屋だけじゃないよ」


 ラベンダーが笑う。


「みんなの家を大きくするんだよ」


「ああ」


 俺も頷いた。


「これから家族が増えるかもしれないし、妖精たちも増えるかもしれない。少しずつ広げていけばいい」


「家族が……もっと」


 ローズは少し驚いたあと、妖精たちで賑わう庭を見渡した。


 そして、ゆっくりと微笑む。


「楽しみですね」


「明日から忙しくなるぞ」


「はい」


「今日はゆっくり休もう」


 俺たちは荷物を片づけるため、家の中へ入った。


 ピクと小妖精たちも、ローズの荷物を持とうと集まってくる。


 もちろん小さな妖精たちに持てるものなど、ほとんどない。


 それでも、布の端や鞄の紐を引っ張りながら、一生懸命に手伝っていた。


 図鑑は二十六個まで埋まった。


 家族も増えた。


 そして明日からは、家族みんなで暮らすための家を作る。


 その準備だけで、妖精の家はいつも以上に賑やかになっていた。


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