表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかえり!妖精の家へようこそ ~スキル図鑑で家族が増えていく物語~  作者: 月瀬 リュカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/29

第24話 死闘

 村の入口を塞いでいた巨体が、地面を揺らしながらこちらを振り向いた。


 太い腕。


 突き出た牙。


 手には、人間の胴ほどもある巨大な棍棒が握られている。


「オーク!」


 ラベンダーが矢をつがえる。


 オークは俺たちを見つけると、大きく口を開いて咆哮した。


 その声に合わせるように、棍棒が振り上げられる。


「二人とも、下がれ!」


 俺は前へ出て、盾を構えた。


 棍棒が振り下ろされる。


 激しい衝撃が盾を通して両腕へ突き抜けた。


「ぐっ……!」


 足元の土が沈む。


 新しい盾でなければ、受け止めることすらできなかったかもしれない。


 それでも、オークの力を完全には止められない。


 盾ごと押し潰そうとするように、棍棒がさらに沈んでくる。


「ミント!」


 弦の鳴る音がした。


 ラベンダーの矢がオークの肩へ突き刺さる。


 だが、分厚い筋肉に阻まれ、浅く刺さっただけだった。


 オークが怒りの声を上げ、ラベンダーへ顔を向ける。


「よそ見をするな!」


 俺は盾を押し上げ、棍棒を横へそらした。


 オークの体勢が崩れる。


「ローズ!」


「はい!」


 ローズが世界樹の杖を掲げた。


 白い枝の表面を、淡い緑色の光が走る。


「風よ!」


 鋭い風の刃が地面を這い、オークの脚へ直撃した。


 太い脚が切り裂かれる。


 オークが苦痛の声を上げ、片膝をついた。


「今です!」


 俺は地面を蹴った。


 懐へ飛び込み、新しい剣を横に振るう。


 刃がオークの腹を深く切り裂いた。


 血が噴き出す。


 それでもオークは倒れず、太い腕を振り回してくる。


 俺は盾で腕を弾き、もう一度踏み込んだ。


「これで、終わりだ!」


 剣を胸へ突き立てる。


 オークの体が大きく震えた。


 やがて力を失い、地面へ倒れ込む。


 重い音とともに土煙が舞った。


「倒した!」


 ラベンダーが叫ぶ。


「まだだ!」


 村の中から悲鳴が聞こえた。


 オークの背後。


 壊れた結界を越えて、小型の魔物たちが次々と村へ押し寄せている。


 ゴブリン。


 牙の長い獣型の魔物。


 細い手足で地面を這う、黒い魔物。


 村の入口では、エルフ兵たちがすでに弓を構えていた。


「放て!」


 号令とともに、矢が一斉に空を走る。


 先頭の魔物たちが次々と倒れた。


 しかし、その後ろからさらに多くの魔物が現れる。


「数が多すぎる!」


「矢をつがえろ! 村へ入れるな!」


 エルフ兵たちは急いで次の矢を準備する。


 ラベンダーも彼らの隣へ駆け込んだ。


「私も射る!」


 新しい弓が引き絞られる。


 放たれた矢は、先頭を走るゴブリンの額を正確に射抜いた。


 続けて二本目。


 三本目。


 ラベンダーはほとんど間を置かず、次々と矢を放っていく。


 矢が首を貫き、脚を射抜き、村へ近づく魔物を倒していく。


 それでも、すべては止められない。


 魔物の群れが村の入口へ迫る。


「皆さん、矢を止めてください!」


 ローズが前へ出た。


「何をするつもりだ!」


「まとめて倒します!」


 ローズは世界樹の杖を両手で握る。


 杖の周りへ、淡い光が集まっていく。


 以前のローズなら、これほど大きな魔法を使えば、周囲まで巻き込んでいたかもしれない。


 けれど今は違う。


 世界樹の杖が、溢れようとする魔力を細く整えていた。


 荒れ狂う力が、ローズの意思に従って一つの場所へ集まっていく。


「風よ、渦となれ!」


 ローズが杖を振り下ろす。


 魔物の群れの中央で、巨大な風の渦が生まれた。


 土と落ち葉が巻き上がる。


 風の刃が渦の中を走り、何体もの魔物をまとめて切り裂いた。


 ゴブリンが吹き飛ぶ。


 獣型の魔物が地面へ叩きつけられる。


 黒い魔物の体が裂け、動かなくなった。


 風は村の柵やエルフ兵には触れない。


 魔物の群れだけを飲み込み、消えていった。


 周囲に一瞬だけ静けさが戻る。


「すごい……」


 誰かが呟いた。


 ローズは振り返らない。


「まだ残っています!」


 その声に、エルフ兵たちが我に返る。


「残った魔物を狙え!」


 再び矢が放たれる。


 ラベンダーの矢も、逃げようとした魔物を背後から射抜いた。


「ミント!」


 ピクが胸ポケットから顔を出す。


「村の中にもいるの!」


「ああ!」


 入口を守る二人を残し、俺は村の中へ走った。


     ◇


 村の中では、すでに何匹もの魔物が家々の間へ入り込んでいた。


 一匹のゴブリンが、倒れたエルフ兵へ短剣を振り上げている。


「させるか!」


 横から体当たりするように盾を叩きつける。


 ゴブリンの小さな体が吹き飛び、家の壁へぶつかった。


 立ち上がるより先に近づき、剣で胸を貫く。


「立てますか?」


「あ、ああ……」


「世界樹の方へ逃げてください!」


 兵士を立たせ、次の悲鳴が聞こえた方へ走る。


 家の前で、獣型の魔物が母親と子供を追い詰めていた。


 俺は背後から剣を振り下ろす。


 刃が背中へ食い込み、魔物が振り返った。


 開いた口から牙が迫る。


 盾で顎を跳ね上げる。


 体勢を崩したところへ、もう一度剣を振るった。


 首を切り裂かれた魔物が、その場に倒れる。


「早く逃げて!」


「ありがとうございます!」


 親子が走り去る。


 次。


 家の屋根へ登ろうとしている黒い魔物。


 次。


 倉庫の扉を壊そうとしているゴブリン。


 次。


 逃げ遅れた老人へ飛びかかろうとする獣型の魔物。


 一匹ずつ。


 確実に。


 剣を振り、盾で防ぎ、倒したことを確認してから次へ向かう。


 派手な魔法も、一度に敵を倒す力も俺にはない。


 だから、目の前の敵を逃さない。


「一匹ずつでいい」


 息を整えながら、血のついた剣を握り直す。


「確実に数を減らすんだ」


 村の入口から、何度も弦の音が聞こえる。


 そのたびに魔物の声が一つずつ消えていく。


 時折、強い風が吹き抜ける。


 ローズの魔法だ。


 俺が村の中へ入り込んだ魔物を倒している間に、入口から押し寄せていた群れも少しずつ減っていった。


 村人の悲鳴が少なくなる。


 魔物の咆哮も、さっきより遠くなっている。


「押し返してる……」


 倒れた魔物を見下ろし、俺は息を吐いた。


 入口へ戻る。


 途中で村の戦士たちとすれ違った。


「村の中にいた魔物は、ほとんど倒した!」


「こちらもあと少しだ!」


 村の入口では、ラベンダーとエルフ兵たちが残った魔物へ矢を放っている。


 ローズも杖を構え、小さな風の刃で一体ずつ仕留めていた。


 最後のゴブリンがラベンダーの矢を受け、地面へ倒れる。


 それを見たエルフ兵の一人が声を上げた。


「止まったぞ!」


「魔物が来なくなった!」


 張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩む。


 兵士たちは周囲を警戒しながらも、安堵したように息を吐いていた。


 ラベンダーも弓を下げる。


「終わった……?」


「まだ油断しないでください」


 ローズはそう言いながらも、荒い息を整えていた。


 世界樹の杖の光も、少しずつ弱くなっていく。


 俺は二人のところへ歩き始めた。


「無事か?」


「うん」


 ラベンダーが頷く。


「ミントも怪我してない?」


「少し切っただけだ」


 頬についた血を手の甲で拭う。


「ローズは?」


「まだ魔力は残っています」


 ローズが答えた、そのときだった。


 森の奥から、重い音が響いた。


 ドン。


 地面が揺れる。


 誰も言葉を発しなかった。


 ドン。


 もう一度。


 最初よりも近い。


 木の枝から葉が落ち、地面へ降り積もる。


 残っていた小型の魔物が、森の中から逃げ出してきた。


 村へ向かっていたはずの魔物たちが、今度は何かに追われるように左右へ散っていく。


「何……?」


 ラベンダーの獣耳が小さく震える。


 ドン。


 木々の間に巨大な影が見えた。


 太い幹が左右へ押し倒される。


 枝が折れ、土煙が上がる。


 森の中から姿を現したのは、牛の頭を持つ魔物だった。


 巨大な角。


 分厚い胸板。


 膨れ上がった腕。


 その体は、さっき倒したオークの倍ほどもある。


「ミノタウロス……」


 ローズの声が震えた。


 ミノタウロスは巨大な斧を片手に持ち、ゆっくりと村へ向かってくる。


 一歩ごとに地面が揺れる。


「射て!」


 エルフ兵たちが一斉に矢を放った。


 何十本もの矢が空を走り、ミノタウロスの体へ突き刺さる。


 だが、ほとんどの矢は硬い皮膚に弾かれた。


 刺さった矢も、先端が浅く食い込んでいるだけだ。


 ミノタウロスは歩みを止めない。


「目を狙う!」


 ラベンダーが新しい弓を引き絞った。


 矢が一直線に飛ぶ。


 しかし、ミノタウロスは顔をわずかに動かし、太い角で矢を弾いた。


 ラベンダーはすぐに次の矢を放つ。


 肩。


 脚。


 首。


 どれも深く刺さらない。


「硬すぎる……!」


「下がってください!」


 ローズが世界樹の杖を掲げた。


 魔力が集まる。


 先ほどの範囲魔法よりも鋭く、強い風が杖の先へ集まっていく。


「風よ、貫け!」


 圧縮された風の塊が、ミノタウロスの胸へ直撃した。


 轟音が響く。


 土煙が巨体を覆う。


 だが、煙の中からミノタウロスが姿を現した。


 胸の皮膚が少し裂けている。


 それだけだった。


「効いていない……」


 ローズが息を呑む。


 ミノタウロスが地面を蹴った。


「速い!」


 巨体からは想像できない速度で、一気に距離を詰めてくる。


 狙われたのはローズだった。


「こっちだ!」


 俺は盾を剣で叩いた。


 金属音が響く。


 ミノタウロスの視線が俺へ向いた。


 進路が変わる。


「ミント!」


「二人は下がれ!」


 ミノタウロスが斧を振り上げる。


 俺は横へ跳んだ。


 巨大な斧が、さっきまで俺がいた地面へ叩きつけられる。


 土が爆発したように弾けた。


 飛び散った石が頬を切る。


 俺は立ち上がりながら、ミノタウロスの脇腹へ剣を振るった。


 刃が皮膚を切り裂く。


 血が流れた。


「剣は通る!」


 倒せない相手ではない。


 そう思った瞬間、太い腕が横から迫ってきた。


 盾を構える。


 腕が盾へ激突した。


 体が地面から浮く。


 何度か転がり、木の根元へ背中をぶつけた。


「ぐっ……」


 息が詰まる。


 ミノタウロスはすでに次の攻撃へ移っていた。


 斧を引き抜き、こちらへ走ってくる。


 立ち上がる。


 正面から受ければ、盾ごと腕を壊される。


 斧が振り下ろされる寸前で横へ跳ぶ。


 地面が砕ける。


 すれ違いざまに脚を斬る。


 また傷は入った。


 それでも浅い。


 巨体に対して、この程度の傷では足りない。


 ラベンダーが矢を放つ。


 ミノタウロスの背中へ当たるが、動きは止まらない。


 ローズも風の刃を飛ばす。


 しかし俺との距離が近すぎて、強い魔法は使えない。


「ミント、離れて!」


「無理だ!」


 俺が離れれば、ミノタウロスは村へ向かう。


 後ろには負傷した兵士も、逃げ遅れた村人もいる。


 俺が前へ立つしかない。


 ミノタウロスが斧を横へ振るう。


 しゃがんで避ける。


 頭上を通り過ぎた斧が、近くの木を一撃でへし折った。


 反撃しようと踏み込む。


 だが、ミノタウロスはもう斧を振り戻していた。


 盾で受ける。


 激しい衝撃が腕へ走る。


「ぐっ……!」


 足が地面へめり込む。


 受け止めた。


 それなのに、次の一撃がもう来る。


 太い脚が俺の腹を狙う。


 体をひねり、ぎりぎりで避ける。


 ミノタウロスの蹄が防具をかすめた。


 それだけで体が大きくよろめく。


 剣は通る。


 傷をつけることもできる。


 それなのに、攻撃するための隙がどこにもない。


 巨大なうえに、速すぎる。


 防ぐ。


 避ける。


 また防ぐ。


 それだけで精いっぱいだった。


 ミノタウロスが咆哮する。


 斧を両手で握り、大きく振り上げた。


 次の一撃を受ければ、盾ごと腕を壊される。


 俺は剣を握り直した。


 それでも、退くわけにはいかなかった。


 俺の後ろには、守らなければならない村があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ