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おかえり!妖精の家へようこそ ~スキル図鑑で家族が増えていく物語~  作者: 月瀬 リュカ


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第20話 帰る場所

 地下牢から出ると、エルフの少女は糸が切れたように力を失い、そのままローズへ寄りかかった。


「大丈夫です」


 ローズは優しく抱き寄せ、少女の頭を撫でる。


「もう誰も、あなたを傷つけません」


 少女は小さく頷くと、そのまま目を閉じた。


「かなり弱ってるね」


 ラベンダーが鼻をひくつかせる。


「お腹も空いてるし、水も足りてない」


「妖精の家から持ってこよう」


 俺は周囲を確認し、人目がないことを確かめてから妖精の家の扉を呼び出した。


 淡い光が集まり、木製の扉が姿を現す。


 胸元のポケットが小さく動いた。


 ピクが縁から顔を覗かせ、ローズに抱かれた少女を見つめる。


「この子が助けた子なの?」


「ああ」


 ピクは心配そうに眉を下げた。


「お水と毛布がいるの」


「そうだな。取ってくる」


 俺たちは妖精の家へ入り、妖精の泉の水、清潔な布、毛布、それから柔らかい保存食を持ち出した。


 ローズは少女を毛布へ寝かせ、水を少しずつ口へ運ぶ。


「ゆっくりで大丈夫です」


 少女は慌てて飲もうとしたが、ローズが優しく止めた。


「もう誰にも取られません。少しずつ飲みましょう」


 少女は不安そうな目でローズを見つめ、それから静かに頷いた。


 少しずつ水を飲むと、ようやく表情から緊張が抜けていく。


 ポケットの中から様子を見ていたピクも、安心したように息を吐いた。


「これも食べられるの」


 ピクが柔らかい保存食を指差す。


「まだ無理に食べさせない方がいいね」


 ラベンダーが少女の顔を覗き込んだ。


「もう少し休ませてからにしよう」


「分かったの」


 少女の呼吸が落ち着いたことを確認し、俺は立ち上がった。


「ラベンダー、小屋を見てくる」


「うん」


 二人で小屋の中を一通り確認する。


 他に捕まっている人はいなかった。


 奥には奪われた荷物や武具が積まれている。


 冒険者の物と思われる装備も混ざっていた。


「結構あるね」


 ラベンダーが積み上げられた荷物を眺める。


「何人から奪ったんだろう」


「分からない。でも、全部ギルドに知らせた方がいいな」


 さらに奥へ進むと、壁際に木箱がいくつも並んでいた。


 その側面には、黒い蝙蝠の紋章が焼き印されている。


「この印……」


 ラベンダーが木箱へ顔を近づける。


「山賊の印かな?」


「分からない」


 俺は同じ紋章が刻まれた箱を見回した。


 奪った荷物とは違い、蝙蝠の紋章が付いた木箱だけは、きれいに分けて積まれている。


「山賊の物なら、わざわざ同じ印を付けて分ける必要はなさそうだけど」


「誰かに渡す物なのかな?」


「その可能性はあるな」


 近くの机には、取引の記録らしき紙が乱雑に置かれていた。


 詳しく確認している時間はない。


 俺は蝙蝠の紋章が押された紙を一枚だけ手に取った。


「町へ着いたらギルドに渡そう」


「うん。今は護衛中だもんね」


 俺たちは証拠になりそうな紙だけを持ち、小屋を後にした。


 商隊を待たせるわけにはいかない。


     ◇


 野営地へ戻ると、商人たちが一斉にこちらを振り向いた。


「戻った!」


「無事だったか!」


 責任者の商人が駆け寄ってくる。


「山賊は?」


「片付いた」


 俺は縛り上げた山賊たちを指差した。


「小屋も見つけました。奪われた荷物も残っています。ただ、今は護衛を優先したいので、そのままにしてあります」


「それでいい。町へ着いたらギルドへ知らせよう」


 商人は安堵したように息を吐いた。


 その視線が、ローズに抱かれた少女へ向く。


「その子は……」


「山賊に捕まっていました」


 ローズが答える。


「かなり衰弱しています」


「そうか……助かってよかった」


 山賊たちは荷馬車へ縛りつけられ、見張りが付くことになった。


 少女は毛布へ包まれたまま、静かに休んでいる。


 しばらくして目を覚ますと、ローズが優しく話しかけた。


「少しだけでも、食べられそうですか?」


 少女はローズが差し出した保存食を見つめたあと、小さく頷いた。


 ローズは食べやすいように少しずつ千切り、少女の手へ載せる。


「慌てなくても大丈夫です」


 少女はゆっくりと口へ運んだ。


 一口食べるたびに、張りつめていた表情が少しずつ和らいでいく。


 胸元のポケットから顔を出していたピクが、小さな声で話しかけた。


「おいしいの?」


 少女は驚いたように目を見開く。


「妖精……?」


「ピクなの」


 ピクは胸を張った。


「この家の妖精なの」


 少女は初めて、ほんの少しだけ笑った。


「かわいい……」


「かわいいの!」


 声を上げかけたピクが、自分で慌てて口を押さえる。


 その様子を見て、少女の笑みが少しだけ大きくなった。


 ローズも安心したように微笑む。


「お名前を聞いてもいいですか?」


 少女は小さな声で答えた。


 そして、故郷がこの町の近くにあるエルフの集落だと教えてくれた。


 商人が頷く。


「その集落なら知っている。町へ着けば、連絡も取れるはずだ」


 少女は安心したように胸をなで下ろした。


「家族に……会えますか?」


「きっと会えます」


 ローズは少女の手を包み込む。


「あなたが家族のもとへ帰るまで、私がそばにいます」


 少女はその言葉を聞くと、小さく微笑み、再び目を閉じた。


     ◇


 焚き火の火が小さくなった頃。


 ローズが静かに口を開いた。


「ミントさんには、いろいろと迷惑をかけています」


「どうしてそう思う?」


「私がいたから、山賊に狙われました」


 ローズは少し俯いた。


「森のことも、杖のことも……いつも助けてもらってばかりです」


「迷惑だと思ってない」


 俺は迷わず答えた。


「悪いのはローズじゃない。人を売ろうとした山賊だ」


 ローズは黙って聞いている。


「俺は、ローズが来てから迷惑が増えたとは思ってない」


「では……」


「仲間が増えたと思ってる」


 ローズの瞳が少し揺れた。


「仲間……」


「今さらだろ」


 しばらく沈黙が続く。


 やがてローズは小さく笑った。


「また同じことを言ってしまうかもしれません」


「そのときは、また違うって言うよ」


「ありがとうございます」


 その笑顔は、以前よりずっと自然だった。


     ◇


 翌朝。


 商隊は予定どおり出発した。


 少女はまだ体力が戻らず、ローズと同じ馬車へ乗る。


 ラベンダーは周囲を警戒しながら歩き、俺も護衛として隊列の横についた。


 ピクはいつものように、俺の胸元のポケットへ入っている。


 山賊たちを乗せた荷馬車も、列の最後尾をゆっくりと進んでいく。


 朝日が高く昇り、街道を半日ほど進んだ頃。


 御者の一人が前を指差した。


「見えてきたぞ!」


 街道の先。


 青空の下に、大きな城壁へ囲まれた町が姿を現した。


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