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おかえり!妖精の家へようこそ ~スキル図鑑で家族が増えていく物語~  作者: 月瀬 リュカ


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第13話 新しい朝

 二人は寄り添ったまま、初めて迎える穏やかな朝を迎えた。


 窓から差し込んだ淡い光が、ラベンダーの銀色の髪を照らしている。


 俺の胸元へ頬を寄せたまま、彼女は静かな寝息を立てていた。


 昨日まで苦しんでいたことが嘘のような、穏やかな寝顔だった。


 満月を恐れる必要は、もうない。


 いつ理性を失うかと怯えながら、人を遠ざける必要もない。


 ラベンダーは、もう自由だ。


 俺が起こさないように身体を動かすと、腰へ回されていた腕に力がこもった。


 さらに、柔らかな尻尾が俺の腕へ巻きつく。


「……起きてるだろ」


「起きていません」


 すぐに返事が来た。


「起きてるじゃないか」


「まだ朝ではありません」


 窓からは、もう十分なほど朝日が入っている。


 俺が黙っていると、ラベンダーがゆっくり顔を上げた。


「おはようございます、ミント」


「ああ。おはよう」


 ラベンダーは嬉しそうに笑うと、再び俺の胸へ顔を埋めた。


 病が治ったことで、性格まで変わったわけではない。


 ただ、これまで抑え込んでいたものを、隠さなくなったのだと思う。


 ずっと一人で生きてきた。


 誰かに頼ることも、甘えることもできなかった。


 だからこそ、一度つかんだものを、どうしても放したくないらしい。


「そろそろ起きないか?」


「もう少しだけです」


「さっきも聞いたぞ」


「では、もう一度お願いします」


 腕へ絡んだ尻尾は、離れる気配がない。


 仕方なく、俺はもう一度ラベンダーの背中へ腕を回した。


 すると、彼女の耳が嬉しそうに動いた。


「なかよしだねー!」


 突然、部屋の中へ明るい声が響いた。


 開いた窓から、ピクが勢いよく飛び込んでくる。


「ピク!」


 ラベンダーが慌てて身体を起こす。


 けれど、俺から離れようとはしなかった。


 以前のラベンダーなら、部屋の隅まで逃げていたかもしれない。


 ピクは宙に浮かびながら、俺たちを見比べた。


「ずっとくっついてるー!」


「はい」


 ラベンダーが俺の腕を抱いたまま答える。


「私たちは仲良しです」


「うん! ピクもなかよしー!」


 ピクが俺たちの間へ飛び込んできた。


 こうして三人でしばらく騒いだあと、俺たちはようやく身支度を整えた。


 ラベンダーは着替えを終えたあとも、尻尾だけは俺の腕へ絡めたままだった。


          ◇


 朝食を終えたあと、俺は昨日から気になっていたことを確認することにした。


「ステータス」


 目の前に、半透明の板が現れる。




 名前:ミント


 レベル:14


 JOB:剣士/戦士


 固有スキル:《スキル図鑑》


 特殊スキル:《信頼の器》



「十四……」


 銀熊と戦う前は、レベル十だった。


 たった一度の戦いで、四つも上がっている。


 それだけ、あの銀熊が強敵だったということだろう。


「ラベンダーも確認してみてくれ」


「はい」


 ラベンダーも自分のステータスを開く。




 名前:ラベンダー


 レベル:14


 JOB:斥候/狩人


 特殊スキル:《弓の素質》《信頼の器》




「私も十四です」


「同じだけ上がったのか」


 銀熊を倒した最後の一撃は、ラベンダーの矢だった。


 けれど、戦いに参加した俺にも同じだけ経験が入ったらしい。


 そして何より大きいのは、俺たちが二つのJOBを持てるようになったことだ。


 俺は《剣士》と《戦士》。


 ラベンダーは《斥候》と《狩人》。


 それぞれが、以前よりも広い役割を担えるようになっている。


「次は図鑑を見てみるか」


 俺が《スキル図鑑》を開くと、閉じられていたページが次々に光り始めた。


 新しく文字が浮かび上がる。




《盾術》


 盾を扱うための基礎技術。


《解体》


 魔物や獣から、素材を傷つけずに採取する技術。


《索敵》


 周囲に存在する敵や危険を探知する。


《夜目》


 暗闇でも周囲を見通しやすくなる。


《弱点看破》


 対象を観察し、攻撃が通りやすい箇所を見抜く。


《速射》


 弓による射撃動作を短縮する。




「……六つも増えてる」


 図鑑の登録数は、十から十六へ増えていた。


 俺が新しく覚えた《盾術》。


 残りの五つは、すべてラベンダーが持っているスキルだ。


「ラベンダーのスキルまで、俺の図鑑に載っている」


「私のものが、ですか?」


「ああ。見てくれ」


 ラベンダーが俺の隣へ座る。


 肩が触れた瞬間、尻尾がまた俺の腕へ巻きついた。


 俺は気にせず、光っているページを彼女へ見せる。


「《解体》は、銀熊を解体したからですね」


「《弱点看破》と《速射》も、あの戦いで使っていたな」


 新しい項目の下に、説明が追加されていた。



《スキル図鑑》


 自身および《信頼の器》で結ばれた者が習得したスキルを登録する。




 俺一人で、すべてのスキルを覚える必要はない。


 家族となった仲間が覚えたスキルも、図鑑へ記録される。


 つまり、仲間が増えれば増えるほど、図鑑を完成させられる可能性も高くなる。


「私も、図鑑を埋めるお手伝いができるんですね」


「ああ。かなり助かってる」


「では、もっとたくさん覚えます」


 ラベンダーが胸を張る。


「ミントの役に立つスキルを、全部覚えます」


「無理はするなよ」


「無理はしません。ただ、頑張るだけです」


 そう言って、ラベンダーは俺の肩へ頭を預けた。


 強がって一人で生きていた彼女は、もういない。


 今のラベンダーは、頼ることも、甘えることも知っている。


 そして俺も、彼女を遠ざけるつもりはなかった。


「十六個か」


 図鑑の完成までは、まだ遠い。


 それでも、昨日までの十個と比べれば、大きな前進だ。


 この家で暮らしながら、仲間と一緒にスキルを集める。


 いつか百個すべてを埋める。


 そんな未来を考えていると、ピクが突然、窓の外へ顔を向けた。


「んー?」


「どうした?」


「森がびっくりしてるー」


 ピクの言葉とほぼ同時だった。


 遠くから、低い爆発音が響いた。


 窓ガラスが小さく揺れる。


 直後、森の奥から赤い炎が空へ噴き上がった。


「火事か?」


「違います」


 ラベンダーが立ち上がる。


 甘えていた表情は消え、斥候の鋭い目に戻っていた。


「あれは魔法です。ですが、威力が大きすぎます」


「見に行こう」


「はい」


 妖精の家を飛び出し、俺たちは森を走った。


 ラベンダーが先頭に立ち、《索敵》で周囲を確認する。


 爆発の起きた場所が近づくにつれ、焦げた匂いが強くなっていった。


 何本もの木が倒れ、地面には大きな穴が開いている。


 その中心に、一人の女性が立っていた。


 腰まで届く水色の髪。


 すらりと伸びた手足。


 整った顔立ちの両側から、エルフ特有の尖った耳がのぞいている。


 女性は、焼け焦げた杖を両手で握りしめていた。


 その周囲では、炎と風が意思を持つように渦巻いている。


「大丈夫か!」


 俺が声をかけると、彼女は怯えた顔で振り返った。


「来ないでください!」


 空気が震える。


 彼女の身体から、抑えきれないほどの魔力があふれ出した。


「近づいたら……また、傷つけてしまいます」


 彼女の足元で、再び炎が弾ける。


 女性は泣きそうな顔で、焼け焦げた杖を抱きしめた。


「私は、誰かを傷つけることしかできませんから」


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