表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかえり!妖精の家へようこそ ~スキル図鑑で家族が増えていく物語~  作者: 月瀬 リュカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/29

第11話 怒りの共鳴


 銀熊の咆哮が、月の谷を震わせた。


 地面まで揺れ、白い花びらが一斉に舞い上がる。


 俺は盾を構えながら、目の前の巨体を見上げた。


 大きい。


 灰爪狼とは比べものにならない。


 四つ足で立っているのに、頭の位置は俺の背丈をはるかに超えている。


 銀色の毛に覆われた前脚は、俺の胴よりも太かった。


「あれが、月の欠片!」


 月の妖精が銀熊の背後を指さしている。


 岩壁の前に、淡い光を放つ小さな欠片が浮かんでいた。


 目的のものは見つかった。


 けれど、簡単に近づける距離ではない。


 銀熊は、明らかに俺たちと月の欠片の間へ立っていた。


「月の欠片を守っているのか?」


「たぶん、そうだよ!」


 月の妖精が答える。


「前からずっと、ここにいるの!」


「話は通じないのか?」


「妖精の言葉は分からないみたい!」


 銀熊が再び吠えた。


 話し合う気はないらしい。


 ラベンダーが俺の隣で弓を構える。


「来ます」


 銀熊の前脚が地面を掻いた。


 次の瞬間、巨体がこちらへ向かって走り出す。


 速い。


 あれほど大きな身体なのに、灰爪狼より遅いとは思えなかった。


「下がって!」


 俺はラベンダーの前へ出た。


 盾を両手で持ち、腰を落とす。


 《剣士》と《戦士》。


 二つのJOBを持った今なら、受け止められる。


 そう思った。


 銀熊が前脚を振り上げる。


 俺の身体ほどもある爪が、横から盾へ叩きつけられた。


「ぐっ……!」


 衝撃が腕から肩へ突き抜けた。


 足元の土がえぐれ、俺の身体が横へ押される。


 それでも、倒れない。


 以前の俺なら、盾ごと吹き飛ばされていた。


「受け止めた……!」


 自分でも驚いた。


 銀熊も予想していなかったのか、動きを一瞬止める。


「ミント、伏せてください!」


 ラベンダーの声が聞こえた。


 俺は盾を上げたまま、身体を低くする。


 頭上を矢が通り抜けた。


 矢は銀熊の肩へ突き刺さった。


 銀色の毛が裂け、わずかに血が流れる。


「刺さった!」


「浅いです!」


 ラベンダーはすぐに二本目の矢をつがえる。


 銀熊がこちらへ顔を向ける前に、矢がもう一方の肩へ刺さった。


 だが、銀熊の巨体は揺らがない。


 痛みは感じている。


 それでも、動きを止めるほどではなかった。


 銀熊が口を開け、俺へ噛みつこうとする。


 俺は盾を前へ押し出し、牙を受け止めた。


 金属がきしむ音が響く。


「力が強すぎる……!」


 盾が少しずつ押し戻される。


 腕力は上がった。


 身体も強くなった。


 それでも、真正面から力比べを続ければ負ける。


「右へ離れてください!」


 ラベンダーが叫ぶ。


 俺は盾を斜めに傾けた。


 銀熊の牙が滑り、身体が前へ崩れる。


 その横をすり抜け、俺は銀熊の前脚へ剣を振り下ろした。


 刃が銀色の毛を裂く。


 肉まで届いた手応えがあった。


 血が飛び、白い花へ落ちる。


 斬れる。


 俺の剣は、確かに銀熊へ通っている。


 だが、浅い。


 灰爪狼なら倒れていた一撃を受けても、銀熊は前脚を引いただけだった。


 すぐに身体をひねり、俺へ爪を振るう。


「速い!」


 盾を構える余裕がない。


 俺は後ろへ跳び、爪を避けた。


 爪先が胸元をかすめ、服が裂ける。


 あと少し遅ければ、身体まで切られていた。


「ミント、左へ!」


 ラベンダーの矢が飛ぶ。


 銀熊の脇腹へ刺さった。


 銀熊がラベンダーの方へ顔を向ける。


 その隙に俺は踏み込み、同じ場所へ剣を突き立てた。


 矢が刺さった傷口へ、刃が深く入る。


 銀熊が苦しそうな声を上げた。


「入った!」


 剣を引き抜き、そのまま離れる。


 傷口から血が流れ出した。


 今度は浅くない。


 確実に効いている。


「このまま同じ場所を狙う!」


「分かりました!」


 ラベンダーが走り出す。


 銀熊から距離を取りながら、次の矢をつがえる。


 俺は盾を叩き、銀熊の注意を引きつけた。


「こっちだ!」


 銀熊が俺へ向かって突進する。


 正面から受け止めるふりをして、直前で横へ避ける。


 巨体が俺の横を通り過ぎた。


 ラベンダーが放った矢が、脇腹の傷へ突き刺さる。


 銀熊の身体が大きく揺れた。


 俺はすぐに追いかける。


 剣を両手で握り、同じ傷を斬りつけた。


 銀熊が怒りに満ちた咆哮を上げる。


「効いてる!」


「はい。でも――」


 ラベンダーの声が途切れた。


 銀熊が振り返り、前脚を地面へ叩きつけた。


 凄まじい音とともに、地面が割れる。


「うわっ!」


 足元が跳ね上がった。


 身体が浮き、背中から地面へ落ちる。


 息が詰まった。


 離れた場所にいたラベンダーも、衝撃で体勢を崩している。


 銀熊はその隙を逃さなかった。


 俺へ向かって走り出す。


「ミント!」


 ラベンダーの矢が飛ぶ。


 一本。


 二本。


 三本。


 銀熊の首や肩へ次々と刺さる。


 だが、止まらない。


 俺は地面を転がりながら、どうにか盾を構えた。


 銀熊の前脚が振り下ろされる。


 盾が地面へ叩きつけられた。


「ぐあっ!」


 腕がしびれる。


 盾を離しそうになる。


 銀熊はさらに前脚を持ち上げた。


 二撃目。


 今度は盾の中央に爪が食い込み、大きな傷を残す。


 身体が地面へ沈むような衝撃だった。


「ミントから離れて!」


 ラベンダーが叫ぶ。


 矢が銀熊の顔へ飛ぶ。


 銀熊はわずかに頭を動かし、矢を頬へ受けた。


 致命傷にはならない。


 だが、注意はラベンダーへ向いた。


「ラベンダー、狙われるぞ!」


「分かっています!」


 ラベンダーは銀熊から距離を取る。


 走りながら矢をつがえ、後ろを振り返らずに放つ。


 矢は銀熊の前脚へ刺さった。


 次は肩。


 その次は脇腹。


 どの矢も当たっている。


 ラベンダーの腕は確かだった。


 けれど、銀熊を倒すには足りない。


 矢が刺さるたびに血は流れる。


 それでも銀熊の速度は落ちなかった。


「傷は増えているのに……」


 俺は立ち上がりながら呟いた。


 銀熊は強い。


 ただ力が強いだけではない。


 身体が大きく、体力が桁違いなのだ。


 俺たちの攻撃は通っている。


 けれど、一撃一撃が小さすぎる。


 このまま攻撃を重ねれば、いつかは倒せるかもしれない。


 だが、その前に俺たちの体力が尽きる。


「ラベンダー!」


 俺は走り出した。


 銀熊はラベンダーだけを追っている。


 俺が背後から剣を振るう。


 銀色の毛を裂き、背中へ新しい傷を作った。


 銀熊が振り返る。


 爪が横から迫る。


 俺は盾で受け止めた。


 身体が数歩押し戻される。


 それでも、ラベンダーから注意をそらすことには成功した。


「今だ!」


 ラベンダーが足を止める。


 弓を大きく引き絞った。


 狙っているのは、銀熊の目。


 矢が放たれる。


 銀熊は顔を動かした。


 矢は目を外れ、眉間へ刺さる。


「惜しい!」


「もう一度狙います!」


 ラベンダーが次の矢を取る。


 だが、銀熊は同じ攻撃を待ってくれなかった。


 前脚を地面へ叩きつける。


 再び地面が揺れた。


 俺は盾を地面へ突き立て、倒れないように耐える。


 ラベンダーは跳び上がり、揺れを避けた。


 着地と同時に矢を放つ。


 矢が銀熊の耳へ刺さった。


 銀熊が激しく頭を振る。


「そこも効いています!」


「次は耳を狙う!」


 俺たちは少しずつ戦い方を見つけていた。


 正面から倒そうとしない。


 俺が受け止める。


 ラベンダーが狙う。


 傷ができた場所へ、二人で攻撃を重ねる。


 一人ではできない戦い方だった。


 銀熊が俺へ突進する。


 俺は盾で受け止める。


 ラベンダーが脇腹へ矢を射る。


 銀熊がラベンダーを追う。


 俺が脚へ剣を振るう。


 何度も繰り返す。


 銀熊の身体には、少しずつ傷が増えていった。


 白い花が、流れた血で赤く染まっていく。


「いける……!」


 俺は息を整えながら言った。


 苦しい。


 腕も痛い。


 盾には何本もの爪痕が残っている。


 それでも、戦えている。


「このまま続ければ――」


「ミント、気をつけてください!」


 ラベンダーの声が飛んできた。


 銀熊の動きが変わった。


 それまで俺とラベンダーを交互に追っていた銀熊が、突然その場で立ち上がる。


 二本の後ろ脚だけで立った姿は、さらに巨大だった。


 両方の前脚を大きく広げる。


「何をするつもりだ……?」


 銀熊が咆哮した。


 空気が震える。


 近くに咲いていた花が、音だけで吹き飛んだ。


 俺は耳を押さえた。


 頭の中まで揺さぶられる。


 ラベンダーも顔をしかめている。


 その一瞬。


 銀熊が身体を前へ倒した。


 狙いは俺ではない。


 ラベンダーだった。


「逃げろ!」


 銀熊は地面を蹴る。


 今まで以上の速さだった。


 傷ついた身体から、最後の力を振り絞っているように見えた。


 ラベンダーが横へ走る。


 だが、先ほどの咆哮の影響が残っている。


 足元がふらついた。


 銀熊との距離が一気に縮まる。


 ラベンダーは振り返りながら矢を放つ。


 矢が銀熊の胸へ刺さる。


 止まらない。


 二本目。


 肩へ刺さる。


 それでも止まらない。


「ラベンダー!」


 俺は走った。


 全身が痛い。


 足も重い。


 それでも、間に合わなければならない。


 銀熊が前脚を振り上げる。


 ラベンダーは避けようとする。


 だが、足元の石に靴が引っかかった。


「あっ……」


 身体が崩れる。


 銀熊の爪が振り下ろされる。


 俺は地面を蹴った。


 ラベンダーと銀熊の間へ飛び込む。


「ミント!」


 ラベンダーの身体を突き飛ばす。


 その直後。


 銀熊の爪が、俺の身体を深く切り裂いた。


「がっ……!」


 胸から脇腹にかけて、焼けるような痛みが走る。


 身体が宙へ浮いた。


 何が起きたのか理解する前に、背中から地面へ叩きつけられる。


 息ができない。


 口から空気だけが漏れた。


「ミント!」


 ラベンダーの声が聞こえる。


 身体を起こそうとする。


 腕に力が入らない。


 胸元が熱い。


 服が血で濡れていく。


「来るな……」


 声がほとんど出なかった。


 銀熊はまだ立っている。


 俺が倒れたことで、再びラベンダーへ顔を向けていた。


「逃げろ……ラベンダー……」


 ラベンダーは動かなかった。


 倒れた俺を見ている。


 大きく開かれた目が、傷口へ向けられていた。


 その瞳が、ゆっくりと変わっていく。


「……よくも」


 低い声だった。


 普段の優しいラベンダーからは、聞いたことのない声。


 ラベンダーが立ち上がる。


 弓を握る手が震えていた。


 恐怖ではない。


 怒りだ。


「よくも、ミントを……!」


 ラベンダーの全身から、激しい光があふれ出した。


 同時に、俺の胸の奥にある《信頼の器》が強く震える。


【《信頼の器》が反応しています】


【対象との信頼が規定値を超えました】


【ラベンダーとの共鳴を開始します】


 光が、俺とラベンダーの間をつないだ。


 胸の痛みの奥で、何かが広がっていく。


【第二JOB枠を解放しました】


【第二JOB《狩人》を設定します】


【第一JOB《斥候》】


【第二JOB《狩人》】


【WJOBが有効になりました】


 ラベンダーの耳が鋭く立ち上がる。


 尻尾が大きく膨らみ、全身の毛が逆立った。


 爪が伸びる。


 瞳が獣のように細くなる。


 銀熊が、初めて一歩後ろへ下がった。


 ラベンダーは弓を握ったまま、銀熊を睨みつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ