4
リベリオとの結婚生活はとても充実していた。
結婚してすぐ、彼はオルガに新しい剣と魔物との戦闘に相応しい衣服をプレゼントしてくれた。鍛冶屋に連れていかれ、オルガの手の大きさや身長に合わせて柄の太さや剣の長さや重さなど、ピッタリのものを製作してもらった。それに胸当てのついた防御力のある動きやすい衣服も、オルガの体型に合わせて一から作ってもらった。
リベリオの屋敷のすぐ裏には魔物の生息する森が広がっている。
屋敷の裏側は超音波を発する機械が内蔵された塀で囲まれているので魔物は入り込んでくる事はない。だが塀につけられたドアを抜け森へ足を踏み入れれば、無数の魔物が存在している。
プレゼントしてもらった衣服に着替え、新しい剣を携え、森に入り魔物を倒した。
今までずっとドレスを着て、市販品の剣で戦ってきたオルガは、その快適さに驚いた。そしてプレゼントしてくれたリベリオに改めて深く感謝した。
武器や衣服もそうだが、何より夜ではなく昼間に自由に魔物を倒せるのが嬉しかった。
リベリオが前もって伝えてくれていたので、屋敷で働く使用人は皆、オルガが魔物と戦う事を知っている。全員快く送り出してくれるので、こっそり屋敷を抜け出す必要もない。
敷地内を出れば命の危険に晒されるリベリオの屋敷で働く使用人は、執事やメイド、コックに至るまで全員魔物との戦闘経験のある実力者達だった。
絶対に魔物が入り込んでこないという保証はない。王城の庭に魔物が連れ込まれた例もある。何が起こるかわからない。その為、もしもに備えて魔物と戦える人員を揃えているのだ。
週に一度、リベリオは使用人達に稽古をつける。屋敷の庭に集まり、順番に手合わせしていくのだ。
オルガもそれに混ぜてもらうようになった。オルガとして生まれてから、魔物とばかり戦ってきた。人間相手にこうして剣を振るうのは新鮮だ。
リベリオと剣を合わせ、改めて彼の強さを知った。
力では敵わないとわかっているので速さでそれを補おうとしても、彼はオルガの動きをとらえ、決して隙を見せない。そして彼の攻撃は一撃一撃が重く、オルガの体力を奪っていくのだ。
もし彼を殺すとしたら、正攻法では無理だろう。リベリオと剣を交えながら、オルガは頭の片隅で考える。
別にリベリオを殺したいとは思っていない。この先殺そうと思う事もないだろう。
どうやって相手を殺すかを考えてしまうのは、殺し屋だった頃の職業病のようなものだ。リベリオだけでなく、使用人達でも考えた。
リベリオは強い。近接武器で殺そうとすれば返り討ちに合うだろう。ならば殺意を隠して毒を盛るか、ライフルで遠距離から狙うのが確実だろう。
そんな事を考えている間に、オルガは負けた。
リベリオも使用人達も、オルガが相手でも特別扱いはしない。変に遠慮してわざと負けたりせず、ちゃんと稽古に付き合ってくれる。
「お相手ありがとうございます、リベリオ様」
「こちらこそ。わかってはいたが、やはり君はとても強いな」
「リベリオ様にはまだまだ敵いません」
そんな会話をしながら、互いにタオルで汗を拭く。
「……ところで気になっていたのだが、君はどのように剣を覚えたんだ?」
「剣術の先生に一から習いました」
「それだけか? 他に戦い方を誰かに教わったりは?」
リベリオの意味深な問い掛けに、オルガは首を傾げる。
「いいえ。先生は一人です」
「そうか……」
「私の剣の扱い、おかしいですか?」
「いや……おかしいというか……。一般的な剣術では習わないような動きが混ざっているから、剣術だけでなく何か習っていたのかと思ってな……」
彼の言う通り、オルガは自分のやり易いようにアレンジを加えている。前世で学んだ知識と経験を、剣を振るう時に混ぜて使っているのだ。剣は両手で柄を握って扱うのが通常だが、オルガは片手で振るったり、剣を持つ手を左右コロコロ変えたりしている。
「先生に学んだ事だけでなく、自分で色々と考えて動くようにはしています。魔物には変則的な戦いをするものもいますので、それらに対応できるように」
前世殺し屋だったので……と正直に話すわけにはいかないので適当な説明を口にする。
リベリオは納得したように頷いた。
「なるほど。君の剣は天性のものなんだな」
「すみません。私のやり方ではリベリオ様の剣の稽古になりませんか?」
「とんでもない。寧ろとてもいい経験になっている。うちの団員達とも稽古をしてほしいくらいだ」
「それが許されるなら、私も是非騎士団の方々と剣を合わせてみたいです」
オルガの言葉にリベリオは小さく笑みを浮かべる。
「さすがにそれは無理だが、興味があるならうちの稽古を見学するか?」
「いいのですか?」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます、リベリオ様」
そんな風に、オルガはリベリオと言葉を交わす。彼との会話は穏やかだ。
夫婦仲は悪くない。良い方だと言えるだろう。
けれど、二人の寝室は別だ。
彼と婚姻を結んだその日の夜。所謂初夜というやつだ。
オルガの部屋にベッドが用意されていたが、入浴を済ませた後、隣にある彼の部屋を訪ねた。リベリオの部屋にもベッドが置いてある。
ノックをすれば、リベリオがドアを開けた。
「オルガ? どうしたんだ?」
「リベリオ様、子作りしないのですか?」
彼の目を見て尋ねれば、リベリオは顔を真っ赤にして変な声を上げて噎せた。
「大丈夫ですか、リベリオ様?」
「ん、ぐっ……あ、ああ……。すまない、大丈夫だ……」
動揺は治まったようだが、彼の顔はまだ赤かった。
「えっと……何だったか……」
「子作りの事です。しないのですか?」
「こっ……う……ん゛ん゛っ……。その……俺達は、互いに利害が一致して結婚した仲だ……。だからその、無理にそういう事をする必要はないと俺は考えている」
「そうなのですか」
「オルガは魔物を倒したくて結婚したんだろう? 子作りをしてしまっては、それができなくなってしまうではないか……」
「確かに妊娠中や出産直後はできませんが、ずっとではありませんし。子作りしても、魔物を倒す時間は沢山ありますよ」
「そうかもしれないが……でも、いいんだ。結婚はしたが、君にそこまで求めるつもりはない」
オルガは別に構わないのだが、リベリオはそうではないのだろう。
恋愛結婚ではないのだ。彼はオルガを愛しているわけではない。彼は真面目で優しい人だから、好きな人としかそういう事はしたくないのかもしれない。
「わかりました」
オルガはこくりと頷いた。
そんな事があり、夫婦仲は決して悪くはないのだが二人の寝室は別々なのだった。




