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前世殺し屋令嬢が今世では魔物を殺しまくっていたら魔物専門騎士団長に見初められました  作者: よしゆき


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 真夜中。オルガは今日も屋敷を抜け出し、街の外で魔物を殺していた。

 しかし、一体見つけて倒した後、どれだけ歩き回っても魔物の姿が見当たらない。

 最近、魔物の数が明らかに減っていた。以前は一晩で十体近く見る事もあったのに、今は多くて三体くらいしか見つけられない。

 ひょっとして、自分はこの辺の魔物を殺し尽くしてしまったのだろうか。

 思えば、もう一年以上、毎日のように魔物を殺し続けてきた。場所を変えつつ、自分が行ける範囲に現れた魔物は大抵殺してきた。

 魔物が毎日大量に繁殖していないのならば、数が減るのは当然だ。

 オルガは今更その事に気づいた。

 さすがにこれ以上遠くへ足を運ぶのは難しい。屋敷までの往復の移動距離をのばせば、結局倒せる魔物は一、二体くらいになってしまうだろう。魔物がすぐに見つからない可能性だってあるのだ。

 魔物殺しは、もうできないのだろうか。

 時間を置けば、また新たな魔物が生まれてこの辺りをうろつきはじめるのかもしれないが。でもどれだけの時間がかかるのかわからない。魔物の生態は殆ど解明されていない。何年もかかるのかもしれ

ない。

 自分で殺し尽くしてしまったのなら、諦めるしかないのだろう。

 オルガは肩を落とし、屋敷に帰ろうと踵を返す。

 ふと人の気配を感じ、オルガは反射的にそちらへ顔を向けた。こちらに近づく人物がいる。


「オルガ嬢……」

「リベリオ様。こんばんは」

「ああ、こんばんは。……今夜も、魔物を殺しに?」


 リベリオは以前と同じく騎士団の制服を着ていた。魔物専門騎士団員は、夜中に街の外を見回る仕事をしているのだろう。


「はい」

「そうか。今も変わらず続けているんだな」

「そうなのですが、でも、もう続けられないと思います」

「え……? 何故だ?」

「魔物が、全然現れなくなってしまったんです」

「ああ、なるほど……。確かに俺も、ここに来るまで姿を見なかったな」

「屋敷を抜け出してきているので、これ以上遠くへは行けませんし。なので、もう続ける事は難しいかと」

「そうか……」


 オルガの話を聞き、リベリオは何かを考えるように目を伏せじっと黙り込む。

 長い沈黙の後、覚悟を決めた様子で彼はオルガにまっすぐ視線を向ける。


「オルガ嬢……」

「何でしょう?」

「その………………俺と結婚しないか……?」


 彼は真剣な顔でそう言った。その表情から本気である事がうかがえる。彼がそんな冗談を言うとも思えない。

 オルガはきょとんとリベリオを見つめ返した。彼が何故いきなりそんな事を言い出したのかわからない。


「どうして突然結婚なんでしょう?」

「俺の暮らす屋敷の裏には、広大な森が広がっている。そこはありとあらゆる魔物が無数に生息していると言われ、魔の森と呼ばれている」

「はい」

「だから、俺と結婚すれば、君はその森で魔物を殺し放題だ」

「リベリオ様は、結婚し妻となった私が魔物を殺しに森に入ってもいいのですか?」

「ああ。実は今まで、君が魔物と戦う姿を遠くから何度か見ているんだ。君は不必要に魔物を痛め付ける事はない。嬲り殺して楽しんでいるわけではない。本当にただ淡々と魔物の命を奪っているように見えた。無駄な事はせず、殺す事だけを目的として殺していた。それに、決して無謀な事もしない。とても慎重に、対峙する魔物の動きを見極めていた。君は魔物との戦いで怪我を負った事はあるか?」

「いいえ」


 ふるふると首を横に振る。オルガは今までかすり傷一つ負った事はない。

 オルガの答えにリベリオは可笑しそうに小さな笑みを浮かべる。


「うちの騎士団にも、そんな優秀な者は殆どいない。君の腕は素晴らしい。俺が口を出せない程に立派なものだ。だから、君がこの先も魔物を倒し続けたいと言うのなら俺はそれを止めないし、君の意思を尊重したいと思っている」

「それで、結婚ですか?」

「ああ」


 頷く彼を、じっと見つめる。


「私としては大変有り難いのですが、私と結婚するメリットはリベリオ様にはないのではないでしょうか?」


 同じ貴族でも、爵位は彼の方が上だ。結婚するには身分が釣り合っていない。彼にはオルガと結婚する理由などないはずだ。

 するとリベリオは言いにくそうに視線を落とす。


「……既に知っているかもしれないが、俺はご令嬢からの評判がとても悪いんだ。目が合っただけで泣かれた事もあるし、目すら合わせてもらえない事が殆どだ。声をかければあからさまに顔を背けられ、怯えられる。俺にそのつもりはないのだが、顔も厳ついし体も大きいから、相手を威圧してしまうようだ……」


 城の庭での事を思い出せば、オルガにも何となく想像はできた。


「両親からはいい加減結婚しろと何度も催促されているのだが、俺と結婚したいと思う女性はきっといない。結婚できたとしても、相手の女性は望まぬ結婚となるだろう。それはあまりにも申し訳ない」


 リベリオはそこで視線を上げ、オルガを見た。


「だが君は、こうして俺の目をまっすぐに見てくれる。俺に怯えず、普通に接してくれる」


 彼にとってはオルガのような女性は貴重という事なのだろう。今まで理不尽に怖がられ、辛い思いをしてきたのかもしれない。

 つまりお互いにとって都合がいいから結婚しないか、と提案してくれたわけだ。


「リベリオ様は、本当に私が結婚相手でもよろしいのですか?」

「ああ」

「それなら是非、よろしくお願いします」


 オルガが頭を下げれば、リベリオはギョッとする。


「えっ……いや、そんなあっさり決めていいのかっ……?」

「はい。私でよろしければお願いします」

「そ、そうか……。ではこちらこそ、よろしく頼む……」


 自分から提案してきたというのに、彼はオルガの返答にかなり戸惑っている様子だった。

 ともあれ、こうして二人は結婚する事になったのだ。

 後日、リベリオから正式に結婚の申し込みがされ、オルガはそれを受けた。

 更に後日、リベリオがオルガの両親に挨拶に来た。

 オルガとリベリオがソファに並んで座り、その正面にオルガの両親が座っている。


「実は最初、私はリベリオ様との結婚に反対だったのです」


 オルガの父はそう言った。


「失礼ですが、魔物専門騎士団は大変危険で、魔物とはいえ生き物の命を奪う、血生臭い仕事です。忌避の念を抱く者もおります。団長であるリベリオ様と結婚して、オルガは幸せになれるのか、辛い思いをするのではないかと不安で……」

「それは……ご両親ならば当然の反応かと」

「しかし、それを娘に言ったら怒られてしまいました。魔物専門騎士団は国民を守る大切で誇りある仕事だと……。私達がこうして日々平和な暮らしができているのも、騎士団員の皆様のお陰なのだと。命を懸け、命を守る。誰にでもできるわけではない、尊い仕事なのだと。オルガは私にそう言って聞かせました。確かに、もし魔物専門騎士団の皆様がいなければ、娘は先日のパーティーで命を落としていたかもしれません。娘を守ってくださり、心より感謝いたします。そして、これから娘をどうぞよろしくお願いいたします」


 長々と語る父をオルガは少し冷めた目で見た。


「お父様はデリカシーがないですよね」

「えっ!?」


 娘の言葉に父はショックを受け青ざめる。

 確かにオルガは父に言った。父にまで魔物専門騎士団の事をよくない感じに思われたくなかったから。

 それをリベリオに伝えるのは構わないけれど、言った本人がいる前でペラペラ話すのはどうかと思う。そういうのはリベリオと二人っきりになった時にでも、「実は娘がこんな風に言ってましたよ……」とオルガに内緒で伝える方がいいと思う。

 オルガは気にしないけれど、もし内気で恥ずかしがり屋な年頃の娘だったら絶対に嫌がっていただろう。

 母が父を窘める。


「そうよ、あなた。そういうのはオルガのいないところで言うものよ。オルガが恥ずかしい思いをして気まずい空気になったらどうするの」

「いやしかし、オルガは全く恥じらっている様子ではないのだが……。寧ろリベリオ様の方が恥ずかしさで居たたまれなくなっているようだが……」


 父の言う通り、リベリオは顔を真っ赤にして固まっていた。

 すかさず母が父の肩を叩く。


「もうっ、だからあなた、そういう事を言ってはダメよ……! 申し訳ありません、リベリオ様!」

「い、いいえ……お気になさらず……」


 リベリオは空気を変えるように咳払いし、改めて両親へとまっすぐに顔を向ける。


「お二人が心配なさっている通り、魔物専門騎士団という仕事は危険がつきものだ。けれど、俺はオルガ嬢を悲しませるような事にならないよう精一杯努めさせていただく。彼女を幸せにしたいと、心から思っている。だからどうか、こちらこそよろしくお願いいたします」


 リベリオは両親に向かって頭を下げた。

 そんな事がありつつ、その後オルガはリベリオと結婚した。







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