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前世殺し屋令嬢が今世では魔物を殺しまくっていたら魔物専門騎士団長に見初められました  作者: よしゆき


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2/16






 それから一月以上過ぎた頃。オルガは王城で開かれるパーティーに参加する事になった。そのパーティーは広い庭で昼間に催された。

 ドレスに着替え、馬車で会場である城へ向かう。

 ドレスは動きにくいのが難点だが、武器を隠しやすいという利点もある。オルガは当然のようにドレスの中に剣を隠していた。

 別に使うつもりはない。ただ武器を持っていないと落ち着かないのだ。特に人が多く集まる場所では。

 これは前世からの癖だ。前世でも常にナイフや銃を持ち歩き、寝ている時も手放さなかった。

 城の警備は厳しいが、淑女のスカートの中をチェックされる事はない。簡単に持ち込む事ができた。使わないのだから、バレる事もない。

 参加者が続々とやって来て、パーティーは賑やかにはじまった。

 美味しい紅茶に、可愛らしいお茶菓子の数々。天気も良く、緑と花に囲まれた和やかな催しは、突如現れた魔物によって阿鼻叫喚に包まれる事となった。

 小型の魔物が広大な庭のあちこちから姿を現す。パーティーの参加者は悲鳴を上げ逃げ惑う。

 すぐに魔物専門騎士団員達が魔物の討伐をはじめた。そこには、オルガが以前出会った彼もいた。

 後から調べた情報によると、彼は魔物専門騎士団の団長だった。名前はリベリオ・アドルナート。

 団長である彼は部下に指示を出し、そして誰よりも多く魔物を屠っていく。

 オルガの視線は自然と彼を追っていた。

 リベリオは的確に魔物の首を切り落とす。血が噴き出すが、返り血を浴びる事など意にも介さず次々に魔物の首を落としていく。

 そうするのは、一撃で魔物を仕留める為だろう。時間をかけず確実に魔物を殺す方法を彼は選んでいるのだ。

 少しずつ城の中へ避難しているが、まだ多くの人が魔物の脅威に晒されている。リベリオはそんな彼らを守る為に、血で汚れるのも厭わずに剣を振るっている。

 なのに、その守られている彼らは、そんなリベリオに対し恐れ戦いていた。まるでリベリオこそが自分達を脅かす化け物であるかのように、怯えの滲む視線を彼に向けるのだ。


「あれが魔専騎士団の団長よ。見て、恐ろしい顔をしているわ」

「ああして躊躇いもなく魔物を倒していく姿を見ていると、同じ人間とは思えないわね……」

「ええ……。正直、ゾッとするわ……」

「いくら魔物とはいえ、首を切り落とすなんて……残酷だわ。ひょっとして楽しんでいるのかしら」

「嫌だ、やめてよ。怖い事言わないで」

「でも、血を見たいから首を切り落としているんじゃない? ほら、また……」


 近くでそんなヒソヒソ話が聞こえてきた。

 リベリオや騎士団員達は仕事を全うしているだけだ。感謝されたいと思ってやっているわけではないだろうが、けれどこんな言われようは理不尽すぎる。少なくとも、心のない冷酷で残虐な人間のように言われる謂れはないはずだ。

 オルガには無関係の事だが、何だかもやもやした。

 そんな時、こちらに近づく魔物の姿が見えた。すぐにそれに気付き、リベリオが駆けてくる。

 彼は間に合うだろう。誰かを傷つける前に、リベリオは魔物の首を落とす。

 脳ではそう判断できていたのだが、オルガの体は危険を排除しようと勝手に動いた。スカートの中から剣を素早く抜き取り、それで魔物の首を切り落としていた。

 血が噴き出す。オルガの顔に、ドレスに、大量の血が降り注ぐ。

 悲鳴が上がり、オルガの周りにいた者達が逃げていった。

 血に汚れたドレスを見下ろし、オルガはやってしまったと落ち込んだ。今日の為に仕立てられたドレスを血まみれにしてしまった。

 オルガはドレスに興味はないが、決して安くはない、寧ろ高級なドレスを少し着ただけで汚してしまった事に罪悪感を覚えた。買ってくれた両親にも仕立ててくれた仕立て屋にも申し訳ない。

 冷静に物事を考えられる状態だったら、絶対に首を切り落としてはいなかった。何体もの魔物の首を切り落とすリベリオをずっと見ていたから、うっかりそれにつられてしまった。


「大丈夫ですか……!?」


 自分の迂闊さを反省していると、傍にきたリベリオが焦った様子で声をかけてきた。

 振り返ると、彼と目が合う。リベリオはすぐにオルガに気づいた。


「っ……君は、あの時の……?」

「お久しぶりです、リベリオ様」


 オルガは頭を下げて挨拶した。

 頭も体も血で汚れたオルガを見下ろし、リベリオは申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。


「すまない……。こちらの不手際で、君に……」


 オルガはそれを遮り否定する。


「いいえ、違います。今のは私が悪いのです。私が手を出さずとも、リベリオ様はあの魔物を倒す事ができました。それなのに、私が勝手にでしゃばってしまったのです。申し訳ございません」

「いや、君が謝る必要は……」


 リベリオは言葉を重ねようとしたが、新たに現れた魔物に気付きそちらに意識を向ける。


「私の事はお気になさらず、行ってくださいリベリオ様。私ももう城内へ避難しますので」

「ああ、すまない」


 リベリオは魔物のもとへ駆け出した。

 気づけば既に殆どの避難が済んでいた。剣をスカートの中に戻し、オルガも城内へと移動した。

 避難した人々は城の中にあるホールへと集まっているようだ。しかし血まみれのオルガはそちらへは行けない。こんな姿で行けば、彼らの不安を煽りパニックになってしまうかもしれない。

 いつまでもこの格好のままではいられない。城内を歩き回り、オルガは見つけたメイドに声をかけた。

 メイドは血まみれのオルガを見て一瞬ギョッとした様子だったが、さすが城で働いているだけあってしっかりと教育されているのか悲鳴を上げたりはしなかった。

 彼女にこれは返り血だと説明し、予備のメイド服があれば貸してほしいと頼んだ。後はお湯とタオルも用意してほしいと。

 オルガは客室に案内された。メイドはすぐに頼んだものを持ってきてくれた。

 オルガはドレスを脱ぎ、お湯で濡らしたタオルで顔と髪についた血を拭う。纏めていた髪をほどき、鏡を見ながら丁寧に血を落としていった。

 メイド服に着替え、すっかり血を吸い込んでしまったドレスを手に取る。

 もったいないが、これは処分しなくては。さすがにここまで汚れてしまってはどうしようもない。それに、こんなドレスを持って帰ったら両親が卒倒するかもしれない。どうしてこんなに汚れたのか、問い質されても困る。

 メイドに感謝を伝え、彼女に焼却炉の場所を聞き出す。

 オルガは再び外へ出て、焼却炉に血まみれのドレスを突っ込んだ。

 外には小型の魔物の死体があちこちに転がっている。数えれば相当な数になるだろう。

 背後から足音が聞こえてきた。オルガは振り返る。


「君、一体そこで何を……」


 メイド服で髪も下ろしているので一瞬わからなかったのだろう。だがすぐに気付き、彼はオルガの姿に戸惑っている。


「君は……そうか、着替えたのか」

「はい。さすがにあのままではいられませんので」

「ここで何をしていたのか聞いても……?」

「ドレスを処分していました」


 オルガの言葉にハッとして、リベリオは焼却炉を見る。


「あの状態のドレスを持ち帰るわけにはいかなかったので」

「そうか……そうだな……。申し訳ない。ドレスは弁償させてほしい」

「いいえ。先程も言いましたが、悪いのは私です。なのでお気になさらないでください」

「しかし……」

「リベリオ様のお仕事の邪魔をしてしまい、私の方こそ申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げる。


「というか、今も邪魔をしてしまっていますよね。すみません、すぐに城内に戻りますので」

「ああ、いや……魔物は恐らく全て倒した。今は確認のために見回っている最中だ。だから、焦らなくてもいい」

「そうだったのですか」


 オルガは尊敬の念を込め、リベリオを見つめた。


「お疲れ様でした、リベリオ様。あんなに多くの魔物をこんなに短い時間で倒せたのは、リベリオ様の活躍のお陰ですね」

「そんな事はない……。俺はただ、魔物を倒す事しかできないだけで……」


 リベリオは謙遜するが、彼がいなければこんなにも早く事態は終息しなかっただろう。誇るべき活躍ぶりだ。

 リベリオは落ち着かない様子だ。褒められ慣れていないのかもしれない。

 囁かれていた彼へのよくない噂を思い出す。人を助ける仕事をしているのに、いつも助けた相手にあんな怯えた目を向けられているのだろうか。感謝すらされず、ヒソヒソと悪意の籠った陰口を叩かれているのだろうか。


「いいえ。そんな事はあります」

「え……?」

「リベリオ様と騎士団員の皆様のお陰で、誰一人怪我をする事もなく無事でいられました。それはとても素晴らしい事です。リベリオ様と騎士団員の皆様は間違いなく沢山の人の命を救ったのです。誰が何と言おうと、それはとても立派な事だと私は思います」


 彼の目をまっすぐに見つめ、伝えた。

 すると、リベリオの頬がじんわりと赤く染まっていく。彼の視線がうろうろとさ迷う。

 どうやら照れているようだ。


「その……ありがとう…………」


 リベリオははにかみながら小さな声で言った。

 少し前まで魔物の首を切り落としていた時とはまるで雰囲気が違う。

 この恥じらう姿を見れば、先程陰口を叩いていた令嬢達も彼への印象がガラリと変わるのではないだろうか。

 そんな事を考えながらじっと見つめていると、リベリオは恥ずかしさを誤魔化すように大きく咳払いをした。


「……ところで、ずっと気になっていたのだが、俺は君に名乗っただろうか?」

「いいえ。以前出会った後、偶然魔物専門騎士団について色々と聞く機会がありまして。それでリベリオ様の事も知りました」


 それは嘘で、自分で調べたのだが。自分と関わりを持った相手の事は、有害であれ無害であれ調べずにはいられないのだ。これもまた前世で染み付いた癖だ。


「申し訳ありません、こちらは名乗りもせずに。改めまして、私はオルガ・セヴェリーニと申します」


 オルガは貴族の令嬢として挨拶する。


「ならこちらも。リベリオ・アドルナートだ。よろしく頼む」


 そう言って、彼は小さく笑みを浮かべた。


「では、俺はそろそろ……」

「お待ちください、リベリオ様。実はお聞きしたい事がありまして」


 オルガは立ち去ろうとする彼を引き止めた。リベリオはすぐに足を止めてくれる。


「聞きたい事? 何だろうか?」

「先程の事で既におわかりかと思いますが、私、パーティーに武器を持ち込んでいたのです。もちろん、悪事に使うつもりではなくて、護身用としてなのですが。この事で、私は咎められる事になるでしょうか? これは私が勝手にした事で、両親は無関係なのです。だからもし罪に問われるとしたら、私だけに処分を下して頂きたいのですが」


 使わなければバレる事はないと持ち込んだが、人前で堂々と使ってしまったのだ。問題になってもおかしくない。


「確かに無断で持ち込んだのはよくないが、オルガ嬢は魔物を倒す為に剣を振るっただけだ。人を傷つけたわけではない。寧ろ守ったと言えるだろう。ならば、俺は君が武器を所持していた事を報告するつもりはない。招待客の何人かは見ていただろうが、あの混乱した状況でその事を咎める者もいないように思う。もし誰かが君の武器の所持について公言する事があれば、俺が適当に誤魔化しておこう」


 彼はそう言ってくれた。やはり彼は、周りが思うような冷酷で残虐な人ではない。

 オルガは深い感謝を告げ、彼と別れた。

 その後パーティーの参加者は事情聴取を受ける事になった。魔物が城の敷地内に入り込んだのは事故ではなく、人為的なものなのだ。そうでなければあり得ない。

 待ち時間の長い事情聴取を終えて城から出る許可を得て、漸くオルガは屋敷に帰る事ができた。

 出迎えた両親はオルガの姿を見て第一声、こう言った。


「オルガ、その格好はどうしたの?」


 両親は面食らった様子だ。

 ドレス姿でパーティーに向かった娘がメイド服姿で帰ってくればそうなるだろう。


「実はパーティー会場に魔物が現れまして。避難の最中にスカートを引っ掛けて、そのまま腰の辺りまでビリビリに破いて着れなくしてしまいました。申し訳ありません」


 魔物が現れたという衝撃に、両親はオルガの嘘の説明をあまり気に留めなかった。


「何だと!? 魔物が……!?」

「オルガ、大丈夫だったの!? 怪我は!?」

「騎士団の方々の迅速な対応のお陰で無傷です」

「ああ、よかった……!」


 両親にぎゅうっと抱き締められる。

 これでもう、ドレスの事など何も訊かれる事はないだろう。

 それから数日後。

 城の敷地内に魔物が現れたのは国の転覆を目論む者達の犯行だった。あわよくば王族の命を奪えれば。それが不可能でもパーティーの参加者に危害を加える事ができれば国の信用は失われる。それが目的だった。

 城の庭には街の外へと通じる地下通路がある。超音波の届かない地下を通って魔物を城の庭に解き放ったのだ。

 事前に街の外側の出口から、犯人達が捕まえられる程度の比較的弱い小型の魔物を大量に押し込めた。そしてパーティー当日、魔物避けの超音波を発する小型の機械を使って魔物達を誘導した。

 そこまで詳しくは書いてなかったが、オルガは新聞の記事を読んで事件の大体のあらましと、犯人は全て捕らえられたという事を知った。







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