57話 「贖罪の始まり」
「ね。『大蛇』を造った『鳥槻サン』……? ボクも、『神様』を造ってみたいんだけどさ、実際に『大蛇』を造って、見られた問題点を教えてよ」
愉悦は、目をギラギラさせながら鳥槻へと詰め寄る。
「あっ、いや、その」
「大丈夫。絶対キミに危害は加えないよ。キミの能力はぶっちゃけズル過ぎててさ、素材として扱うのもなんかなぁ……って。それに、結局『大蛇』は消されちゃったわけだし。ホント、普通に知りたいだけだから、教えてよ」
鳥槻は、声を震わせながら言葉を紡ぐ。
「『大蛇』は……私の能力で造った存在でして……」
「あ、そのへんの情報は知ってるから割愛して」
「えっ…………はい……えっと、何から話せば……」
愉悦は天井を見上げ、軽くため息をついた。
「指示しないと出来ないタイプなの〜? じゃあ……なんで『完全不滅』にしなかったの?」
「……大蛇には、『無限の再生能力』は与えていました……でも……『信者』の記憶を上塗りして消滅させられるなんて…………考えたこともありませんでした……」
「『蓮界 悠真』の件ね? まぁ、その弱点は考慮してなかったわけか。じゃあ、なんで『命じた対象を即死させる』みたいな能力を与えなかったの?」
鳥槻は、過去の記憶を思い出しながら、答える。
「『与えなかった』のではなく、『与えられません』でした」
「へ〜……なんで?」
「『神』が定めた、能力の制限だと思います。与えた強力な能力は、全て制限の限界ギリギリを攻めて与えた能力です」
愉悦は、顎先に手を当てた。
(やっぱ、『能力』の範疇じゃ『神』のルールを超えられないのか……『神域能力』であっても、あくまで一部の制約を取り払えるだけ……なるほど……)
愉悦は、鳥槻に背を向け、扉へと歩き出す。
「……ありがとう、なかなか良い情報聞けたよ。じゃあキミはもうムショに戻って……」
「あの、一つだけ良いですか……?」
鳥槻の言葉に、愉悦は足を止め、振り返る。
「何?」
鳥槻は、静かに唾を飲み込んだ。
そして、恐る恐る口を開く。
「貴方は、何故『神』を造ろうとして──」
「好奇心。そういうお年頃ってだけ」
「えっ……」
「……あぁ、それと……」
呆然とする鳥槻に、愉悦は愉しげに続けた。
『全人類に、もう一つ能力を与えてみたい』
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部屋から去った愉悦は、ポケットの中の『三人』を指先でこねこねと揉みながら、廊下を歩いていく。
(『被験体No.108』に必要な能力は、『あと一つ』……何にしようかな……)
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『上層部が倒れた』という衝撃のニュースは、各地にある鎮静会の支部へと直ぐに伝わった。
しかし、いずれの支部も大きな反応を示すわけではなかった。
『上層部』の所業はもはや知れ渡っており、彼女らを恨む人間のほうが、遥かに多かったからだ。
しかし、その知らせを聞いて、一人の男は動き出していた。
黒いスーツに長い刀を一本腰に据え、死んだ魚のような目をしている。
「大量虐殺犯……『嵐山 桜』…………」
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鎮静会支部のソファで眠ってしまった俺たちは、次の日の朝から『鎮静会』へのイメージをひっくり返されることになった。
「俺は朝が弱いんだ……起こさないでくれ……」
「起きろ皆既! ほら、悠真と鋼が見てるぞ!」
「うぁぁ………」
頑なに起きようとしない皆既さんを、豪千さんがめちゃくちゃに揺すって起こそうとしている。
こういうところを見ると、やはり千夜の兄なんだなと思う。所々、雰囲気が似ている。
愉悦くんから貰った薬は相当効果があり、俺も皆既さんから少し貰って塗ったが、痛みが一気にスッと消えた。
それに、治る兆しすら見えなかった『残響』が、前のように『波』を感じられるようになっている。
なんか変なものでも入ってるんじゃないかこれ……
それでも、元に戻ってくれて、本当に良かった。
「もう……そんなに照れて……初心だね……」
「ちょっと……あの……!」
甘夏さんは鋼のことが気に入ったらしく、ずっとからかっている。
確かにゆでダコみたいに真っ赤なので、面白いのはよく分かる。『波』も凄い乱れてるし。
俺に助けを求めるような視線を送ってきてるけど、知らん。
イチャイチャしてなさい。
その時、皆既さんのスマホに着信があった。
皆既さんは直ぐに飛び起きると、スマホを手に取る。
「はいもしもし……………………分かりました。直ぐに行きます」
電話をしながらもどんどん目が据わっていく皆既さんを見て、やはり政府の仕事人だということを実感した。
電話が終わると、豪千さんが話しかける。
「どうした?」
「街で強力な能力を持った男性が暴動を起こしているらしい。行くぞ」
「おうよ。悠真と鋼も、直ぐに準備して出るぞ。桜と甘夏はここで待機だ」
まさか、もう仕事……!?
鎮静会に仮に入っただけの状態で……
思わず不安を顔に出してしまった俺に、皆既さんは優しい目で語りかける。
「大丈夫。まずは俺たちの仕事がどんな感じか、見てもらえれば良い。実力行使するケースは珍しいから、良い勉強になる」
「分かりました……」
直ぐに借りたスーツに着替え、支部の外へと足を踏み出す。
『鎮静会』としての新しい日々が、始まろうとしていた。
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四人が出ていった後の支部には、桜と甘夏の二人だけが残されていた。
(どうしよう……何を話しかけたらいいかな……桜ちゃん今、何考えてるんだろう……)
どこかオドオドとしながら、桜を見つめる甘夏を見て、桜は微笑んだ。
「そんな別に変に気を使わなくても……あの時は助けてくれて、ありがとうございました」
「えっ……いや、そんなのいいのよ。前から私たちも上層部には鬱憤が溜まってたし。……むしろ、直ぐに助けてあげられなくて、ごめんね」
「いや、そんな……私がやってきたことは、紛れもない事実なので」
「そうよね……」
また、部屋に気まずいような静かな空気が流れる。
(まずい、甘夏さんに気を使わせてしまう)
「あ、あの……」
「どうしたの?」
桜は、会話の話題を考えた末に、一つの疑問を絞り出した。
「昨日の人たちが、鎮静会の『上層部』だったんですよね……? 組織の雰囲気を見てると、あの人たちが上の立場にいることに違和感があって……」
甘夏は桜の疑問を聞いて、あごに手を添える。
「確かに。……私もよくは知らないのだけど、鎮静会の最初期。全人類に能力が与えられる前から組織に所属していたらしいわ。そして、『奇跡の日』に強力な能力を与えられて、そのまま上層部へとのし上がったというのは聞いたことあるね」
「なるほど……」
「うん。最初期は能力者……いわゆる『先駆者』の存在もあまり認知されてはいなかったから。転換期は……『空虐』の顕現かしらね」
「くうぎゃく……?」
頭の上に「はてな」が浮かんでいる桜に、甘夏が補足する。
「『空虐』っていうのは、史上最大の能力犯罪者とか呼ばれてる、当時の日本を征服しかけた『先駆者』ね。かなり有名なんだけど……」
「うちの村、電波ほぼ無かったので……」
「……なるほどね」
桜は真剣な表情で続ける。
「……『空虐』についてもう少し知りたいです。世間知らずなので」
甘夏は、「話題ができて嬉しい」とでも言わんばかりにぱっと明るくなると、意気揚々と語り出す。
「じゃあ、結構詳しく話すんだけど、『空虐』っていうのは〈神の失敗作〉の二つ名が付けられるほどに悪辣な先駆者で、『空を手足のように操る』能力でのべ8万人以上を虐殺し、当時政府に対して『日本の国土を半分寄越せ』って要求したの」
「えっ……」
「そう。その圧倒的過ぎる力は、やがて空虐を『現人神』として信仰する者まで現れる程で、その影響力は、一個人に対する『核』の使用すら視野に入るほどだったわ」
「……核、使ったんですか」
「……いいえ。使われることは無かった」
「じゃあ、どうやって──」
ピンポーン…………
支部のチャイムが、無機質な音を立て鳴らされた。
(来客……? 聞いてないけど……)
甘夏は立ち上がり、モニターを確認する。
そして、目を見開いて硬直した。
「『山本』……!!!」
甘夏の異様な雰囲気に、桜も警戒する。
「どうしたんですか……?」
ピンポーン……
また、無機質なチャイムが響く。
そして、「ゴンゴンゴンゴン……」と扉を叩く音が聞こえてくる。
甘夏は、桜へと振り返り、かつてない剣幕で詰め寄った。
「いい? 廊下を進んで右に曲がったら、裏口がある。そこから、できるだけ遠くに逃げなさい」
「えっ……ちょっ……誰が来たんですか……!?」
甘夏は、焦りを必死に押し殺しながら、桜を説得するように告げる。
「当時弱冠十四歳で、能力すら持たずに『空虐』を討伐した男……『鎮静会最強の断罪人』 『山本 五郎』……!!」
「っ……!!?」
「貴女が戦って、勝てる相手じゃない……いいから、逃げなさい!!」
「っ…………いいえ……! 逃げません……!」
「何を言って……!!」
次に続く桜の言葉には、確かな覚悟と圧が込められていた。
「私はもう、逃げちゃいけないんです……!!」
「っ……」
甘夏は、桜の凄まじい剣幕に、もはや押されていた。
確かに、桜自身、今の事態に思うところがあったのだろう。
いや、それでも、山本だけは話が違う……!!
「悠真くんの手で、死ぬって約束したんじゃないの……!?」
「っ……悠真を逃げ道にはしたくない……!」
戸を叩く音も、チャイムの音も、もはや鳴っていない。
桜の決断を待っているかのように。
その時、甘夏は、皆既の言葉を思い出した。
『最強とか言われてる山本さんは、俺らが思ってるより全然俗っぽかったし、喧嘩売ったらラーメン奢らさせられたよ』
(……ちゃんと説明すれば、引いてくれるかもしれない……)
甘夏は、覚悟を決めた。
玄関まで向かう二人の足取りは重たく、一言の会話もなかった。
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玄関扉の前に立ち、震える手でドアノブを掴む。
そして、目を瞑って一気に開いた。
目の前には、『最強の男』がいた。
山本は怯えている甘夏を見ると、優しく目を細めた。
「アンタが甘夏さんか。皆既から話は聞いてる、世話になってるってよ」
「えっ……」
予想外の反応を見せた山本に、甘夏は顔を上げる。
しかし、山本の目には、光が全くなかった。
「っ……!!」
山本は、甘夏の背後に立つ桜へと目線を向ける。
「お前が『嵐山 桜』か……」
山本の刀を握る手に、血管が浮かび上がっていく。
そして、冷淡な声で告げた。
「『嵐山 桜』。首を差し出せ」
五章『散った桜の罪と罰・罪過の血戦』開幕。




