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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
五章 「散った桜の罪と罰」
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55話 「むこう側」


「いいよ、へし折ってあげる。……でも……」


 周囲の全てが静止し、1秒間の静寂が訪れる。

 亜深は空間の裂け目に拳を突っ込み、桜を殴りつけた。



「っ……!?」


「人殺しなんだから、殺す気で来ないと。……さっきも逆刃だったでしょ」



 桜はよろけた身体を、踏み込みながら支える。

 そして、刀を静かに鞘へ納めていく。


「……?」


 桜の握り締めた拳が脈動するように、血管が浮き上がる。

 そして、冷めた目で笑ってみせた。


「……確かに。あんたに刀は勿体ない」


「は?」


 桜の拳が、亜深へと向けられる。


「これで十分だっつってんだよ三下」


「……プッ……アハハハハハッ!! 桜ちゃんやっぱ面白いね! いいじゃん。お姉さんもそれに乗っかって、拳だけで戦おっかな?」


「…………悠真、刀、預かっててくれる?」


「! ……あぁ」


 桜は腰から刀を抜き、悠真へと手渡す。

 悠真は受け取った刀を、奪われないように両手で硬く握りしめた。



「……随分余裕だね、桜ちゃん」


 亜深の声に、桜は向き直る。


「隙を晒してあげたのに、殴らなくてよかったの?」



 桜と亜深が、互いに構える。

 先に踏み込んだのは、桜だった。


 土煙すら遅れるほどの速度で、桜は亜深へと殴りかかる。


(速っ。でも……)


 桜は、殴りかかった体勢のまま、空中で硬直した。

 亜深は停止した桜へと、拳を叩き込む。



「ッ……!!」


 時が動き出すと同時に、桜は吹き飛んでいった。


「止めちゃえば意味なくね?」



 桜は殴り飛ばされながらも、空中で身をひねり、衝撃をいなして着地する。

 しかし、さらに桜の目の前に、空間の裂け目が現れた。


「!」


 裂け目から繰り出された拳は正確に桜の眼球を捉え、目潰しを仕掛ける。

 だが、亜深の手は桜の寸前で止められた。


「なっ……」


 桜は裂け目から飛び出した腕を掴み、凄まじい力で握り締めていく。


「いってぇ……!!」


 亜深は痛みに顔を歪めるも、直ぐに時間を停止させ、もう片方の拳を桜に打ち込んだ。


 打ち込まれた拳は桜の顔面を殴り抜けると、さらに裂け目へと飲み込まれ、鳩尾《みぞおち》へと接続される。



「ぐっ……!!」


 停止が解かれ、ダメージにより桜の力が緩んだ隙に、亜深は掴まれていた腕を振り払った。


「……痛いなぁ〜……折れたらどうすんの?」



(不可避の攻撃……どう対処するか……)

「フーッ………」


 桜は静かに息を吐くと、額に血管を浮き上がらせていく。

 血走って真っ赤になったその目は、亜深を捉えて逸らさない。


 そして、さらに桜は亜深へと猛攻を仕掛ける。


─────


 皆既の目は、悠真と桜の様を鮮明に映していた。


 そして、走馬灯が走るかのように、「かつての記憶」が過った。



 千夜が生まれる前、俺たちの村には『先駆者』がいた。

 豪華な着物を着た、中年ほどの坊主。


 そいつは突然やってきては、『能力』で村の人達を殺害し、服従するよう命令してきた。

 そいつの横暴は酷いもので、気に入らないやつがいれば躊躇《ちゅうちょ》なく殺し、豪勢な飯や女を差し出させ、酒池肉林に浸る生臭坊主だった。


 そいつが来てから、二年ほどが経った。

 もはやそいつの存在は慣れたもので、「逆らわなければ手出しされない」と言って崇める者たちまで出てきた。


 癌は、村の人達を恐怖で支配していた。


 一人の旅人が来るまでは。



 その人は銀髪に緑色の着物を着ている青年だった。

 村長であるうちの親父に挨拶に来ると同時にその人はこう言った。


 『俺がなんとかします』と。


 子供ながらに、ただならない気配を感じたのを、今でも鮮明に覚えている。

 その人は、俺の姿を見ると、優しい口調で語りかけてきた。


「ついておいで。君は見ておくべきだ」


 親父は驚いて止めようとしたが、その人は


「大丈夫、傷一つ付けさせない。そう〈視え〉てますから」


 と言って、譲らなかった。

 親父も付いていくと言っていたが、その人はそれを拒み、あくまで俺だけが付いてくることを望んでいた。


「俺、この人について行くよ」


 俺のこの言葉が、全てを変えたようにすら感じる。

 その人はにっこりと笑うと、俺を後に付けさせ、あの坊主の元へと向かっていった。



 あの化物ようだった坊主が、傷一つ付けられずに旅人に完敗した。

 あの時の坊主の信じられないものを見るような目を、今でも思い出せる。



 その人は坊主にとどめを刺すと、俺の方へと振り返った。


「『強く』なりたいかい?」



 その人は『ミライ』と名乗った。

 ミライさんは、それから少しの間、村へと滞在していた。

 そして、俺に『層合気』を教えた。


 何故、俺にこのような扱いをするのか、ミライさんに聞いてみたことがあった。

 ミライさんは、星空を眺めながら、ふっと笑った。


「いつか、とある『青年と少女』が君を訪ねる。その時に、力になってほしいんだよね」


 最初は、何を言ってるのか分からなかった。

 いや、最近まで、ミライさんが言っていた『青年と少女』が、誰なのか分からなかった。


 愉悦が撮った、『千秋楽山』での、『赫阿修羅』との決戦。

 その映像に、『ミライさん』が映っていた。


 あの時とは違って、ひどくやつれているようだったが、間違いない。間違えるはずがない。

 アレを観たときから薄々勘づいてはいたが、ようやく今、確信に変わった。


 『この子たちだ』



 『未来』が視えるあの人に託された、使命。

 それが、『蓮界 悠真』と『嵐山 桜』だ。


─────


「っ……!!」


 桜の拳は、打ち込まれる毎に鋭さを増していた。

 桜が追い詰める度に、時間停止で距離を取られる。その繰り返し。


 亜深の目には、先ほどまでは無かった『焦り』の片鱗が見え始めていた。


(そろそろ、決めにいかないとマズそうかも?)



 停止された時間の中で、亜深の連撃が桜を襲う。



 しかし、桜は踏みとどまり、亜深への攻撃の手を緩めなかった。


「っ……!?」


 血管の大きく浮き出た桜の拳が、亜深の腹部へと繰り出される。


「届かないよ……?」


 空間の裂け目が桜の拳を飲み込む。

 接続された先は、桜の腹部だった。


 桜自身の拳が、直撃する。


「ほらね、届かな───」


 しかし、次の瞬間、亜深の顔面に鋭い衝撃が走った。


「がっは……!?」

(な、え、殴られ……)


 亜深はよろけながらも咄嗟に時間を停止させ、桜から距離をとる。


(殴られた衝撃をものともせずに……!? いや、違う……もしかしてこれ……いやいや、そんなわけ……)


 その時、静止している桜の目と、目が合った。

 亜深に凍えるような悪寒が走る。


(っ……!!)


 時間停止が解けると、桜は即座に亜深を捉え、苛烈な猛攻を繰り出す。

 亜深はそれを空間接続で返しながら、徐々に戦慄していた。


(コイツ……痛覚通ってないわけ……!?)


 自身の拳を何度も返された桜は、もはやボロボロの状態。

 それでもなお、全く躊躇うことなく亜深に拳を打ち込み続ける。


 亜深は時間を止め、桜を殴りつける。

 しかし、停止が解除されてなお、桜は体勢を崩すことすら無く攻撃を耐え、亜深を追い続ける。



 桜は額に血管が浮き上がる程に血流を回し続けている。

 そして脳の奥に現れたひんやりとした感覚は、まるで時間が遅くなったような錯覚すら与えていた。



(やっぱり、勘違いじゃない……!! コイツ、『時間停止のタイミング』だけじゃなく、『停止した中でどこを攻撃するか』まで読んで事前に防いでる……!!)


 亜深は、はっとしたように目を見開いた。



 ───コイツ、『むこう側』に片足突っ込みかけてない……?



 その時、亜深が取り出したのは、『ナイフ』。

 時間が停止した中で、動かない相手の脳天を一刺しすれば、確実に対象を殺せる。


 亜深がナイフを振りかぶり、それと同時に時間が停止する。


(死ね!!!)


 しかし、ナイフに肉を裂く手応えは無かった。


(え、あれ……あいつ、どこ行っ───)



 時間停止が解除される。

 それと同時に、桜の拳が亜深の顎先をカチ上げた。


「がぁ゙っ……!!!」

(コイツ、時間停止の直前にナイフの軌道読んで姿勢落としてたの……!? 速すぎて見えなかっ)


 カチ上げられガラ空きになった亜深の腹に、桜は追撃のストレートを叩き込む。


「ぁ゙ぇ゙っ……!!」


 亜深の体内に、肋骨が折れる音が響く。

 凄まじい速度で木に叩きつけられ、亜深は地面へと転げ落ちる。


(まずい……どうにかしな)

「ぁ゙っがぁ゙っ……!!」


 地面へと落ちる亜深の身体を、桜は思い切り蹴り上げた。

 空中で回転しながら血を吐き散らす亜深に、桜はさらに踵《かかと》落としを放つ。


「ぁ゙ぐぅ゙っ……」


 亜深は地面を割るほどの勢いで叩き落とされ、白目を剥いて倒れ込む。


「ぅ゙……この゙……!!」


 時間を停止し、ナイフを空間の裂け目へと突き立てる。

 裂け目は桜の後頭部へと接続され、不可避の刃が頭蓋を引き裂く。 


 ──はずだった。


 亜深は、信じられないものを見た。

 停止しているはずの桜の手は、突き立てられたナイフから急所を守り、防いでいた。


(……ありえない……これすら先読みしてたというの……!?)



 時間が動き出すと、桜は手のひらに突き刺さったナイフを引き抜き、捨てた。

 桜は土煙一つ立てない静かな足取りで、亜深へと近寄っていく。


「ひっ……来るな人殺し……!! お前は罪から逃げているだけのクズだからな!?」


 桜は血のように紅い目で亜深を見下ろすと、大きく拳を振り上げ、血液を溜めていく。


(時間停止の猶予を与えてでもいるの……!? でも、だからといってもう攻撃は通用しない、どうする……どうする……!?)


 桜の拳が振り下ろされる瞬間、亜深は時間を止めた。

 今の状況から、逃れるための策を模索するため。

 恐怖から逃げるため。


 しかし、それは亜深の人生で最も長い1秒間になった。


「ひっ……」


 桜の『あの目』と、真正面から目を合わせてしまった。

 亜深は蛇に睨まれた蛙のように、硬直してしまう。


「ぁ……やめっ──」


 時間停止が解除される。

 桜の拳は亜深の脳髄を的確に振動させ、意識を深い闇へと叩き落とした。

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― 新着の感想 ―
泥臭い殴り合い!ふっふぅー!楽しいー!( ゜∀゜)o彡° 桜、超強い!! 時間停止の先読みもできちゃうの!?いけいけゴーゴー!! そして、殺しにかかってた亜深を殺さずに倒した!強い!! そして、…
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