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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
五章 「散った桜の罪と罰」
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54話 「光に当てられ輝く鋼玉」


 豪千が空間を掴み、捻じる。

 光の槍は歪みにかき消され、光塵《こうじん》となり消えていく。


 互いに実力者、故に一歩も引かぬ、膠着《こうちゃく》した攻防戦。


(ですが……豪千さんは私に攻撃を当てられないでしょう……優先して狙うは豪千さん。その後に鋼(青年)とファザー(おじいちゃん)ですかね……)


 番花の攻撃は、留まることを知らず、打ち出され続ける。


(このままじゃあ……ジリ貧だな……)


 豪千は空間のうねりを番花へとぶつけるが、番花はそれを光の速さで回避し、槍を放ち続ける。

 豪千の額に、一筋の汗がツーっと垂れた。



(この人だけじゃ、いずれ押し切られる……僕が動かないといけないだろ……!)


 豪千の背に護られる鋼。

 その手は、ぶるぶると震えていた。

 手汗が籠もり、じっとりと湿っていく。



 悠真のことが、もはや理解できなかった。


 子供の頃に一度会っただけの僕を、あれだけ身を挺して救おうとした。

 人を沢山殺した桜さんの罪を背負って、命まで背負《しょ》いこもうとする。


 強い。強すぎる。

 あまりにも眩しい光だ。


 今や僕は、それに当てられて付いてきただけだ。


 救える側と救えない側に差があるように、どうしたって『救おうとする度合い』の壁がある。

 悠真のそれは、僕から見ればもはや狂気に近い。


 これから先、僕は、君と肩を並べて進んでいける自信が無いよ。


 でも、だとしても──



(僕は悠真《あいつ》の憧れ(ヒーロー)だったんだ……!!)



 鋼はレールガンの封を解き、番花へと照準を合わせる。

 番花は鋼の突然の行動に驚き、注視する。


(彼の持っている武器は……レールガンですか)


 豪千は鋼のレールガンの軌道を予測し、障害となる光の槍を破壊していく。


(今までずっと充電しておいた……3発は撃てる……!!)


 鋼のレールガンから耳をつんざくような破裂音が鳴り響く。

 しかし、その弾が番花に届くことは無かった。


(レールガンの速度はあくまで光の15万分の1。当たるわけが無いんですよね)


「チッ……!!」


 豪千は大きく舌打ちし、絶え間ない攻撃を凌いでいる。


「鋼! 今のは俺のサポートが甘かった! 次は当てられるように調整する!」


 その焦りをはらんだ声に、鋼は小さく、そしてはっきりと答えた。


「信じて下さい」


「…………はなから信じてなきゃ背を任せねぇよ……!!」


「……ありがとうございます」


 鋼は、豪千の背から飛び出した。


「ってオイ!?」


 豪千はぎょっとして、鋼を庇おうとする。

 しかし、そこで鋼の意図に気付いた。


(まさか、自分を囮にして、攻撃を当てさせようとしてるのか……!?)



 鋼は豪千から離れ、森の方へと駆け抜けていく。

 そして、走りざまに番花に向けてレールガンを放った。


「っ……!」


 反動で吹き飛び、地面を転がる。

 直ぐに立ち上がって番花を見るも、やはり当たっていないようだった。


(レールガン……当てられれば危険ですが……それだけならば取るに足りませんね。……ですが、レールガンを放つ……充電などの類の能力でしょうか……まぁ、放っておいて良いでしょう)



 その時、鋼が番花に届くよう、大きな声で叫んだ。


「『覚醒能力』……!!」


「!」



 番花は当然、知っていた。

 覚醒能力の発動条件は、千差万別。


 突拍子もない行動が覚醒のトリガーとなり、形勢を逆転されることは、能力を用いた戦闘においてはザラにあること。


(『覚醒能力』……ですか……)


 その瞬間には、番花は既に鋼の背後へと回り込んでいた。


(馬鹿正直に宣言するとは、戦闘経験が無いのでしょうね)


 番花は鋼の首筋目掛け、光の槍を突き立てる。



 しかし、その槍が鋼に届くことはなかった。


「っ……!?」


 番花は、『黒い縄』に、身体を拘束されていた。


(これは……ファザーの『能力を封じる縄』……!? あらかじめ張り巡らせておいたというのですか……!? ならば、彼のこれは……!)



 鋼は身をもって知っていた。

 ファザーの持つ縄は、縛った相手の能力を封じる効果があると。

 気絶していたファザーに応急処置をした後、鋼は策略を伝えていた。


 『覚醒能力』の発動条件は、千差万別。

 突拍子もない行動が覚醒条件の可能性もあるため、宣言されれば警戒せざるを得ない。

 そして、光速の相手にレールガンを放つという、『力量差を測れていない』証明。


 それは、番花という強者の目を欺くのに、十分だった。


 言うなれば、『覚醒詐欺』──



「この……離せ……!」


 拘束されもがく番花へ、豪千は重厚な足取りで近付いていく。


「……寄るな……!!」


 そして、有無を言わせず、力いっぱいに殴りつけた。


「がっ……」


 番花は白目を剥いて、膝から崩れ落ちた。

 豪千は、鋼とファザーに、満面の笑みを向けた。


「助かったぜ。鋼、ファザーさん」


 ファザーは、鋼を静かに見下ろし、目を細めた。


「……彼と協力するつもりはありませんでした。ですが、今回ばかりは認めます」


 鋼は、ただぎこちない笑みを向けるだけだった。


(……悠真……無事か……)


─────────────────────


「皆既さん!!」


 亜深《あみ》の慣性を増幅した蹴りは、皆既を糸も容易《たやす》く彼方へと吹き飛ばした。

 へし折られた木々の破片が、どこまでも続いている。


「ははっ。ナイスシュート……って、拍手してくれても良いよ?」


 亜深はふらふらとした足取りで、悠真へとにじり寄っていく。


「っ……」


 睨みつける悠真に対し、亜深は舌舐めずりをして見せた。


「……『お姉さんの能力強すぎ〜』って、諦める気はないみたいだね、よかったよかった。……でも、お姉さんも大人だからね……ぁそうだ。君《きみ》と戦う時は、特別に能力使わないであげる」


「なっ……」


「お? ちょっとは『勝てるかも〜』って思ったのかな? ほら、じゃあ試してみなよ」


 亜深は大げさに両手を広げ、挑発する。

 悠真は低く構え、浅く呼吸を速めていく。


(『層合気・練武』……!)


 悠真は亜深へと渾身の右ストレートを放つ。

 亜深はそれを簡単に避けると、悠真の顔面に右回し蹴りを放つ。


「っ!」


 悠真は蹴りを半身で躱《かわ》すと、左のジャブから右回し蹴りへと繋げる。

 亜深は悠真のジャブを最小限の動きで避けると、蹴り込んだ悠真の足の踵《かかと》を掴んで軽々と流して見せた。


 悠真は蹴りを流されバランスを崩すも、直ぐに距離を取って構え直す。

 亜深は、その様子を見て、目を細めて笑った。


「遠慮してるのかな。……お姉さんのこと殴るのは気が引けるとか? 可愛いね」


「………………」


 悠真はさらに低く構え、重心を地面へと預けていく。

 そして、深く踏み込んだ。


(速い)


 悠真は亜深の顎先にアッパーを放つも、亜深はそれを防ぐ。

 しかし、防いだことにより少し崩れた重心に、悠真は足払いを放った。


「きゃっ」


 亜深がバランスを崩して倒れたところに、悠真はさらに鉄槌の追撃を加える。

 しかし、その拳は叩きつけられる寸前で止まった。


「……もう、俺の勝ちにさせて下さい」


 亜深は地面に倒れ込みながら、悠真を見上げて笑ってみせた。


「……そんなふうな情を、今までもかけてきたんだろうね」


 亜深は悠真の手へと手を伸ばす。



 そして、『周囲の時間が停止した』。



「がっ……!?」


 その瞬間、悠真を襲った激痛と脱力感。

 咄嗟に振り払おうとするも、亜深の手はしっかりと悠真を捕らえ、離さない。


(肩を外された……!? いつの間に……)


 亜深は悠真に足を絡め、逆に地面に組み伏せた。


「ぁ゙……がっ……」


 喉元を腕で圧迫され、悠真の視点がチカチカと点滅する。


「あはは、いいねその表情《かお》。お姉さんに押し倒されて、真っ赤になって……照れちゃってるのかな?」



 次の瞬間に響いた、銃声。

 放たれた弾丸は、亜深の脳天を的確に捉えていた。


「バレバレ」


 亜深は空間の裂け目を出現させ、弾丸を飲み込む。

 転移した弾丸は皆既の脳天へと直撃したが、皆既はそれを拳銃で防いだ。


「ぐっ……!」


(……そっか。慣性乗る分、距離換算で銃弾の威力は下がるのか)

「まぁでも、やっと本物の銃出したね」



「ぅぉ゙ぁ゙っ……」

(時間停止……全身を……殴………………)


 皆既は激しく吐血し、白目を剥いて崩れ落ちた。

 亜深の手には、皆既から奪った拳銃が握られていた。


「仲間の銃で死ねた方が、うれしいよね」


「っ……」


「はい。さーんにーいいーち」


 亜深が引き金を引く。

 しかし、弾が発射されることはなかった。


「……また……?」 


(…………奪われることを想定して、一発以外全て捨てておいたのか……なら、これはブラフ……)



(『層合気・風月』✕(カケル)『層合気・練武』)


 皆既の鋭い蹴りが、亜深へと風切り音と共に繰り出される。



「ぉ゙ごっ……」


 皆既は、蹴りの勢いのまま宙に投げ出され、そのまま吹き飛んでいく。

 そして、血反吐を散らしながら地面を転がっていった。


(何故……時間停止のクールタイムは5秒間のはず……まだ、経ってな……)


 亜深は、悠真の上に座りながら、意識朦朧とする皆既を見下す。


「クールタイム5秒間……だと思ったよね? 残念。それもブラフでした〜。わざとらしいカウントダウンにまんまと乗ってくれちゃってさ。心読んだから、正しい情報だと思い込んでたんでしょ? 思考をコントロールするくらい、お姉さんができないと思った? って、もう気絶してるか」


 亜深は、悠真へと向き直る。


「そうだ。序《つい》でに、最期の言葉くらいは聞いてあげるけど?」


 悠真は、亜深に目を合わせ、薄く口角を上げてみせた。


「お前……大したことないよ」


「……?」


「俺達は、もっとイカれた化物と戦ってきた、全てを犠牲にする覚悟を持った奴と戦ってきた、理屈が通じない『災害』と相まみえた事だってある……」


「自慢話?」


 悠真は、ふっと鼻で笑った。


「俺は今『波』が読めないけどさ、それでも分かるんだよ。……あんた、薄っぺら──」


「あっそう」


 亜深は拳を振り上げ、悠真の顔面へと思い切り叩き込む。



(『命日桜《オビト・ザクラ》』)


「!」


 薄紅色の刃が、亜深へと振るわれる。

 亜深は咄嗟にその場から離れ、向き直った。


「……桜ちゃん。お姉さん的には、桜ちゃんは大事な『母体』だから、あんまり傷つけたくはな──」


「来なよ。もう始まってるけど」


 冷淡に言い放つ桜に、亜深は嗤ってみせた。


「……いいよ。へし折ってあげる」

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― 新着の感想 ―
ふおおぉっ!能力の駆け引きが熱い!熱すぎる!! 鋼が活躍してる!! 悠真に負けず劣らず、君も肝据わりすぎじゃないか!? 「覚醒詐欺」、まさかそう来るとは……!流石、憧れのヒーローだ!カッコいい!! …
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