54話 「光に当てられ輝く鋼玉」
豪千が空間を掴み、捻じる。
光の槍は歪みにかき消され、光塵となり消えていく。
互いに実力者、故に一歩も引かぬ、膠着した攻防戦。
(ですが……豪千さんは私に攻撃を当てられないでしょう……優先して狙うは豪千さん。その後に鋼とファザーですかね……)
番花の攻撃は、留まることを知らず、打ち出され続ける。
(このままじゃあ……ジリ貧だな……)
豪千は空間のうねりを番花へとぶつけるが、番花はそれを光の速さで回避し、槍を放ち続ける。
豪千の額に、一筋の汗がツーっと垂れた。
(この人だけじゃ、いずれ押し切られる……僕が動かないといけないだろ……!)
豪千の背に護られる鋼。
その手は、ぶるぶると震えていた。
手汗が籠もり、じっとりと湿っていく。
悠真のことが、もはや理解できなかった。
子供の頃に一度会っただけの僕を、あれだけ身を挺して救おうとした。
人を沢山殺した桜さんの罪を背負って、命まで背負いこもうとする。
強い。強すぎる。
あまりにも眩しい光だ。
今や僕は、それに当てられて付いてきただけだ。
救える側と救えない側に差があるように、どうしたって『救おうとする度合い』の壁がある。
悠真のそれは、僕から見ればもはや狂気に近い。
これから先、僕は、君と肩を並べて進んでいける自信が無いよ。
でも、だとしても──
(僕は悠真の憧れだったんだ……!!)
鋼はレールガンの封を解き、番花へと照準を合わせる。
番花は鋼の突然の行動に驚き、注視する。
(彼の持っている武器は……レールガンですか)
豪千は鋼のレールガンの軌道を予測し、障害となる光の槍を破壊していく。
(今までずっと充電しておいた……3発は撃てる……!!)
鋼のレールガンから耳をつんざくような破裂音が鳴り響く。
しかし、その弾が番花に届くことは無かった。
(レールガンの速度はあくまで光の15万分の1。当たるわけが無いんですよね)
「チッ……!!」
豪千は大きく舌打ちし、絶え間ない攻撃を凌いでいる。
「鋼! 今のは俺のサポートが甘かった! 次は当てられるように調整する!」
その焦りをはらんだ声に、鋼は小さく、そしてはっきりと答えた。
「信じて下さい」
「…………はなから信じてなきゃ背を任せねぇよ……!!」
「……ありがとうございます」
鋼は、豪千の背から飛び出した。
「ってオイ!?」
豪千はぎょっとして、鋼を庇おうとする。
しかし、そこで鋼の意図に気付いた。
(まさか、自分を囮にして、攻撃を当てさせようとしてるのか……!?)
鋼は豪千から離れ、森の方へと駆け抜けていく。
そして、走りざまに番花に向けてレールガンを放った。
「っ……!」
反動で吹き飛び、地面を転がる。
直ぐに立ち上がって番花を見るも、やはり当たっていないようだった。
(レールガン……当てられれば危険ですが……それだけならば取るに足りませんね。……ですが、レールガンを放つ……充電などの類の能力でしょうか……まぁ、放っておいて良いでしょう)
その時、鋼が番花に届くよう、大きな声で叫んだ。
「『覚醒能力』……!!」
「!」
番花は当然、知っていた。
覚醒能力の発動条件は、千差万別。
突拍子もない行動が覚醒のトリガーとなり、形勢を逆転されることは、能力を用いた戦闘においてはザラにあること。
(『覚醒能力』……ですか……)
その瞬間には、番花は既に鋼の背後へと回り込んでいた。
(馬鹿正直に宣言するとは、戦闘経験が無いのでしょうね)
番花は鋼の首筋目掛け、光の槍を突き立てる。
しかし、その槍が鋼に届くことはなかった。
「っ……!?」
番花は、『黒い縄』に、身体を拘束されていた。
(これは……ファザーの『能力を封じる縄』……!? あらかじめ張り巡らせておいたというのですか……!? ならば、彼のこれは……!)
鋼は身をもって知っていた。
ファザーの持つ縄は、縛った相手の能力を封じる効果があると。
気絶していたファザーに応急処置をした後、鋼は策略を伝えていた。
『覚醒能力』の発動条件は、千差万別。
突拍子もない行動が覚醒条件の可能性もあるため、宣言されれば警戒せざるを得ない。
そして、光速の相手にレールガンを放つという、『力量差を測れていない』証明。
それは、番花という強者の目を欺くのに、十分だった。
言うなれば、『覚醒詐欺』──
「この……離せ……!」
拘束されもがく番花へ、豪千は重厚な足取りで近付いていく。
「……寄るな……!!」
そして、有無を言わせず、力いっぱいに殴りつけた。
「がっ……」
番花は白目を剥いて、膝から崩れ落ちた。
豪千は、鋼とファザーに、満面の笑みを向けた。
「助かったぜ。鋼、ファザーさん」
ファザーは、鋼を静かに見下ろし、目を細めた。
「……彼と協力するつもりはありませんでした。ですが、今回ばかりは認めます」
鋼は、ただぎこちない笑みを向けるだけだった。
(……悠真……無事か……)
─────────────────────
「皆既さん!!」
亜深の慣性を増幅した蹴りは、皆既を糸も容易く彼方へと吹き飛ばした。
へし折られた木々の破片が、どこまでも続いている。
「ははっ。ナイスシュート……って、拍手してくれても良いよ?」
亜深はふらふらとした足取りで、悠真へとにじり寄っていく。
「っ……」
睨みつける悠真に対し、亜深は舌舐めずりをして見せた。
「……『お姉さんの能力強すぎ〜』って、諦める気はないみたいだね、よかったよかった。……でも、お姉さんも大人だからね……ぁそうだ。君と戦う時は、特別に能力使わないであげる」
「なっ……」
「お? ちょっとは『勝てるかも〜』って思ったのかな? ほら、じゃあ試してみなよ」
亜深は大げさに両手を広げ、挑発する。
悠真は低く構え、浅く呼吸を速めていく。
(『層合気・練武』……!)
悠真は亜深へと渾身の右ストレートを放つ。
亜深はそれを簡単に避けると、悠真の顔面に右回し蹴りを放つ。
「っ!」
悠真は蹴りを半身で躱すと、左のジャブから右回し蹴りへと繋げる。
亜深は悠真のジャブを最小限の動きで避けると、蹴り込んだ悠真の足の踵を掴んで軽々と流して見せた。
悠真は蹴りを流されバランスを崩すも、直ぐに距離を取って構え直す。
亜深は、その様子を見て、目を細めて笑った。
「遠慮してるのかな。……お姉さんのこと殴るのは気が引けるとか? 可愛いね」
「………………」
悠真はさらに低く構え、重心を地面へと預けていく。
そして、深く踏み込んだ。
(速い)
悠真は亜深の顎先にアッパーを放つも、亜深はそれを防ぐ。
しかし、防いだことにより少し崩れた重心に、悠真は足払いを放った。
「きゃっ」
亜深がバランスを崩して倒れたところに、悠真はさらに鉄槌の追撃を加える。
しかし、その拳は叩きつけられる寸前で止まった。
「……もう、俺の勝ちにさせて下さい」
亜深は地面に倒れ込みながら、悠真を見上げて笑ってみせた。
「……そんなふうな情を、今までもかけてきたんだろうね」
亜深は悠真の手へと手を伸ばす。
そして、『周囲の時間が停止した』。
「がっ……!?」
その瞬間、悠真を襲った激痛と脱力感。
咄嗟に振り払おうとするも、亜深の手はしっかりと悠真を捕らえ、離さない。
(肩を外された……!? いつの間に……)
亜深は悠真に足を絡め、逆に地面に組み伏せた。
「ぁ゙……がっ……」
喉元を腕で圧迫され、悠真の視点がチカチカと点滅する。
「あはは、いいねその表情。お姉さんに押し倒されて、真っ赤になって……照れちゃってるのかな?」
次の瞬間に響いた、銃声。
放たれた弾丸は、亜深の脳天を的確に捉えていた。
「バレバレ」
亜深は空間の裂け目を出現させ、弾丸を飲み込む。
転移した弾丸は皆既の脳天へと直撃したが、皆既はそれを拳銃で防いだ。
「ぐっ……!」
(……そっか。慣性乗る分、距離換算で銃弾の威力は下がるのか)
「まぁでも、やっと本物の銃出したね」
「ぅぉ゙ぁ゙っ……」
(時間停止……全身を……殴………………)
皆既は激しく吐血し、白目を剥いて崩れ落ちた。
亜深の手には、皆既から奪った拳銃が握られていた。
「仲間の銃で死ねた方が、うれしいよね」
「っ……」
「はい。さーんにーいいーち」
亜深が引き金を引く。
しかし、弾が発射されることはなかった。
「……また……?」
(…………奪われることを想定して、一発以外全て捨てておいたのか……なら、これはブラフ……)
(『層合気・風月』✕『層合気・練武』)
皆既の鋭い蹴りが、亜深へと風切り音と共に繰り出される。
「ぉ゙ごっ……」
皆既は、蹴りの勢いのまま宙に投げ出され、そのまま吹き飛んでいく。
そして、血反吐を散らしながら地面を転がっていった。
(何故……時間停止のクールタイムは5秒間のはず……まだ、経ってな……)
亜深は、悠真の上に座りながら、意識朦朧とする皆既を見下す。
「クールタイム5秒間……だと思ったよね? 残念。それもブラフでした〜。わざとらしいカウントダウンにまんまと乗ってくれちゃってさ。心読んだから、正しい情報だと思い込んでたんでしょ? 思考をコントロールするくらい、お姉さんができないと思った? って、もう気絶してるか」
亜深は、悠真へと向き直る。
「そうだ。序でに、最期の言葉くらいは聞いてあげるけど?」
悠真は、亜深に目を合わせ、薄く口角を上げてみせた。
「お前……大したことないよ」
「……?」
「俺達は、もっとイカれた化物と戦ってきた、全てを犠牲にする覚悟を持った奴と戦ってきた、理屈が通じない『災害』と相まみえた事だってある……」
「自慢話?」
悠真は、ふっと鼻で笑った。
「俺は今『波』が読めないけどさ、それでも分かるんだよ。……あんた、薄っぺら──」
「あっそう」
亜深は拳を振り上げ、悠真の顔面へと思い切り叩き込む。
(『命日桜』)
「!」
薄紅色の刃が、亜深へと振るわれる。
亜深は咄嗟にその場から離れ、向き直った。
「……桜ちゃん。お姉さん的には、桜ちゃんは大事な『母体』だから、あんまり傷つけたくはな──」
「来なよ。もう始まってるけど」
冷淡に言い放つ桜に、亜深は嗤ってみせた。
「……いいよ。へし折ってあげる」




