53話 「傍観と背徳」
豪千はファザーと鋼を背後に庇いながら、襲い来る無数の光の槍を衝撃波で捌いていく。
眩い光の槍が空間の歪みに巻き込まれ、白く煌めき塵と化す。
「光崎さん……あんた、真面目な人だと思ってたんだけどよ。……なんでこんな事しやがる……?」
豪千は拳を豪快に振り回しながら、上空から見下ろす番花へと語りかける。
番花は白く反射する眼鏡を直しながら、腕を振りかざす。
瞬く間に、空は輝く槍で埋め尽くされた。
「なんでこんな事……ですか……? 私は何もしていませんよ。強いて言うなら、そこのおじいさんの腕を斬って、あなたとこうして戦っている事でしょうか?」
「はぁ……!?」
絶え間なく降り注ぐ光の槍を、豪千は全て破壊し、番花を睨めつける。
「……本気で言ってんのかよ、あんた」
重圧の籠もった声に、番花は飄々と答える。
「そうですね。……あの二人に比べたら、私なんて全然マシですよ。違いますか?」
「……じゃあ、なんであんたはあいつらに肩入れしてんだよ……?」
豪千の問いに、番花は楽しげな笑みを浮かべた。
レンズの先に見えるその目は、歪んでいる。
「そうですね……『クズを近くで見たい』……ですかね?」
「……は?」
「だって、クズがクズを全力でやっているところって、気持ちが良いじゃないですか? 自分が出来ないことを、平然とやってのける人間に憧れるでしょう? それと同じですよ」
「あんた……何言って……」
「私は、その近くにいられればいいんです。私は見ているだけでいい。……貴方達だって、気持ちは分かると思いますけどねぇ……?」
光の弾幕が、豪千を覆う。
豪千は空間をねじ伏せ、それらを全て無に帰した。
「っ……!」
歪んだ空間はやがて番花の周囲すらも侵食し、大きく拉げさせた。
番花は眩い光と共にそれを回避し、豪千を見下ろして構え直す。
豪千は、番花を見上げ毅然とした態度で言い放った。
「……やっぱあんた、ここで潰す」
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森の方へと吹き飛ばされた皆既は、ナイフと拳銃を手に、亜深の行動を注視する。
(コイツが使った、全く予備動作の無い攻撃……どういう理屈だ……!?)
亜深の目の前に悠真が割って入り、次の瞬間には、膝をついて崩れ落ちていく。
「っ……!」
皆既はすぐさま大地を蹴り、高速で亜深へと詰め寄る。
「立て続けに……お姉さんをいじめないでくれよ」
皆既は一瞬で亜深の死角へと回り込み、喉元にナイフを突き立てる。
その瞬間、皆既は亜深の思考を読み取った。
(4……3……2……)
「っ……?」
亜深は小さくニヤけると、手を何も無い空間へと伸ばす。
すると、空間に青白い『切れ目』が入り、亜深はそこに手を突っ込んだ。
刹那、皆既の顔面の真横に、青白い切れ目が走る。
その切れ目から飛び出た手は、皆既の顎先へと拳を叩き込んだ。
「ぁ゙っ……」
皆既の視界が揺らめき、意識が遠のきかける。
亜深は、さらに皆既の腹を蹴り上げた。
「ぐぉ゙っ……」
(なんだこの威力……!!)
皆既は宙を何度も回転しながら吹き飛んでいく。
それでも皆既は重心を取り戻し、銃口を亜深へと向ける。
しかし、銃は次の瞬間には、皆既の手から離れていた。
「……なっ……!?」
「……貰っちゃった。弾はあと何発残ってるのかな〜」
亜深はニコニコしながら、その銃口を足元に崩れている悠真へと向ける。
そして、躊躇いなく引き金を引く。
『パン!』と軽い音が響いた。
「……あれ」
亜深の一瞬の隙を見逃さず、皆既は悠真を抱えて、亜深から距離を取る。
奪った銃をまじまじと眺め、亜深はふっと笑った。
「これ、モデルガンか〜。いつすり替えたんだろ。お姉さんあんまり銃使わないから、分かんなかったよ。……で、本物は何処に持ってるんだろうね……?」
亜深はモデルガンを投げ捨てると、皆既たちへとのんびりした足取りで近づいていく。
皆既は、亜深の思考の違和感に気付いていた。
(戦闘中、ひいては会話中も、5秒周期のカウントダウンを行っている……そして、カウントダウンが0になると……)
「……がっ……!!」
皆既の脇腹に鈍い衝撃が走り、思わず吐血する。
しかし、皆既が倒れることはなかった。
(このカウントダウンが、完全ノーモーション攻撃の周期……! だが……それが分かれば、対策のしようはある……!)
亜深は、指の関節をポキポキと鳴らしながら、欠伸をした。
「皆既くん、だっけ。心読めんでしょ? じゃあなんか、もしかすると勝てるかもとか思ってたりしたら悪いからさ、教えたげるよ」
亜深の周囲に、青白い切れ目が走る。
「これが『地続きの空間』。空間の入口と出口を繋げられる。……ちな、繋げた空間の距離分の慣性が乗るから、こんなふうに……」
皆既の背後に、青白い切れ目が走る。そして、勢いよく拳が飛び出した。
皆既は攻撃を咄嗟にナイフでガードするも、ナイフにヒビが入り、真っ二つに割れた。
「っ……!」
「結構威力上がるわけ」
(……なるほど……今までの攻撃は全て、空間の切れ目を遠方に何重にも繋ぎ、即座に元の位置に戻すことで慣性を底上げしていたのか……なんて能力の練度……)
「そんで、皆既くんが今一番気になってると思う、お姉さんのカウントダウンについてなんだけど……」
次の瞬間、皆既の腕から、悠真が消えた。
「がっ……?」
悠真は、亜深に首を腕で締め上げられ、脇の間に挟まれるようにして固定されていた。
「……は」
「これがお姉さんの『もう一つの』能力『時飛び』。シンプルに、お姉さんを中心に範囲内の時間を1秒間止められる。まぁ、認識できないくらいめっっちゃゆっくりにしてるほうが近いのかな? あ、分かってると思うから言っちゃうけど、クールタイムは5秒周期ね」
「っ……!!」
悠真は亜深を振り払うと、素早いバックステップで距離を取った。
「そんなにお姉さんとハグしたく無かったのかな? 悲しいね〜」
(……1……『0』)
カウントダウンが終わると、時が止まったように、周囲の全てが硬直する。
落ちていく葉も、飛んでいた鳥も、全てが剥製のように固まる。
亜深は、止まった時間の中で、空間の裂け目へと手を突っ込み、悠真の鳩尾へと拳を叩き込む。
「がっ……!!」
再び動き出した時間の中で、悠真は崩れ落ちた。
「お姉さん、これでも世界に数百人しかいない『複数能力持ち』なんだ。まったく別系統の能力を二つ持ってるなんて、そうそうお目にかかれないよ?」
亜深の心の中では、ただ無機質な5秒間のカウントダウンだけが響く。
心を読める皆既にとって、それはまるで見せつけるような『暴力』の周期だった。
(5秒間のクールタイム……裏を返せば、5秒毎に防御、回避不能の攻撃が襲い来るということ……!)
皆既はナイフを構え、層合気で地面を弾き、亜深へと突撃する。
亜深は向けられたナイフを紙一重で躱し、右ストレートを皆既の顔面へと叩き込む。
皆既は反射的にそれをガードするべく腕で払おうとするが、亜深の拳は寸前で青白い切れ目へと吸い込まれた。
「っ……!」
転移した拳は皆既の後頭部へと向けられたが、皆既は『心を読み』、攻撃をガードする。
しかし、亜深はよろけた皆既に追撃の膝蹴りを放った。
皆既はよろけながらも亜深の膝蹴りを膝で受け止め、素早いバックステップで距離をとる。
(1……『0』)
「がっ……!!」
皆既はバックステップの勢いのままさらに吹き飛び、背後の木へと叩き付けられた。
(時間停止が……厄介過ぎる……! それに……!)
見下ろす亜深の表情は愉しげな笑みを崩さない。
(完全に遊んでやがる……こっちが出せる手札は、二対一の数の利と、層合気の直撃、それと拳銃……拳銃は奪われるリスクを考えると、無駄に見せられない……どうするか……)
皆既が思考している間にも、亜深のカウントダウンは進み続けている。
(皆既さんだけで勝てる相手じゃない……!)
悠真は亜深の背後から腕を掴み、足払いを仕掛ける。
亜深は悠真を見ることすらせず、顔面に肘打ちを打ち込む。
「がっ」
「抱いてやったら離れるクセに、ワガママな男の子は嫌われるよ?」
「っ……!」
しかし悠真は直ぐに体勢を立て直し、亜深へと拳を向ける。
それと同時に、皆既が背後から仕掛ける。
(『層合気・練武』……!)
(『層合気』……)
「!!」
皆既は何かを読み取り、打ち込みかけた拳を引っ込める。
「悠真っ」
悠真はそれに驚きつつも、振りかぶった拳は留められない。
悠真の拳は、亜深に届く前に、空間の切れ目に飲み込まれる。
次の瞬間、悠真の拳は、皆既の鳩尾へと繋げられた。
「っ!」
「! すみま──」
(『0』)
「がっ」
「ぉ゙ごっ……」
顎先を殴られたように仰け反った悠真と皆既の身体は、一瞬にして宙へと吹き飛ばされる。
「シュート」
亜深はさらに踏み込み、ガラ空きの皆既の腹へ回し蹴りを放つ。
皆既は声にならない嗚咽を漏らし、木々をへし折る勢いで蹴飛ばされていった。




