52話 「夜に乱れる奴隷」
今回の話には、R15程度の性的描写が含まれています。
苦手な方は、ご注意下さい。
「君たち、反逆はいいんだけどさ、どうするつもり? 手出ししてきたってことは、殺り合うって事でオッケー?」
茶髪の女は、手ぶりを加えながら挑発的に笑ってみせる。
皆既は、油断のない構えで、冷静に状況を分析していた。
(……こっちには豪千がいる。だとしても、上層部三人相手は分が悪過ぎる……かと言って、別支部の恒河や刃織さんを呼んで大事にするのも、今後の展開を考えると得策じゃない……それに、『縁切 サラ』が介入すれば、現状問題の半分は解決できる……なら……!)
皆既は前へと一歩踏み出し、親しげな口調で語りかける。
「『亜深』さん……ここはお引き取り願いたいです。それに、いくら上層部といえど、勝手な横暴……『山本 五郎』が黙ってないでしょう……?」
茶髪の女──『亜深』は、嘲笑って返した。
「随分と威を借りるんだね。ぶっちゃけ、山本は少年期の『空虐』討伐が一人歩きしてるだけだろ? 今は地方のチンピラヤクザ相手にイキってるだけの情弱だ。我々の相手になるとは思えないねぇ」
それを聞いて、皆既は声を上げて笑った。
ナイフを握り締める右手に、血管が浮かぶ。
「ははっ……! まぁ、確かにあの人は後輩にラーメン奢らすような人だけどさ…………お前ら如きの尺度じゃ測れねぇよ」
「……へ〜。で、どうすんの?」
皆既は、すっと拳銃を取り出し、上層部三人へと向けた。
「力尽くで帰らす」
刹那、皆既に光速の槍が向けられる。
「!」
豪千はそれを見切り、拳を振るい、空間を歪ませた。
光の槍が、塵となり、散っていく。
豪千は、番花をしっかりと捉え、鋭く睨めつける。
歪んだ周囲の空間が、異様な威圧感を纏っていた。
「『光崎』さんは、俺に任せろ」
光崎 番花は、メガネを直しながら呟いた。
「……一番のハズレくじですね」
─────
(『層合気・風月』)
皆既は、凄まじい速度のステップで、一気に亜深へと距離を詰め、亜深の喉元にナイフを突き立てる。
だが、ナイフの軌道は寸前で大きく逸れた。
「がっ……!?」
次の瞬間には、皆既はアッパーを食らったように、大きく仰け反っていた。
(!? ……『心』を読んでも、攻撃の予備動作すら無かったよな……!?)
「はぁ……言わんこっちゃない」
亜深は、続けざまに皆既に凄まじい威力の回し蹴りを叩き込む。
「ぐぉ゙っ……!」
皆既は空中で回転しながら吹き飛び、森の木へと叩き付けられた。
「悪い子には、ちゃんとお姉さんがお仕置きしてあげないとね」
亜深は、戯けた足取りで皆既の方へと歩み寄っていく。
「っ……」
しかし、悠真が亜深の前へと立ちふさがった。
「ニ対一かぁ……」
「ぐはっ……!?」
悠真も強く殴られたように腹を抱え、崩れ落ちる。
亜深は、その場から微塵も動いていない。
「君は一人として換算できるのか、微妙だけど」
─────
桜は場の状況を、鋭い目つきで判断していた。
(明らかにあの茶髪の女と、悠真、千夜の兄ちゃんじゃ釣り合ってない…………鋼は、あのマッチョと組んでる……そうなったら、荘司と、この色っぽい女の人と私で、ちょうど全員一対二の状況が作れる……まずはこのバリアを何とかして、悠真のカバーに入らないと。でも……)
桜の身体が、ほんの僅かに強張った。
(無策で突っ込んで、勝てる相手じゃない)
当の荘司は、ぼけっとした表情で、甘夏を眺めている。
そして、厭らしく笑った。
「…………」
甘夏はわずかに引いたような苦笑いを浮かべる。
それを見て、桜は一抹の不安を感じた。
(……人を守りながら戦える余裕は無いけど……大丈夫なのかな……いや、でもこの女の人も鎮静会の人なんだろうし……協力するしか無い……)
刹那、「ヒュン」という鋭い風切り音とともに、桜の視界に、何かが映った。
それは荘司へと凄まじい速度で襲いかかるも、「カン」という軽い音と共にバリアに弾かれた。
「……本人は反応できてないのにな……オートで発動するのかな……? 厄介だね」
そう嘯く甘夏の手には、鉄製の長鞭が握られていた。
桜は鞭を優雅に操る甘夏を見て、刀を握り締め口元を少し緩めた。
(強いんじゃん……)
荘司は、緩慢な動きで手を翳す。
すると、バリアが棘状に変形し、二人へ向け高速で伸びていく。
「っ……!」
(かと言って、バリアを破る手段が無いのは事実……! 壊れない盾であり、矛……どう突破する……?)
「降参して反省するなら、飼ってヤッてもいいが、今のうちだぞ」
「チッ……」
桜は地面を大きく踏み込み、荘司へと斬りかかる。
それと同時に、甘夏も鞭を振るう。
しかし、どちらも荘司が一瞥すらすることなく、バリアに弾かれた。
(クソッ……どうすれば……!)
二人は攻撃を躱しながら、隙を突いて荘司へと攻撃を加える。
が、その全てが荘司に届くことは無かった。
(……仕方ない。アレをやるしか無いわね)
その時、甘夏がさっと両手を挙げた。
「分かった、じゃあもう降参するわ」
「……は?」
唖然とする桜に、甘夏は目で密かに合図を送った。
(……何か、策がある……?)
甘夏は、服の紐を緩め、はだけさせながら荘司へと歩み寄る。
「ほら、好きにしていいから……もう……ね? これで許して?」
荘司の目には、もはや甘夏しか『映らなかった』。
その淫靡な振る舞いを、食い入るように眺めている。
「……ようやく従順になったか……」
「うん。……ほら、触っても良いよ……?」
甘夏はバリアに身体を這わせるように、押し当てていく。
(何してるんだあの人……色仕掛けにしても、大胆すぎじゃない……?)
桜は眉間にしわを作りながら、甘夏の動向を注視する。
「いいだろう……奉仕させてやる……」
荘司は、張り巡らせていたバリアを解いた。
甘夏はさらに荘司へと近寄り、甘えるような素振りで抱きついた。
バリアを解除した、あまりにも大きな、隙。
しかし、桜は硬直し、刃を振るわなかった。
(まだ、終わってない……)
荘司と甘夏が抱き合う姿を、豪千と戦闘していた番花は、厳しい表情で見つめる。
(バリアを解いている……!? この場で巫山戯出すなんて……)
「荘司さん? 何をしているんですか……!?」
しかし、荘司は番花の声に、耳を傾けることすらなく、何の反応も示さなかった。
(無視……いや、『聞こえていない』……?)
甘夏と荘司の戯れは、他の世界とはまるで隔絶されたような、異質さを放っていた。
甘く、蕩けるような香水の匂いが、汗と混じり合う。
甘夏の姿だけが、荘司の視界を埋め尽くしていた。
交戦していたはずの桜も、番花の焦り交じりの声も、そして、周囲に轟く猛々しい戦闘の音さえも、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。
「ねぇ、『キス』しよ……?」
甘夏が小さく耳元で囁くと、それに従って、荘司も差し出す。
「あぁ……」
淫らな水音がやけに響き、離した互いの舌から、糸を引く。
甘夏は、荘司に目を合わせ、にやりと嗤ってみせた。
「『完堕ち』しちゃったね……♡」
甘夏は、抱きつく荘司を振り解くと、軽く目を瞑り、指で「パチン」と音を立てた。
「覚醒能力『嗜虐性天誅獄』」
「っ……ぎゃぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ……!!!?」
次の瞬間、荘司は絶叫しながら、じたばたと地面を這いずり、暴れまわり出した。
先程の恍惚とした表情は、もはや見る影もない。
「何を…………能力……?」
桜は、あまりに唐突な光景に、理解が追いつかない様子で、唖然とする。
─────
豊姫 甘夏の能力『夜に乱れる奴隷』
対象が自身に意識を向けた五感を、『自身のみしか認識できなくする』
甘夏の容姿に気を取られれば、その者の目にはもはや甘夏しか『映らず』、彼女以外は全て白く飛び、認識できなくなる。
声に気を取られれば、甘夏の言葉以外は、『全て耳に届かなくなる』。
そうして、『視覚』『聴覚』『嗅覚』『触覚』、そして、『味覚』の『五感』全てを甘夏に奪われ『完堕ち』となった時、次の『覚醒能力』が発動する。
覚醒能力『嗜虐性天誅獄』
『完堕ち』した対象は何も感じられない暗闇の中、ただ『鞭で打たれる』苦痛のみを延々と味わう事となる。
甘夏本人が解除するまで、永遠に。
─────
荘司はしばらくの間、凄まじい絶叫を上げ続けた後、気を失ったのか、コクリと静かになった。
(とんでもないものを見せられた気がする……)
甘夏は、服を整えながら、桜へと振り返る。
「コイツは私が見ておくから、桜ちゃんは悠真君を助けに行ってあげて」
その言葉に、桜は少し驚いた後、疑問を口にした。
「私を自由にしてて……いいの?」
その問いに、甘夏は少しだけ微笑んだ。
「『友達を助ける』為に戦うんでしょ? それに文句つける人なんて居ないよ」
「……ありがとう……ございます」
─────
時は少し戻る。
豪千は、ファザーを抱え、鋼を背後にして守りながら、番花の光の猛攻を耐え凌いでいた。
「流石、豪千さんですね。足手まといを抱えてなお、ここまでやるとは」
「舐めんな。それに、足手まといじゃねぇよ」
甘夏の能力が暫定最高傑作だと思ってます。
これを考えた当時中2の私、色んな意味ですごいな。




