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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
四章 「  な大蛇信仰」
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47話 『雨之群雲』


 悠真は、鳥槻から漏れていた『喜色』は、些細な感情の一つだと思っていた。


 違った。


 鳥槻には、最初から『喜色』しか無かった。


 なぜ、鳥槻の『波』を読めなかったのか、分かった。


 鳥槻はまるで『舞台の演者』のように、『大蛇から逃げ、救いを求めた人間』に、本気でなりきっていた。


 自身の心すら欺くほどに。


─────


「久々に本音で話すのって気持ちがいいなぁ……!」


 地面がぐらりと揺れ、ぬかるんだ大地を跳ねさせる。


「がっ……!」


 バランスを崩し、鋼と悠真の二人は地面に伏せ込む。



 鳥槻は既に勝利を確信していた。


(『大蛇がいない』って思ったなら、それ、『認識できない攻撃』来るってことだからね)


 『大蛇』の、大量の不可視の腕が三人を襲う。


 しかし、桜はその腕全てを、寸分違わず斬り裂いた。


(何……!?)


(タネが割れれば、『ただの透明化』と大して変わらない。気配と、雨水の飛沫から予測すればいい)


 桜は木から木へと飛び移り、死角から鳥槻を狙う。

 しかし、『大蛇』は鳥槻を腕で包み込み、桜の攻撃を防いだ。


「っ……」


「『大蛇』には誰も勝てないように『信じさせた』から。意味ない」


 鳥槻は軽く吐き捨てると、人さし指を掲げる。


 すると一点に発生する、『引力』。


「っ……!?」


 周囲の枝がべきべきとへし折れ、地面の泥が吸い込まれていく。


「『大蛇は全てを飲み込む』なんて、どっかに伝えたかな……?」



 吸い寄せられた桜は、その勢いを逆に利用し、地面を蹴り上げ、『大蛇』へと刃を振るう。

 それにより、引力は消滅した。



 しかし、桜は理解していた。


(ジリ貧……本体を削るのも難しいし、無限再生への抵抗手段が無さすぎる……!)


 『大蛇』の猛攻を迎撃し続ける桜を、鳥槻は鼻で笑った。


(この……!)


 飛沫で『大蛇』を認識できるとはいえ、台風で視界不良、足場不良かつ、冷たい雨水が体力を削ぎ続ける環境は、桜を想定以上に消耗させていた。



 しかし、その環境を逆に利用できる者もいる。


(鳥槻さんは全身水で濡れている……『電気』が通る)


 鋼は、左手を構え、照準を鳥槻へと合わせる。

 泥に塗れたその表情かおは、それでも鳥槻を確実に捉えていた。


(『磁界操作』……)


 鳥槻が知らぬ間に、少しずつ場に電荷が蓄積されていく。



「そう言えば、こんなのもあったんだった」


 鳥槻は、中指をゆっくりと立て、二本の指を掲げた。


「『磁場を自由に操る』……怪異っぽくて良いね」


「っ……!?」


「ちょうど雨振ってるし、うまくいけば感電させたりできるのかな?」


 鋼の貯めた電荷は、『大蛇』により相殺された。

 鋼の『磁界操作』と、『大蛇』の磁場を操る力が拮抗し、互いに打ち消し合う。


「あれ……出来ないな……『大蛇』サマ〜?」


 鋼は、『大蛇』の操る磁場を抑え込むのでやっとだった。

 仮に『大蛇』と同じ波長の磁場を場に送れば、全員が感電死する。


(クソっ……!!)



「『燃え盛る蒼い炎』……は今は使えないし……『世界を破壊する力』は、俺も巻き込まれる……もっと使いやすいの付けとけば良かったな……」


 創作物の設定を思い出すように、鳥槻はぶつぶつと呟く。



 悠真は、無敵と言える『大蛇』の攻略方法について、思考する。


─────


 『大蛇』はおそらく、『信者』ありきで成り立つ存在。

 なら、『大蛇』の攻略方法は二つ。


 一つ目は、『鳥槻さん本人を行動不能にする』

 二つ目は、『各地にいるであろう信者を無くす』


 二つ目は現実的じゃない。


 なら、どうやって無敵に守られている本体を叩く……!?


 待てよ、鳥槻さん本人も、『大蛇』について曖昧なんじゃないか……?

 彼にとって、ずっと、『大蛇』は『嘘』であり、存在する『真実』だった。

 それをずっと続けていたならば、必ず『認識』はどこかでズレる……!


 『大蛇』と『鳥槻さん』を分断させるには……

 『大蛇への認識そのものをズラすしかない』……!


─────


 その瞬間、大きな炸裂音が響く。

 桜が崖に生えている大木を、真っ二つに斬った。

 その木が落ちる先には、鳥槻が居た。


「っ……!」


 鳥槻は『大蛇』を盾にし、大木を防ぐ。



 桜は、さらにそこに猛攻を仕掛ける。

 しかし、刃は全て鳥槻に届くことなく弾かれた。


「『大蛇』がいる限り、俺は無敵だ」


「っ……」



 悠真は大地が揺れ動く中、なんとか木に捕まり立ち上がる。


「なぁ……鳥槻さん。『大蛇』ってのは、無敵なんだろう……?」


 鳥槻は、にやりと笑った。


「そうさ。そうだよ? 俺が作った、俺だけの、俺のための『神』だ」


 身振り手振りを加えながら、楽しそうに語る鳥槻に、悠真は続けた。


「じゃあ、その最強の化身が、『お前を裏切らない』って誰が決めたんだよ……?」


「……は……?」


「だって、そうだろ? 漫画でもよく見る。制御できなくなって、作った本人が襲われて、自滅。あるあるじゃないか?」


 鳥槻の『波』が、確かに揺らいだ。


「そ、そんなわけが無いだろ……!? 俺の能力で作った、俺の力そのものなんだからな……!?」


 悠真は、さらに畳み掛ける。


「力を与えた主人を上回る力を与えられたヤツが、主人に従う必要、あるのか?」


「なっ……!」


「教科書にも載ってる、《鎮静会初代会長》『カンナギ』は言った。『神は自身を上回る力を、人間に与えない』。なぜか、覚えてるか?」


「…………」



 鳥槻の身体が、小刻みに震える。

 カンナギの言葉の続きを、鳥槻は知っていたからだ。


 『自身に反旗を翻した時、容易く捻じ伏せられるように』


 鳥槻には『大蛇』への疑心が芽生え始めていた。


 それは裏を返せば、『大蛇が自身に反抗する可能性』を『信じる』事と同義だった。



 それに、鳥槻も気づいた。


「あっ……!」


 気づいてしまった。



 鳥槻は、『大蛇』から逃げるように、雨の中を駆け出した。

 根拠などない、舞台の上ですらない。

 ただ、突然溢れ出した恐怖心に、身体が従っていた。


 『大蛇』は、それに反応すら示さなかった。



 それでも、鳥槻は豪雨をかき分けるようにして『大蛇』に背を向けひた走る。


 その隙を、桜は見逃さなかった。

 鋭い手刀が、鳥槻の首筋に叩き込まれる。


「がっ…………」


 鳥槻は直後に事切れ、地面のヘドロへと倒れ伏した。



 直後、『大蛇』を抑え込んでいた大木が、宙を舞った。

 いや、『投げ飛ばされた』



(鳥槻さんは意識を失ったのに、『大蛇』が消滅しない……!)



 また、地面が大きく揺らいだ。

 凄まじい引力が、空間を引き込み、不可視の腕が、周囲を手当たり次第に荒らした。


 場に響くのは、五月蝿うるさい雨音と、地面が掘り起こされ、木々がへし折れる破壊音だけ。


 ただ、主を無くした『災害』が、そこにはあった。



「チッ……!」


 桜は、気絶した鳥槻の首筋を凝視する。

 そして、刀の柄を強く握り締めた。


「っ……!!」



 桜は、握り締めた刀で、背後の『大蛇』を斬り裂いた。


 場を支配していた引力が消え、破壊が止まる。

 それもつかの間、また轟音と共に破壊が始まる。


(どうしろってんのよ……!)



 悠真の中の『大蛇』の倒し方、その残る一つ。


 『信者を無くす』


(……不可能だろ……!)



 こうしている間にも、桜は必死に『大蛇』を食い止めている。


 悠真は、必死に思考を巡らせる。

 それはもはや、走馬灯にすら縋り付くほどだった。


 叩きつける豪雨が、焦燥感を助長する。

 降り注ぐ雨粒一粒一粒が、地に落ち『炸裂』した。


「…………」


 その時、涙目で、震えていた、『泥甘かれ』の表情かおを思い出した。

 彼の心情は、炸裂したジュースの飛沫から、色濃く感じ取れた。



 『水』は、『感情』を乗せられる。


 なら、『記憶』は……?


 先ほどの空間伝播のように、『大蛇が嘘である』という『記憶』を、さらに広範囲に……



 悠真の中に芽を出した、一つの発想。


 『台風の大雨に乗せ、記憶を拡散する』



(……やるしかない……)


 悠真は、ゆっくりと片腕を掲げる。

 そして、『空間へと記憶を伝播させた』



 『空間を伝播する記憶が、振り注ぐ雨粒に乗り移り、音叉のごとく、反響が伝播していく』


「っ……!!」


 コピー ペースト その異常量の繰り返し。

 自身の脳が、『残響』が、食い荒らされるように傷ついていくのが、痛いほど分かった。


 脳内で心地の悪い「ピキピキ」という音が籠る。



「悠真……血が……!」


 鋼は、悠真を見て咄嗟に叫んだ。


 悠真は、目口鼻耳、全てから、真っ赤な血を噴き出していた。


 それでも、悠真が止まることはなかった。



 伝播した記憶は、やがて空の上の雲の層へと、届く。



「『風波拡散ウィンド・ディスクリート』……!!」


─────


 台風は、日本に直撃していた。

 その豪雨は、多くの人々の生活を脅かし、恐怖を与えた。


 その雫の一粒一粒から、『記憶』が流れ込む。


「え……? なにこれ……頭痛く……気持ち悪……」


 それは、荒く、ノイズの混ざった『一瞬の幻覚』。

 しかし、それは『大蛇』が『嘘』であると広めるために圧縮された、最低限の束だった。


 当然、無関係な人間もいた。

 これは、『無差別的な精神干渉』



「これは……」

(『蓮界 悠真』の『残響』……!?)


 その影響は、『鎮静会』の人間達にも、届いていた。


「……まさか……!」


 鎮静会所属、『星月 皆既』は、口に手を当て、絶句する。


──────


 その『記憶の拡散』は、強制的に『大蛇』の『信者』を消滅させた。

 それに伴い、『大蛇』は、まるで何事も無かったかのように、消滅した。



 『波』が、凪いだ。



「ぇ゙」


 悠真は、ぐるりと白目を剥いて、地面へと崩れ落ちる。

 ぐちゃぐちゃの地面に、溢れ出す血が流れ出した。


 山奥には、雨音しか、残っていない。

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