46話 「八岐の舌蛇」
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鳥槻さんの能力は
『嘘を真実だと錯覚させる』
そして、『信じられた嘘を具現化させる』
千夜さんは、錯覚が発動する前に心を読んで『嘘』だと確信していたのだろう。
だから、今になっても姿が見えていない。
これならば、全てが噛み合う……!
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「『鳥槻さんの嘘だ』……!」
鋼は、悠真に叫んだ。
悠真は、鋼の言葉に疑問の眼差しを向ける。
当然だ。
今までこじらせて霧に隠した答えを、最初からあったものへと返したのだから。
鋼は、悠真の元へと駆け出した。
打撃音すら奏でる豪雨が、視界を遮っている。
それでも鋼は、観衆たちにも聞こえるよう、さらに声を張り上げる。
「『大蛇』は、信じている人にしか見えない! 嘘を本当だと思わせて……みんなが信じたから、『存在することになってる』んだ!!」
その言葉を聞いた悠真と桜の二人は、はっとした。
今までのすべてが、直感的に噛み合った。
形は違えど、三人は同じ結論に至る。
さらに、桜は確信した。
無限とも言える『大蛇』の再生能力の正体。
『信じている人間がいる限り復活し続ける』
(つまり……たった一人でも信じている人がいたら、『大蛇』は死なない……!)
悠真は、鳥槻の『波』を読んだ。
ひどく揺れ動き、動揺していた。
鳥槻は鋼や豪雨に負けじと、観衆たちに訴えた。
「何を言っているんですか!? そんな、嘘だなんて……! だって、『いた』でしょう!? ずっと……! 捧げようとしたでしょう!?」
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観衆たちは、鋼のその言葉に薄々勘づいていた。
確かに、鋼の言ったことは筋が通っていた。
千夜の必死の訴えにも、最初から違和感はあった。
それでも、『嘘に騙されていた自分』を、信じる度胸は無かった。
何より、目の前の光景も、犯した過ちも、『嘘』だと言い切る事はもはや、出来なかった。
『嘘に騙されていた自分』を認めることは、
結局『自分の意思でそれを信じた』と認めることと同義だったからだ。
だから、恐怖に従った。
『真実』を受け入れる恐怖に。
一人を除いて。
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「そうだ……!! 確かに、『嘘』だ……!」
千夜の父が、声を震わせて叫んだ。
「いると信じりゃいる、いないと信じりゃいねぇ……! 簡単なことだったろうがよぉ……!!」
雨の弾丸すらも退けるような、激しい怒号は、観衆たちの胸を打った。
「町内会長……」
その瞬間、大地がぐらりと揺れた。
ぬかるんだ足場が波を立て、泥が跳ねる。
「じ、地震……!?」
それに、鳥槻が大きく手ぶりを加えて訴える。
「『大蛇』サマはいます!! 怒ってる! 今更後戻りなんて出来やしない!! まずは……今を抑えましょう……!」
鳥槻に応えるように、地面の揺れは激しさをどんどんと増していく。
(『大蛇』は『地震』まで引き起こせるのかよ……!?)
その圧倒的な天変地異と言える力は、一度見た『大蛇』という存在を、人々にまた想起させるに十分だった。
「っ……」
(まずい……! また『信じさせられてる』……! ……なら……!)
悠真は、既に理解していた。
『大蛇』の攻略方法。
『大蛇が嘘である。という記憶をそのまま、観衆にねじ込む』
「はぁ〜……」
悠真はゆっくりと息を吐き、自らが生み出す『波』、そして『気』へと意識を集中させ、波長を合わせる。
赫阿修羅……『菊』へと使った、『記憶を空間へ伝える感覚』
指先から流れる記憶が、水面に垂れた雫のように、空間へと反響していく。
「……『記憶の伝播』」
「あっ……!?」
悠真が流した『記憶』は、人から人へと伝播していく。
観衆たちは、無理やり上塗りされた『記憶』に、困惑し、辺りをキョロキョロと見回している。
(これで一旦『大蛇』は見えなくなった、なら、後は……!)
「『大蛇』なんかいない!! もうこんなものは終わりだ!! 台風で事故が起きる前に早く家に帰れ!!」
悠真は、血走った目で山を降りろと指をさす。
それでも、張り詰めた空気は破れなかった。
「でも、『大蛇』はどうするんだ……!?」
観衆の一人が、悠真へと語りかける。
悠真は、少し戯けた口調で返した。
「見えない敵と戦うような年じゃないんだよ!! いいから家に戻れ!!」
その言葉は、空気を緩めた。
『大蛇』への恐怖や、自己嫌悪。それを、無理にでも辞めさせ、『大蛇』がいないと信じ込ませる。
「お化けなんてないさってあるだろ!! アレは全部ただの嘘だったんだよ!!」
『大蛇』を見えなくさせた上で、『ただの嘘』と吹き込み、張り詰めた空気を変える。
それが、悠真なりの『大蛇』への抵抗だった。
さらに、悠真は続ける。
「千夜!! 最初から嘘だったんだよな!?」
千夜は、はっとした表情をした後、応える。
「うん……!! 最初から、何もいないよ!!」
「じゃあもう、全く気にせず帰っていいよな!?」
「っ……いいよ!!」
「よっしゃ、山が地震と台風で崩れる前に、みんな千夜に続け!!」
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千夜は、悠真の思考を読む。
『決して振り返らせるな』と言っていた。
千夜はわかっていた。
悠真が意図的に自身に意識を向けさせていることを。
『大蛇』を見ないように。
だって、まだ後ろで桜ちゃんが戦ってる。
びっくりするくらい気配を殺して、静かに、舞ってる。
……いや、『大蛇』なんて居ない。
最初から『嘘』だった。
だから……
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「ほら、危なくなる前に帰るよみんな〜!!」
(『見えないものに踊らさせられないように。』)
千夜は、先頭を切って山を降りていく。
ぬかるんだ地面を、転ばないようにゆっくりと、それでも確実に、『大蛇』から離れていく。
鳥槻は、その様子を黙って、ぼーっと見ている。
『大蛇』は、『消えなかった』
それにも、悠真は気付いていた。
なぜ……!?
『信者』は居なくなったはず……
……待て。
『信じた嘘が具現化する』なら……誰が、『地震』を起こせる力があると信じた……?
一度でも、鳥槻さんは『大蛇が地震を起こせる』なんて言ったか?
鳥槻は、一回、深くため息をついた。
「あ〜〜〜あ〜〜〜あ〜〜〜あ…………バレちゃった……なんでかな〜〜」
先ほどの切羽詰まった表情が無かったことのように、鳥槻の表情は愉しげに歪んでいた。
「俺の『嘘』はさ、完璧だったはずだろ……?」
大雨に濡れてぐしょぐしょの髪をポリポリと掻きながら、鳥槻は呟く。
『大蛇』は、先程までと変わらず、腕を大量に伸ばして桜を追う。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
(キリがなさ過ぎ……どういう事……!?)
悠真は、明確に感じ取っていた。
鳥槻の『波』に混じる『喜色』を。
鳥槻は少しだけ口角を上げた嬉しそうな表情のまま、語り出す。
「いや〜、ずっと嘘ばっかついてると疲れるからね、もうどーでもよくなったことですし、『種明かし』しようかな?」
「『種明かし』……?」
「俺ね、いっぱいいるんだよね。『信者』がさ」
「は……?」
サラリとした口調で、鳥槻は続ける。
「色んなところ渡り歩いて、『大蛇』サマを広めて、育てて、育成ゲームみたいな感じかな?」
その言葉に、悠真ははっとして息を詰まらせた。
(広めた場所ごとに『大蛇』の能力を変えて伝えている……!?)
無邪気に語る鳥槻に、悠真はつい疑問を漏らした。
「なんで……それを……やろうと思ったんだよ……」
悠真の声色には、理解し難いという拒絶が含まれていた。
それにも、鳥槻は少し早口で答える。
「『大蛇』サマは、信じてる人にしか見えない。つまり、誰も俺を罪に問えない。要するにさ、『影の実力者』みたいな? 俺を信じてる人だけで成り立つ楽園。作りたいんだよね」
「いや、は……?」
「だって、『誰にも知られない』『責任も問われない』『ただ支配するだけ』。それって、一番の理想郷じゃないか? だから……今までずっと、少しずつ少しずつ『俺の信者』を増やしてきたんだ。なのに……」
鳥槻は、突然憤りを隠さず、地団駄を踏み出した。
「今日の今日で邪魔された……! あ〜めんどくせぇ! こうなったらもう全員……消そう」
向けたその笑みは、ひどく幼いように見えた。
その瞬間、また地面が大きく揺らいだ。
『大蛇』の手が、三人へと迫り来る。
明日「 な大蛇信仰」編 決着




