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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
四章 「  な大蛇信仰」
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46話 「八岐の舌蛇」


─────


 鳥槻さんの能力は


 『嘘を真実だと錯覚させる』

 そして、『信じられた嘘を具現化させる』


 千夜さんは、錯覚が発動する前に心を読んで『嘘』だと確信していたのだろう。

 だから、今になっても姿が見えていない。


 これならば、全てが噛み合う……!


─────


「『鳥槻さんの嘘だ』……!」



 鋼は、悠真に叫んだ。

 悠真は、鋼の言葉に疑問の眼差しを向ける。



 当然だ。

 今までこじらせて霧に隠した答えを、最初からあったものへと返したのだから。


 鋼は、悠真の元へと駆け出した。

 打撃音すら奏でる豪雨が、視界を遮っている。


 それでも鋼は、観衆たちにも聞こえるよう、さらに声を張り上げる。


「『大蛇』は、信じている人にしか見えない! 嘘を本当だと思わせて……みんなが信じたから、『存在することになってる』んだ!!」



 その言葉を聞いた悠真と桜の二人は、はっとした。

 今までのすべてが、直感的に噛み合った。

 形は違えど、三人は同じ結論に至る。



 さらに、桜は確信した。

 無限とも言える『大蛇』の再生能力の正体。


 『信じている人間がいる限り復活し続ける』



(つまり……たった一人でも信じている人がいたら、『大蛇』は死なない……!)



 悠真は、鳥槻の『波』を読んだ。


 ひどく揺れ動き、動揺していた。



 鳥槻は鋼や豪雨に負けじと、観衆たちに訴えた。


「何を言っているんですか!? そんな、嘘だなんて……! だって、『いた』でしょう!? ずっと……! 捧げようとしたでしょう!?」


─────


 観衆たちは、鋼のその言葉に薄々勘づいていた。

 確かに、鋼の言ったことは筋が通っていた。

 千夜の必死の訴えにも、最初から違和感はあった。


 それでも、『嘘に騙されていた自分』を、信じる度胸は無かった。


 何より、目の前の光景も、犯した過ちも、『嘘』だと言い切る事はもはや、出来なかった。

 『嘘に騙されていた自分』を認めることは、

結局『自分の意思でそれを信じた』と認めることと同義だったからだ。


 だから、恐怖に従った。

 『真実』を受け入れる恐怖に。



 一人を除いて。


─────


「そうだ……!! 確かに、『嘘』だ……!」


 千夜の父が、声を震わせて叫んだ。


「いると信じりゃいる、いないと信じりゃいねぇ……! 簡単なことだったろうがよぉ……!!」


 雨の弾丸すらも退けるような、激しい怒号は、観衆たちの胸を打った。


「町内会長……」



 その瞬間、大地がぐらりと揺れた。

 ぬかるんだ足場が波を立て、泥が跳ねる。


「じ、地震……!?」



 それに、鳥槻が大きく手ぶりを加えて訴える。


「『大蛇』サマはいます!! 怒ってる! 今更後戻りなんて出来やしない!! まずは……今を抑えましょう……!」


 鳥槻に応えるように、地面の揺れは激しさをどんどんと増していく。



(『大蛇』は『地震』まで引き起こせるのかよ……!?)



 その圧倒的な天変地異と言える力は、一度見た『大蛇』という存在を、人々にまた想起させるに十分だった。


「っ……」

(まずい……! また『信じさせられてる』……! ……なら……!)



 悠真は、既に理解していた。

 『大蛇』の攻略方法。


 『大蛇が嘘である。という記憶をそのまま、観衆にねじ込む』



「はぁ〜……」

 

 悠真はゆっくりと息を吐き、自らが生み出す『波』、そして『気』へと意識を集中させ、波長を合わせる。


 赫阿修羅……『菊』へと使った、『記憶を空間へ伝える感覚』

 指先から流れる記憶が、水面に垂れた雫のように、空間へと反響していく。


「……『記憶の伝播(メモリー・コンダクト)』」



「あっ……!?」


 悠真が流した『記憶』は、人から人へと伝播していく。

 観衆たちは、無理やり上塗りされた『記憶』に、困惑し、辺りをキョロキョロと見回している。



(これで一旦『大蛇』は見えなくなった、なら、後は……!)


「『大蛇』なんかいない!! もうこんなものは終わりだ!! 台風で事故が起きる前に早く家に帰れ!!」


 悠真は、血走った目で山を降りろと指をさす。

 それでも、張り詰めた空気は破れなかった。


「でも、『大蛇』はどうするんだ……!?」


 観衆の一人が、悠真へと語りかける。

 悠真は、少し戯けた口調で返した。


「見えない敵と戦うような年じゃないんだよ!! いいから家に戻れ!!」


 その言葉は、空気を緩めた。


 『大蛇』への恐怖や、自己嫌悪。それを、無理にでも辞めさせ、『大蛇』がいないと信じ込ませる。


「お化けなんてないさってあるだろ!! アレは全部ただの嘘だったんだよ!!」


 『大蛇』を見えなくさせた上で、『ただの嘘』と吹き込み、張り詰めた空気を変える。

 それが、悠真なりの『大蛇』への抵抗だった。


 さらに、悠真は続ける。


「千夜!! 最初から嘘だったんだよな!?」


 千夜は、はっとした表情をした後、応える。


「うん……!! 最初から、何もいないよ!!」


「じゃあもう、全く気にせず帰っていいよな!?」


「っ……いいよ!!」


「よっしゃ、山が地震と台風で崩れる前に、みんな千夜に続け!!」


─────


 千夜は、悠真の思考を読む。


 『決して振り返らせるな』と言っていた。


 千夜はわかっていた。

 悠真が意図的に自身に意識を向けさせていることを。


 『大蛇』を見ないように。


 だって、まだ後ろで桜ちゃんが戦ってる。

 びっくりするくらい気配を殺して、静かに、舞ってる。


 ……いや、『大蛇』なんて居ない。


 最初から『嘘』だった。

 だから……


─────


「ほら、危なくなる前に帰るよみんな〜!!」

(『見えないものに踊らさせられないように。』)



 千夜は、先頭を切って山を降りていく。

 ぬかるんだ地面を、転ばないようにゆっくりと、それでも確実に、『大蛇』から離れていく。




 鳥槻は、その様子を黙って、ぼーっと見ている。

 『大蛇』は、『消えなかった』


 それにも、悠真は気付いていた。



 なぜ……!?


 『信者』は居なくなったはず……


 ……待て。

 『信じた嘘が具現化する』なら……誰が、『地震』を起こせる力があると信じた……?

 一度でも、鳥槻さんは『大蛇が地震を起こせる』なんて言ったか?



 鳥槻は、一回、深くため息をついた。


「あ〜〜〜あ〜〜〜あ〜〜〜あ…………バレちゃった……なんでかな〜〜」


 先ほどの切羽詰まった表情が無かったことのように、鳥槻の表情は愉しげに歪んでいた。


「俺の『嘘』はさ、完璧だったはずだろ……?」


 大雨に濡れてぐしょぐしょの髪をポリポリと掻きながら、鳥槻は呟く。



 『大蛇』は、先程までと変わらず、腕を大量に伸ばして桜を追う。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

(キリがなさ過ぎ……どういう事……!?)



 悠真は、明確に感じ取っていた。

 鳥槻の『波』に混じる『喜色』を。


 鳥槻は少しだけ口角を上げた嬉しそうな表情のまま、語り出す。


「いや〜、ずっと嘘ばっかついてると疲れるからね、もうどーでもよくなったことですし、『種明かし』しようかな?」


「『種明かし』……?」


「俺ね、いっぱいいるんだよね。『信者』がさ」


「は……?」


 サラリとした口調で、鳥槻は続ける。


「色んなところ渡り歩いて、『大蛇』サマを広めて、育てて、育成ゲームみたいな感じかな?」



 その言葉に、悠真ははっとして息を詰まらせた。


(広めた場所ごとに『大蛇』の能力を変えて伝えている……!?)



 無邪気に語る鳥槻に、悠真はつい疑問を漏らした。


「なんで……それを……やろうと思ったんだよ……」


 悠真の声色には、理解し難いという拒絶が含まれていた。

 それにも、鳥槻は少し早口で答える。


「『大蛇』サマは、信じてる人にしか見えない。つまり、誰も俺を罪に問えない。要するにさ、『影の実力者』みたいな? 俺を信じてる人だけで成り立つ楽園。作りたいんだよね」


「いや、は……?」


「だって、『誰にも知られない』『責任も問われない』『ただ支配するだけ』。それって、一番の理想郷じゃないか? だから……今までずっと、少しずつ少しずつ『俺の信者』を増やしてきたんだ。なのに……」


 鳥槻は、突然憤りを隠さず、地団駄を踏み出した。


「今日の今日で邪魔された……! あ〜めんどくせぇ! こうなったらもう全員……消そう」


 向けたその笑みは、ひどく幼いように見えた。


 その瞬間、また地面が大きく揺らいだ。

 『大蛇』の手が、三人へと迫り来る。

 明日「  な大蛇信仰」編 決着

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