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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
四章 「  な大蛇信仰」
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45話 「三夜目・法螺葺き」


 鳥槻さんの指示で、生贄の儀式に参加する二十数名の街人たちが、一列に並び、『大蛇』が待つという山の広場へと向かう。


 生贄の儀式は、鳥槻さんによると、『大蛇』に一人食わせ(殺させ?)それに加え、さらに金銭を差し出すものらしい。



 桜は一団の真ん中に置かれ、堂々と山道を歩く。


 俺と、鋼と、千夜も、一団の後ろの方で付いていく。


 吹き荒れる台風が視界を狭め、入り組んだ山道が牙を剥く。

 それでも、足を止めることはなかった。


─────


 しばらく歩いて行くと、突然先頭の歩みが止まった。

 そして、大きな悲鳴が響いた。


 俺は、その列の先を注視した。



「っ……!!」



 ……いた。



 『大蛇』が。



 鳥槻さんや太陽くんの証言通り、四つの目に、歪な角、大量の腕を生やし、下半身が『蛇』のようだった。


─────


 桜は『大蛇』を見た瞬間、淡い金属音を響かせながら、ゆっくりと刃を引き抜いた。


(アレが『大蛇』か……)


 桜の脳内によぎる、『生贄』の記憶。

 そして、『飢餓天狗カミ』への憎悪。


「……斬る」



 桜が大きく踏み込むと、濡れた泥が遅れて舞った。

 鈍い光を放つ刃が、『大蛇』へと向けられる。


 『大蛇』は、大量の腕を桜に向けて伸ばす。

 桜は全ての腕を高速で切り捨て、『大蛇』の大きな首を狙う。


 体内で血液を炸裂させ放つ、究極の抜刀術。


(『命日桜オビト・ザクラ』)


 雨の中でも、その刀の軌跡は、色濃く空に焼き付けられる。

 振り抜かれた刃は、『大蛇』の首を大きく刎ね飛ばした。



 ざわめく観衆たちの中から、張り詰めた声が響いた。


「無駄です……! 『大蛇』サマは、『無敵』なんです、だから……!」


「!」


 桜は刀を構え直し、斬ったはずの『大蛇』へと振り返る。


 そこには、元のとおりに戻った『大蛇』がいた。


 しかし、桜は驚かなかった。


(『再生』……いや、迦楼羅アイツと同じ書き換えの類……? 何にせよ……『弱点が無い能力を、神は与えない』。なら……)


 再度、桜は『大蛇』へと斬りかかった。


─────


 ざわめく人たちと、凄まじい動きで駆け回る桜を見て、千夜は呆然とした。


(『何もいない』のに……なんで……!?)


 千夜の目に映っていたのは、ただ宙に向けて刀を振り回す桜の姿だけ。


「…………」


 千夜は、悠真と鋼の心を読む。

 二人には、『大蛇』が見えている。


 そして、大勢の観衆たちの心を、順番に読んだ。

 全員、『大蛇』の事が見えていた。


(なんで……『私だけ』見えないの……?)



 最後に、鳥槻の心を読む。


(無駄だ……もう……だって、『大蛇』は……!)



「っ……!?」


 鳥槻の思考は、千夜には『悲観』しているようには読めなかった。


─────


「クソっ……!!」


 桜は、幾度となく『大蛇』を斬った。

 何度も、何度も。


(……底が見えない……!)


 手応えはある。

 なのに、全く効いていない。


 桜の脳内に最悪のケースが浮かんだ。


(まさか、本当に『無敵』……?)


 桜は、再度『大蛇』を斬り飛ばした。

 『大蛇』は、もはや反応すら示さなかった。


 『大蛇』から伸びた手が、観衆の一人へと向けられる。


「しまっ……!」



「っ……!!」


 伸ばされた腕は、人に触れることはなかった。

 悠真がその人を庇って押し倒し、寸前でかわした。



 しかし、大量の手は観衆たちにのみ向けられた。

 桜は伸ばされた腕を、観衆に届く前に片っ端から迎撃していく。



 それを見た鳥槻は、大きな声で叫んだ。


「『大蛇』サマは生贄が手に入らずお怒りだ……! このままでは、この街が……いや、国が危ない……! ここは、早くあの女を捧げるべきです……!!」


「はぁ……!?」



 その焦りと恐怖が、人づてに伝わる。



「そ、そうだ……元々あいつを捧げるはずだったんだ……!」


 ある人は、顔を伏せて、震えながら口走った。


「……無駄に抵抗したからって……俺たちまで犠牲になるのは、ごめんなんだよ……!」



「ちょっと待っ……!」


「止めるなよ……!!」


「っ……!」


 観衆の一人は、悠真を一瞬だけ見たが、すぐに目を逸らした。



 悠真の呼びかけに、応える者はいなかった。


 鳥槻への賛同の意見はだんだんと大きくなり、やがて、一つに束ねられた。


 『生贄の儀式を正しく遂行させる』と。



 観衆は、桜を追って駆け出す。


「嘘っ……!」


 その間にも、『大蛇』の腕は観衆へと伸ばされる。

 桜は、観衆と自身に向けられる手を斬りながら、観衆からも逃げざるを得なくなった。


(鬱陶しい……!!)



 桜は追われながらも、命を救うために刃を止めない。



「まずい……!」


 悠真と鋼も、観衆を止めようと足を踏み出す。



 その瞬間、千夜が叫んだ。


「もうやめてよ!!! 『大蛇』なんて、どこにもいないじゃん!!」



 空気が、裂けた。



 しかし、次に返ってきたのは、千夜への罵声だった。


「そんなふざけたことばっか言ってると、お前も一緒に生贄に……」


 そう叫んだ人の直ぐ側には、『大蛇』の腕が迫っていた。



 桜は、大きく刀を振り切り、その人に伸びた腕を粉々に消し飛ばす。



 その人の目に映った、零度まで冷え切った、紅い目。


「あんまり口を滑らすな」


「っ……!!」



 桜はそれだけ言うと、すぐに、また人々に伸ばされる腕を堕としにかかった。


─────


 悠真と鋼は、千夜の叫びに認識を崩されていた。


 『嘘』だと言う定義で、『いない』と言うのは分かる。

 だが、明らかに目の前にいるはずの『大蛇』を、千夜は『いない』と言い切った。


「…………」


 悠真の『波』からも、それは『本当』だった。

 千夜は、今までずっと嘘をついていなかった。



 踏み出そうとした一歩を、千夜に引き止められ、二人は固まる。


 それを見て、千夜は呟いた。


「ねぇ……あんたらには、何が見えてんの……?」



 悠真は、その言葉を聞いて、鋼に目を向けた。


「鋼、『大蛇』の正体、解明してくれるか? 俺は一回、みんなを止めに行く」


 鋼は、一瞬だけ目を見開くも、すぐに頷いた。


「分かった、任せて。絶対に当ててみせるから」


 それを聞いて、悠真は少し笑った。


「さすが高学歴」


 それに、鋼も笑った。


「誇れるもんじゃないけどね」



 悠真は、もう一度大きく頷くと、観衆へと駆け出していった。



「…………はぁ〜……」


 鋼は、一度、大きく深呼吸した。

 極限状態で鋼は思考する。


─────


 整理しよう。


 まず、『大蛇』はいた。

 でも、千夜さんだけが見えていない。


 そして、鳥槻さんのあの明らかな扇動。

 それでも、鳥槻さんが『嘘』をついているとは思えない。

 現に、『大蛇』は『いる』。



 いや、待て。


 僕も、悠真も、一度も鳥槻さんを『疑ってない』


 悠真は『波』が読める。

 なら、怪しい点はいくらでも見つけられたはずだ。

 千夜さんと噛み合っていない時点で、違和感はあった。


 それなのに、『疑う』事をしなかった。


 そもそも、鳥槻さんの主張が正しいと思った、『根拠』はあったか?


 ……いや、ない。


 なのに、僕も悠真も、鳥槻さんの言葉はなぜか『正しい』と思った。



 ……『思わされていた』……?



 千夜さんと鳥槻さん、二つの相反する主張。

 仮に、どちらかが『嘘』だったとしたなら……



 千夜さんが嘘をつくメリットは無いはずだ。


 なら、鳥槻さんならどうだ?


 『大蛇』という存在を最初に提示したのは鳥槻さんだ。

 『大蛇』を信じさせることが、鳥槻さんにとって何かメリットがある……?


 なら、その『打算的な感情』を、なぜ悠真は読めなかった?


 もし、悠真の『残響』すら上回る『精神干渉』の能力を、鳥槻さんが持っていたとしたら?



 鳥槻さんの能力は、集団幻覚を起こす能力……?


 なら横山夫妻はなぜ死んだ?

 なぜ、目の前で桜さんは戦っている?


 『大蛇』は存在するのか? 他の人には見え、千夜さんには見えていない……?



 …………違う。


 逆か。



 『信じているのかどうか』が、認識できる『条件』なんじゃないか……?



 鳥槻さんの言葉を信じた人間だけが、『大蛇』を認識できる。

 最初から『嘘』だと読めていた千夜さんには、『大蛇』は認識できない。


 最初に『大蛇』を見た太陽くんも、父親と鳥槻さんの話を聞いて、『大蛇』を信じていたからこそ見えた。



 ……もし、これが正しいとするなら。


 元凶は───


─────


「悠真、分かったよ、『大蛇』の正体」



「『鳥槻さんの嘘だ』……!」


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