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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
四章 「  な大蛇信仰」
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42話 「一夜目・惨」


 涙目で縋り付く男に、悠真は片膝を付いて目線を合わせ、落ち着いた口調で問いかける。


「大丈夫ですから、落ち着いて、詳しく聞かせてもらえますか……?」


「はぁ……はぁ……わ、分かった……すまない、取り乱してしまって……」


 呼吸が整うまで待ってから、声をかける。


「じゃあ、話してくだ……」



 その時、千夜のお父さんが声を上げた。


「状況は知らんが、まぁ、お前ら全員一回上がれ。……千夜、ガキ共頼んだ」


「……え? あ、うん、分かった。行こう」


 千夜が家の中に入るように手招きする。


「いや、待って下さい、俺たちもその人との話を……」


「いい。ガキはこういうのに首突っ込むもんじゃねぇ」


 千夜のお父さんの『波』は、先ほどとは打って変わって、真摯だった。

 男の焦りようからも、ただ事ではない事は場のほぼ全員が分かっていた。


 ……一人を除いて。


 千夜だけは、違った。



「ほら、行こう」


 千夜は俺の腕を掴んで、家の中に引っ張っていく。


 その時、『波』が感じ取った。


(何か……知ってる……?)


─────


 千夜のお父さんは、男を連れて足早に居間に向かった。


 俺たち三人は千夜に案内され、二階の部屋へと向かった。

 案内している間、千夜は何かを考え込んでいるように、真剣な表情で眉間に親指を当てていた。



 二階の……千夜の部屋らしき所に着くと、千夜は、ぱっと明るい表情で振り返った。


「ようこそ我が城へ!」


「城?」


 千夜は笑いながら、俺と鋼に指さす。


「スーパー美女の部屋だからね、興奮するなよ男ども!」


「うん、今のところしてない」


「マジかよ〜やるね〜! あ、見て見て弟から盗んだエ◯本」


「不憫……」


 千夜が弟さんのソレを取り出した時、横で桜が吹き出したのが分かった。

 それを見て、千夜も吹き出した。


「これ、元々親父のなんだけどね? 弟が盗んで、ソレを私が獲った。全くウチの男どもは……(笑)」



 親父も不憫だ……


「ま、みんなそんなもんなんだろうけどね〜?」


 ソレをひらひらさせながら笑う千夜。

 そろそろソレしまってあげて、なんか……うん、心が痛む。



 千夜は机のなかにソレをしまうと、ベッドの上に腰を下ろした。


「四人入るには狭いと思うけど、我慢してね〜」


 千夜のマシンガントークは健在だが、その『波』には、何か不安を押し潰しているような感覚があった。



「それじゃ、改めて自己紹介しよっか! みんなの名前と〜趣味と〜好きな人とか?」



 千夜は楽しそうに話しているけど、やっぱり……



 千夜の笑顔が、ほんの一瞬だけ消える。

 そして、視線を斜め下に向けた。


「あの人が気になる?」



 千夜は、真剣な眼差しで俺を見た。

 そして、こう続けた。


「大丈夫だよ。『大蛇なんていない』から」


「「「えっ……?」」」


 千夜のその言葉に、三人とも呆気にとられた。

 やっぱり、千夜は何か知っているみたいだ。

 俺が口を開く前に、桜が千夜に問う。


「どうしてそう言い切れるの?」


 それに対する千夜の答えは、衝撃的だった。


「私、『心が読める』んだ」


「なっ……!?」


「心が読めるって言っても、断片的に単語が浮かんでくるだけなんだけどね? まぁでも、だから大蛇なんていないよ」



 『大蛇がいない』……?


 『波』からも分かるが、千夜が嘘をついている感じはしない。

 でも、さっきの男の人が言っていた事はおそらく『本当』

 少なくとも、嘘なんかじゃなかった。


 でも、心が読める千夜が『嘘』だと言った。



 『何もかもがおかしい』


 琉琉助の言葉を思い出した。


 大蛇信仰があると言ったのは琉琉助だ。

 未来が視える琉琉助が、嘘や噂の類で惑わされる訳がない。



「悠真……」


 桜も同じ疑問を持ったのだろう。

 俺に視線を預けた。


 俺の『残響』を頼りにしたのだろう。

 でも、俺もこう呟くしかなかった。


「どっちも……『本当』だよ」


「…………」



 その悠真の呟きを聞いて、鋼は考察する。


─────


 整理しよう……


 あの「男の人」の主張は、『大蛇がいる』

 最終的には『国が滅ぶ』まで発展していた。


 千夜さんの主張は、『大蛇は嘘』

 心が読めるため、これの正確性は高いと言える。

 断片的……というのが不安要素ではあるが……


 そして悠真の『どちらも本当』

 悠真は『波』で読み取れるから、正確性は間違いないはず。

 嘘をつくわけがないのも当然明確だ。


 そして最後に琉琉助さんが言っていたという、『大蛇信仰』の存在。

 本人も不確定要素が多いようだが、何もないなら未来の視える琉琉助さんがわざわざ僕たちを送らない……


 これらを総合的に判断すると、

 『大蛇は存在しないが大蛇信仰は存在する』


 この線が一番濃厚だろうか。

 男の人の主張も、信仰による集団心理現象せんのうの一つと考えれば、矛盾はしないだろう。


 つまり『信者』を増やすための宗教的活動……ということか……?


 でも、何かが決定的に足りていない気がする。

 引っかかりがある状態で結論を出そうとするのは早計だ。


 それに……僕にも、あの人が嘘をついているとは思えなかった。


─────────────────────


 悠真たちが二階で話している時、千夜の父は男の話を聞いていた。



「まぁ、落ち着いて話せ。お前、名前は?」


 男は、深呼吸して息を整えたあと、話し始める。


「名前は……『鳥槻とりつき かぶと』です。……早く、みんなに知らせてください、逃げないと、みんな……!」


「落ち着けっつってんだろバカ。で? 何なんだよその『大蛇』ってのは」


 兜は、身体を震わせながら話し始める。


「『大蛇』サマは……各地を転々としながら訪れた場所に不幸を振りまく伝説上の怪物です。大きな四つの目に、歪な角、そして大量の腕に加え、下半身が蛇のような姿をしています。そして、『決して死なず、完全無敵であり、人間の形を無惨に変えてしまう』……と、伝わっています」


「見たことあるのか?」


「はい。あります……そして、この村に向かっていると『神主』様が仰せられたので、今すぐ逃げるよう伝えに来ました……」


 千夜の父は黙って話を聞いていたが、ため息をついたあと、話し始めた。


「確かに、お前さんは『正直者』だよ。とりあえず、みんなに伝えるだけ伝えておく。でも、今すぐとなるとなぁ……それに……」


 千夜の父は、低い声で告げた。


「『見たことはねんだろ?』」


 兜はハッとしたような表情かおになり、すぐに頭を下げた。


「っ……はい。嘘をつきました。でも、大蛇サマがいるのは本当なんです……!」


「……わかった。とりあえず、連絡網だけしとく」


 兜は涙を浮かべながら、再度頭を下げた。


「ありがとう……ございます……!」


─────────────────────


 千夜のお父さんは、男の人の話を聞いたあと、家々を転々としているみたいだった。

 おそらく、『大蛇信仰』についての話だろう。

 俺たちには、その話はしてくれなかった。



 夕飯を近くのコンビニで買って食べ、千夜の家に泊まる。

 大きな家ではあるが、俺たちの部屋があるわけではないらしく、千夜と千夜のお兄さんの部屋を使わせてもらうことになった。


 千夜の弟は、『太陽』君と言うらしく、愛の鐘が鳴った後に帰ってきた。

 中学生くらい……だろうか。


 君の大事なアレがお姉さんに獲られてるよ……なんて、口が裂けても言えるはずなかった。



 鋼と二人で、千夜のお兄さんの部屋に泊めさせてもらう。


 今日、ずっと静かだった鋼はおそらく、ずっと『大蛇信仰』の件について考えていたのだろう。



「なぁ、鋼、大蛇信仰の件、どう思った」


 鋼は、エナドリを飲みながら、神妙な面持ちで話し出す。


「多分……大蛇は存在しないけど、大蛇信仰は存在してるんだと思う。おそらく……元凶はあの人じゃない」


「……やっぱり鋼もそう思うか」


「うん。もっと何か、大きな何かがあるんじゃないかな」


─────────────────────


 街の中の民家、【横山家 宅】


 横山家の主人は、ソファに横たわりながらテレビを見る。

 テレビには、『季節外れの大きな台風』が接近しているとのニュースが流れている。


「また異常気象かぁ……最近天気どうなってんだよ……なぁ、母さん」


 妻は、ご飯の支度をしながら、夫に答える。


「そうねぇ……土のう出さないと」



 テレビの音が、部屋に響いていた。

 妻は、夫のいるであろうソファに振り返る。



 そこには、『下半身』があった。



「……え……?」



 血痕などは見当たらない。

 ただ、まるで、最初から無かったかのように、忽然こつぜんと夫の上半身が消えていた。



 その後、妻の上半身もぱっと消えた。


─────────────────────


 翌日、横山家夫妻が、変死体で発見された。




 『大蛇は、存在しない』

 長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。

 これから5日間連続投稿とさせて頂きますので、どうかお楽しみに。

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