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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
四章 「  な大蛇信仰」
42/42

41話 「舌裏に表」


「悠真……本当に大丈夫なんだよな……?」


 清水の『波』は、喧嘩中もずっと重たく響いていた。

 清水も……泥甘に対して、思うところがあったのだろう。


「なんだよ、そんなに心配して、大丈夫だって……多分、あいつも」


 『心配』は、俺にだけ向けられているものでは無いのは、一目瞭然だった。

 それでも、最初から『関係を絶つ』ための喧嘩だった事は、清水も分かってる。

 だから、複雑な感情を、無理矢理心配で塗り潰している。


「……ずっとしんみりしててもらしくないし、皆でなんか食わね?」


「そう……だな」


─────


 金堕町から少しだけ外れた所にあるちょっとしたスイーツ屋に立ち寄る。



「クレープ……ケーキ……パフェ……どれにしようかなぁ……!」


 桜のテンションがダダ上がりだったのは、言うまでもない。


「鋼と清水は何にする? 俺クレープにするけど」


「俺ストロベリークリームパフェ」


「風貌に似合ってねぇ……!」


「うるせぇよ! 甘党なの知ってんだろ?」


「っはは……! ……………………」


 ……俺と清水の会話に、鋼は混ざってこない。

 やっぱり、過去の事を突然「さぁ水に洗い流せ」なんて、そりゃ無理な話だろう。


 だとしても、ずっと黙り込んだままだ。

 スイーツ屋まで歩く時のペースも何だか遅くて、話しかけても反応は薄かったし、よく聞き返してきた。


 でも、『波』を探っても、ストレスや怒りのような物はさほど感じられない。


 ずっと、何かを考え込んでいるようだ。



「なぁ、鋼は何食べる?」


「……え? あ、僕は……おかずクレープかな……」


「おかずクレープなの……? ここで……?」


「何だかお腹空いちゃってさ」


「まぁ確かに、朝ごはんそんなに食べてなかったもんね」


「うん…………」


 やっぱり、どこか上の空と言った感じだ。

 後で、理由聞いてみるか……?


 いや、でも、鋼は割と繊細な奴だから、変に刺戟して考え事を増やすのも良くない。

 鋼は、自分で答えを出せる奴だ。


─────


 スイーツ屋では、清水との思い出話に花を咲かせた。

 やっぱり、中学時代は色んな事があったなぁ……高校と比べて格段にヤバイ奴がいっぱいいたし。

 まぁ、それは人によるかもだけど。


 鋼の中高時代は、やっぱり勉強漬けだったみたいで、指がしょっちゅう腱鞘炎けんしょうえんになったらしい。

 それを聞いて、三人で尊敬しつつも、ドン引きした。

 ……やっぱり鋼の親怖い……


─────


「じゃあな悠真! 『彼女』大事にしろよ!」


「彼女じゃないって何回言ったらわかるのかな〜!? お前もマジで達者にな!」


「「う〜い!」」


 ということで、最後に清水とはグータッチルーティンした。

 その後、また何か清水がしんみりした事言い出しそうだったので、サムズアップだけしてさっさと別れた。

 湿ってるのは名字だけで良いんだよ。



 金堕町の宿泊施設に泊まるのはどうしてもイヤなので、さっさと町から外れて、別のビジホにチェックインした。

 今回はちゃんと予約しておいたから、しっかり三部屋確保できた。


─────


 鋼はいつものルーティンで買ったエナドリを、一人でじっくりと眺める。


 泥甘と悠真、清水の表情、そして、桜の『あの言葉』が、じんわりと刺さったままだ。


「はぁ……」


 そして、一気にエナドリを注ぎ込み、飲み干した。


「僕って、いつになったら『強く』なれるんだろうな……」


 空のはずの缶を、何度も傾ける。

 もう出ないと分かっているのに。


─────


 次の日からは怒涛だった。

 鏑谷に向かうために、ガンガン進んでいく。

 もちろん桜と俺の交代でランニングなので、毎日足パンパンだ。


 よくもまぁこんな遠い所を指示してくれたよ琉琉助……!

 あの人達なら自分で行けそうじゃない?

 なんでわざわざ俺たちなの? 尖兵扱い?

 まぁ琉琉助に限ってそんな事……いや、あり得るな……


 よく考えると、大学の春休み全献上してるんだけど。

 鋼と桜がいるとはいえ……友達と遊ぶ時間作りたかった……


─────


 悠真が金堕町を去ってから数日後

 歳神組 本部



 今の時代にそぐわない様な、大きく構えた屋敷。

 静かな昼を裂くように、その高い音のチャイムが鳴った。



「……何や……来客……? 聞いてるか?」


 連律は、横に立つ和装の女、『淑図しとと』に声をかける。


「……いえ、そのような予定は有りません」


「……じゃあ、誰やろな」


 ヤクザの事務所であるここに、わざわざ連絡もなしに訪れる人物。

 連律の脳内には、一つだけ心当たりがあった。

 最も、都合の悪い人物。


 そして、それは当たることになる。



「よぉ連律の『ジジィ』。久しぶりに会いに来てやったよ」


 インターホンのモニター越しに映る、陰気を纏い、真っ黒なスーツに帯刀した男。


「……『山本さんもと』……!!」



 連律のような裏の人間にほど、その名は轟く。

 『鎮静会』最強の男、『山本さんもと 五郎』がそこには居た。


「おいお前ら、丁重にしたれ」


「はっ」


 連律が声をかけると、部屋の奥から黒服の人間が、一人、二人、三人……と、ぞろぞろと出てくる。


 モニター越しに貧乏ゆすりをしている山本さんもとを見て、連律は大きく口を歪ませた。


(もう嗅ぎつけて来よったかあの地獄耳……まぁ、ええ度胸や)


「『朱雨』……」


 連律がそう呟くと、空中の水しぶきが集まるように霧となり、集まっていく。

 そして、一つの水の塊になったと思うと、その中から、一人の男が現れる。


「御意」


 現れたのは、黒に青を基調とした着物を身に付け、片目が白く濁り、片目が深い碧色あおいろをした、20代半ば程に見える男だった。

 さらに、八尺ほどもある異様に長い刀が、妙な異彩を放っている。


「もしかしたら今日、アンタの刀のサビが増えるわ」


「……承知」


 連律の言葉に応えるように、朱雨はゆっくりと目を瞑る。

 鞘の先から、雫が一滴だけ、垂れ落ちた。


─────


「御刀を拝借させて頂きます」


「あぁ、構わねぇ。ほらよ」


 ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、山本さんもとはゆっくりと鞘に入れた刀を、黒服の男に手渡す。

 あまりにも自然に手渡された黒服は、一瞬だけ動揺の仕草を見せるも、すぐに頭を下げた。


「有難う御座います。では、こちらに」



 黒服の男に、山本さんもとは刀を預け屋敷の中へと入っていく。



 山本さんもとが招かれたのは、ソファが対面で二つ置いてある、応接間だった。

 そこには、既に連律が綺麗な姿勢で座っていた。


「改めて、久しぶりやなぁ、山本さんもとさん。まぁ、座ってや」


 連律は、軽く会釈しながら、山本さんもとに掌を向けた。


「元気してたか? 連律」


「おかげさまでなぁ」


 山本さんもとは、連律をそれとなく観察しながら、ソファに腰かける。

 連律が拳を軽く握り締めたのが分かった。


「わざわざお茶まで出してもらうなんてよ、急に来たのに悪いな」


「いやいや、とんでもないわ。迎える側の礼儀ってやつや」


 山本さんもとはそれを聞いて、ふっと笑った。


流石さすが、昭和を生きてきただけあるな」


 その発言に、連律も頬を緩ませた。


「年齢イジりはヤメテや、悲しなるて」


「はははは、悪い悪い」


「ええでええで、すまんかったすまんかった」


 少しの間だけ、応接間に笑い声が響く。

 しかし、それは嵐の前触れに過ぎなかった。


 笑い声が収まり、一瞬の静寂が場を包む。


 先に口を開いたのは、連律だった。

 その目つきが、一気に冷え込む。


「で、山本さんもとさん、今日は何用で来たん?」


「あ、お茶、頂戴します」


 山本さんもとは、連律が話し終えてから、目の前の茶に視線を移した。

 連律は、一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに朗らかな笑顔に戻った。


「ええで」


 茶道の心得があるのか、山本さんもとは丁寧に作法を守りながら、静かにゆっくりと、それでいて豪快に茶を飲み干した。

 湯呑を置く音すら立てずに、ゆっくりと縁を回していく。


 その姿は、先ほどまでの態度と相まって、時間を妙に遅く感じさせた。


「……飲み方、そんなに気張らんくてもええのに」


 山本さんもとは湯呑から連律の目線へとおもてを上げる。


「礼儀なんで。それで、ここに来た理由だが……」


「っ……!」


 山本さんもとはまるで軽口のような口調で、話を持ち出した。

 突然の出来事に、場の生気が下がる。



『お前たちに、警告と落とし前を付けさせに来た』



 その言葉は、永いようで、短い静寂を生み出した。

 それを、連律は笑った。


「えらい直球やな……びっくりするわ」


 山本さんもとは、低い声で、冷静に続けた。


「『甚鬼』との接触が見られたと、ウチのもんから聞いた。確かに、ウソじゃねぇよな」


「……………………」


 連律は黙ったまま、山本さんもとを眺める。

 少しだけ、眉間にしわが寄っている。


「『勝手なことをするな』。俺からの警告はこれだけだ」


 その言葉に、連律は光の無い目で山本さんもと一瞥いちべつし、ため息を吐いた。


「ちょっと……調子乗りすぎちゃう? ここが何処か、忘れたとは言わせへんで」


「それで、『落とし前』の話だが……」


 凄む連律を無視し、話を続けようとする山本さんもとに、連律の背後に立っていた淑図しととが突っかかった。


「黙って聞いていれば貴様……若造には場の空気すら読めんのか……!!?」


 山本さんもとはほんの一瞬、淑図の表情を見ると、すぐに連律に視線を戻した。


「何年やってんだお前」


「っ……ぁ゙……?」


 その言葉は、連律の琴線に触れた。

 連律は額に青筋を浮かべながら、それでも笑顔は崩さなかった。


「『最強』や言われとる奴をな、引きずり落としてみたくなるのは、好奇心なんやろか?」


 連律は指先でクイクイと合図を出した。

 山本さんもとの背後に、霧が集まる。


 山本さんもとの首筋に、刃が触れた。


 山本さんもとはその男を見上げて、冷めた目を向けながら笑った。


「お前が『朱雨』か……『自身を自在に状態変化させる能力』……」


 朱雨は微動だにせず刃を当てたまま、片目を閉じた。


「小生を知っていたのか……」


 山本さんもとも、全く怖じる素振りを見せず、朱雨の碧色の目に視線を置いた。


「先の戦争で単独二千人斬りを成し遂げた宿老……だったか? の割には、随分若返ったみたいだが」


「……………………抵抗しないのか」


 あまりにも静かに自身を見つめる山本さんもとに、つい朱雨も、思わず言葉が漏れていた。



「別に喧嘩しに来たわけでも、殺し合いしに来たわけでもねぇ。俺はお前らに落とし前を付けさせに来てんだよ」


「…………傲慢不遜」



 朱雨は、首筋に当てた刃に力を込める。



「っ……!?」

「っ……え゙っ……」

「……かはぁっ……!?」



 その瞬間、鮮血を散らしたのは、山本さんもと以外の場の全員だった。



 連律は自らが吐いた血を見て、唖然とした。


(『銀』……!? 血に銀が混ざっとる……?)

「お゙ま……何した……!?」


 吐血しながら睨みつける連律を、山本さんもとはじっとりと見つめた。


「舌を二つに斬り、右耳を削いだ」


「こ……こな゙い゙な゙ごとじで……タダで済む゙と思とん゙のかぁ゙……!?」



 山本さんもとは、ゆっくりと連律に手を差し出した。


「触れたら赤子に戻せるんだろ?」


「っ……の゙……!!」



 震える手に、怒り、恐怖、プライド……全てを込める。


「っ…………」


 それでも、目の前の男に触れることは出来なかった。



 山本さんもとは、ゆっくりと立ち上がり、連律に詰め寄った。


「ぃ゙っ……」


「せっかく長い余生を手に入れたんだ……大事にしろよ……?」


 連律が、答えることは無かった。



 山本さんもとは連律から視線を逸らすと、さらに続けた。


「お前らはこの街の治安に多少貢献してる。場所には場所の治め方が有るのも分かってるつもりだ。だから見逃してやってた」


 ゆっくりと、自身を凝視する一人一人に視線を寄越した後、軽く瞼を瞑る。


「何企んでんのか知らねぇけどよ──


『次は、無ぇ』


─────


 歳神組の本部から出た山本さんもとは、自販機で買ったリンゴジュースを飲みながら、のんびりと歩く。


(今回の件、歳神組の抑制とだけ恒河に頼まれた……上層部や愉悦は俺を敬遠している……あの感じ、おそらく恒河は俺が知らない情報を知っているだろう。俺が関与するとアイツラにとって都合の悪くなる案件……)


「なんか雲掴んでる感じすんだよな……」


─────


 山本さんもとが去った後の組内は、静かだった。


 そこに、甚鬼がとぼとぼとした足取りで帰ってくる。

 そして、ベール越しにも目を泳がせながら、もじもじした口調で話しかけた。


「依頼処理……終わりましたけど……」


 その言葉に、連律は笑って答えた。


「悪いな゙甚鬼ちゃん、これで手切れや゙」


「……えっ……?」


 部屋に、しばらくの静寂が流れる。

 そしてすぐに、甚鬼の焦る声が響く。


「え……? な、なんでですか……? 私、そんなに仕事出来てませんでしたか……? あぁ……私は無能だからこんな簡単に切られちゃうんだきっとそうなんだぁ……ごめんなさい……」


 ベール越しに顔を覆う甚鬼に、連律は答えた。


「別に甚鬼ちゃんが……悪いわげちゃうで、でもなぁ、『お偉いさん』に釘刺され゙てもうてな゙」


「なんか……声……大丈夫ですか……? じゃ、じゃあ、その偉い人を、私が殺せって事ですよね……?」


 連律は、また笑った。


「フリ゙ちゃう。……ありゃ……人間や゙な゙いで」


「そう……ですか……??」


 甚鬼はニコニコと笑う連律を、首を傾げて眺める。

 甚鬼の目に映るその笑顔は、皺がやけに多いように感じた。


「せや゙、ほんま゙に触れ゙ちゃアカンもんが在る゙って、この年に゙なってやっと知れ゙たわ」


 誰にも見えないようソファの裏に埋め込まれた連律の手は、ずっと小刻みに震え続けていた。


─────────────────────


「もうすぐで着くな……『鏑谷』……大蛇信仰の場所……! あ、今度はこっち……」


 悠真はスマホで位置を確認し、進行方向を決めていく。


 悠真は、既に少し違和感を覚えていた。


(『大蛇信仰』なんて言うから、桜の時みたいに辺境の集落とかかと思ったけど……普通に民家ある田舎って感じだな……)



「あ、着いたよ。ほら、看板。『鏑谷』って書いてある」


 鋼が道路の上の標識を指さす。


「お〜〜ほんとだ。なんか……あんまり……普通だな……」



 辺りを見回すと、少し古めの民家と、現代的な民家がそれぞれ建てられ、広大な田んぼが広がっている。

 ぽつぽつと人も見られるし、何なら店もちらほらやってる。


 本当に……何かあるとは思えない……



「……着いたには着いたけどさ……先ずは何する……?」


「う〜ん……先ずは宿泊施設探すのが先じゃない?」


「あるのかな……こういうところって……」



 田んぼあるタイプの田舎に宿泊施設があるイメージがあまり無い(偏見)ので、とりあえずまたグー◯ル先生に聞いてみる。


「あ、民泊があるっぽい。とりあえずチェックインだけしておこう」


─────


「ここが民泊かぁ……」


 なんか異様な雰囲気がある……とかでもなく、ありふれた民家だ。

 和風で大きい家だから、凄みが無いわけじゃないんだけども。


「ここに泊まる……?」


「いいんじゃない?」



 民家を観察しながら、相談していると、民家の中からおじぃさんが出てくる。


「見ねえ顔だな。お前ら、誰だ? 泊まんのか?」


「あっ……!? えっ……ここの人ですか?」


「そうだよ、見てわかるだろバカ」


 おじぃさんは、何だか機嫌が悪そうな口調で続けた。

 『波』からは、別に機嫌が悪そうな感じはしないので、多分これが平常運転だ。


 また桜と鋼に声をかけてみる。


「……ここに泊まる……??」


「まぁ…………いいんじゃない?」


「うん…………ここ以外に無さそうだし……」



 おじぃさんは、はやし立てるように声を上げた。


「で!? 泊まるの? 泊まんねぇの?」


「あ、はい! 泊まります!!」


「チッ……早く決めろよバカ共が」


「……………………」


 なんだかんだあるけど、民泊が決まった。

 ……てか、あれ……?


 木の陰になってて、看板が見えなかったけど、まさかこの民泊……


─────────────────────


 男は、山の中を必死の形相で駆け抜ける。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 やばいやばいやばいやばいやばい……!!

 『大蛇』サマだ……! 『大蛇』サマ……!


 このままいけば……日本中が……!


 早く、早くこの街の人たちにも、伝えないと……!!

 まずは……町内会長さんの家に……!


─────────────────────


 ドアを開けると、広い玄関が広がる。


「お邪魔します。お世話になります」


「おうよ」


 家の中は意外と綺麗で、掃除されていて、木や土でできている壁が、確かな温かみを感じさせる。



「お〜い。『千夜』、来客だぞ〜!!」


 おじぃさんが、二階に向けて大声で叫ぶ。

 その声の直後、ドタドタと階段を駆け下りる音が響いてくる。


「え!? マジ!? ここ泊まるの!? 珍しー!!」


 階段越しに顔を覗かせたのは、金髪で美人な女の人……『千夜』と呼ばれていた。


 玄関前まで出てくると、その美貌が分かった。


 整った顔立ちに、メリハリのあるスタイル、どこをとっても、まさに美女と言った感じだ。


「うぇ〜!! 女の子もいるじゃん! てか何、男二人に女一人!? どーゆーかんけー!? 後で聞かせてよ!!」


「あの〜……えっと……『千夜』さん?」


「え〜!? なんで名前知ってんの!? 超能力!? 自己紹介してないよね!?」


「いや……さっきお父さんが……」


「『お義父さん』……!? 何!? ナンパ!? いきなり!?」


「いやちが……」


「まぁしょ〜がないよね! 私ったら『でぇなまいとぼでぇ』だし、『空前絶後の超絶美女』だし、そりゃ口説きたくもなりますわ!」


「…………………」


 ……ついていけねぇ……!!

 なんだこの圧倒感……初めての感覚……


「ついてこれない!? じゃあそっちが合わせるべき!! そうじゃない!?」


「あ……あの〜……そろそろ上がっても……」



「ホラ、千夜、くっちゃべってねぇで案内してやれ」


「……は〜い」



 おじぃさん……千夜のお父さんが進めてくれたお陰で、何とか助かった。

 あれはやばいわ……コミュ力のマシンガン過ぎる……


「ま、まぁ、じゃあ、改めて……」



「はぁ……はぁ……はぁ……あった……!! 町内会長の家……!!」


「……!?」


 男が、ものすごい形相で走り込んできた。

 町内会長の家……確かに、看板にも「自治会 町内会長」的な事は書いてあったけど……


 いや、とにかく、めちゃくちゃ汗ダラダラで、いかにも必死だ。

 まるで、バケモノから追われてきたような……


 男は、俺の服にしがみつき、縋り付く。


「え、ちょ、ど、どうしたんですか……!?」


 そして、枯れかけの声を絞り出した。


「『大蛇』サマだ……! 『大蛇』サマが……!!」


「『大蛇』サマ……!? それって……」


 桜と鋼に視線を移す。

 桜は、目を合わせて大きく頷いた。

 鋼も、驚きながらも縋り付きながら同じ言葉を連呼する男を注視している。


 男は、さらに続けた。


「この街は、いや、この国は、『大蛇』サマに滅ぼされる!!!」


─────


 千夜は、男を見ながら、手に顎を置いた。


「『嘘』……?」



 でも……『噛み合ってない』

 これ……気持ち悪いな。


─────────────────────


 大蛇信仰は、存在していない。


 次回 「  な大蛇信仰」 本格始動


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