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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
四章 「  な大蛇信仰」
39/42

38話 「お泊り会と溢れたジュース」


「予想以上にお金使い過ぎた……」


 財布の中を見ながら、冷や汗を浮かべてしまう。


 琉琉助から貰ったお金は10万円ほど。

 それが初日の晩飯だけで5分の一くらい無くなった。


 それに、正直俺個人のふところも寒いので、ビジホに泊まるとしても、そう何日もうかうかしている余裕は無さそうだ。


 「鋼はお金あるんじゃないの?」と思っていたが、なんか口座は親が管理してる(されてる)らしく、あんまり自由に引き出せる状態ではないみたいだ。


 それに、桜は当然の一文無し。


 ……きつい……! 

 思ってたよりもずっと……!


 が、まだ焦る時じゃないだろう。

 多分、多分。



 そんな時、横目にコンビニが見える。


「悠真、僕コンビニでジュース買いたい」


「私も飲み物欲しいな」


「……そだな」


 多分ジュース買ったくらいじゃ響かない。

 ……多分。


─────


 コンビニのジュースはフルーツ・オレが一番だと思ってる。(個人の感想)

 飲みやすいし、ほかのと比べてちょっとだけ安い。

 この数十円が、後々助けになると信じて。


 鋼は因みに缶エナドリを買った。

 本人も言っていたが、いつものルーティンなのだそうで、これは外せないんだと。

 ちょっとだけ他と比べて高いけど……まぁ、ね。


 桜は……


「これも美味しそうだなぁ……これも……あとこれも……」


 アイス棚に夢中になっているみたいだ。

 あまりにも目がキラキラしているので、お金の事を持ち出せない……

 でもどんどんカゴの中に入っていくスイーツ達。


 もう笑うしかない。


 さすがにこの量買われるとコンビニだけでえらいことになるので、桜に小さく声をかける。


「あ、あの桜、悪いけど3つまでにして……?」


「ああっ……」


 金欠なのはあんまり悟られたくは無かったが、『波』で勘付かれたのが分かる。


 桜は一瞬だけ寂しそうな顔をした。

 でも、直ぐに笑顔に戻る。


 綺麗な顔立ちが、余計に儚く感じさせる。


「分かった。後で三人で食べよう」


「……ごめんよ」


「いいよ全然。むしろ買ってもらってるのはこっちだしさ。ちょっと夢中になり過ぎてた」



 ……ほんとにごめんよ桜。

 コンビニスイーツくらい好きなだけ食わせてやりたかったよ……


─────


 そんなこんなでコンビニを後にし、ビジホに入った。

 カウンターのお兄さんに声をかける。


「ご予約はされてますでしょうか?」


「あ、してないです」


 お兄さんが口を開く前から、なんとなく『波』でわかった。

 これ、多分……


「すみません今一部屋しか空いてなくて……」


「あ〜……」


 やっぱりそうだった……

 ちゃんと予約しておけばよかった……

 こういう所でケチるのは違うだろ俺……!


「ちなみに、その部屋って、三人で入れたりってします……?」


「はい。トリプルルームとなっていますので、それでもよろしければ……」


 ……助かった……

 心臓が一拍、遅れて戻ってきた感覚がある。


「……じゃあ、それでお願いします」


─────


「へ〜……! 結構狭いね!」


「そりゃビジホですし……」


 部屋には、3つのベッドがぎっしりと詰められている。

 まぁ、泊まれただけ本当にありがたいと思おう。

 それに、次からは絶対に、ちゃんと事前に予約しよう。



 荷物を置いて、ベッドに寝転ぶ。

 沈むベッドに吸われるように、疲労が流れ落ちていく。

 こりゃもう動けないわ。


「私先にシャワー浴びていい?」


「あ、お先どうぞ」


「ありがと」


 桜がさっさとシャワールームに入っていく。


 実は、桜の分の着替えは千秋楽山を出る時に琉琉助が持たせてくれていた。

 本当に抜け目の無いサポートに、頭が上がらない。

 さすがは『未来視』だ。



「なぁ、悠真」


「何?」


 鋼が、俺に話しかけてくる。

 何だかその『波』は、温いような、変な感触がした。


 鋼は、こう続けた。


「悠真は、桜さんとどういう関係なの?」


「あ、それは……」


 疑っている……というか、照れている……というか。

 多分鋼は家の都合上、初心うぶなんだろうなと思った。


「嘘はつかないでね?」


「っ……」



 ……ごめん、鋼。

 ここだけ嘘つくわ。



「う〜ん……そうだなぁ……友達ってわけでも無いけど……本当に……仲間……みたいな感じかな」


 鋼は、疑うような眼差しをやめない。


「曖昧な答え方だね……やっぱりなんか隠してるよね」


「何? 恋愛的な面で言ってる?」


「う〜ん……どうなのかな……そう考えるのが自然なんだろうけど……なんか違う気がするんだよね。自分でも分からない」


「……そっか」



 やっぱり鋼は勘が冴えてる。

 ……こういうところは、見逃してくれない。

 いつかは桜の『罪』について明かすことになるのも、時間の問題かもしれない。


 ……それでも、言いたくなかった。

 こんなモノを背負うのは、俺と桜だけにしたかった。


 だから、誤魔化してしまった。



「言っちゃうと、全く恋愛感情は無いんだよね。多分、桜の方も同じだと思う」


「やっぱり、そうなんだ。ますますどういう仲か気になるなぁ……」


 鋼の『波』には、純粋な好奇心も混ざっていた。

 ちょっとニヤけた面を、俺に向けてくる。


「え? いや、本当にそういうのじゃないよ!?」


「じゃあどういうのなのさ?」


「いやだから仲間だって!」


「そーなんだー……」


「信じてないな!? じゃあ、なんだ? むしろ鋼はどうなんだよ!?」


「えっ!? ぼ、僕は……」


 大学生の会話とは思えない程にウブで幼稚な内容だ。

 それでも、何だか安心出来た。


 何より、話がこっち側に逸れて、本当に……よかった。



「上がったよ〜お先どうも~」


「あっ、桜」


「桜さん……」


 シャワーから上がりたての桜は、長い黒髪を流し、ふわふわさせている。

 さらに、シャツにショーパンときた。

 薄いシャツ越しに、引き締まった身体がよく分かる。

 鋼があからさまに照れているのがわかった。


 てか、やっぱり桜ってめっちゃ美人だな。

 多分普通に会ったら、俺もめっちゃ照れてたと思う。


 でも、『普通に』じゃなかったからこそ、今こうして笑ってる桜に安心できるのかもしれない。



「で、何の話してたの? 楽しそうだったけど」


「いや……えっと……」


「恋バナだよ、恋バナ」


 鋼が何か口走る前に、話を繋げる。

 桜は、俺が鋼に隠そうとしている事を、多分悟ってる。

 だからこそ、無理なくノッてくれた。


「へ〜! 恋バナしてたの? 私も混ぜてよ聞かせてよ」


「それじゃ、恋バナ大会でもするか!」


「じゃあ、話のさかなにスイーツでも!」


 桜が、今日買ったコンビニスイーツを取り出す。

 どれも綺麗で美味しそうだ。


 そして、突如、というより、半ば強引に恋バナ大会が始まった。


─────


「へ〜、悠真彼女いた事あるんだ〜」


「まぁ……高校の時に、ちょっとだけね」


「フラレたの? フったの?」


「フラレた。刺激が無いんだと」


「刺激ねぇ……平穏が一番ありがたいと思うけどなぁ……」



「……………………」



 僕は、ちょっとピンチかもしれない。


 悠真と桜さんの間に入って行けない……!

 なんか、悠真と桜さんの絶対領域感が凄い……!



「鋼はなんかエピソードある? 自分のじゃなくてもいいよ」


「あ〜……えっと……あ、僕の友達に────」



 悠真が積極的に話を振ってくれてるけど、なかなか会話が続けられない……!

 どうしよう、悠真と一対一なら全然余裕なのに……!



 察してくれたのか、悠真がまたフォローしてくれる。


「聞いてるだけでも全然いいからさ、あ、前俺の友達がさ────」



 悠真の話はどれも面白くて、盛り上がる。

 やっぱり悠真は話がうまい。



「あっ……!」


 ふと、悠真が笑った拍子に、ジュースが肘に当たって、溢れた。


「いや〜……不注意はダメだね……ちゃんと拭かないと怒られちゃうよ……」


「も〜……気をつけてよ?」


「ごめんごめん」



 溢したジュースすらも、ネタに変えてしまう。

 それにちゃんと反応できる桜さん…………

 なんだか、近くにあるからこそ、眩しくすら思える。


 僕は別に無理して盛り上げる役じゃないのは分かるけど……何とも言えない疎外感が……!

 楽しいんだけど……輪の中に入れてはいるんだけど……!


 やっぱり、気になる。

 どうして悠真がここまで桜さんを信用しきれているのか。

 ちょっと自分勝手なところはあるけど、確かにいい人だし、優しいし……可愛い。

 でも、それだけじゃない気がする。


 もっと、何か、別の理由が…………



 それを知るのは、一体いつなんだろうか。

 もしかしたら……ずっと分からないままなのかもしれない。


 それでも、知りたいと思ってしまう。

 …………どうしても。


 そんな気持ちを抱きながら、恋バナ大会は幕を閉じた。


─────


 俺と鋼も遅れてシャワーを浴び、寝間着に着替える。


 やっぱり疲れているみたいだ。

 ベッドに潜り込み、肩の力を解く。


 そして、二人も布団に入ったのを確認して、明かりを消す。


「おやすみ、鋼、桜」


「おやすみ」

「おやすみ〜」



 ……楽しい。

 本当に、楽しい一日だった。

 こんな日が、ずっと、ずっと、終わらなかったらいいな。


 なんて、もし漫画だったら、フラグになっちゃうのかな。

 ……考え過ぎか。


─────


 翌朝。


 布団から出て、カーテンを開け、朝日を浴びる。

 カーテンを開けた瞬間、桜が「やっ」と小さく言って、布団に潜り込んだ。


 眩しかったかな。

 桜は朝が弱い。

 でも、絶対に何とか起きる。


 そして、数秒の沈黙の後……


「うりゃ……!!」


 掛け声とともに、布団が蹴飛ばされる。

 桜が起きた合図だ。


 鋼は……


 いないな……もう先に起きてたみたいだ。


 そんな時、部屋のドアが開き、灰色の髪が覗く。


「あ、二人とも起きた?」


「おま……朝からエナドリ?」


「これがないと始まらないからね。あ、ちゃんと自腹だからね?」


「エナドリ好きだな本当に……」


─────


 朝には買っておいたコンビニおにぎりを食べ、エネルギーを摂取する。

 朝飯が無いと何も始まらないからね。


 そして、そろそろビジホを出るときだ。


 各々着替え、部屋を出る。


─────


「ありがとうございました!」


 ということでビジホを後にし、スマホ片手にまた『鏑谷』へと歩き出す。

 もちろん、マップを見るときは一旦止まってからだ。


「昼のうちに『金堕町』は過ぎたいから、ちょっと急ぎ目で行こう」


 今日はあのスラム、『金堕町』を通らなければならない。

 下手をすると本当に命に関わる場所だ。

 だから、夜、いや、夕暮れ時にはもう過ぎ去りたい。



 『金堕町』に近づくにつれ、街にゴミや落書きが増えてくる。

 まさに荒れ地と言った感じだ。


 こういうのにはあんまり慣れてないので、少しだけ足がすくんで重くなる。

 まあ、桜と鋼も一緒にいるから、そこまで不安ではないけど。


─────


「なんか……殺伐としてきたな……」


「そうだね……」


 昼の金堕町は、びっくりするくらい静かで、時が止まっているようだ。


「『夜にのみ動く町』か……」


 生ぬるい空気に、腐ったような甘い匂いがこびりつく。


 通行人がいないわけじゃないが、ゴテゴテのアクセサリーを付けた、何だか近寄りがたい人ばっかりだ。

 目が合っても、こちらが逸らすまでじっと見つめてくる。

 視線が突き刺すようだ。

 『波』も、街全体がぐしゃぐしゃに混ざり合って、神経を撫でていく。



 その時だった。

 不意に懐かしい声が聞こえた。

 やけに場違いな明るさだった。


「あれ? 『キーパン』じゃん! こんなトコで何してんの!?」


「……あれ? 『清水』? お前こそ、めっちゃ久しぶりじゃない?」


 『清水』は小・中学時代の友達だ。

 結構チャラいヤンキーだったけど、まさかこんな所で再会するなんて。


 清水は、鋼を見ると、はっとしたような表情かおになった。

 それを見て、俺もはっとした。


 だって、清水は……



「お前……あの時の灰色の髪のヤツだよな? 覚えてる? あの時はマジごめんな」


─────


 急に謝られて、動揺してしまう。

 悠真の友達……みたいだけど、何だかチャラくて、正直好きなタイプじゃない。


「えっと……誰でしたっけ……」


 『清水』と名乗った彼は、こう答えた。


「公園でお前をボコったじゃん! 小学生くらいだったと思うけど……いやホント反省してるからさ!」


 あっ………………

 もしかして……あの時の…………


 悠真を助けた時の……アイツ……?

 アイツと、悠真が、なんで……



 悠真は、僕の『波』を読んだんだと思う、焦ったようにフォローを入れた。


「あ、いや、中学の時に友達になってさ、本当に、悪いやつじゃないんだよ。あの時は……アレだったけど、仲直りしてさ……」


 ……そっ……か。

 悠真は、あんな事されても、仲直りできちゃうんだ。

 まぁ、そりゃそうだよね。

 レールガン構えた僕の事すら、見捨てなかったんだもん。

 僕にだけ特別とかは……無いよね。



 アイツは、悠真の隣に立つ桜を見て、笑いながら悠真に肩を組んだ。


「お前女作ったの? もうセッ……」


「言わせねぇよ? 違うよ? そういうのじゃないよ?」


 悠真もツッコミながらも、どこか楽しそうに見える。


 ……なんで?

 不快じゃないの? ……あぁ言うの。



 桜さんの方を見る。

 何とも言えない表情だ。

 苦笑い……じゃない。

 嫌悪感を出してるわけでもない。

 むしろ、なんなら、「そういうものだ」とでも言わんばかりに、静かに微笑んでいる。


 なんで?

 僕は……嫌だよ。

 あんな絡まれ方されたら。



 桜さんが、口を開いた。


「『キーパン』って、悠真のあだ名でしょ? なんでそれになったの?」


 ……むしろ、乗り気みたいだ。


 悠真は、俺の感情が読めているからか、何だか焦っているようにも見える。

 別に、気を使わなくていいのに。

 そりゃ、中学の友達と久々に会えたら、楽しいよね。


 アイツは、調子のいい声で続けた。


「コイツいつも予定表とか持ち物とか、テストの日程とかクラスラインに送ってくれてよ、『暗記パン』って呼ばれて、それが略されてって『キーパン』になったわけ。センスあるだろ?」


「黄色いパンツみたいだけどな」


「漏らしてそうか? ハハハハハハ!!」


 やけにうるさい声が響く。

 悠真も、桜さんも、何だか楽しそうだ。


 …………早く終わらないかな。



 やっと悠真が、アイツに手を振った。


「じゃ、また連絡するよ。会えてよかったわ!」


「おう! じゃ、またな!」



 やっと終わったか。

 僕は……もう二度と会いたくないな、アイツとは。



 悠真とアイツの二人が手を振り出した時、また別の軽く、不快な調子のいい声が響いた。


「アッレ〜? 清水、そいつお友達?」



 コイツも何だかチャラくて感じの悪い服を着ていて、金縁の丸メガネが反射でギラギラ光っている。


 その声が聞こえた瞬間、悠真と桜さんの目が、一気に鋭く尖った。


─────


 そいつの声が聞こえた瞬間、清水の波が一気に怯気をはらんだ。

 金堕町というスラム、そこにいた清水。

 やっぱり……こういうのとの繋がりは、あると思ってた。


 清水が、ぼそっと呟く。


「『泥甘でいか』さん……」


 『泥甘』という男は、こっちに適当に手を振りながら、歩いてくる。

 そして、俺を顔を覗き込むように、距離を詰めてきた。


「清水のお友達かな? 俺は泥甘。君は?」


「……悠真です」


 泥甘は、ふっと笑った。


「あ〜〜もう、敬語はナシナシ。だってもう俺ら友達だろ? 友達の友達は友達だよな?」


 清水が、泥甘の方を見て、軽く首を横に振った。

 泥甘は、それを気づいてか気づかずか、無視した。


 凄く嫌な感触のする『波』だ。

 やけに甘ったるくて、中途半端に蒸し暑い。


 泥甘は、ポケットの中から何かのパックを取り出した。


「じゃあ、友達のしるしに、これあげるよ」


「…………」


 中に入っているのは……『白い粉』

 おそらく……薬◯


「今ならここにいる全員分あげちゃ〜う。めっちゃ健康に良いやつで、ダイエットとかに使ってる人もいる、サプリ的なやつなんだよね〜」


 このままだと、ヘラヘラしているペースに乗せられる。

 だから、俺もあえてそのペースに乗る。


「いや〜! ごめんなさい! タダより怖いものはないって、おばあちゃんに何度も言われて育ってるので〜!」


 泥甘は、一瞬だけ俺をゴミを見るような目で見下した後、またヘラヘラとした表情に戻る。


「いや、おばあちゃんって、いつの時代やねんて!! も〜そんな知らん、ホラ、お友達だろ? な?」


「……お友達だからこそ、タダでなんて申し訳なくて、でも、持ち合わせもあいにく本当に無くってさ」


「じゃ助け合いだよ助け合い。気持ちだけでもさぁ!」


「気持ちは気持ちだけ受け取るよ〜。本当に、初対面なのにありがとう!! 助かるよ!!」



 鋼と清水は、その光景を見て背筋が凍った。


((二人とも……目が笑って無さすぎる……))



 桜は、二人の争いを既に理解していた。


(これは……先に手を出した方が負けのチキンレース……)



 だが、泥甘は早々に手を引いた。


「そっか……ま、無理強いは良くないよね。ま、ずっと友達だからな。……忘れんなよ」


 泥甘の『波』は、何処か普通じゃなかった。

 薬の影響か……それとも……

 あの『童子』に近いような何かがあった。


「ホラ、行くぞ清水」


「っす……」


 清水の『波』は、相変わらず怯えている。

 ……やっぱり、駄目だ、行かせられない……!

 見過ごせるわけがない……!


「……待ってください」


 突然呼び止められ、泥甘は怪訝けげんな表情で悠真に振り返る。


「……何?」


「清水と……もう少し話がした」


「ダメ」


 先ほどとは打って変わった、吐き捨てるような口調だった。


「…………」


「こっちも大事なおはなしがあるんだわ」


 ……ならばこっちも、単刀直入に行く。


「清水ともう、関わらないで下さい」


「は?」


 空気が一段と重くなる。


「そいつ、嫌がってるんで」


 泥甘は、悠真にまたヘラヘラした顔を向ける。


「あっそ? で? だから? 俺にどうしろと? 『関わらないで下さい』? それを大人しく聞くと思う?」


「いいえ」


 泥甘は、血走った目を見開いた。

 そして、俺を低く睨みつける。


「お前それ……喧嘩売ってるって事で良いの?」


「……そうですね」


 泥甘は、手を叩いて笑ったあと、直ぐに真顔に戻った。


「そーかそーか。じゃあいいぜ、お前が勝ったら、清水にはもう関わんねぇよ。でも、お前が負けたらどうすんだ?」


 ……もう、迷いなんか無い。


「お前のグループの傘下に下る」


─────


「……は?」


 その言葉に、手のひらが汗ばんでいくのが分かる。


 ありえない。

 こんなやつの為に、僕と桜さんの身まで危険に晒す気か……!?

 悠真…………君はどんだけお人好しなんだ……!?

 おかしいだろ……!!


 僕はお人好しな悠真がかっこいいと思うよ、でも、これは……違う……!


 なんで桜さんも何にも言わないんだよ……!


─────


 泥甘は、また手を叩いて大笑いした。


「良いね! かっこいいね!! ヤンキー漫画の主人公みたいだ!!」


 そして、笑い声が急に止まり、また真顔になった。


「反吐が出るよ」


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