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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
四章 「  な大蛇信仰」
38/42

37話 「お寿司ですってよ」

 時は少し戻り、悠真達三人は琉琉助達と分かれ千秋楽山を降りていく。

 正午を回る前に出ているが、先に少しごはんは頂いた。


 それに、琉琉助から「封筒」も。

 手切れ金のようで気は進まなかったが、確かな重みがポケットの中に居座っていた。



 悠真は、包帯はほとんど取れたが、やはり耳は片方削げたままだ。

 治りきっていない傷跡が、あの争いを過去のものにさせてくれない。


 平衡感覚にじんわりと残る違和感が、少しだけ歩幅を乱す。



 立ち止まって、スマホを片手にマップを見る。


「琉琉助が言うには、その『大蛇信仰』があるのは『鏑谷かぶらだに』って所らしい。かなり遠いし、あのスラムの『金堕町かなおちちょう』も通る必要がある」


 桜は、結んだ黒髪を風に靡かせながら、悠真に問う。


「随分遠いところなんでしょ? どうやって移動するの?」


「鋼のバイクに頼るしかないよなぁ……」


 鋼は「はぁ……」とため息をつき、困ったように手のひらにひたいを置く。


「……一度に乗れるのは二人までだからね。そもそも、二人ともバイク運転出来るの?」


 その問いに、俺と桜は首を横に振る。


「全く」

「免許持ってない」


「……だよなぁ……」


 それに、桜が提案する。


「じゃあ、鋼くんはバイクで、私と悠真が数キロ事に、交互で乗ればいいんじゃないの?」


「えっ!?」

「えっ…………」



 鋼は驚いたような高い声を出し、悠真は小さく反応した。

 鋼は照れるように少し頬を染め、悠真は空を遠い目で見上げる。



(お、女の子とバイクで二人乗り……!?)


(終わったこれ確実に数キロはランニングじゃん……バイクについていける気しねぇ……)


 鋼は、はっとしたような表情かおになり、照れを誤魔化すように頭を軽く振る。

 そして、少し早口で続けた。


「さ、桜さんはバイクについていけるの? 悠真の交互って、結構きついんじゃ……」


 鋼の心配に、桜は軽いトーンで答える。


「大丈夫。多分キミのバイクより、ガチった私の方が速いから」


 桜はドヤ顔で二人を見る。

 鋼はそれを真に受けて、唖然とする。

 悠真は、すかさずツッコんだ。


「軽車両?」


「誰が馬よ失礼ね」


「…………ははっ」


 悠真が笑ったのを皮切りに、三人とも笑い出す。


 久しぶりに、やっと訪れた「平和」だった。



「……………………」


 桜は、笑っている悠真をちらりと見る。

 その表情には、どこか少しだけ、「躊躇ためらい」のようなものがぶら下がっていた。


─────


 悠真は、桜の『罪』について、鋼に伝えていなかった。



 琉琉助がなぜ自分たちに最初から『あの事』を伝えなかったのか、なんとなく分かった。


 他人にも背負わせるのが恐いからだ。

 自己判断の責任を預けたくないからだ。


─────────────────────


「はぁ……はぁ……はぁ……!!」


「頑張れ〜」


 桜と鋼は、二人でバイクに乗っている。


 俺は、全力ダッシュで何とかバイクに食らいつく。

 車通りの少ない道を選ぶことで速度は落としているが、それでも限界ギリギリだ。


「ちょ……待って……マジ……きつい……!」


 汗ダラダラの状態でバイクの後ろを駆けていく。


「悠真〜そろそろ代わろうか〜?」


 桜が声をかける。

 それに、息も絶え絶えになりながらも答える。


「うん…………頼む……ほんとに……ヤバい……」



 バテながら道端で膝に手をつく悠真を見て、鋼はボソリと呟いた。


「そこそこついてこれてる時点でおかしいんだよな……」


─────


 バイクを道端に停め、桜が降り、悠真が乗る。

 そして、エンジンをかけ、走り出す。


 それに、桜が超速で道を駆け抜け、追いついていく。

 まるでパルクールのように街を縦横無尽に駆け回る桜を見た鋼が、目を点にする。


「本当に着いて来れるの……」


 桜の運動能力を知っていた俺も、苦笑いを浮かべてしまう。


「世界獲れそうだな……」


─────


 少しずつ日が暮れ、空に橙色が滲む。

 鋼はバイクを降り、三人で歩きながら夕焼けを進む。


 バイクを押しながら、鋼が声をかける。


「お腹すいたな……悠真、ご飯どうする?」


「う〜ん……そうだなぁ……」


 鋼と話している時、桜がどこかを指さして屈託のない笑顔で笑った。


「あそこにしよ」


 視線を移すと、遠くに回転寿司の看板が見えてくる。


「寿司がいい?」


「うん!」


「…………じゃあ、僕も賛成で」


 と言うことで、今日の夕飯は回転寿司に決定した。

 でも、鋼の『波』は少し変な感じがした。

 もしかしたら、前々からラーメン食おうって言ってたから、ラーメンが食べたかったのかもしれない。

 ……実は俺もラーメンの気分だった。


─────


 夕飯時だが、今日はたまたま空いてて、すぐにテーブル席に着くことができた。

 回転寿司のソファって、ふかふかだよな。


 桜がテーブルの上を見回す。


「お腹空いたなぁ……どうやって頼むの?」


「あ〜、そこのマイクの注文ボタン押しながら食べたいネタ言うと注文できるよ」


「へ〜。便利だね」


「この年(2035年)にもなるとね。色々とね」


 技術の進歩ってのは凄いもんで、最近の回転寿司は音声入力だけで注文できる。

 これにより、なんとタッチパネル争いがなくなった。

 しかも、存在しないメニュー、例えばマグロとサーモンとアジの三段盛りとかも、注文すれば出てくるのだ。



「じゃあ、早速頼んじゃおうかな!」


 桜が、ボタンを手に取る。

 そして、ボタンを押しながら声を上げる。


「じゃあこの……大トロとウニと…………」



 なんか高いものばっかり頼んでいるような気がするが、まぁ、うん、気にしないでおこう。

 体裁上にはなるが、勝利の祝杯……ということで。


 俺もボタンを押し、注文を伝える。


「……………………鋼もなんか頼めば?」


「そうだなぁ……僕は……シーフードサラダとカニカマとハンバーグ……」


「えっ……?」


「えっ」



 思わず声を上げてしまった俺を、キョトンと見つめる鋼に出た感想。


 なんで魚頼まないの?


 ……あ、もしかして「回らない」所でいいネタ食ってるから回転寿司では違うものを……的な感じか!?

 鋼ん家って確か金持ちみたいな事言ってたよな……

 てか、じゃないとレールガンなんて自作出来ないんだけどさ。


 ……羨まし。



 鋼は、俺の思考が見え透いているかのように、苦笑いを浮かべた。


「別にそんなんじゃないからね……? 舌が肥えてるとかじゃないから……」


「じゃあ、なんで?」


 鋼は、少し遠慮がちに続けた。


「それより、桜さんが高いのばっかり頼んでるから……」


「えっ」


 鋼の告白に、慌てて桜の方を見る。


「ん?」


 「何か用ですか?」とも言わんばかりにこちらを見てくる桜と、その近くに積み上がった黒皿の数々。

 黒皿は大トロやウニなどの高いネタが乗っている皿だ。

 つまり……これは……………


 桜は再度ボタンを手に取り、近づける。


「大トロ3巻追加で〜」


「ちょっっと待て……!!」


 少し目離しただけでこれかよ……!

 しかも全部高いやつじゃねぇか!!

 てか届くの速いな!!


「そんなに高いのばっかり頼むなよ……! 貰ったお金も旅代がメインなんだからな……!? そもそも自分が一銭も払わない側だという自覚を持って?」


 俺の必死の説得を、桜はにやりと笑って流した。


「せっかく生かしてもらったんだから、やりたいこと、やっとかないともったいないでしょ」


「うん。切ない感じ出して逃げようとしないで?」


 桜は届いた皿を手に取り、目を輝かせる。


「まぁまぁ。いいじゃない。ご飯くらいさ。それに、今回のMVPは私だし」



 何……!?

 MVPが桜だと……!?


「それは違うだろ! 俺が記憶ねじ込まなきゃ負けてたし!」


 桜も寿司をいっぱいに頬張りながら、反論する。


「ほれならわたひがいなきゃそもそもそこまでいけへなかったし?」


「何ぃ……!?」



 突如始まった不毛なMVP論争に、鋼も手を挙げる。


「それなら僕が来てなきゃ悠真危なかったよね?」


「っ……!!」

「確かに……!?」


 鋼も参戦し、MVP論争は激化する……かと思われた。

 しかし、続ける鋼の言葉は、この論争を終わらせた。


「全員MVPって事でいいんじゃないかな。とりあえず、店内だからさ……」



 あ、たしかに……

 ちょっと騒ぎすぎた……


「スンマセン……」

「ソーデシタ……」


 桜も反省しているのは『波』で分かる。

 その割には食べるペースに変化はないけど。



「それより僕が気になるのはさ……」


 鋼が俺の前のテーブルに視線を移す。


「なんで悠真は麺類しか頼んでないの……?」


「え…………寿司屋のラーメン美味いから……」


「寿司屋来たなら寿司食べれば……?」


 鋼のツッコミに、思わずはにかんでしまう。


「鋼が言う? それ……」


 そして、一瞬の沈黙が流れた。

 それを最初に破ったのは、桜だった。


「……ははっ」


 小さい笑い声が、少しずつ騒がしくなってきた店内に響く。


「フッ……!」

「ハハッ……!」


 それにつられて、俺たちもなんか笑ってしまう。


 戦いを乗り越えたMVP達による、『祝宴』だった。



 桜は、声を上げて笑う悠真を見る。

 そして、心の奥底で感じた。


(ちょっとは傷跡、治せたかな)


─────────────────────


 寿司を食べ終わり、店内を出る。

 お会計はぶっちゃけバカにならなかったけど、まぁ…………満足そうだったので良しとする。


 あの二人の笑顔には、それだけの価値があったから。


 それに、やっぱり、桜が明るくなってよかったと思う。

 あれだけ傷つけられ、穢されていた心を、今こうして少しずつでも癒せているんじゃないかと思うと、言い表せないような、何とも言えない気持ちになる。


 本当なら、弟たちとも……あんなふうに……


 ……やめた。



 まぁとにかく……本当にお金は洒落にならなかったけどな!!

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