36話 「懐疑的会議/下」
休憩時間も終わり、全員がまた席に着き直す。
愉悦君がまた前に立ち、話し始める。
「それじゃ、話の続きから。とりあえず、『嵐山 桜』について、みんなの見解を聞かせて?」
「殺す」
恒河が愉悦君の問いに即答する。
恒河はやっぱり殺す気満々みたいだ。
「老若男女問わない無差別殺人。同情の余地も理解の余地もあるか? 被害者が増えたら話にならねぇぞ」
いや……言ってることは正しいんだけどさ……
それに、愉悦君はさらに問いかける。
「てか、逆に聞くけどさ、みんな『嵐山 桜』とタイマンして、勝てるの?」
それに、各々答える。
恒河「殺れる」
刃織「恥を忍んで言わせてもらうが、厳しい」
皆既「ぶっちゃけ、真正面からはぼちぼちって感じかな」
甘夏「その娘が同性もイケるクチならワンチャン……? でも、ど突き合いはキツそう」
豪千「そもそも、精神干渉の条件が分かっていないんだ。純粋な戦闘力だけじゃ測れないだろ」
これ、ウチも答えなきゃダメな感じ……?
「えっと……タイマンなら見た感じ多分いけるかな……と……」
それに、甘夏さんが驚く。
「アレを見ていけると思えるなんて……サラちゃん、強いんだ」
「え、えへへ……でも、極力戦いたくはないです」
それを聞いて、皆既さんがまた笑った。
「だよね〜。俺も戦闘はゴメンかな。……あ、ファザーさんはどう思います?」
皆既さんが、後ろに静かに佇んでいたファザーさんに目線を移す。
ファザーさんは、低い声で答えた。
「制圧せよと言うのならば、手心は加えません」
「……ファザーさんらしいね」
一通り聞き終わると、愉悦君が口を開く。
「それじゃ、ボクの見解を言わせてもらうね。『嵐山 桜』は、〈S級犯罪者〉に認定する」
「はぁ…………!?!?」
その言葉で、一気に場が騒然とする。
いや、犯罪者にランク付けしてんの?
S級とか言われても基準が分からんのよ。
愉悦君の言葉に、皆既さんが答える。
「それって……『嵐山 桜』が、『雪之神』や『空虐』に並ぶって言いたいの?」
「えっ……!?」
『空虐』…………!? 『雪之神』…………!?
それって……二人とも『日本を落としかけた』伝説級の化け物じゃん……!?
愉悦君は、皆既さんの問いに、飄々と答える。
「そうだよ。『嵐山 桜』の力は、ちゃんと悪用すれば国を消せるよね」
その言葉に、皆既さんの目つきが鋭くなる。
「それならさ、S級と戦り合った『山本』さんの意見も聞きたいよね。なんで居ないの?」
『山本』さんの名前が出た瞬間、さらに場の空気が冷え上がった。
心なしか、あの愉悦君ですら冷や汗をかいているように見える。
「あの人は気が早いから、今日は呼んでないんだよね。だってあの人怖いじゃん」
皆既さんは、まだ何か言いたげだったが、ため息をついて、座り直した。
「じゃあせめて、君が付けてる『能力を無効化する奇物』。俺に貸してよ」
皆既さんは、愉悦君に手を伸ばす。
愉悦君は、ニヤけながら答える。
「嫌だ」
なにこれ……仲間割れ……!?
政府組織なんだから内部分裂はヤバいでしょ……!
あと、『能力を無効化する奇物』ってなんだよ!
皆既さんは、手を下げると、愉悦君を笑顔で睨みつけた。
「………………ま、いいや。話題逸らしてゴメン」
愉悦君は、「ふぅ……」と一息つくと、さらに続ける。
「それで、提案なんだけど……『嵐山 桜』の件は、皆既クン達に任せようかと思って」
それに、恒河が噛みつく。
「それって……俺たちに手出しするなって言いたいのか……!?」
「過激派は合ってないからさ」
「はぁ…………!?」
愉悦と恒河が言い合っている時、皆既は考察する。
(俺たちは基本的に、即刻制裁は下さない。情報を調べ上げ、かつ、性格や素行等を見るため、泳がせる。それを見越しての『嵐山 桜』の延命……? 愉悦は何を企んでやがる……)
「ま、でも、とりあえず『嵐山 桜』の件は、こっちで受けるよ」
皆既さんは、「その代わり……」と続けた。
「ファザーさんをうちの支部に貸してほしい」
「いいよ」
即答するんだ……
皆既さんも愉悦君も、何を考えているかまるで分からない。
てか、なんかもうスケールが違いすぎて、よく分からないし……
恒河は、大きく「チッ……」と舌打ちをした。
愉悦君は続ける。
「さて、『嵐山 桜』の件は、皆既クン達の支部に任せるとして……そうだ、あともう一つあったんだった。上層部提出の、犯罪者の■刑法案についてなんだけど……」
えっ……?
なんて言ったか、微妙に聞こえなかった。
でも、その言葉を聞いた全員の目が、光を無くした。
「「「「「「ナシ」」」」」」
「っ…………!?」
皆既さんも、恒河も、刃織さんも、果てはファザーさんまで、全員の声が完璧に揃った。
甘夏さんが、ボソリと呟く。
「しつこいんだよなあのエロジジィ共。何回拒否ればいいわけ……?」
豪千さんも、天井を見上げながら呟く。
「『山本』さんが表立って否定してくれればいいのにな。それなら、あいつらも諦めるだろ」
また『山本』さんの名前……
影響力のある人みたいだけど、気になる……
愉悦君はその答えに、事務的に返した。
「はい。じゃあ今回もそういう事で送っとくよ。それじゃ、今日の会議はこれで終わりかな。みんな、お疲れ様〜」
「やっと終わったぁっ……!」
「帰って飲み直そ」
「まだ酒飲むのかよ……?」
皆既さん、甘夏さん、豪千さんの三人は、真っ先に帰って行ってしまった。
まぁ……疲れてそうだったもんね。
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皆既は、帰りの車のなかで、二人に問う。
「今回の件……どう思った」
甘夏は、窓の外を眺めながら、髪を撫でる。
「そうね……『嵐山 桜』がヤバいのは分かったけど、それよりもやっぱり……」
「『蓮界 悠真』だよな」
「うん」
車を運転しながら、豪千も落ち着いた声色で話し出す。
「経歴書は明らかに真っ当な人間だったが……能力届けに出てる『残響』だな。アレが気になる」
「実は、俺もなんだよね。多分、『蓮界 悠真』は、本当に『善性』の人間なんだと思う。……見たか? 『嵐山 桜』の、目の色の変わり方。村人を殺戮したときは、自殺寸前の人のような目をしてた。なのに、『蓮界 悠真』と会ってから、目に光が宿った」
甘夏がそれに答える。
「口説いたってこと?」
「まぁ……遠からずかな。憶測でしかないけど、おそらく『蓮界 悠真』が、死を望んでいる『嵐山 桜』に、生きる希望を与えた。悪い言い方をすれば、『誑かした』かな」
皆既は、一呼吸置いて、さらに続ける。
「それと、『錆林 鋼』の経歴と、不自然な行動力。さらに、あの戦いの後も、共に行動している。彼も、『蓮界 悠真』に心から救われた側の人間だと、俺は予想してる」
それに、豪千も口を挟む。
「でもよ、それって、良いことなんじゃないか? 俺には、『蓮界 悠真』を責めようという気持ちは湧いてこないな」
「責めてる訳じゃない。その当時は、『蓮界 悠真』は、本心から二人を救おうとしたんだと思う。でも、考えてみてくれ、『蓮界 悠真』は今、『嵐山 桜』『錆林 鋼』という、国すら脅かし得る〈力〉を手に入れたんだ」
「つまり……?」
聞き返す甘夏に、皆既は少し俯いて答える。
「その善性が、今もあるか分からない。人が本性を表すのは、圧倒的な力を得た時だから」
「確かに……」
皆既は、「それに……」と続けた。
「人望と社会性と行動力のある『共感者』は、思想犯になりやすい。ぶっちぎりで、危険人物だよ」
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ウチは、帰りの車に、恒河と刃織さんと一緒に乗っています。
なんと、ウチの配属はここの支部だったらしいです。
刃織さんがいるのは嬉しいけど、恒河が怖ぇ……
あ、そうだ。
刃織さんがいるなら、聞けるじゃん。
「あの、刃織さん」
「? 何だ?」
「『山本さん』って……何者なんですか? 何回も名前が出てくる度に気になってて……」
刃織さんは、難しい表情になった。
そして、呼吸を整えてから、話し出す。
「サラは、『空虐事件』については知っているよな?」
「あ、はい。『日本の国土を半分寄越せ』の人ですよね。物心ついた時から小学校くらいまで、連日ニュースだったし、高校の教科書にも出てきたくらいなので」
「それは、学校では誰が『空虐』を抑えたと習った?」
「誰って……当時の自衛隊の人たちが制圧した……って……」
それに、恒河が反応する。
「教えてやるけどよ、それはウソだ。史実じゃねぇ」
「えっ……?」
学校で習ったことが史実じゃない……?
どういうこと……?
刃織さんは、淡々と喋りだす。
「単独で〈S級〉の能力犯罪者に認定されているのは、今日の件を除けば『空虐』と『雪之神』の二人だ」
「はい、『雪之神』の影響は受けました。日本全土に断続的に雪を降らせ続けて、インフラを崩壊させた人……ですよね。ウチも家潰れかけました」
恒河は、自信アリげに答える。
「そいつをぶっ飛ばしたのが俺と豪千さんだ」
「えっ……!?」
何……!?
恒河って、もしかして結構凄い人なの!?
刃織さんは、コホンと咳払いをした。
「それで、『空虐』の話になるんだが、詳しく話すぞ」
「はい」
「『空虐』は、〈神の失敗作〉の二つ名を冠する、史上最強最悪の『先駆者』だ。空を自身の肉体のように操る能力の『天空支配』を用いて、のべ八万人を虐殺し、九州、四国、そして、中国地方の一部を占拠し、日本政府に対して、『日本の国土を半分寄越せ』と要求した」
改めてちゃんとした情報聞くとエグいな……
てか、そっか。『先駆者』なのか、みんな能力使えない時代の話なんだもんな……よく当時の自衛隊勝てたな……
刃織さんは、さらに続ける。
「それを拒否した日本政府は、『空虐』という怪物の鎮圧のため、自衛隊を派遣し、さらに、海外からの軍事援助を求めたそうだ。しかし、『空を操る能力』を持つ空虐には、当時のどんな兵器も通用しなかった。いわゆる、『物理攻撃無効』。その圧倒的過ぎる力は、やがて、空虐を〈神〉と崇める者まで出始めた」
物理攻撃無効……?
え、勝ち目なくね? 終わりじゃね!?
「政府は、繋がりのある『先駆者』達にも協力を要請したそうだが、ほとんどに拒否され、空虐に挑んだ中に、生きて帰ってきた者は一人もいなかった。やがて、国際的に問題となり、外国では一個人に対する、『核』の使用すら検討されていたらしい」
これが……史実……
想像してたより、いや、習ったよりも何倍もヤバい……!
「それ、どうなったんですか……?」
ウチは、次に続く刃織さんのその言葉を、信じられなかった。
『当時非能力者の一般人が、一夜にして蹂躙し、空虐の首を持って帰って来た』
「は…………? え、ちょっと待って、まさか…………それが……」
刃織さんは、無機質な声で答えた。
「そう。それが、〈日の国の怪物〉『山本 五郎』だ」
「……………やっ……ば」
恒河は、呆然とするウチを尻目に呟いた。
「山本さん、今、何してんだろうな……」
恒河の声には、明らかな羨望が混ざっているのが分かった。
でも、ウチは改めて思ったね。
そんなおっかない奴に会いたくないんですけど〜!
やっぱりとんでもねぇ職場だったぁぁっ!!
次回 『山本の休日』




