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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
「S級能力犯罪者 『嵐山 桜』対策会議」
36/42

36話 「懐疑的会議/下」


 休憩時間も終わり、全員がまた席に着き直す。


 愉悦君がまた前に立ち、話し始める。


「それじゃ、話の続きから。とりあえず、『嵐山 桜』について、みんなの見解を聞かせて?」


「殺す」


 恒河が愉悦君の問いに即答する。

 恒河はやっぱり殺す気満々みたいだ。


「老若男女問わない無差別殺人。同情の余地も理解の余地もあるか? 被害者が増えたら話にならねぇぞ」


 いや……言ってることは正しいんだけどさ……



 それに、愉悦君はさらに問いかける。


「てか、逆に聞くけどさ、みんな『嵐山 桜』とタイマンして、勝てるの?」


 それに、各々答える。



恒河「殺れる」


刃織「恥を忍んで言わせてもらうが、厳しい」


皆既「ぶっちゃけ、真正面からはぼちぼちって感じかな」


甘夏「そのが同性もイケるクチならワンチャン……? でも、ど突き合いはキツそう」


豪千「そもそも、精神干渉の条件が分かっていないんだ。純粋な戦闘力だけじゃ測れないだろ」



 これ、ウチも答えなきゃダメな感じ……?


「えっと……タイマンなら見た感じ多分いけるかな……と……」


 それに、甘夏さんが驚く。


「アレを見ていけると思えるなんて……サラちゃん、強いんだ」


「え、えへへ……でも、極力戦いたくはないです」


 それを聞いて、皆既さんがまた笑った。


「だよね〜。俺も戦闘はゴメンかな。……あ、ファザーさんはどう思います?」


 皆既さんが、後ろに静かに佇んでいたファザーさんに目線を移す。

 ファザーさんは、低い声で答えた。


「制圧せよと言うのならば、手心は加えません」


「……ファザーさんらしいね」



 一通り聞き終わると、愉悦君が口を開く。


「それじゃ、ボクの見解を言わせてもらうね。『嵐山 桜』は、〈S級犯罪者〉に認定する」


「はぁ…………!?!?」


 その言葉で、一気に場が騒然とする。



 いや、犯罪者にランク付けしてんの?

 S級とか言われても基準が分からんのよ。


 愉悦君の言葉に、皆既さんが答える。


「それって……『嵐山 桜』が、『雪之神ゆきのかみ』や『空虐くうぎゃく』に並ぶって言いたいの?」


「えっ……!?」


 『空虐』…………!? 『雪之神』…………!?

 それって……二人とも『日本を落としかけた』伝説級の化け物じゃん……!?



 愉悦君は、皆既さんの問いに、飄々と答える。


「そうだよ。『嵐山 桜』の力は、ちゃんと悪用すれば国を消せるよね」


 その言葉に、皆既さんの目つきが鋭くなる。


「それならさ、S級とり合った『山本さんもと』さんの意見も聞きたいよね。なんで居ないの?」


 『山本さんもと』さんの名前が出た瞬間、さらに場の空気が冷え上がった。

 心なしか、あの愉悦君ですら冷や汗をかいているように見える。


「あの人は気が早いから、今日は呼んでないんだよね。だってあの人怖いじゃん」


 皆既さんは、まだ何か言いたげだったが、ため息をついて、座り直した。


「じゃあせめて、君が付けてる『能力を無効化する奇物』。俺に貸してよ」


 皆既さんは、愉悦君に手を伸ばす。

 愉悦君は、ニヤけながら答える。


「嫌だ」



 なにこれ……仲間割れ……!?

 政府組織なんだから内部分裂はヤバいでしょ……!

 あと、『能力を無効化する奇物』ってなんだよ!


 皆既さんは、手を下げると、愉悦君を笑顔で睨みつけた。


「………………ま、いいや。話題逸らしてゴメン」


 愉悦君は、「ふぅ……」と一息つくと、さらに続ける。


「それで、提案なんだけど……『嵐山 桜』の件は、皆既クン達に任せようかと思って」


 それに、恒河が噛みつく。


「それって……俺たちに手出しするなって言いたいのか……!?」


「過激派は合ってないからさ」


「はぁ…………!?」



 愉悦と恒河が言い合っている時、皆既は考察する。


(俺たちは基本的に、即刻制裁は下さない。情報を調べ上げ、かつ、性格や素行そこう等を見るため、泳がせる。それを見越しての『嵐山 桜』の延命……? 愉悦は何を企んでやがる……)


「ま、でも、とりあえず『嵐山 桜』の件は、こっちで受けるよ」


 皆既さんは、「その代わり……」と続けた。


「ファザーさんをうちの支部に貸してほしい」


「いいよ」



 即答するんだ……

 皆既さんも愉悦君も、何を考えているかまるで分からない。

 てか、なんかもうスケールが違いすぎて、よく分からないし……



 恒河は、大きく「チッ……」と舌打ちをした。


 愉悦君は続ける。


「さて、『嵐山 桜』の件は、皆既クン達の支部に任せるとして……そうだ、あともう一つあったんだった。上層部提出の、犯罪者の■刑法案についてなんだけど……」



 えっ……?

 なんて言ったか、微妙に聞こえなかった。


 でも、その言葉を聞いた全員の目が、光を無くした。


「「「「「「ナシ」」」」」」


「っ…………!?」


 皆既さんも、恒河も、刃織さんも、果てはファザーさんまで、全員の声が完璧に揃った。


 甘夏さんが、ボソリと呟く。


「しつこいんだよなあのエロジジィ共。何回拒否ればいいわけ……?」


 豪千さんも、天井を見上げながら呟く。


「『山本さんもと』さんが表立って否定してくれればいいのにな。それなら、あいつらも諦めるだろ」



 また『山本さんもと』さんの名前……

 影響力のある人みたいだけど、気になる……



 愉悦君はその答えに、事務的に返した。


「はい。じゃあ今回もそういう事で送っとくよ。それじゃ、今日の会議はこれで終わりかな。みんな、お疲れ様〜」



「やっと終わったぁっ……!」

「帰って飲み直そ」

「まだ酒飲むのかよ……?」



 皆既さん、甘夏さん、豪千さんの三人は、真っ先に帰って行ってしまった。

 まぁ……疲れてそうだったもんね。


─────────────────────


 皆既は、帰りの車のなかで、二人に問う。


「今回の件……どう思った」


 甘夏は、窓の外を眺めながら、髪を撫でる。


「そうね……『嵐山 桜』がヤバいのは分かったけど、それよりもやっぱり……」


「『蓮界 悠真』だよな」


「うん」


 車を運転しながら、豪千も落ち着いた声色で話し出す。


「経歴書は明らかに真っ当な人間だったが……能力届けに出てる『残響』だな。アレが気になる」


「実は、俺もなんだよね。多分、『蓮界 悠真』は、本当に『善性』の人間なんだと思う。……見たか? 『嵐山 桜』の、目の色の変わり方。村人を殺戮したときは、自殺寸前の人のような目をしてた。なのに、『蓮界 悠真』と会ってから、目に光が宿った」


 甘夏がそれに答える。


「口説いたってこと?」


「まぁ……遠からずかな。憶測でしかないけど、おそらく『蓮界 悠真』が、死を望んでいる『嵐山 桜』に、生きる希望を与えた。悪い言い方をすれば、『たぶらかした』かな」


 皆既は、一呼吸置いて、さらに続ける。


「それと、『錆林 鋼』の経歴と、不自然な行動力。さらに、あの戦いの後も、共に行動している。彼も、『蓮界 悠真』に心から救われた側の人間だと、俺は予想してる」


 それに、豪千も口を挟む。


「でもよ、それって、良いことなんじゃないか? 俺には、『蓮界 悠真』を責めようという気持ちは湧いてこないな」


「責めてる訳じゃない。その当時は、『蓮界 悠真』は、本心から二人を救おうとしたんだと思う。でも、考えてみてくれ、『蓮界 悠真』は今、『嵐山 桜』『錆林 鋼』という、国すら脅かし得る〈力〉を手に入れたんだ」


「つまり……?」


 聞き返す甘夏に、皆既は少し俯いて答える。


「その善性が、今もあるか分からない。人が本性を表すのは、圧倒的な力を得た時だから」


「確かに……」


 皆既は、「それに……」と続けた。


「人望と社会性と行動力のある『共感者』は、思想犯になりやすい。ぶっちぎりで、危険人物だよ」


─────────────────────


 ウチは、帰りの車に、恒河と刃織さんと一緒に乗っています。

 なんと、ウチの配属はここの支部だったらしいです。


 刃織さんがいるのは嬉しいけど、恒河が怖ぇ……


 あ、そうだ。

 刃織さんがいるなら、聞けるじゃん。


「あの、刃織さん」


「? 何だ?」


「『山本さんもとさん』って……何者なんですか? 何回も名前が出てくる度に気になってて……」


 刃織さんは、難しい表情になった。

 そして、呼吸を整えてから、話し出す。


「サラは、『空虐くうぎゃく事件』については知っているよな?」


「あ、はい。『日本の国土を半分寄越せ』の人ですよね。物心ついた時から小学校くらいまで、連日ニュースだったし、高校の教科書にも出てきたくらいなので」


「それは、学校では誰が『空虐』を抑えたと習った?」


「誰って……当時の自衛隊の人たちが制圧した……って……」


 それに、恒河が反応する。


「教えてやるけどよ、それはウソだ。史実じゃねぇ」


「えっ……?」


 学校で習ったことが史実じゃない……?

 どういうこと……?


 刃織さんは、淡々と喋りだす。


「単独で〈S級〉の能力犯罪者に認定されているのは、今日の件を除けば『空虐』と『雪之神』の二人だ」


「はい、『雪之神』の影響は受けました。日本全土に断続的に雪を降らせ続けて、インフラを崩壊させた人……ですよね。ウチも家潰れかけました」


 恒河は、自信アリげに答える。


「そいつをぶっ飛ばしたのが俺と豪千さんだ」


「えっ……!?」


 何……!?

 恒河って、もしかして結構凄い人なの!?


 刃織さんは、コホンと咳払いをした。


「それで、『空虐』の話になるんだが、詳しく話すぞ」


「はい」


「『空虐』は、〈神の失敗作〉の二つ名を冠する、史上最強最悪の『先駆者』だ。空を自身の肉体のように操る能力の『天空支配』を用いて、のべ八万人を虐殺し、九州、四国、そして、中国地方の一部を占拠し、日本政府に対して、『日本の国土を半分寄越せ』と要求した」


 改めてちゃんとした情報聞くとエグいな……

 てか、そっか。『先駆者』なのか、みんな能力使えない時代の話なんだもんな……よく当時の自衛隊勝てたな……


 刃織さんは、さらに続ける。


「それを拒否した日本政府は、『空虐』という怪物の鎮圧のため、自衛隊を派遣し、さらに、海外からの軍事援助を求めたそうだ。しかし、『空を操る能力』を持つ空虐には、当時のどんな兵器も通用しなかった。いわゆる、『物理攻撃無効』。その圧倒的過ぎる力は、やがて、空虐を〈神〉と崇める者まで出始めた」


 物理攻撃無効……?

 え、勝ち目なくね? 終わりじゃね!?


「政府は、繋がりのある『先駆者』達にも協力を要請したそうだが、ほとんどに拒否され、空虐に挑んだ中に、生きて帰ってきた者は一人もいなかった。やがて、国際的に問題となり、外国では一個人に対する、『核』の使用すら検討されていたらしい」


 これが……史実……

 想像してたより、いや、習ったよりも何倍もヤバい……!


「それ、どうなったんですか……?」



 ウチは、次に続く刃織さんのその言葉を、信じられなかった。



『当時非能力者の一般人が、一夜にして蹂躙し、空虐の首を持って帰って来た』



「は…………? え、ちょっと待って、まさか…………それが……」


 刃織さんは、無機質な声で答えた。


「そう。それが、〈日の国の怪物〉『山本さんもと 五郎ごろう』だ」



「……………やっ……ば」



 恒河は、呆然とするウチを尻目に呟いた。


山本さんもとさん、今、何してんだろうな……」


 恒河の声には、明らかな羨望せんぼうが混ざっているのが分かった。



 でも、ウチは改めて思ったね。 


 そんなおっかない奴に会いたくないんですけど〜!

 やっぱりとんでもねぇ職場だったぁぁっ!!




次回 『山本さんもとの休日』


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