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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
三章 「千秋楽山・決戦編」
34/42

34話 『理想主義者と狂宴家』


 その後も、怪我が治るまでしばらく滞在させてもらった。


 骨折は動いても痛まない程度まで回復し、喉の傷も、『仙薬』と呼ばれる、いわゆるすごい傷薬を毎日塗り続けたら、痛みはなくなって、はっきりと話せるようになった。


 削げた左耳はそのままだ。



 滞在している間も、ほとんど琉琉助に会うことはなかった。

 一緒に鍋を囲んだ時のあの笑顔は、やっぱり無理していたんだなと、改めて確信させられた。


 怪我が治ってからは、キュピーさんやお地蔵さんに、稽古をつけてもらった。


 桜がキュピーさんと互角にやり合っていたのを、俺と鋼は呆然と眺めるしかなかった。


 それと、お地蔵さんの本体……石狩仙人のいるお堂に、腕の謝罪と、助けてくれたお礼、それと、稽古をつけてくれた感謝をしに行った。


 「ごめんくださ〜い」と呼んだら、めちゃくちゃ小さい声で、「ど、どうぞ〜……」と返ってきた。



「本当に……ありがとうございました……!!」


「あ、いや、い、良いんじゃよ。腕も、全然……」


「……………………」


「……………………」



 石狩仙人は、ずっと地蔵を介して会話していたから、面と向かって会話するのは苦手だと、後でキュピーさんに聞いた。

 赫阿修羅戦の時にはっきり喋ってたのは、めちゃくちゃハイになってたからだそうで、本質は、「コミュ症おばあちゃん」らしい。


─────


 怪我がしっかりと治ってきたころ、琉琉助に呼ばれた。


 広場の切り株の上に、琉琉助は座っていた。

 こちらに気づくと、「や。」と手を挙げ、微笑んでみせた。

 やっぱり、取り繕っているのが『波』で分かった。


 俺は、琉琉助の座る切り株の前に歩み寄る。


 琉琉助は、一瞬だけ地面を見たあと、俺を見上げる。

 真剣な表情だった。


「悠真……ありがとう。こんな事に……巻き込まれてくれて」


「……………………」


 何も、言うことは出来なかった。

 どう返せばいいのか、俺には分からなかった。


 だから、少しだけ、恨みを投げた。


「……結局、俺たちが死ぬ確率は、どのくらいだったんですか」


 琉琉助は、俺に目を合わせて、はっきりと言った。


「23%」


「……………………じゃあ、琉琉助の死ぬ確率は……?」


 何故これを聞いたのか、自分でもよく分からない。

 痛み分けの確認でも、したかったのだろうか。


 琉琉助は、逃げることなく、答えた。


「62%」


「えっ」


 そんなに高いとは、思ってなかった。

 琉琉助は、こうも続けた。


「開戦前の〈分岐〉だと、鋼を庇って死ぬのが、一番可能性が高かった。でも、彼も俺の予想より、断然強かった」


 琉琉助は、また笑った。


「皆、強かったよ」


 やっぱり、返す言葉に困った。

 肯定も、否定も、合っていないと思った。


 琉琉助は、一呼吸置いてから、また、話し始めた。


「頼みがあるんだ。君たちにしかできない」


「何ですか……?」


「遠くの街や村で、『大蛇信仰』なるものが流行って、生贄を捧げる村まで出来ている。それの正体を突き止めて、打ち破ってほしい」


 それを聞いて、表情を曇らせてしまう。


「……争い事…………ですか」


「そうなるかもしれない。まだ分からない」


 『まだ分からない』と、琉琉助は言った。


「……つまり、争いごとになる前に、収められる可能性があるんですよね……?」


 琉琉助は、顎に手を当てる。


「……本当に、分からないんだよ。『未来視』でも、効果範囲と〈分岐〉の関係で、全く視えない。それに……明らかに今回のケースは、『普通じゃない』。おかしいんだよ、何もかも」


「普通じゃない……」


「うん。ここから、めちゃくちゃ遠い村が、問題の起こる場所になるのだけ分かってる」


 琉琉助は、再度俺を見上げる。

 綺麗だけど、薄い膜がかかったような、歪な目をしていた。


「受けてくれるかい……?」


 俺は、その決断をすることが出来なかった。


 確かに、困っている人がいるなら、助けたい。

 でも、俺には共に歩む人がいるし、何より、争いに首を突っ込んで、仲間が怪我を負うのは嫌だ。


「……もう少し、考えさせて下さい」


 琉琉助は、落ち着いた声で言った。


「ゆっくり、考えてくれ」



 多分、琉琉助は分かっているんだと思う。

 俺がこの頼みを断らないことを。

 それでも、一度、持ち帰らざるにはいられなかった。


─────


 そして、遂に千秋楽山を旅立つ日が来た。

 荷物を纏め、正午を回る前に三人で外に出る。


 鋼も、「ご飯を一緒に食べたいから」という理由で、一緒に来てくれることになった。

 凄く軽い理由だけど、鋼は

「そんなもんだよ、ぶっちゃけ僕は最初から、友達と小旅行しに来てるから」

 と言ってくれたので、気が楽になった。



 確かに、利用された。

 人の覚悟と、怨嗟と、暴力の影を直視させられた。

 この『傷』は、一生癒える事はないと思う。


 それでも、自分で選んだ道だから。


 ここに来た意味は、ある。



 俺は、傍らの琉琉助の、正面に立つ。


「琉琉助。頼み、受けるよ」


「……ありがとう」


 琉琉助のその感謝からは、少し、哀しさが感じられた。

 山風が、低く吹き抜ける。


 俺は、この『傷』を、他の人に付けてほしく無かった。


 息を吸って、言葉と心を整える。

 宣言するなら、琉琉助しかいないと思った。


「俺、敵も、味方も、関係なく救えるくらい、『強く』なりますから」


 口にした時、琉琉助の後ろに立つ石狩仙人の『波』が、一瞬だけ、強く揺らいだ。


 琉琉助は、肯定も、否定もせずに、淡々と答えた。


「分かった」


─────

「そう言えば……俺のロードバイクどうしたんだっけ」


「あ、完全に忘れてたけど、私の家と一緒に吹き飛んでた」


「……嘘だよね……?」


「ほんと」


「ま、まぁ……僕のバイクあるから……」


「三ケツしろと……?」



 歩いて山を降りていく三人の背中を眺めながら、石狩仙人は呟く。


「『敵も味方も関係なく救う』……そんなの、自らの身を滅ぼすに決まっとるじゃろう……」


 その目は、酷く、虚しかった。

 握り締めた拳が震え、薄い涙が浮かぶ。


「そんな非現実的な理想……何故、止めなかった……?」


 琉琉助は、石狩仙人を見ることなく、少し俯いたまま答えた。


「だって……『理想主義者ロマンチスト』だから」




 3章 「千秋楽山・決戦編」 完



─────────────────────



 赫阿修羅は、『要石かなめいし』の中に封じられ、自然消滅の時を待っていた。


(ふざけやがって……俺は……まだ……!)


 藻掻こうと、逃げる力も、永らえるだけの体力も残っていない。

 消滅までの時間は、ほとんど無かった。



「あ〜〜!! ギリギリ消滅してなかった〜!」


 夜の静寂を、子供の無邪気な声が掻き消す。


 そこには、丸い眼鏡に、大きさの合っていない白衣、そして、茶髪に紅葉のような赤いメッシュの入った少年が、ニヤけた笑顔で立っていた。


 少年は結界内に安々と侵入していく。

 そして、躊躇いなく、赫阿修羅の封じられている『要石』に手を伸ばし、持ち上げる。


「伝説級の妖鬼……最高の『素材』だぁ……!」


─────


「なっ……!?」


 琉琉助がそれに気づいたのは、『要石』が動かされてからだった。


 そこに、ボロボロに傷付けられたキュピーが、地面から生える。


「赫阿修羅がまずいです……!」



 一同は、一気に屋敷から飛び出す。


(『未来視』に映らなかった……!? まさか、これが『ズレ』の正体……!?)


─────


 琉琉助が辿り着いた時には、既に『要石』は結界外に少年に持ち出されていた。

 眩く赫い光を放つ石を少年は眺めながら、うっとりと呟く。


「これは『被験体No.108』のコアに……」


「おい!!」


 その少年の背中に、琉琉助は、怒鳴りつける。

 少年は、余裕のある表情で、ゆっくりと振り返った。


「バレちゃったかぁ。『未来視』対策はしてきたのに……勘のいいジジィは嫌われるよ?」


 石狩仙人は、この少年に『未来視』を越えられた事実に、驚きを隠せなかった。


「『未来視』を……どうやって……」


 少年は、ポケットの中から一つ、キーホルダーのようなものを取り出した。


「これはね、『能力を相殺する奇物』。こっちは、『透明化の能力者の魂を加工したもの』。くだらない覗き魔も、こんなふうに有効活用できるって事だよね」


 少年は、三人を嘲りながら、キーホルダーをぶらぶらと揺らしてみせる。



(……操作……できない……)


 キュピーは、木々を生やして攻撃しようとするも、森が動くことは無かった。



 琉琉助は、自身の『未来視』が看破された事が、信じられなかった。


「どういう……意味だ……」


 少年は、ポツポツと語りだした。


「老いぼれ共には分からないんだろうけどさ、技術の進歩は、既に『能力』のメカニズムを解明、抽出してるわけ。つまり……」


『ボクたちの手は、もう〈神〉に届き得るって事』


「……!!」


 その狂気的な言葉に、仙人達の背が凍りつく。


「そうだ。時代遅れの仙人達に、面白いモノを見せてあげるよ」


 少年は、鞄の中から、一つの大きなカプセルを取り出す。

 その中には禍々しい『何か』が、渦を巻いていた。


 少年は、カプセルを宙に投げ捨てる。


「おいで、『被験体No.86・〈異界幻獣イカイゲンジュウ反骨麒麟はんこつきりん』……!!」


「っ……!!」


 その瞬間、空気が捻じ曲がった。


 カプセルの中から、大量の黒い手足が無作為に生えた、おおよそ生物とは思えないモノが、這い出して来る。


 「ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙…………」という低い呻き声が、夜の森の中に木霊する。


 『それ』は、数ある腕の中から、一つの腕を掲げ、指を一本立ててみせた。

 すると、黒い塊が、大量に宙に浮かぶ。


「やれ。」


 少年の掛け声に合わせ、黒い塊が琉琉助達を狙って撃ち出される。


 琉琉助は脳天狙いの一発を避けるも、他は避けきることは出来なかった。


「ぐっ……!!!」

(弾幕の密度が多過ぎる……!)


 黒い塊は、仙人達の身体を大きく穿ち、周辺の木々をへし折っていく。

 それを見て、少年は顎に手を当てた。


「う〜ん……威力が思ってたより全然低いなぁ……これは改良の余地アリって事で」


 少年は背を向け、片手をポケットに手を突っ込みながら、もう片方の手を挙げた。


 すると、上空から小型のヘリコプターが降りてくる。


「というわけで、赫阿修羅君は貰っていくから〜」


 少年はそれに乗り込み、飛び立っていった。

 琉琉助は、それを見上げることしか出来なかった。


 そこに、凄まじい量の弾幕が襲い来る。


「クソッ……!!!」


─────


 少年は、ヘリコプターの中で、スマートフォンを弄る。


「あ、そうだ。明日、この辺の奴らで緊急会議するから、招集かけとく」


 その言葉に、付き人が反応する。


「それは何故ですかな?」


 少年はまた、ニヤリと笑った。


「単独で村を滅ぼした大量虐殺犯、『嵐山 桜』について、ね。」


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