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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
三章 「千秋楽山・決戦編」
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28話 「魂抜」


「…………やるしかない……ですよね」


 菊は堅く目を瞑った。

 まぶたの裏には、微笑みかける獬豸かいちの姿が映し出される。


「……はぁ…………」


 菊は恐る恐る鳥居へと歩み寄り、震える身体を何とか抑え、足を踏み入れる。


 「ざっ……」という土の音が漏れる。


「あっ」


 その瞬間、視界全てが赤紫色に弾けた。


「あ…………あ……あぁ……」


 尋常じゃない量の冷や汗が全身を伝う。



 目の前にある岩の中心に埋め込まれた紅い塊が、うぞうぞと蠢いている。


 やがてその塊は真っ赤な手の形に変形し、ぐちゃぐちゃと音を立てながら菊へと伸びていく。

 菊の身体は、金縛りにでもあったかのように全く動かなかった。


ニエの対価に何望む)


「ひっ……ぉ゙ぇ゙っ」


 脳内に直接語りかけて来る『声』に、頭の中を弄られているような感覚を覚える。


 真っ赤な手は菊の目の前まで伸びると、掌を大きく開いた。


(望みを言え)


「っ…………!!」



 菊を、圧倒的な恐怖が支配する。

 「死」に最も近く、少し違う。

 何か、別の異質な恐怖。


 菊は、嗚咽おえつしながらその問いに答える。


「や……やっぱり……嫌だ。死にたくないっ……!」


 菊は赫阿修羅からの制裁を覚悟し、目を伏せる。



 だが、赫阿修羅は菊に手を出さなかった。


「えっ……」


 ずるずると音を立てながら、真っ赤な手は岩の中へと戻っていく。

 薄暗い空間の中に、生温い風が吹いた。


「た……助かった……の……?」


 菊が一瞬、安堵の色を浮かべた刹那、目がぐるりと回り、膝から崩れ落ちる。



 そしてしばらくの静寂の後、あばらを押さえながらゆっくりと起き上がる。


「チッ……質の悪い依代からだ用意しやがって……」


 『それ』は口角を吊り上げながら背後を振り返る。


「お前達もそう思うよなぁ?」


 その目は黒く変色し、白金色の角が額を割り、血が流れ出してきていた。



「っ…………!」


「………………」


 振り返った視線の先には、桜とキュピーが居た。


 桜は刀に手をかけ震え、キュピーは冷静に佇みつつも、薄い冷や汗を浮かべている。


─────────────────────


 時は二人が迦楼羅を倒した直後まで戻る。


 山は崩れ、水浸しになっていたが、キュピーの能力で綺麗に元に戻っていく。


 桜は傷を再生させ、額の汗を腕で拭う。


「はぁ……終わった終わった。てか、私も結構びしょびしょなんだけど……」


 桜は服の裾を絞りながら、キュピーに抗議の視線を送る。


 キュピーは迦楼羅が気絶しているのを確認すると、桜に向き直る。


「いえ、終わっていません。ここからが本番です」


 その言葉に、桜の目が真剣に戻る。


「……まだ強い奴がいる……?」


 キュピーは一瞬だけ考えるような表情をした後、口を開いた。


「結論から言うと、『赫阿修羅かくあしゅら』は復活します」


 桜は何とか記憶を辿り、その名を思い出す。


「赫阿修羅……? えっ……と……あっ、復活させたら駄目なやつね?」


「そうです」


 キュピーの即答に、桜の目が鋭く尖る。


「その情報、琉琉助?」


「……はい」


「なんで復活を阻止しないの?」


「…………もとより、赫阿修羅は復活させる予定でした。復活させた上で、完全に消滅させます」


「なんでそれを最初から言わなかったの?」


「口止めされていました」


「……誰から?」


「琉琉助です」


 一通り質問した後、桜は大きなため息をついて、少しだけ黙った。


「……つまり、最初から私達は、赫阿修羅を殺すための戦力だった訳だ」


 キュピーは、悪びれることなく正直に答えた。


「そういう事になりますね」


 桜はさらに問いただす。


「でも聞いた感じ、戦力足りてないよね? 仙人が大勢犠牲出たらしいし。勝ち目、あるの?」


 的を得た疑問にもキュピーは丁寧に答える。


「『赫阿修羅』の真の恐ろしさは、理不尽な『初見殺しの能力』にあります。故に、知識と対策さえできていれば、戦闘は成立させられる」


(つまり、完璧な対策をしてやっと勝負になるレベルの相手……って事か)

「その『初見殺しの能力』って何なの……?」


「それは……」


─────────────────────


 桜とキュピーの二人は、早くも赫阿修羅と相対した。


 桜は赫阿修羅の気配を感じた瞬間に理解した。

 この存在の異質性を。


(まるで……大地が自身に殺意を向けてきているような感覚……! 『災害』そのもの……!)



 菊の中に入っている赫阿修羅は、不気味な笑みを浮かべながら、二人にゆっくりと近づいていく。


「変な名前の奴……と、見ない顔の小娘……お前、名前は?」


「……………………」


 桜はその問いに答えず、無言で刀を握り締める。


「……釣れねぇな」



(赫阿修羅の『初見殺しの能力』それは……)



 「会話に応じた対象を問答無用で即死させる能力」

 『三途さんず渡りの口約束』



 赫阿修羅は、肋の辺りを押さえながら首を回してゴキゴキと音を鳴らす。


「遺体くらいは綺麗な方が良かっただろうにな」



 桜の目の前に、拳が既にあった。


「っ……!!」


 キュピーは即座に割り込み、赫阿修羅に拳を入れ、地面から木を勢いよく生やして攻撃し、吹き飛ばす。



 土煙は一瞬で掻き消され、中に人影が映る。


「……この貧相な身体でも、意外とやれるもんだな」


(今ので無傷ですか……)



 桜は戦慄していた。


(今の攻撃をおっさんに庇われなければ、致命傷は免れなかった……何より、ほとんど反応できなかった……!)


 久々に、嫌な汗が背中を伝う。



 菊を依代とした赫阿修羅の身体は、少しづつ赤く変色してきていた。



 赫阿修羅という『災害』を相手にしてなお、キュピーは冷静に状況を見極めていた。


(奴はまだ『あの能力』を使っていない……依代に身体が馴染み切る前に畳み掛ける……!)


「はぁぁっ!!」


「!」


 キュピーは生やした木々を操り、一瞬で捻じるように巻いて赫阿修羅を拘束する。



(……ここで動けなきゃどの道死ぬ……!)


 桜は固定された赫阿修羅に一気に斬りかかる。


「……良い度胸だな」


 赫阿修羅は力づくで、自身を締め上げる木々を破壊する。


(まずい……!)


 キュピーは瞬時に木々を生やし拘束し直そうとするも、地面から生えた瞬間に足でねじ伏せられる。


 赫阿修羅は桜の攻撃を避ける素振りすら見せず、両手を広げる。


「っ……!!」


 桜はそのまま刃を振り抜き、斬り抜ける。



 赫阿修羅から血は、出なかった。


 桜は反撃を警戒し、振り返る。

 刹那、赫阿修羅の手刀が桜の喉笛を狙う。



「っ…………!」


 キュピーはその間に割って入り、腕を伸ばして手刀を防ぐ。


 その直後、キュピーの『首が』飛んだ。



「えっ嘘」


 桜はキュピーの身体が力なく倒れ、飛んだ首が転がる所を呆然と眺める。


 赫阿修羅は自身の手を見ながら感嘆かんたんの声を上げた。


「これは……依代に刻まれた能力か……? 中々良いモノだ」


 赫阿修羅は桜に視線を移す。


「次はお前だな」


「っ……!!!」


 刀を握った手がぶるぶると震えているのが、赫阿修羅の目に映る。



(最大加重弐拾噸(にじゅっトン)『層合気・練武・極』)


「!?」


 即座に赫阿修羅は背後に振り返り、攻撃を腕で防ぐ。

 その拳は着弾と同時に鈍く大きな衝撃音を放った。


「がっは……!?」


 凄まじい衝撃に、赫阿修羅は吐血し、白髪の女から距離を取る。

 赫阿修羅はその女を見て嗤った。


「……てっきり後追いでもしt」


「ようやく仇討ちの時じゃな赫阿修羅……!」


 石狩仙人は、血が出るほど拳を堅く握り締める。


「……まだ根に持ってたのか」


 瞬間、地面から尖った木々が生え、赫阿修羅を狙う。


「チッ……」


 赫阿修羅はそれを全て払い、地面から生えてきた「人間」に目を向ける。


「思い出した思い出した、お前は『それ』が本体じゃないんだったな」


 キュピーは構えたまま、少し笑った。


(『精霊』ですからね……!)



「まぁ……この山ごと消し飛ばせば何の問題も……」



バ/ギ/ャ/ァ/ァ/ァ/ァ/ァ/ン/!!



 レールガンの轟音が響き、弾が赫阿修羅の脳天を狙う。


「……っ!!!」


 赫阿修羅は超速の弾丸を見切り、寸前で回避する。


「避けんのかよ……!」

(でも……これはブラフ……! 本命は……)



(『層合気・練武・極』……!)

拾噸(じゅっトン)加重!)


 懐に入り込んだ琉琉助が、拳を叩き込む。

 それと同時に、背後から石狩仙人が上段回し蹴りを入れ込む。


「ハハハ……!!」


 赫阿修羅はそれぞれの手で攻撃を防いで身を守り、鈍い衝撃音が響く。


「もう終わりか?」


 琉琉助は赫阿修羅を睨みながら、少し笑った。


(いや、本命は……)



(こっちだ……!)


 飛びかかった悠真が、赫阿修羅の頭目掛けて手を伸ばす。


(『記憶の逆流(メモリー・リバース)』……!!)

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