25話 「火鼠」
飛ばされた迦楼羅の首は、直ぐに紅い炎を纏って燃焼し、元に戻る。
「舐めんな!!」
迦楼羅は炎の羽根を桜とキュピーに向けて飛ばすも、桜はそれを全て捌き、キュピーは木の盾を生成し防ぐ。
(『炎翼』の攻撃に対応されるようになってきたな……なら……!)
迦楼羅は紅炎を纏って翼を再生させ、大きく羽ばたいて桜との距離を詰め、ナイフ状に構えた羽根で斬りかかる。
「ぐっ…………!!」
(やっぱり重い……!)
桜は刀で受け止め吹き飛ぶも、片手で木につかまって回転し、勢いを殺して地面に着地する。
(火を消せば良いという仮説が正しいなら……)
桜は自身の刀を思い切り掌で握り締める。
そして、握り締めたままゆっくりと引き抜き、刀を血で濡らす。
(何してんだコイツ……!?)
迦楼羅がたじろいだ一瞬を狙って、桜は再度超速で距離を詰め、斬りかかる。
「っ…………!?」
浅く裂かれた迦楼羅の皮膚からは、「血」が滲んでいた。
(やっぱり……一部だけでも火を消せれば、治るとはいえちゃんとダメージが通る……!)
「血、出るんじゃん……!」
桜はその後も連撃を繰り出し迦楼羅を切り刻んでいく。
「ぐっ……!」
迦楼羅も応戦し羽根を振るうが、対応しきれず浅い切り傷が増えていく。
「クッソ……!」
迦楼羅は翼を大きく羽ばたかせ距離を取り、傷口を「燃やして」瞬時に直す。
(『命日桜』)
宙に逃げた迦楼羅を追い超速の居合を繰り出す。
迦楼羅の首は宙を舞うも、直ぐに炎に包まれ再生する。
それでも桜は自身の刀を握り締め再度血で濡らし猛攻を仕掛ける。
「ぁ゙ぁ゙もう鬱陶しいなぁ!!」
迦楼羅も大きく羽根を羽ばたかせ桜に攻撃を仕掛ける。
しかし、迦楼羅の突撃は桜に見切られ弾かれる。
「はぁ!?」
(奴は羽根を飛ばし切ったら一瞬のリロードが必要で、突撃は羽根がほぼフルである時しか使えない……羽根を飛ばす攻撃が通じないとすれば、相手はもう突撃しか攻撃手段ないでしょ)
桜は一瞬、鋭い目つきでニヤリと笑った。
そして、再度大きく踏み込み、息もつかせぬ猛攻を繰り出す。
「ぐっ……!! このっ゙……!」
桜の刃は迦楼羅の肉体を切り裂き、鮮血が散る。
迦楼羅は羽根を突き立て桜を狙うも、瞬時に腕が叩き切られる。
「……!」
空を切る刃の音と重なって、ごうごうと火が焚かれるような音が絶えず響く。
迦楼羅は、異様な感覚を覚えていた。
自身の方が『能力』が格上であり、絶対に負けることなどない。
現に、これだけの攻撃を受けても、浅い傷しか受けず、それすらも直ぐに元に戻る。
相手の無駄とも言える猛攻に、迦楼羅はいつしか「恐怖」していた。
(絶対に負けないはずなのに……俺は無敵のはずなのに……こんな女に……この程度の奴に……! 勝てる気がしない……!)
「ぐぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙っ!!」
迦楼羅は叫び声を上げながら、桜に羽根を向ける。
(あっ。)
顔を上げた時に、目が合った。
血の滲んだような桜色の目と。
完全に「怪物」の目をしていた。
知っている。
この目を知っている。
戦う事以外の全てを捨て置いた人間の目を。
『水銀』の冷たさを。
「ぉ……お前もかよぉっ!!」
迦楼羅は一気に距離を取り、桜の猛攻から逃れようとするも、直ぐに桜はそれを追う。
桜の太刀筋に、迷いは微塵もなかった。
─────
悠真は変なところで優しいから、それが災いして、踏み込んだ先にいろいろな苦難が待ってることは目に見えてる。
でも、私はその優しさを捨てないでほしい。
いつまでも綺麗事を捨てないでほしい。
私がそれに救われたように、他の人もそれで救ってあげてほしい。
悠真に『理想』を捨てさせないことが、今の私の生きる意義だから。
私が罪を許される事なんてあるはずがない。
私は人を救える側の人間じゃない。
でも、人を救える側の人間を、守ることは出来る。
だから、災いを穿つ刃になる。
─────
桜が迦楼羅の喉元に刃を突き立てたその時。
「すみませんが、時間切れです」
キュピーの声に、二人は目を向け、そして、絶句した。
キュピーの頭上には、とてつもなく巨大な『水の塊』が、宙を浮いていた。
「は……こんなの……何処から……」
(ちゃんとリサーチはして来た……この山付近にここまでの水を持つ川は流れていないはず……!)
「知っていますか? 山は、『自然のダム』なんですよ。木や土が吸って、貯めてきた水を少し拝借させてもらったんです」
迦楼羅は、呆然と『水の塊』を眺めることしかできなかった。
「どうやって……」
迦楼羅の問いに、キュピーは微笑んで答えた。
「私は山の事を愛してますから。土の隙間や、砂利の間に貯められた水の粒を集めるくらい、少し集中すればなんてことはありません」
(ありえない……馬鹿げた『能力』の練度……!)
「終わらせましょうか。『翠球温水』」
キュピーは巨大な『水の塊』を、迦楼羅目掛けて炸裂させる。
「……チィ゙ッ……!」
迦楼羅は翼を勢い良く羽ばたかせ、大量の水から逃げようとする。
(まずい……『覚醒能力』の再発動手段は割れてる……! 無言は肯定と受け取られるから再発動できな)
刹那、桜の斬撃が迦楼羅の両翼と腕を切り飛ばす。
「ふざけんなよクソアm」
「火遊びは終わりだナンパ野郎」
『水の塊』が叩き付けられ、山の一部が流され崩れ落ち、轟音が響く。
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「今の音……キュピーかな? もう迦楼羅がやられちゃうかぁ……」
『童子』は、頭をポリポリと掻きながら軽く笑った。
「やっぱすごいな」
それに、琉琉助も軽く笑ってみせた。
「だろ? 皆すげぇんだよ」
「あぁ。よく知ってるさ」
笑顔で軽口を交わす二人の目は、笑っていなかった。
「じゃあ、いきなり本題から入ろうか」
『童子』は、冷淡な声で告げた。
「君、赫阿修羅を復活させようとしてるよね?」
少しの沈黙の後、琉琉助は無表情で答えた。
「……あぁ。そうだよ」
「えっ……」
琉琉助の元に辿り着いたばかりの悠真は、その琉琉助の答を聞いてしまった。
「あっ」
琉琉助の悲しむような、傷ついたような眼と目が合った。
悠真は琉琉助の『波』を、注力して読んだ。
それが嘘である事に、最後の望みをかけた。
嘘じゃなかった。




