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ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
三章 「千秋楽山・決戦編」
24/42

24話 「狩人」


 時は少し戻る。



「追え。『炎翼えんよく』」


 紅く光る炎の羽が、桜目掛けて射出される。

 桜は向かい来る羽を全て叩き斬り、一瞬で構えた後一気に距離を詰め刀を振るう。


「っ…………」


 振りかざされた刃は迦楼羅かるらの腕を切り捨て、紅い火の粉が舞う。


「無駄だよ」


 一瞬、欠損した迦楼羅の腕の辺りが弾けるように燃えると、次の瞬間には完治している。


(斬っても火の粉が散るだけ……『彼岸に咲く血桜』の条件は満たせないし、そもそもなんで『鮮血の誓い』が効果ないんだよ……!)


「ほらほら!」


 無数の羽が桜を襲うも、桜は駆け回りながら木を遮蔽しゃへいとしそれを避ける。

 しかし全ての羽を捌き切る事は出来ず、切れた肌が火傷のようにただれる。

 しかし桜がその箇所に血を集めて血管を浮き上がらせると、ゆっくりと傷口が直っていく。


「へぇ。再生能力持ちか。……グロいけど」



 桜は冷静に、迦楼羅の能力のからくりについて分析していた。


(こいつの『能力』にあり得るパターンは3つ。1つ目は『シンプルな超再生』。2つ目は『残機性』。3つ目は『そもそもこいつが本体じゃないから無限復活する』。前者2つは何とか削り合いが成立するけど、3つ目だったら最悪……)


 桜は身を翻し、木を土台とすることで踏み込み、斬りかかる。


 桜の斬撃は迦楼羅の首を吹き飛ばすも、頭部で紅い炎が弾けた次の瞬間には元通りになっている。


「学習しないね〜」


「チッ……」


(見た感じ、斬られることにそこまで反応してない。だから『残機性』の線は薄まるか……? でも残機の残りが100くらいあるとするならこれだけで否定はしきれないか……それに、今考えれば『分身』を作るのが『覚醒能力』だとするなら、最初に現れた『覚醒能力』を発動する前の奴の存在の説明がつかない)


「飛べ。『炎翼』」


 迦楼羅の背中に生えた大きな炎の翼が羽ばたき、火の粉を散らしながら桜との距離を一気に詰める。


「っ…………!」


 迦楼羅は鋭い『炎の羽』をナイフのように手に持ち、斬りかかる。

 桜はその攻撃を刀で受け止めるも、迦楼羅が手に持った羽を振り抜くと弾き飛ばされる。

 桜は宙で身を捩り、木に垂直に着地し衝撃を逃がす。


(コイツ……パワーもあんの……!?)


「降参するなら……ま、命くらいは助けてあげてもいいけど?」


「ほざけ」


「……ほんとに可愛くな。顔は可愛いのに、もったいないね〜」


(……奴について分かっている事を整理しろ……まず、アイツの通常の『能力』は、『燃える羽』を生成し操る能力。奴は『炎翼』と呼んでいた。そして、私がナンパを断った事で発動したアイツの『覚醒能力』は、暫定で一番可能性が高いのはシンプルな『超再生』。時点で『残機が沢山ある』か。『分身』の線は否定できるから考えなくていい……)


 険しい表情で睨む桜に、迦楼羅はニヤけながらため息をついた。


「眉間にシワが残ったら、お嫁にいけないよ?」


「確かに、お前みたいな器の小さい奴にはめとってもらえないだろう……ね!」


 桜は一気に距離を詰め、攻撃を仕掛ける。


「またそれ? もういいって」


 迦楼羅は、異変を直ぐに察知した。

 

(いや、さっきと構えが違う。これは、突き?)


 その瞬間、桜は刀を迦楼羅の心臓辺りに真っ直ぐ突き刺す。

 それでも迦楼羅は、余裕の表情を崩さなかった。


「斬って駄目なら突いてみろって? そんな単純な話じゃな……」


 桜は刀の柄から手を離した。

 そして、突き刺した刀の『かしら』(持ち手の先端)の部分に水平に前蹴りを叩き込む。


「ぐっ……!?」


 刀が突き刺さったまま迦楼羅は蹴り飛ばされ、そのまま身体を貫通した刃は木を貫き、迦楼羅をはりつけにする。


「がっは……!」



 桜は既に結論を出していた。

 この圧倒的強者の狩り方の。


(『再生能力』は相手のほうが圧倒的に格上。削り「合い」は不利。なら……!)


 桜は大きく踏み込み、木に固定された迦楼羅に殴りかかる。


(「一方的に」再生限界までなぶり殺す!)


 桜は迦楼羅に凄まじい威力の右ストレートを繰り出す。


「っ…………!」


「舐めんなよクソアマが……!」


 迦楼羅は桜の拳を両手で受け止める。


「もう一発……!」


(……いや、待て。)


 桜は振りかぶった拳を止めた。


(コイツに生えてた『羽』、どこ行った……!?)


「しくった……!」


 桜は咄嗟に背後を見る。


 既に全方位に『炎翼』が張り巡らされ、切っ先がこちらを向いていた。


(刀を抜いて弾く……いや、間に合わない。まともにこの量食らって再生できるか……!?)


 桜は迦楼羅の方に振り返る。


 その瞬間、桜の顔面に拳が叩き込まれる。


「ぐっぶ……! がっ……」


(なんで!? 固定してたはず……! ……いや、そうか……! 『鮮血の誓い』の効果が無い時点で気づくべきだった…! コイツの能力は『再生』なんてレベルじゃない!!)



 これは……『結果の書き換え』……!?



─────


覚醒能力『魔女狩りの紅炎』


 自身に不利になる結果を焼き尽くし、無かったことにすることが出来る。

 物理攻撃はもちろん、精神干渉や概念攻撃にも耐性を持つ。


 自身に振りかかった害の『結果』を焼き尽くす事は出来るが、害を与えてきた本人を直接攻撃し排除することは出来ない。


─────


 吹き飛び地面を転がる桜に、無数の羽が襲いかかる。


「はい。終わり」


「っ…………〜!」


 無数の羽が桜に届く寸前、突然地面に穴が空き、桜は地面の中に消える。



 そして、地面の中から再度出てくる。


「ペッ……土、口の中入った……」


「……随分ピンチだったみたいですけど?」


「図ったかのようなタイミングね……」


「私の相手も強かったんで、ギリギリになっちゃいました」


「まぁ……ありがと。助かった」


 迦楼羅は桜を助けたその男を、『童子』から聞いていた。


「『森主しんしゅ』……!」


 キュピーは迦楼羅を一瞥し、笑顔で語りかける。


「聞いていますよ。迦楼羅さんですね?」


 迦楼羅は二人を見て、軽蔑するような眼差しを向ける。


「なんだよお前ら、パパ活か? ガチでキショいな……」


 それを聞いた二人は互いに目を合わせる。


「ぱ……なんて? 知ってます? 俗語には疎くて……」


「知らない。まぁ侮辱してんじゃないの?」


 キュピーは軽くため息をついた。

 その態度が迦楼羅の琴線きんせんに触れたのだろう。

 怒り狂って大量の羽を飛ばす。


「スカしてんじゃねぇぞ!」


 キュピーは迦楼羅を冷めた目で見ると、一瞬で木の防壁を張った。


「これは、燃えにくい素材の木なので、少しは保ちます。手短に行きましょう。アイツの能力は?」


 桜は刀を構えながらも話す。


「アイツの能力は『炎の羽』を操る能力で、覚醒能力は多分……『結果そのものを書き換える』だと思う」


「根拠は?」


「攻撃が全部再生されるのは前提として、精神に干渉する『鮮血の誓い』も通じないし、何より串刺しにしていたのに、抜ける素振りすら見せずに抜けられた」


「……なるほど。覚醒能力の条件は?」


「私がナンパ断ったから……」


 キュピーは口に手を当て唖然とした。


「断っちゃったんですか……!?」


「断るでしょ普通!!」


 木の防壁が段々と焼け、黒くなってくる。


「……では、奴の覚醒能力の発動時の特徴などはありますか?」


「う〜ん……」


 桜は思い出すように目線を左上に上げる。


「あ、毎回治るときは炎に包まれてる」


 それを聞いて、キュピーは目を細めて笑った。


「なるほど。大体カラクリは分かりました」


 それと同時に木の防壁を迦楼羅が破壊し、二人に炎の羽が飛んでくる。

 二人はそれを避け、迦楼羅から距離を取る。


「イチャイチャしてんじゃねぇよ……!」


 迦楼羅の罵声を二人は完全に無視する。

 そして、襲い来る『羽』を高速で避けながら、二人は会話を続ける。


「『神』は何においても、自身を上回る能力を人間に与えません。何故か分かりますか?」


「急に哲学……? 知らないけど……」


「自身に牙を剥いてきた時に、簡単に蹴散らせるようにするためです。それ故、どんな能力にも弱点や制限が必ずあります。かくいう私も、この森の中でしか能力使えないので」


「えっ……そうなの?」


「では、そのルールに則って考えると、弱点さえ突ければ、私たちでも簡単に勝てると言うことです」


 桜は疑わしげにキュピーを見る。


「でも……相手は『結果を書き換える』んだよ」


 キュピーは迦楼羅の攻撃を避けながらも、落ち着いた口調で話す。


「言い方が悪いですね。正しくは『結果を焼き尽くす』能力です」


「……何が違うの。それ」


「結局、本質は『火で焼くこと』なんですよ。つまり……」


「火を消せば良いのか」


「そういうコトです」


 迦楼羅は一気にキュピーに距離を詰め、攻撃を仕掛ける。

 キュピーはそれを簡単に払い、拳を叩き込む。


「ぐぶっ……!」


 キュピーは桜に向き直る。


「桜さん。検証と時間稼ぎ、お願いできますか? 集中しないと出来ないコトがあるので」


「分かった。でも……」


 迦楼羅は紅い炎をメラメラと輝かせながら二人を睨む。


「何をしたって無駄なんだよ……! 俺の『能力』の前じゃなぁ!」


 迦楼羅は無数の羽を二人に向けて飛ばす。

 桜は全ての羽を叩き落とし、一瞬で距離を詰め迦楼羅の首を刎ね飛ばす。


「っ…………!」


「悪いけど、私は時間稼ぎのつもりでやってないから」


 その目には、獲物しか映っていなかった。


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