24話 「狩人」
時は少し戻る。
「追え。『炎翼』」
紅く光る炎の羽が、桜目掛けて射出される。
桜は向かい来る羽を全て叩き斬り、一瞬で構えた後一気に距離を詰め刀を振るう。
「っ…………」
振りかざされた刃は迦楼羅の腕を切り捨て、紅い火の粉が舞う。
「無駄だよ」
一瞬、欠損した迦楼羅の腕の辺りが弾けるように燃えると、次の瞬間には完治している。
(斬っても火の粉が散るだけ……『彼岸に咲く血桜』の条件は満たせないし、そもそもなんで『鮮血の誓い』が効果ないんだよ……!)
「ほらほら!」
無数の羽が桜を襲うも、桜は駆け回りながら木を遮蔽としそれを避ける。
しかし全ての羽を捌き切る事は出来ず、切れた肌が火傷のように爛れる。
しかし桜がその箇所に血を集めて血管を浮き上がらせると、ゆっくりと傷口が直っていく。
「へぇ。再生能力持ちか。……グロいけど」
桜は冷静に、迦楼羅の能力のからくりについて分析していた。
(こいつの『能力』にあり得るパターンは3つ。1つ目は『シンプルな超再生』。2つ目は『残機性』。3つ目は『そもそもこいつが本体じゃないから無限復活する』。前者2つは何とか削り合いが成立するけど、3つ目だったら最悪……)
桜は身を翻し、木を土台とすることで踏み込み、斬りかかる。
桜の斬撃は迦楼羅の首を吹き飛ばすも、頭部で紅い炎が弾けた次の瞬間には元通りになっている。
「学習しないね〜」
「チッ……」
(見た感じ、斬られることにそこまで反応してない。だから『残機性』の線は薄まるか……? でも残機の残りが100くらいあるとするならこれだけで否定はしきれないか……それに、今考えれば『分身』を作るのが『覚醒能力』だとするなら、最初に現れた『覚醒能力』を発動する前の奴の存在の説明がつかない)
「飛べ。『炎翼』」
迦楼羅の背中に生えた大きな炎の翼が羽ばたき、火の粉を散らしながら桜との距離を一気に詰める。
「っ…………!」
迦楼羅は鋭い『炎の羽』をナイフのように手に持ち、斬りかかる。
桜はその攻撃を刀で受け止めるも、迦楼羅が手に持った羽を振り抜くと弾き飛ばされる。
桜は宙で身を捩り、木に垂直に着地し衝撃を逃がす。
(コイツ……パワーもあんの……!?)
「降参するなら……ま、命くらいは助けてあげてもいいけど?」
「ほざけ」
「……ほんとに可愛くな。顔は可愛いのに、もったいないね〜」
(……奴について分かっている事を整理しろ……まず、アイツの通常の『能力』は、『燃える羽』を生成し操る能力。奴は『炎翼』と呼んでいた。そして、私がナンパを断った事で発動したアイツの『覚醒能力』は、暫定で一番可能性が高いのはシンプルな『超再生』。時点で『残機が沢山ある』か。『分身』の線は否定できるから考えなくていい……)
険しい表情で睨む桜に、迦楼羅はニヤけながらため息をついた。
「眉間にシワが残ったら、お嫁にいけないよ?」
「確かに、お前みたいな器の小さい奴には娶ってもらえないだろう……ね!」
桜は一気に距離を詰め、攻撃を仕掛ける。
「またそれ? もういいって」
迦楼羅は、異変を直ぐに察知した。
(いや、さっきと構えが違う。これは、突き?)
その瞬間、桜は刀を迦楼羅の心臓辺りに真っ直ぐ突き刺す。
それでも迦楼羅は、余裕の表情を崩さなかった。
「斬って駄目なら突いてみろって? そんな単純な話じゃな……」
桜は刀の柄から手を離した。
そして、突き刺した刀の『頭』(持ち手の先端)の部分に水平に前蹴りを叩き込む。
「ぐっ……!?」
刀が突き刺さったまま迦楼羅は蹴り飛ばされ、そのまま身体を貫通した刃は木を貫き、迦楼羅を磔にする。
「がっは……!」
桜は既に結論を出していた。
この圧倒的強者の狩り方の。
(『再生能力』は相手のほうが圧倒的に格上。削り「合い」は不利。なら……!)
桜は大きく踏み込み、木に固定された迦楼羅に殴りかかる。
(「一方的に」再生限界まで嬲り殺す!)
桜は迦楼羅に凄まじい威力の右ストレートを繰り出す。
「っ…………!」
「舐めんなよクソアマが……!」
迦楼羅は桜の拳を両手で受け止める。
「もう一発……!」
(……いや、待て。)
桜は振りかぶった拳を止めた。
(コイツに生えてた『羽』、どこ行った……!?)
「しくった……!」
桜は咄嗟に背後を見る。
既に全方位に『炎翼』が張り巡らされ、切っ先がこちらを向いていた。
(刀を抜いて弾く……いや、間に合わない。まともにこの量食らって再生できるか……!?)
桜は迦楼羅の方に振り返る。
その瞬間、桜の顔面に拳が叩き込まれる。
「ぐっぶ……! がっ……」
(なんで!? 固定してたはず……! ……いや、そうか……! 『鮮血の誓い』の効果が無い時点で気づくべきだった…! コイツの能力は『再生』なんてレベルじゃない!!)
これは……『結果の書き換え』……!?
─────
覚醒能力『魔女狩りの紅炎』
自身に不利になる結果を焼き尽くし、無かったことにすることが出来る。
物理攻撃はもちろん、精神干渉や概念攻撃にも耐性を持つ。
自身に振りかかった害の『結果』を焼き尽くす事は出来るが、害を与えてきた本人を直接攻撃し排除することは出来ない。
─────
吹き飛び地面を転がる桜に、無数の羽が襲いかかる。
「はい。終わり」
「っ…………〜!」
無数の羽が桜に届く寸前、突然地面に穴が空き、桜は地面の中に消える。
そして、地面の中から再度出てくる。
「ペッ……土、口の中入った……」
「……随分ピンチだったみたいですけど?」
「図ったかのようなタイミングね……」
「私の相手も強かったんで、ギリギリになっちゃいました」
「まぁ……ありがと。助かった」
迦楼羅は桜を助けたその男を、『童子』から聞いていた。
「『森主』……!」
キュピーは迦楼羅を一瞥し、笑顔で語りかける。
「聞いていますよ。迦楼羅さんですね?」
迦楼羅は二人を見て、軽蔑するような眼差しを向ける。
「なんだよお前ら、パパ活か? ガチでキショいな……」
それを聞いた二人は互いに目を合わせる。
「ぱ……なんて? 知ってます? 俗語には疎くて……」
「知らない。まぁ侮辱してんじゃないの?」
キュピーは軽くため息をついた。
その態度が迦楼羅の琴線に触れたのだろう。
怒り狂って大量の羽を飛ばす。
「スカしてんじゃねぇぞ!」
キュピーは迦楼羅を冷めた目で見ると、一瞬で木の防壁を張った。
「これは、燃えにくい素材の木なので、少しは保ちます。手短に行きましょう。アイツの能力は?」
桜は刀を構えながらも話す。
「アイツの能力は『炎の羽』を操る能力で、覚醒能力は多分……『結果そのものを書き換える』だと思う」
「根拠は?」
「攻撃が全部再生されるのは前提として、精神に干渉する『鮮血の誓い』も通じないし、何より串刺しにしていたのに、抜ける素振りすら見せずに抜けられた」
「……なるほど。覚醒能力の条件は?」
「私がナンパ断ったから……」
キュピーは口に手を当て唖然とした。
「断っちゃったんですか……!?」
「断るでしょ普通!!」
木の防壁が段々と焼け、黒くなってくる。
「……では、奴の覚醒能力の発動時の特徴などはありますか?」
「う〜ん……」
桜は思い出すように目線を左上に上げる。
「あ、毎回治るときは炎に包まれてる」
それを聞いて、キュピーは目を細めて笑った。
「なるほど。大体カラクリは分かりました」
それと同時に木の防壁を迦楼羅が破壊し、二人に炎の羽が飛んでくる。
二人はそれを避け、迦楼羅から距離を取る。
「イチャイチャしてんじゃねぇよ……!」
迦楼羅の罵声を二人は完全に無視する。
そして、襲い来る『羽』を高速で避けながら、二人は会話を続ける。
「『神』は何においても、自身を上回る能力を人間に与えません。何故か分かりますか?」
「急に哲学……? 知らないけど……」
「自身に牙を剥いてきた時に、簡単に蹴散らせるようにするためです。それ故、どんな能力にも弱点や制限が必ずあります。かくいう私も、この森の中でしか能力使えないので」
「えっ……そうなの?」
「では、そのルールに則って考えると、弱点さえ突ければ、私たちでも簡単に勝てると言うことです」
桜は疑わしげにキュピーを見る。
「でも……相手は『結果を書き換える』んだよ」
キュピーは迦楼羅の攻撃を避けながらも、落ち着いた口調で話す。
「言い方が悪いですね。正しくは『結果を焼き尽くす』能力です」
「……何が違うの。それ」
「結局、本質は『火で焼くこと』なんですよ。つまり……」
「火を消せば良いのか」
「そういうコトです」
迦楼羅は一気にキュピーに距離を詰め、攻撃を仕掛ける。
キュピーはそれを簡単に払い、拳を叩き込む。
「ぐぶっ……!」
キュピーは桜に向き直る。
「桜さん。検証と時間稼ぎ、お願いできますか? 集中しないと出来ないコトがあるので」
「分かった。でも……」
迦楼羅は紅い炎をメラメラと輝かせながら二人を睨む。
「何をしたって無駄なんだよ……! 俺の『能力』の前じゃなぁ!」
迦楼羅は無数の羽を二人に向けて飛ばす。
桜は全ての羽を叩き落とし、一瞬で距離を詰め迦楼羅の首を刎ね飛ばす。
「っ…………!」
「悪いけど、私は時間稼ぎのつもりでやってないから」
その目には、獲物しか映っていなかった。




