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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第5章 北の地での決断
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第46話 妹分

登場人物が増えると名前を覚えるのが大変。でもこの章でさらに人が増える予感。

結局その日はダンが驚き疲れたのひと事で、お開きとなる。ミリアがシンとフィアナのお付きの世話係に任命されると、フィアナの部屋割りで一悶着あるが、結局フィアナの意思が押し通り、シンとフィアナは同室で過ごす事となる。なお、ミリアも同室で世話をしますと言い張ったが、さすがに、シンはそれを押しとどめる。シンはその後、フィアナをミリアに預けると、シグルドに同行をお願いして、ガリア領内を見て回る。そこはシンが子供の頃に見た光景とさほど変わりがなく、領民たちも平穏な暮らしぶりをしており、本当に帝国に脅かされた国とは思えない光景が広がっていた。


「やはりガリアが特別なのでしょうね」


シンはぼそりとこぼす。あくまで、ここが特別なのだ。ここにくる道中の街並みこそ本当の姿なのだと。


「シン様の御懸念はごもっともです。確かにここガリア領は特別なのでしょう。私も、国の内情を知る上で、他領へも足を踏み入れましたが、その状況はひどいものでした。先ほど、大旦那様も仰いましたが、領都では一部力を残したところもありましたが、それは極々一部でございます。やはり、いつかは帝国打倒で立ち上がる必要はでてくるのだと思います」


「そうですか。その時、俺が何をしたいか、何ができるのか?この旅はそれを決断する旅だと俺は思っています。何かしたい気持ちはあるんです。でもそれを具体的な形にはまだできていない。もっと、この国を良く見ないといけないですね」


「ダン様なら、シン様の決められたことなら何でも支持なさるでしょう。託された宝刀もそうでしょうが、あなたには重い責任があるのかもしれない。それでも、多分、それを投げ打っても何も言われないでしょう。あくまであなたの心の趣くままに決められたらいいかと思います。メイ様のご子息なら、そう、間違った事は選ばれますまい」


シンはその言葉にありがたみを覚えるとともに、母の名前に少しだけ苦笑する。


「母さんも何も言わないでしょうね。母さんは頭の良い人でした。下手をしたら師匠も敵わない。まあ俺はその半分でも才覚が受け継がれていたらと思わずにはいられないですが」


「おや、幼少の頃のいたずら振りでは、メイ様をひどく喜ばせていらっしゃいましたよ。ユーリ様をあそこまで怒らすのは、シン様以外にいないと言って、笑ってましたから」


「まあ若気の至りというやつです。とにかく一度アルナスにも行ってみないとですね。それ以外の領都や公都にも」


「ええ、是非ご自身の肌で色々感じてみてください。その上でくだす事の出来る事もあるでしょう」


シンはシグルドとそんな会話をしながら、領民たちに暖かい笑みを見せるのだった。


一方、その頃、フィアナとミリアは館の中にある温泉に二人でのんびり浸かっていた。


「私、このような入浴施設に入るのは初めてです。すごい暖かくて気持ちがいい」


カストレイア王国では、入浴は体を洗うだけの施設が多く、このように湯船に湯を張った施設は存在しない。水に浸かるという事であれば、水浴びはあるが、このような暖かいお湯は初めてであった。フィアナは銀色の髪を頭の上で団子上に結って貰って、胸元にタオルを一枚あてながら、のんびり湯船につかっている。ミリアはそのフィアナの透き通る肌がほのかに赤く色ずく様を見て、思わず感嘆の声を上げる。


「フィアナ様は、やっぱり綺麗ですね。肌も透き通るようになめらかで、10人男性がいたら、10人が美人だって言いますよ」


「フフフッ、外見をほめてもらえるのは嬉しいのですが、自分ではピンとこないのです。でもシンが褒めてくれるのは素直にうれしいのですけど」


「やっぱり、フィアナ様はシン兄様がお好きなのですか?」


年頃の女子同士の会話である。どうしてもそう言う内容にいきがちである。


「はい、大好きです。多分私は特殊なのでしょうが、シンの傍が一番安心できるのです。でもそう言うミリアさんもシンの事を慕ってらっしゃるのでは?」


「えへへ、わかりますか?シン兄様は多分私の初恋の人なんです。だから子供の頃も一緒にいたくて、どんなところでもついて行って。でも今日、シン兄様を見てやっぱりかっこいいなと思ったりもしたんですけど、生きていただけで嬉しくって。フィアナ様みたいな素敵な人が隣にいると、むしろ嬉しくなっちゃったりしたんで、シン兄様は兄様なんだなって思ったりもしています」


「あら、じゃあ私にとってミリアさんは妹分って事でいいのかしら?私は別にライバルでもいいんですよ。私はシンが大切にしてくれるだけで、幸せなので、シンが大切にする人が何人いても正直構わないのです。実際私のお姉様も本当の姉妹ですが、ライバルですから」


そう言って、フィアナはミリアに笑いかける。


「フィアナ様のお姉様もライバルなのですか?なら私、ますます勝ち目が…」


「フフフッ、私は気にしませんけど、お姉様は気にするかもしれませんね。カストレイア王国の女王ですから。でも正々堂々の勝負なら受けて立つタイプですから、チャンスは十二分にありますよ」


「ひぇっ、カストレイア王国の女王様に真っ向勝負なんて、そんな畏れ多い。そんな事できる方なんていらっしゃるのですか?」


「公爵令嬢、あっ今は公爵様ですね。それから姉様の傍付きの近衛騎士と、姉様のライバルは多いですよ」


「あれ、フィアナ様はライバルではないんですか?」


「はい、私は今傍にいますから。例え姉様でもライバルではありません。私がシンの傍にいる限り、私の負けはありません。シンはそう言う人です」


「フィアナ様、意外にしたたか。フフフッ、でもシン兄様の事を良くわかってますね。いいなぁ。傍で守って貰えるの」


「はい、幸せです。でもガリアにいる限りはミリアさんも同じですよ。きっと守ってくれます」


「うん、それは嬉しい。妹分でもシン兄様は大切にしてくれるし、それ以上の事はこれから考えます」


二人はそう話ながら、シンを肴に話の花を咲かせるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ガリアに着いて2日目の午前に、シンはダンに再び呼び出される。シンはフィアナを伴って、ダンの元に赴いて話を聞く。


「シン、取りあえず今後だが、どう行動するつもりだ?」


「さしあたりアルナスに行こうと思います。そこに行かないと俺自身、何も始められないので」


「フム、そうか。それは直ぐにでも向かうつもりか?」


「まだ冬になるまでに2ヶ月弱ありますから、その間には行こうと思っています。ただ冬の間はご迷惑をおかけするのですが、フィアナもいますので、ガリアでやっかいになれればと思ったのですが、良いでしょうか?」


「それは全然かまわん。むしろフィアナの事を考えたらそうする方がよかろう。そうすると他領や他国をまわるのは来春以降となるか。であれば、一つ頼み事を聞いてくれんか?」


「頼み事ですか?俺にできる事であれば、喜んでお受けしますが」


「むしろお前にしか頼めん。取りあえずアルナスに行った後、一度ガリアに帰ってきてくれ。その後、フィアナには悪いが、一人で動いてもらう。フィアナ、悪いが少しの間、シンを借りてもいいか?」


「はい、シンがいいのであれば、私は構いませんが」


「すまんの、要件はアルナスから戻ってから話す。こっちも準備があるからの。それからアルナスに着いたら、この書面をガースに渡してくれ」


「ガース叔父さんが生きているのですか?」


「ああ、言ってなかったか?すまん、すまん。ユーリの弟でお前の叔父にあたるガースは生きておる。お前を魔の森に送り込んだ後、アルナスに戻って、民衆をまとめ上手くやりおった。今は領都近くの山間部に隠れ里を設けて潜伏しておる。シン、お前なら心あたりがあるじゃろう」


シンは自分が公都に行く際に同行していた叔父によって、魔の森に逃げるように促された。生きていればそれでいいと送り出されたのだ。その事は、シンにとって昨日の事のように思い起こす事が出来た。そのガースが生きているという事は奇跡のようなものであり、シンは、その奇跡に感謝の念すら覚えた。


「師匠も人が悪い。ガース叔父さんが生きているのなら、最初に言って欲しかった。ガース叔父さんならアルナスの次期当主になっても全く問題が無い。むしろ、人格面だけで言えば、父よりよっぽどしっかりした人だ」


シンが嬉しそうにそう言うのを、ダンは少しだけ申し訳なさそうに口をはさむ。


「悪いが、ガースが当主になることは恐らく無理だ。まあその事は会えばわかる。それよりもフィアナは連れていくんだろう。しっかり守ってやれよ」


歯切れの悪いダンの物言いにシンは、少し怪訝な表情を見せるが、それでもフィアナの事もあるので、気を引き締めて返答する。


「ここからアルナスであれば、往復で2週間程度で帰ってこれると思います。フィアナの事は守ると約束しているので、安心してください」


「うむ、くれぐれも気を付けるようにな。ガースによろしく行ってくれ」


「はい、わかりました」


シンはそう言って、力強く首肯した。

最近、ブックマークや評価が増えないので、是非清き1票を!

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