第45話 ガリアの現状
もう少し主人公に規格外だと言う事を認識してもらいます
「ところで師匠、この場所は今、どう言う状況なのでしょう?正直、何がどうなっているのか、俺にはさっぱりでして」
「おお、そうじゃの。おい、そろそろ出てきても良いぞ」
ダンがそう言って促すと、三人ほど人が現れる。シンは突然の出現に面を食らうが、フィアナは、知っていたのか驚く素ぶりを見せない。ダンはフィアナのその反応に感心するが、シンには渋い顔をして、苦言を呈す。
「シン、少し目に頼りすぎじゃ。もう随分前から、ここにおったぞ」
フィアナはフィアナで嬉しそうに、シンに指摘する。
「はい、大分前から、お側にいらっしゃいましたね。初めまして、私はフィアナと申します。よろしくお願いします」
シンはそんな二人に苦笑して、言い訳をする。
「すいません、まだまだ修行不足で。私はシン・アルナス。ユーリ・アルナスとメイ・アルナスの息子です」
すると今度は三人がシン達に向かって、笑顔で応対する。
「シン様は、幼少の頃、何度もお会いしていますよ。覚えていらっしゃいませんか?この家で家令をしております、シグルドと申します」
シンはその人物の面影を思い出して、笑顔で答える。
「覚えていますよ。昔、よくイタズラして困らせてしまいました。その後よく、師匠に誤魔化して貰って助けて貰って。隣の方は、確か奥様ではなかったでしょうか?」
「はい、仰る通りです。覚えていただいて光栄ですわ。シン様。シグルドの妻でメイド長をしております、ハンナです。よろしくお願いします」
「当時、母の世話をしていただいていたのを覚えています。ご無事で良かったです」
「いえ、メイ様にお仕えできたのは、私にとって幸運でした。本当であれば、もっとお仕えしたかったのですが。それはそうと、シン様、この娘は覚えていらっしゃいますか?この娘ったら、シン様にお会いできるのを、本当に楽しみにしていたんですよ」
「ちょっ、ちょっとお母さん、そんな紹介の仕方っ」
少女は慌てた表情でハンナに言うが、ハンナは気にせずに娘の肩を抱いて、シンの面前に立たせる。少女は前に立つと少し、モジモジした表情で、シンを見上げる。歳の頃はシンより2つ、3つ下だろうか?活動的な印象を与えるその表情にシンはどことなく懐かしさを覚えて、記憶を探ってみると、もしやと思う子に思い当たる。
「もしかして…ミリアかい?えーっ、すっかり見違えたよ。子供の頃には俺の後についてきて、男の子みたいに走りまわっていたのに、すっかり、女性っぽくなって」
シンの子供の頃の記憶では、それこそ男の子のように、元気にはしゃぎまわって、シンのいたずらにも積極的に付き合っていたミリアの姿しかない。それが、今では立派な淑女である。
「シン兄様、できれば当時の記憶は封印していただけると…恥ずかしいです」
「シン、女の子に対して、ちょっと失礼ですよ」
ミリアはシンにまじまじと見られて顔を真っ赤にして体を縮めている。そんなミリアをフォローするようにフィアナがシンを咎める。
「ああ、ごめんミリア。本当に綺麗になったから、ついびっくりしてしまって。フィアナも、教えてくれてありがとう」
「いえ、でもこうしてまたシン兄様にお会いできて、本当にうれしいです。あと、奥様もありがとうございます」
「いや、待って。フィアナは奥様じゃないよ。まあ大切な人ではあるけれど」
「フフフッ、私は奥様でも構わないと言っているんですが、大切な人と言ってくれるのは嬉しいです。初めまして、私はフィアナと言います。先ほどの御爺様との話で素性をご存知だと思いますが、ただのフィアナでお願いしますね」
「うわぁ―、やっぱりすごく綺麗。シン兄様のお母様と同じくらい、綺麗な人。シン兄様、もう奥様にしちゃったほうが、良いよ。こんな綺麗な人、中々いないよ」
「こら、ミリア。シン様たちはお客様なんですから、あまり失礼な事言うもんじゃありません。すいません、見た目はましになったのですが、言葉づかいは中々治らなくて」
そう言って、ハンナが頭を下げる。それを見てダンは大笑いをし、
「なに、ミリアの言っている事はあながち間違ってはおるまい。幸いフィオナはその気なようだしの」
「はい、いつでも、フィオナ・アルナスになりますわ」
シンはガシガシと頭を掻き、引き攣った笑みを浮かべるのが精一杯であったが、幼少の頃よりシンをフォローするのに長けているシグルドが、シンにフォローを入れてくれる。
「まあ、お互い自己紹介はこの辺にしまして、現状のガリアの状況からご説明しましょうか?まだまだ積る話も多そうですし」
「はい、そうしていただけると助かります。師匠はああなるとしつこいですから」
「ここガリアも先だっての帝国侵攻時に一時期、攻め滅ぼされております。まあ実際には、一部地域だけを占領させて、略奪の限りを尽くさせて立ち去った後、又ここに戻ってきたわけですが」
「その間は住民の方々は何処かに逃れていたと?」
「ええ、仰る通りです。元々ここガリアには、そう言う避難場所となる個所をいくつか設けております。ここにいるダン様の指示でもあるのですが、その為、帝国からの侵攻は必要最小限で抑えられました。また、彼らはこの北方の冬に慣れていない為、冬前には、早々に撤退したのも幸いしました。おかげで今は結界を張った結果、帝国軍がここに駐留する事もなく、以前とあまり変わらない生活をする事が出来ているのです」
「師匠はこうなる事を想定していたのですか?」
「あんな急にとは思うておらんよ。ユーリが死んで、公国軍が瓦解したのが早すぎた。それだけユーリに依存しておったという事じゃ。結果は遅かれ早かれじゃが、もう少し公都が持っておれば、やりようもあったんじゃがの」
「それでもこのガリアの現状は、他の公国領と比べても格段ましかと思います。まだ道中で見知った程度ですが、まともな土地は一つもありませんでした」
シンが神妙な面持ちでそう言うと、ダンは厳しい表情で続ける。
「まあここガリアとて、いつまでもこのままではおれんからの。今は力を溜めるまでいかん、力を維持するのに精一杯じゃ。余所とも連携して、どうにかせねばならない」
「余所ですか?ガリア以外でもまだ力を維持しているところがあるのですか?」
そこでダンはにやりとして、シンの発言に答える。
「お前の故郷アルナスも含め、領都にはそれなりに戦力が残っておるよ。まあ問題は公都だが」
「アルナスもですか?俺が逃れる時に領都は焼き尽くされていたので、もう駄目かと…」
「まあ、それは自分の目で確かめるがいい。どの道、アルナスへは行くのじゃろう?」
「はい、ここの後にはいくつもりでした」
「なら、各領都を巡るといい。ただ公都だけは気を付けるのじゃぞ。あまり良い噂をきかんのでの」
シンはそこで、自分の名前が語られている噂の話を持ち出す。
「なんでも公都ではシン・アルナスが現れたとか」
「おお、知っておったか。その通り、シン・アルナスの名前で鬼神を騙る輩がいるようじゃの。ありゃ、お前さんじゃないのだろう?」
「ええ、私達が北方へ来る前からその噂があるのを聞きました。なんでもえらい強い戦士だとか」
ダンは、うんうんと頷きながら、噂を思いかえすように補足する。
「なんでもその人物の風貌が、ユーリそっくりだそうだ。それを聞いた時点で、お前さんを知る人間は別人だと断定したがの。お前さんは母親似じゃ。例え歳をとって、父に似る部分が出てきたとしても、ユーリそっくりは想像できん。のう、ミリア」
「はい、大旦那様。ユーリ様は熊のような方で、シン兄様があんな風になるのは想像できません。シン兄様はカッコいいのですって何を言わせるんですか」
「ほらな、ミリアのお墨付きじゃ」
ミリアは顔を真っ赤にして抗議すると、ダンはシッシッシッとしてやったりな顔をする。シンはそのやり取りに苦笑いをすると、話の整理に入る。
「まあ、公都の真偽は別にして、メルストレイル公国には、まだ再興の芽が残されているという事でしょうか?」
「まあ、率直に言うと、芽があるだけじゃがな。せめて公王が擁立できれば、手がない事もないが」
「公王ですか?勿論、王は必要でしょうが、公国再興には最初から必要という事でもないでしょう?」
「まぁ厳密には、公王ではなく、選定公五家の持つ各家の家宝が必要なのだがの。それを五つそろえて初めて、公王が即位される。今家宝は行方不明のアルナスの分も含めて、3つが失われていいる。2つは帝国に奪われておるがの」
「ああ、アルナスの家宝なら、俺が持ってますよ」
「何?それは本当か?」
「はい、父が公都へ行く前に、渡されました」
そう言ってシンは宝刀クサナギを目の前に置く。ダンはそれを受け取って、剣の鞘を抜き、確認する。
「うむ、確かに本物じゃ。よくぞ無事で。ちなみにシン、お前はこれを十全に使いこなせるのか?」
「どういう事でしょう?魔力が足りるのかという事であれば、足りますが?」
「なんと、足りるのか?この燃費の悪い剣の魔力を補えるというのか?信じられん」
「燃費が悪いのは否定しませんが。ここの結界くらいであれば、恐らく簡単に払えると思いますよ。勿論やる気はありませんが」
ダンは呆気にとられた表情をすると、シンや他のものも不思議そうな顔をする。
「お爺様、シンの魔力量は異常ですから、驚かれるだけ無駄かと。しかも毎日魔力量を増やす鍛練をしていますから、増える一方ですし」
「魔力量を増やす鍛練じゃと?レーニアのキリクから何か教わったんか?」
「あれ、師匠。キリク叔父さんをご存知でしたか?父の友人とかで、子供の頃からアルナスにちょくちょく遊びに来ていたんですよ。その時に、魔力の増やし方を教えてもらって、それから毎日の鍛練でやるようにはしているのですが」
ダンの頭の中では色々問題点が繋がっていくようで、一人うんうん頷いている。シンは確かに自分の魔力量には自信があったが、そこまで規格外扱いされるとは思っておらず、一人腑に落ちない表情をする。
「はぁ、何となくシンの事がわかったわい。ちなみにひとつ聞きたかったんじゃが、お前、アルナスからフィアナのいるカストレイアに行くのに、どうやって行った?」
「魔の森を走り抜けましたけど…。確かに魔物を倒すのは大変でしたが」
ダンはそこで大きく溜息をつくと、シグルドを見て説明するように促す。
「シン様、恐れながら普通の人は魔の森を歩く事さえままならないのはご存知でしょうか?」
「魔の森の魔力、魔素の影響ですよね」
「仰る通りです。普通は1日、2日で魔素にあてられ、正気を失います。魔力で保護できたとしても、持って1週間です。歴代の冒険者達が森を踏破できなかった理由はそこにあります。ちなみに、シン様がカストレイアに至るまでにかかった日数はどの程度でしょうか?」
「1ヶ月はかかっていないと思うけど」
「残念ながら、それが異常かと。まず1ヶ月も魔力で保護できる人がいません。尚且つあの魔の森を1ヶ月魔物と戦い続けられる人もいません。恐らく身体強化で戦っていらしたのでしょう。それを使ってもなお魔力が残るなど、もはや人外と言っても差支えないレベルかと」
「シン兄様、すごい」
ミリアは素直にシンを見て感嘆の声を上げるが、シン自身は釈然としない。そこにフィアナが駄目を押す。
「シンは自分の事に無自覚すぎます。シンの場合、魔力操作が上手すぎるので、増幅する魔力の量も多過ぎるのです。シンを教えた方が上手だったという事もありますが、シンが教えた方がたも、アッと言うまに一線級の方になられたじゃないですか」
「いや、あれはナタリア達が優秀なだけであって、俺はきっかけを与えたに過ぎないよ?」
「シン、悪いがその技術は門外不出な。帝国に知れたらと思うと恐ろしい」
ダンはそう言って、身震いすると大きく溜息をついた。




