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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第5章 北の地での決断
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第44話 母の墓前

フィアナの笑顔が最強です。あらゆものを籠絡していきます。

ガリアへの道中、結果シン達は三回襲われた。初日の一回目、そのあと宿場町の酒場で一回、最後はガリアへ抜ける山道で一回の計三回である。酒場では、怪我人は出したが、殺してはいない。山道の襲撃は、野盗のボスを取り押さえ、手出しが出来ないようにした。


シンはその三件とも、きっちり脅しをかけて相手を震え上がらせており、その後の追っては流石になかった。フィアナは、終始変わらず、笑顔でそれらをやり過ごして、なのもなかったかのように振舞っている。そんな行程を踏んだ事で、多少時間はかかったが、シンとフィアナは、ようやくガリアの地に辿り着く。


「ここがガリアの地?」


「ああ、まだ領都までは距離があるけど、この辺りからガリア領だね」


山道を抜けて、森の中の道を通り過ぎると、四方を山々に囲まれた盆地が広がっている。中央付近にある湖のほとりには、建物らしきものが遠目に見えており、その集落がガリアの領都であるこることが想像出来る。


「俺も母さんが亡くなる時にきたきりだから、随分久しぶりになるけど、あまり戦火には巻き込まれていないのかも知れない」


シンはこれまでの北方諸国と少しだけ、違う空気を感じていた。まず作物がきちんと育てられている。これまで通った場所では、畑は作物が植えられていたとしても、手入れも実りも悪かった。むしろ捨てられて雑草が生い茂るような畑も少なくなかった。ここでは畑には作物が実り、きちんと手入れをされているのがわかる。


「シン、たぶん認識を阻害するような結界が張ってある。普通の人には打ち捨てられた畑に見えてるはず。シンは魔力が異常だから、結界が聞かないんだと思う」


フィアナは目が見えない分、その感知能力は通常の人より群を抜いている。シンは異常といわれた事に思わず苦笑するが、素直に感心する。


「そうなのかい?俺の目には普通に育った畑が管理されているように見える。そんな事ができるのか」


さすがは知恵の一族の土地である。


メルストレイルの選定公家には、それぞれに特色がある。武のアルナス、知恵のガリア、魔術のレーニア、技のニルス、医のヘスティ。帝国侵攻の際は、各領都はことごとく焼き討ちされており、その一族は根絶やしにされている。ここガリアも例外ではない筈だが知恵の一族がもしかしたら、生き残っているのかも知れない。そんな雰囲気をシンは感じていた。


そんな事を考えていても馬は歩を進めている。気が付くと湖のほとりまできており、建物もチラホラ通り過ぎるようになる。やはり普通の街並みに見える。逆にシンは普通の人にはどのように見えるのか、興味が湧いてくる。シンはそのその膨大な魔力量から、普段から魔力の膜を薄く張っている。特にフィアナと過ごすようになってからは、フィアナの鋭敏過ぎる感覚からフィアナ自身を守る為にそれを欠かす事は無かった。


「フィー、ちょっと魔力を抑えてもいいかな?今の街並みがどう見えるのか見てみたいんだ」


「うん、大丈夫。今はネックレスもあるし、シンが側にいるから、心が暖かい」


シンは、フィアナの了解を得ると、意識して魔力放出を遮断する。すると少し視界が揺れる感覚がした後、目の前の光景に愕然ととする。


「これはすごいな。人っ子ひとりいない廃墟に見える。こんな結界がこんな広範囲で展開されているなんて」


「フフフッ、シンがそんなに驚くなんて、珍しい。此処は人の気配もするから、廃墟なんて有り得ない」


「へー、そうなのか。此処の人達が俺たちの前に現れるかはわからないけど、警戒した方がいいのかな?」


「向こうも警戒している感じがする。でも敵意や悪意はあまり感じない。うん、警戒されてる」


「そうか、俺の風貌で帝国の人間かどうか迷っているのかもね。しかも女性と二人きりだし」


「フフフッ、そこは夫婦二人旅といってね、優しい旦那様」


シンは苦笑いをすると、ボソッとこぼす。


「本当にそんなのんびりした旅ならいいんだけどね」


「あら、私はそんなのんびりした旅の気分だわ」


フィアナはそう言って、シンに抱きついた


そこからシン達は、住民側から接触を試みられるまでは、知らないふりをする事にし、シンの母の墓を目指す。シンの母の墓は、領主一族の墓が置かれている場所から少し離れた丘の上にある。母がこの国を一望できるようにとの気遣いと、流石に他所へ嫁いだ娘を一族の墓に入れる訳にも行かなかった為、その場所に墓が置かれている。シンは今となっては、そう出来て良かったと思っている。父の墓は実はない。帝国との戦いで王都で戦死した後、シンが亡骸を取りに行く途中で、公都が陥落してしまった為である。陥落後、父の亡骸がどこにいってしまったかは不明な為、墓も存在しない。父のいないところに母がいても、母は喜ばないだろうから、やはり此処で眠れて良かったのだと思う。


「母さん、今帰ってきたよ。なんか時間がかかっちゃったけど、ようやく動く事が出来た。これからどうするかはわからないけど、答えを見つけて、為すべき事を為すよ」


シンはそう言うと、母の墓前に手を合わせ、黙祷する。シンが黙祷をやめ、母の墓をじっと眺めているとフィアナが堪らず声をかけてくる。


「シン、そろそろ私もお母様に紹介してください。私もお母様にご挨拶したいのです」


シンは思わず苦笑すると、母の墓に向かってフィアナを紹介する。


「母さんに紹介するよ。俺がこうしてアルナスの名を持ってこの国をに帰ってくるきっかけをくれた俺の大切な人だ。母さんでも、その素性を聞いたらきっとビックリするよ」


「もう、人をビックリ箱のように言わないで下さい。初めまして、メイ・アルナス様。私はカストレイア王国第2王女のフィアナ・フォン・カストレイアと申します。シンのお母様にお会いできて、本当に嬉しいです。フフフッ、やっぱりシンのお母様ですね、シンと同じ優しい色がこの辺り一面に広がっています」


フィアナもまた、そう言って両手を合わせ黙祷を捧げる。シンはそんなフィアナを眺めていると、背後から人の気配がするのがわかる。おそらく、フィアナも気付いているだろうが、おそらく害意がないので、シンに対応を任せるのだろう。そのまま黙祷を続けている。


「お前さん達は、そこに眠っている人物が誰なのか知っておるのか?」


背後から来た人物の顔を見て、シンは合点が行く。こんな事が出来るのは、母さんか、この人くらいしかいないだろう。


「もちろん知ってますよ。ユーリ・アルナスの妻で此処、ガリア公主の娘、メイ・アルナス、つまり俺の母さんが眠っているところですよ。お久しぶりです、師匠」


「おお、そうか。やはりそうか。生きていたか、やはり生きていてくれたか。シン、良かった、よくぞ無事で」


その老人はそう言って、涙を溜めてシンを抱きしめる。シンも本当に嬉しそうにその老人のされるがままになっている。二人がしばらくそうしていた後、老人はそこで二人を見ているフィアナに気付き、シンに話しかける。


「すまんすまん。年を取ると涙脆くなって困る。そちらの女性は連れじゃろう。此処で話もなんだ。屋敷に行こう。積もる話もある」


「はい、それで構わないのですが、この結界内で俺たちが動き回るとどう見えますか?多分、師匠達には認識阻害の結界がかかっている筈なんですが」


「おお、そうか。確かにお前達が見えるのは不味いのう。ほれ、これを腕に巻け。そうすれば、お前達も認識阻害され、外の人間からは見えなくなる」


シンは自分とフィアナの分の腕輪を貰い、それをつける。


「うん、それで良い。では屋敷に向かおう」


老人は、軽い足取りで二人を先導すると、シンはフィアナの手を取って、その後についていった。


屋敷はシンも勝手しだたる場所である。母の見舞いに度々訪れた場所でもあり、昔とほとんど雰囲気が変わらない。因みに場所は領主の館である。


「で、取り敢えず話の前に、そちらのお嬢さんを紹介してくれんかの。話はそれからじゃ」


シンはわかりました言うと、まずフィアナに老人の事を紹介する。


「フィアナ、こちらがここガリアの先代領主で俺の祖父で有り、軍略の師匠でもあるダン・ガリアだ」


「シン様ののお祖父様ですか?」


「うん、俺の母方の祖父になる」


「まあ、シンには爺ちゃん、爺ちゃんと呼ばれるとこそばゆいから、師匠と呼ばせておるがな」


「そして師匠、彼女はカストレイア王国の第二王女で現女王の妹でもある、フィアナ・フォン・カストレイアです」


「初めまして、シンのお祖父様。私はフィアナ・フォン・カストレイアと申します。よろしくお願いします」


ダンは、大国の王女が目の前に現れたことで、口を大きく開ける。


「シン、なんかの悪い冗談か?」


「師匠が驚かれるのも無理は無いですが、事実です」


「はぁー!?シン、お前カストレイアと言えば大国も大国だぞ?なんでその国の第二王女なんていう要人が、こんな帝国に占領された危険な場所に来ておるんじゃ?」


「ええ、全くもって同じ意見ではあるのですが、彼女が王女である事実は変わりません」


ダンはフィアナの顔をまじまじと見るが、ニコニコとした表情を変えないフィアナを見て毒気が抜かれ、大きく溜息を吐く。


「まあ、あんまりおおっぴらにすることでもないんだろう。王女様のことは、フィアナとそのまま呼ばせて貰ってもいいかい」


「はい、シンのお祖父様でしたら問題ありません。私もお祖父様と呼ばせていただきます」


「ホッホッホッホッ、可愛い孫がもう一人できたようなものじゃの、フィアナよ、よろしく頼むよ」


「はい、よろしくお願いします、お祖父様」


シンはそんな二人を見て、なんとなくこそばゆいく感じるのだった。


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