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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第3章 亡国の公子
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第25話 それぞれの成長、そして…

書いていて、ナタリアよりもアイシャが伸びそう。

「うわっ、何だ。クリス固い」


クリスはその左手に盾を構え、魔力によって盾の強度を上げて、前衛で盾役をこなしている。


「ちっ、マルウェルの奴は何だか、速さが増している」


マルウェルは持ち前の器用さに速さを特化して、フィールドを縦横無尽に遊撃する。


「おいおいっ待て、ナタリアは早さも威力も増してるぞ」


ナタリアは、速さと強さのオンオフを器用に使い分け、相手を圧倒する。


シンが見る限り、三人の動きは初日に手合せした頃よりも格段にその実力を上げていた。隣で見ていた二ックもその動きに目を丸くして、興奮した口調でシンに話かける。


「シン先生、あの三人にこの一ヶ月で何をしたんです?他の騎士候補生の動きも格段に上がっているが、あの三人は特に動きが変わっていますよ」


「確かに個別指導はしましたが、あそこまで腕を上げたのは当人達の努力ですよ」


シンはかぶりを振って、そう説明する。すると修練を終えて三人がシンの元にやってくると、ナタリアが代表してその出来を聞いてくる。


「シン先生、今の動きどうでしたか?私、大分切り替えがスムーズになってきたと思ってるんですが」


「三人ともお疲れ様。みんなそれぞれ上手くいってたよ。後は錬度と経験かな、ニック先生も驚いていたよ」


「確かに、驚いた。これなら騎士にも推薦できるレベルだ。このまま修練を積んでいけば、卒業したら騎士になれるぞ」


三人は二ックのの言葉を聞いた後、顔を見合わせて喜んでいる。シンはそんな三人の様子を見ながら、言葉を続ける。


「俺は今週一杯で講師の仕事は終了だから、後の事はニック先生のいう事を聞いて、修練を積むといい。特にナタリアは総合力も高いから、将来、セシルや他の王族を守れる騎士になってくれたら、うれしいよ」


「はい、セシルとは王族と騎士といった関係以上に、友人と思ってますので、友達を守れるようにもっと強くなります」


ナタリアはそう力強く宣言する。男性陣も志は同じようで、同じようにうなずいている。


魔力操作の講義はその後何回か開催されていて、騎士科の面々とセシル、アイシャも含めた五名は、友好関係を築いていた。驚いたことに、飛び入り参加で仲間に入っているアイシャも兄とは違い、横柄な態度を見せず、騎士科三名と仲良くなっている。シンとしては、自分が傍に入れない時のセシルを守ってくれる信頼できる存在が欲しかったが、そう言った意味で、実力はまだまだだが、この騎士科三名は合格点だった。


「でもセシルもアイシャも魔法だけで言ったら、俺らより全然強いんだよね」


さっきまで頷いていた男性陣の一人、マルウェルがそう言う。


「確かにセシルの威力、アイシャの手数は半端ないもんな。二人に組まれたらナタリアでも防戦一方だもんな」


そう言って、呆れ口調でクリスも認める。


セシルは魔力が強い為、威力がある。そして最近ようやく複数の火球を同時に操れるようになってきて、その戦法の幅が広がっている。対してアイシャは、鍛練で魔力が増えているのか、威力もあがってきているが、それ以上に手数が豊富である。属性の水を自在に操り、好きな形状に変化させる事が出来る。操作だけで言ったら天才の部類に入る。


「確かに二人もすごいですが、成長した全員で束になってかかっても、シン先生にはかなわないんですが…」


正直、ナタリア達生徒にとっては、シンの強さはそこが見えない。スピード、パワー、魔力、洞察力、そのどれをとっても敵う気が気がしない。しかも自分たちとそう歳も離れていないのだ。


「それでシン先生は、講師が終わった後はまたヤンセンに戻られてるのですか?うちの隊長が近衛に引き込めって、うるさいんですよ」


ニックがシンに今後の予定を確認する。シンは笑顔で首肯し、


「ええ、ヤンセンに戻ります。来年の春には旅に出ようかと考えていますが、それまではヤンセンにいる予定です。なので近衛にはなれませんので、ライアスさんにはそう言っておいてください」


それを聞いて生徒三人、特にナタリアは残念そうにしている。ニックは旅という言葉に食いつき、


「いいですね、旅。行き先は決めているんですか?」


「ええ、ちょっと自分の祖父の故郷の方を回ってみようかと思いまして」


と言って、自分の黒い髪をさしながらそう答える。シンの髪は黒髪。その髪はアーガス帝国より北、北方諸国に多い。


「それは随分厳しい旅になりますね。道中も大変そうですし。まだちょっと早いですが、旅のご無事を祈っております」


「そうですね、まだちょっと早いのと、実際に行けるかは分かりせんが、行ってきます」


シンは笑顔でそうニックに話を返すと、笑いあって、拳を打ち付けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンがそうやって騎士科の面々とワイのワイのと話をしている時と同じくして、セシルとアイシャは二人で普通科校舎の廊下を並んで歩いていた。


セシルとアイシャはそれこそ幼少の頃からの顔見知りである。それこそ会えば、話をするし、お茶会をしたのも一度や二度ではない。かと言って友人かと言われるとそうとも言えない関係だった。それが今では、帰りの廊下で連れだって仲よく歩いている姿など、当人たちも想像できなかった。そんなことを思いながら、セシルはアイシャに笑顔で話かける。


「アイシャ、あなたとこうして並んで歩いている姿なんて、一カ月前までは思いもしなかったわ」


アイシャはアイシャでそれを受けてもしれっとしていて、


「まぁそれは私もそう思っていたので、否定できませんわ。それもこれもシン先生のおかげですわね」


そう言ってアイシャはシンの姿を思い浮かべる。


アイシャの思い浮かべるシンはセシルの無条件の敬愛とは異なる。すごく魅力的な男性で、敬愛に足る人物なのだが、すごくミステリアスで、謎の多い人物である。そもそもあれ程の能力と洗練された立ち振る舞いをただの冒険者にできるはずがなく、やはり何かあるような気がするのだ。


だからアイシャがシンに持つのは敬愛以上の興味であり、元々好奇心の強い性格を刺激するそんな男性である。とは言え、もうお会いする機会も無くなるのですわ、そう思うと寂しさを感じるので、アイシャも大概、シンに毒されていると自覚している。


しかしセシルはそんなアイシャの気持ちを気に留めもせず、嬉しそうに話を紡ぐ。


「フフフッ、本当にそう。シン様がみんなきっかけですわ」


セシルの無条件の敬愛に、アイシャはちょっとだけいじわるな気分になり、


「でも来週にはヤンセンにお戻りになられるんですよね。もっと教わりたかったですわ。」


とそう言う。前半はいじわる、後半は本音である。自分でも最近、魔法の才能があると自覚するようになってから、その楽しさが倍増しているのだ。なんとなく今更他の魔法師に教示する気も起らない。なので、必然的にシンから教わりたいと思ってしまう。ただ、セシルは前半のいじわるに反応する。


「そう、もう帰ってしまうの。最初の一週間はお会いできなくて、その後もなかなか会えなくて。それでもう帰っちゃう。アイシャ、何だか、ちょっと腹が立ってきたわ」


そう言って、セシルはちょっとプンプン怒り出す。アイシャはそれを見て思わず笑ってしまい、毒気が抜かれ、セシルに提案する。


「セシル、それならば、本人に会って、ちょっと文句を言わなければいけませんわ。今なら修練場の方にいると思います。行ってみますか?」


「ええ、賛成。シン様にお会いして、ちょっと文句を言いましょう」


セシルはとても文句を言いそうにない笑顔を浮かべて、アイシャを伴って、修練場に歩き出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


またそれらと時を同じくして、普通科の建物の玄関付近に、拳ほどの大きさの魔石が投げ入れられた。

魔石は地面に落ちた時に亀裂が入り、真っ二つに割れてしまう。


するとその魔石の亀裂から、膨大な量の魔力が霧状に拭きあふれ、その玄関は勿論、普通科、魔法科、騎士科各教室のある建物中を瞬く間に覆っていく。


そして、暫く立った後、その建物の中に入る覆面をした一団がいた。

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