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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第3章 亡国の公子
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第26話 異変

中々切りのいいところが無く、ちょっと長くなりました。

セシルとアイシャが異変に気付いたのは、修練場に向かっている途中の事だった。明らかに魔力濃度が高くなっている。修練を積む前であれ気づかなかった異変。今何かが起こっている。セシルとアイシャは顔を見合わせて、小声で話し合う。


「アイシャ、気付いている?」


「ええ、明らかに魔力濃度が異常ですわ。校舎入口の方がより濃い見たい」


「何が目的かしら?不快な感じは分かるんだけど」


「私には分かりませが、分かりそうな方であれば、心当たりが有りますわ」


「あら、それなら私も思い当たるわ。それが一番安全で確実かしら」


「全く持って同意しますわ。少しピンチになって助けてもらうのも魅力的ですけど」


二人はそう言って笑い合う。


周囲ではちらほら学生も残っており、体調の不良を訴えているものまで出てきている。彼らの事は気になるが、今二人に出来ることは、安全な場所へ逃げる事。何が目的かわからない以上、出来る事をするべきと割り切って、修練場へ走り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シン達が異変に気付いたのは、セシル達が気付いたのより少し後の事だった。最初に気付いたのはシンだった。次に騎士科の三人。ニックに関しては不快感は感じるものの、それ以上は判断できない。修練場には他の生徒達もいたが、やはりニックと同様だ。


「シン先生、一体何が起きているんでしょうか?」


ナタリアは不安げな表情でシンに質問してくる。シンは今の魔力濃度の質に覚えがあった。そう三年前に散々味わった魔力である。だとすると、普通の生徒達には少し不味い事になる。そして、今校舎にいるだろうセシル達も。


「この魔力は、魔の森の魔力に良く似ている。この修練場程度であれば問題ないけど、でもこれ以上、濃度が上がると、少々厄介な事になる」


「魔の森?」「厄介な事って何ですか?」


クリスとマルウェルも口々に声を上げる。


「魔の森っていうのは、一般的に知られていないけど魔力濃度が森の奥に行くにつれて上がって行くんだ。そしてそこに出る魔物も、魔力濃度濃度の影響で凶悪さが増して行く。人間にどの様な作用が出るかまでは分からないけど、最悪の想像では、魔物化まであると思う」


確証はないが、可能性は高い。人の魔物化。あまりいい想像ではない。


「誰が何の為に、は今の段階では考えても無駄か。取り敢えず校舎の中の人間だけでも助けないといけないですね」


「そうですね、ニック先生はここで生徒達を見ていただけませんか?俺は一旦、校舎を見てきます」


シンはそう言って、ニックにこの場を託そうとする。


「私も校舎に行った方が良くないですか?」


シンはその申し出にかぶりを振って、


「私は冒険者の依頼で魔の森に入った事もあるので、対策も取れますが、知らない人はあまり近づかない方がいいです。それに何が目的かも分からないので、ここはここで守る必要があると思います」


ニックはシンの言い分に納得して校舎内のことを託す。


「ではここの守りは責任を持って、私がしましょう。シン先生、中の方をよろしくお願いします」


「承知しました。君たちもニック先生の助けになってくれ」


シンは今度は三人にも声をかけて、後の事を託す。三人のうちナタリアだけはついていきたがったが、正直きても足手まといにしかならないので断る。


「それでは行ってきます」


シンはそう言って校舎の方へ走り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


セシル達がいる場所から修練場までは、階段を降りて一階まで行く必要がある。二人は階段を降りるにつれ、上がっていく魔力濃度に顔をしかめながら、先へ進んで行く。


「アイシャ、ちょっと待って」


セシルがアイシャを呼び止める。前を走るアイシャも立ち止まったところで、階下から階段を上げってくる足音に気付く。しかも複数。


「どうします。この階の空いている教室にでも身を潜めるか、それとも上の階に戻るか?」


アイシャは先に進むという選択肢を提示しない。教師が生徒を救いに来たという可能性は複数という時点で捨てているのだ。


「恐らくもうシン様は動いていると思います。ならば身を隠すのが得策。本当は先にお会いしたかったですが。取り敢えず、どこか教室に隠れましょう、」


上に行って合流が遅れても困る。かと言って、何か分からない者との遭遇も避けたい。そんな妥協案だった。


「分かりましたわ。であれば、教員室に隠れましょう。教室よりかは、隠れやすいと思います。」


アイシャはそう言って、二人は教員室に向かう。そしてそこで身を潜めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


覆面姿の男達は、まず建物の最上階から探し始める。教室にいる生徒たちは、突然やって来た男達を見て、騒ぎ立てる。


「チッ、上の階は魔力濃度が薄いせいで、まだ元気な奴らが多いな。おい、クソガキ共、死にたくなかったら、王女を出しやがれ」


そう言って、刃物を見せびらかし教室の中にいる生徒達を脅す。


「王女様はこの教室にはいません。だから、殺さないで」


教室にいた気の弱そうな男子生徒は、半泣きになりながら、王女がいないと訴える。


「お前らシラミ潰しに教室を探せ、下に行けば動けなくなる。上から探していけば、時期に見つかる。さっさといけ」


そう言って、仲間達に指示を出す。


「まあ、狩りはこれからだ。今度は逃がさねえぜ、王女様」


男は覆面の下で舌舐めずりをしながら、王女の艶姿を思い浮かべるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「思った以上に魔力濃度が濃いな」


シンは周囲の魔力濃度の濃さに顔をしかめる。シン自体は自身の魔力を薄く発散させている為、この魔の森特有の毒気のある魔力には影響がない。ただ普通の学生はそうはいかないだろう。なので校舎の中にいる生徒達の様子を急いで見て回る。


一階にいる生徒達は全員気を失っている。このまま放置しておけば、命を落とすか、魔物化するか、発狂するかのどれかだろう。セシル達の状況も気になる。幸い、魔力濃度には気付いているだろう。だとすれば、先に合流して安全な場所に移したい。シンはいるとしたら、魔力濃度の薄れる上層階だろうとあたりをつけて、階段を駆け上がる。


すると2階上がってところで、三階の気配がおかしい事に気付く。


「何だ?生徒達以外で誰かいるのか?」


シンは上の様子を注意しつつ、三階まで上がり、廊下の様子を見る。明らかに学生でも教師でもない覆面を被った集団が、教室と廊下を彷徨いている。


「誰かを探しているのか?…セシルか?」


特に生徒に対して暴力的な行為を行ってはいない。むしろ、優先していないと言ったところか。そしてセシル達はまだ見つかっていないようだ。


「それなら、いるとしたら二階か?」


シンは迷っていても仕方がないと二階の確認を優先する。二階は一階程では無いが、魔力濃度は濃い。やはり学生は気を失っている。セシル達がいたとしても、長くは持たないかも知れない。シンは一つづつ教室を見る事はせず、気配だけを頼りに廊下を歩く。


「んっ、ここか?」


教室ではなく、教員室の前に来たところで、微かに人の気配を感じる。シンは扉を開けて、中に入り、セシル達に呼びかける。


「シンだ。セシル、アイシャいるなら出て来てくれ」


すると顔を青白くさせたセシル達が机の下から出てくる。


「シン様、遅いですわ。危うく気を失うところでしたわ」

「それに関しては、セシルに全く同感ですわ。何なのかしらこの魔力、忌々しい」


二人は仲良く憎まれ口を叩く。シンは思わず苦笑をし、二人の無事に胸を撫で下ろす。


「取り敢えず二人が無事で良かった。流石に魔力濃度には対応出来てないみたいだね。セシル、アイシャ、ちょっとこっちのにきてくれるか?」


二人がシンに近づくと、シンはおもむろに一人づつ抱きしめる。


「まあ」


「えっえっ」


セシルは嬉しそうに、アイシャは戸惑いながら、それぞれ、声を上げる。シンは少し申し訳なさそうに、弁明する。


「悪かったね。今俺の魔力を纏わせたんだ。長くは持たないけど、大分楽になってるはずだよ」


確かに楽になっている。セシルには慣れた感覚だが、アイシャには初めての感覚。暖かくて、ずっと抱きしめて貰っているような感覚である。


「フフフッ、シン様から抱きしめて貰って、嬉しいですわ」


素直に喜びを表現するセシルに対して、アイシャは赤らめた顔を横に向けて、憎まれ口を叩く。


「そう言う事なら先に言ってくださいまし。心の準備がいりますのに」


シンは申し訳ないと、もう一度アイシャに謝罪した後、真面目な顔になり、外の状況を説明する。


「今回の件、どうやらまたセシル目当てで起った事みたいだ。さっき三階の様子を見たけど、覆面を被った集団が、誰かを探し回っているみたいだ」


セシルとアイシャは顔を見合わせて、やはりという顔をする。するとアイシャがシンに提案する。


「シン先生、一先ずセシルを連れてお逃げください。目当てがセシルという事であれば、私に危害が及ぶ可能性は低いでしょう。セシルを安全な場所に送ったのち、お迎えに来て頂ければ、私は大丈夫です。幸い、シン先生の魔力もまだ持ちそうですし」


シンとしては、問題ない。アイシャ一人残すのは心配だが、急いで戻れば、魔力も持つだろう。


「アイシャ、良いのかい?」


「問題ありませんわ、もし覆面の集団が来たら気絶した振りでもしてますわ」


そう言って、平然とした表情を見せる。シンはアイシャに頷いて、セシルに向き直して、声を掛ける。


「セシル、中を通っていくと鉢合わせの可能性もあるから、窓から出よう。こっち来て」


シンはセシルが近くに来ると、お姫様抱っこをする。


「アイシャ、俺たちが出て行ったら、窓は閉めて、大人しくしていてくれ。必ず迎えに来るから」


シンとセシルはそのまま窓の外に出て行くと、アイシャは音を立てないように、そっと窓を閉めた。


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