第24話 講師生活
ちょっと説明が多くなりました。人が増えると多くなるので、難しいですね。
シンのメルゼン王立学院における、講師生活は順調に過ぎて行った。
騎士科の生徒は概ね友好的で、やはり初日にその実力差を見せつけたのが功を奏したらしい。ニックが言うには、フロイセン公爵の子息であるケビンとその取り巻き一派を初日で一網打尽にしたのも効果的だったらしく、貴族子息連中はこぞって大人しくしている。逆に騎士志望の生徒からは絶大な人気を博しており、シンの空いている時間を見つけては、個別指導を申し込む人間が後を絶たない。
特に、ナタリア・クーチェス、クリス、マーガスの三名はその実力も熱意も伸びしろがあり、個別指導の回数も自然と増えている。
三人のタイプは三者三様で、クリスは、試合の際に真っ先に倒れたが、アレはシンが意図して優先して排除した結果に他ならない。その大柄な体格は、相手を威圧し、見た目通りのパワーも秀逸である。欠点は、やはり小回りが利かない事であるが、その辺りは解決策もある為、シンにはその辺りを教わっている。
マーガスはその逆で器用貧乏な所がある。試合では、ナタリアの次に残っていた学生で、前半後衛で、魔法も使っていたように、平均点は高い。その上で1つ抜きに出たものを持つと一皮剥けるのではないか。
ナタリア・クーチェスは、後で知ったのだが、現、近衛隊隊長のライアス・クーチェスの娘らしい。シンはライアスとは面識があり、シンが王都にいた際に、兵士たち相手に連戦連勝を重ねていたところ、騎士にスカウトをしにきた。シンはそれを断っているが、終始残念がっていた。ナタリアは、父の薫陶もあるのか、騎士足らんとするあまり、若干、融通が利かない。そこが美点であり、欠点で自分の理想を追い求める努力を人一倍しているが、埋まらないギャップに苦しんでいる様子が感じられる。彼女に欲しいのは本当の自信で、自信が持てる裏ずけが与えられればとシンは思っている。
逆にそのあおりを受けて、不満を募らせているのがセシル。まぁある意味仕方がないのだが、まず、セシルと会うのは目立つ為、迂闊に会いに行けない。加えて、シンの個別指導もあり、なかなか時間が作れない。一度会いに行ったが、それ以降まだゆっくり話せてはいない。時折、すれ違って、挨拶するくらいだ。当然、その時のセシルの目は笑っていない。そろそろ何か手を打たないと、晩餐会の時のように不満が爆発してしまう。
シンはその日、例の3名に普通科生徒1名を学院内の訓練スペースに呼んでいた。できれば秘密裏にしたいところなので、完全に個室空間である。シンが部屋の扉を開けると生徒達は既に部屋にいる1、2、3、…5?部屋に読んだのは、ナタリア、クリス、マーガス、それに普通科のセシル。そしてセシルの申し訳無さそうな顔の隣で、青い髪の少女がニコニコしていた。
「えーと、君は確か…」
「はい、お久しぶりです。シン様。フロイセン公爵の娘のアイシャ・ディ・フロイセンです」
アイシャは変わらず、ニコニコ顔で挨拶してくる。するとその隣に座っていたセシルが謝罪してくる。
「シン様、すいません。アイシャ様にここへ来ることをお話しましたら、ついて来るとおっしゃられまして…」
「あら、何か面白そうな事をされるのに、セシル様だけなんて、ずるいですわ。私もぜひ参加させていただきたいですわ」
二人のやり取りを騎士科の3名はやや引き気味に見ている。長引かせてもしょうがないので、シンはアイシャに確認する。
「ここは学院なので、アイシャでいいかな?今日は騎士科3名とセシルを交えて魔法の鍛練を教える事になっているんだ。アイシャは魔法は使えるのかな?」
「勿論、アイシャで構いませんわ、シン先生。私は水系統の魔法は使えますわ」
アイシャはそう言うと、意識を集中させて、綺麗な水球を作る。
「へー、すごく綺麗な魔力操作だね。うん、それなら問題なさそうだ。参加してくれて構わないよ。ただ、あまり参加者を増やす気はないから、口外はしないように」
「シン先生、参加を認めていただきありがとうございます。お約束に関しては、承知しましたわ」
アイシャはそう言って感謝の意を示す。シンはそれを受けた後、今度は騎士科の面々に二人の参加の理由を説明する。
「彼女達はまあ、知っていると思うけど、セシル王女殿下とアイシャ公爵令嬢だ。今回二人にも参加、まあ、アイシャは飛び入りだけど、してもらうのは、自衛手段を持ってもらう事の一環です。セシルもアイシャも、この国の要人なので、そう言う意味であった方がいいと考えて、話を持ちかけています。勿論、やるやらないは本人の判断でしたが、本人がやるという意思を持っていたため、呼んでいます。アイシャは飛び入りだけど、意図はそう言う事だから」
「はい、承知しました」
アイシャは変わらず、ニコニコ顔でそう返事をする。シンは再び、三人に向き直り、説明を続ける。
「それに今回の修練は、魔法の修練です。この二人はそれなりに魔法が使えるようだから本人の為になるだろう。ここまでで質問は?」
三人はそれぞれ首を横に振り、問題ない旨を伝える。
「じゃあ、実際やることを説明しようか。悪いけど、そこの机のところに集まってくれるかな?」
シンは生徒達を机の前に集めると、その上に色取り取りの石を広げる。魔石である。
「これらは今回の教材で使う、魔石です。魔石は魔物の上位種から取れる結晶化された核なのですが、その性質上、強い魔力を含んでいます。今そこにあるのは、その魔力を抜いた状態の石で、みんなには日々の鍛練としてこの魔石への魔力の出し入れをしてもらいます」
するとナタリアがすかさず手を上げて質問してくる。
「シン先生、よろしければそれをする事の意味を教えていただけますか?」
「そうだね、ちなみにナタリア。人の魔力の量はどうやって決まると思う?」
ナタリアは質問に質問で返されて、少し面を食らうが、すぐ切り替えて、回答する。
「生まれつきの素質で量が決まっていると聞いています」
「そう、一般的にはそう言われているね。実際、努力しないで使える量は素質で決まる。でもね、実は魔力の量は素質で決まった量よりも増やす事が出来るんだ。これは魔術師協会の人間なら誰でも知っている事なんだけど、ただその修練方法が難しい。下手をしたら体が吹っ飛んじゃうからね。ちょっとやってみようか」
シンはそう言って、正規の修練方法を実演してみる。まず魔力を溜める、維持する、放出する。本当であれば、魔力は可視できない為、シンはわざわざ色を付けて見せてやる。するとシンの体中からふぁと霧のように魔力が一定量で霧散していく。
「このように、溜めるのは比較的簡単なんだど、それを維持し、放出する事は難しい。身体強化では維持する事、攻撃魔法は放出する事の応用みたいなものかな。ちなみに、溜めすぎる、維持するときに揺らぐ、発散しすぎると体が爆発するから、魔術師協会も秘匿しているんだ」
ここまでの説明で、生徒達はやや青い顔をしている。まあ慎重になるのに超した事は無いので、あえて何も言わないず、先に行く。
「さすがにこれを君たちにできるとは思わないので、今回はこれを利用します」
そう言って魔石を一つ摘み上げる。
「さっき言ったように溜める、維持する、放出するで、この魔石に溜める事と放出する事はできる。正規の手段よりは効果は落ちるけど、それでも魔力を使う事でそのポテンシャルは確実に増えるから、これを毎日修練でやって貰います。では早速、やって貰おうか」
そう言って実際にやらせてみると、生徒によって性格が出るのか、異なる結果となる。
「セシル、魔力を一気に流し込みすぎだ。もっとゆっくりでいい」
「クリス、慎重すぎる、それじゃあ何時まで経っても堪らないぞ」
「ナタリア、魔力が漏れている。石に向って魔力が入ってないぞ」
どうやら、問題児は3名で、アイシャ、マルウェルは器用に、正確に魔石の魔力の出し入れをしている。
「アイシャとマルウェルは問題なさそうだな。じゃあ、アイシャはナタリアを、マルウェルはクリスの作業を見てやってくれ。俺はセシルの様子を見るから」
シンはそう言うと、セシルの作業を見る。するとやはり出力が安定しない。
「セシル、ちょっと手を貸してくれ」
シンは、そう言うとセシルの背後から魔石を持つ手を握り、魔力の出力を調整する。セシルは少し顔を赤らめると、嬉しそうにしている。
「セシル、ちゃんと出力を感覚でつかんでくれ。それを一定に出すようにするんだ」
セシルは、慌てた声で返事をする。
「はっはい、わかりました」
すると今度は真面目に出力の感覚をとらえようとしている。周りの男性陣はその光景を羨ましそうに眺め、アイシャは興味深々に、ナタリアは少し不満げにシン達を眺めているが、シンに見つかって、慌ててそれぞれ集中し始める。
そして暫くたった後、全員が一応出来るようになる迄に、日が傾くまでかかったが、なんとかその日中に講義はお開きとなった。




