変化
深呼吸を一つし、腰に差してある小刀の柄を強く握る。
興奮で心臓は高鳴っているが、頭は落ち着いている。
「あれか・・・。」
派手な鎧を身に付けた若い男が歩いてきた。
「ん・・・あいつ・・・。」
船で見かけた奴だ。とユークは呟いた。
「あいつが『あ』だったのか・・・何であんな変な装備なんだ?」
上下で明らかに防具が合っていない。
「おそらくですが、入手した最強装備を付けているから、だと思われます。見た目よりも性能を重視した結果、あのような見た目になったのかと。」
「なるほどな。」
それも強さを追いかける上での一つの選択肢だ。
見た目に頓着しないのであれば、防具の性能のみを追求した方がいい。
『あ』はゆっくりとした動作で身に付けている防具を外した。
その表情は全く変わらず真顔だ。
感情のない顔で黒い髪を揺らしクオンの正面に立つ。
手には派手な装飾が施された剣が握られている。
かつてないほどの緊張感が、会場全体を包み込む。
「それでは、最終試合・・・。」
クオンは鞘から小刀を引き抜いた。
『あ』は剣の切っ先を正面に向け、クオンは二刀流の構えをとる。
「・・・開始!」
ゴングがなるのとほぼ同時にクオンが飛び出した。
「速いっ!」
ユークたちがこれまで見てきた戦闘シーンは何だったのか、と思えるほどのスピード。これまで一度も見せてこなかった速さだ。
常人では目で捉えきれないスピードで小刀を突き出したクオンだが、『あ』は無表情のまま身体を僅かによじり、紙一重で小刀を躱した。
「ッ!」
武器を突き出した姿勢になったその刹那、反撃がきた。
『あ』は剣を逆手に持ち替え、クオンの腹部めがけて小さく鋭い突きを繰り出す。
バックステップを素早く行い、ダメージを免れた。が、服の帯が僅かに切れた。
離れたクオンに対し『あ』は深追いしなかった。
その場から動かず、何に対しても興味を示さない瞳で遠ざかったクオンを見つめる。
「ふぅ・・・。」
クオンは小さく息を吐いた。
この男、強い。これまで会ってきた誰よりも、どんなモンスターよりも。
「これだよ。」
私が求めていたモノは。
瞳がランランと輝き、頬が吊り上がるのが自分でも分かる。
小刀を握り直し、重心を下げる。
さぁ・・・やろう。
と思ったその時――
「クオン!」
耳に男の声が届いた。よく知ってる声、ずっと聞いてきた声だ。
「ユーク・・・?」
これからだという時に、一体何なのか?
ユークの方を見ると、緊張した面持ちのユークとプレナ、そして不安げな表情をしたモルガナが目に入った。
その目を見たら、何を言いたいのか、なんとなく分かった。
身体から力が抜け、小刀を鞘に戻す。
「棄権する。」
そう言って私はステージから下りた。
「ただいま。」
3人のもとに行くと、ユークは歯を見せて笑った。
「おう。おかえり。さぁ受付に行って、情報を聞きだそうぜ。」
「うん。」
その笑顔に何だかつられて、顔がほころんだ。
うまく笑えたかな。




