旅行です
ピーッ!という高い笛の音がし、黒い物体が目の前まで走ってきた。
「ほーん、これが機関車か。」
「ええ。正確には寝台車ですが。さぁ乗りますよ。」
プレナに背中を押され、機関車に乗り込む4人組。例によって親父は留守番だ。
通路をしばらく歩き、とある場所で立ち止まり、ドアを開ける。
「ここが私たちの部屋になります。」
「おーっ意外と広いな。」
テーブルにソファ、二段ベッドが二つ置いてある部屋だ。
そして大きな窓。星空を眺められるよう大きく設計したそうだ。
「一週間後にヴェリニヤに到着予定です。それまでは各自、自由行動ということで。」
「はーい。ねぇクオンちゃん、一緒に探検しようよ。」
「分かった。」
はしゃいで部屋を出ていった2人を尻目にユークはソファに腰を掛け、買っておいた本を取りだした。
「よろしかったのですか、ユーク様?汽車移動せずとも、移動魔法で行けますのに。」
「いいんだって。言ったろ?今回は旅行なんだって。」
ヴェリニヤに行くことが決定した後、プレナは以前訪れたことがあったので、移動魔法で行くことを提案したが、ユークはそれを却下した。
旅には行き帰りも含まれている。道中に何かあったとしても、それを含めたのが旅行であるとユークは考えていた。
それに、こんな機会でもなければ、高級寝台車に乗って旅行なんてできないと思ったのだ。
「今回は純粋な旅行だからな。プレナも好きにしていいぜ。俺はしばらくこの本読んでるから。」
「かしこまりました。それでは、散歩してきますね。」
「おう。いってらっしゃい。」
プレナも部屋を出ていき、ユーク1人が部屋に残った。
「さて『必勝術』・・・どんなもんか楽しみだ。」
本当は買った後すぐ読みたかったのだが、旅行が決まったので我慢していたのだ。
「さてと・・・『第一章・強さとは』・・・か。」
ユークは本の世界に集中していった。
・・・・・・・・・
部屋を出たプレナは、機関車の最後尾を目指して歩いていた。
無機質な黒いボディの機関車だが、最後尾はテラスのようになっている。
スタッフもそこに在中しており、食べ物を注文することができる。
旅路の風景を楽しみながら、お茶をすることができるというわけだ。
何を頼もうか思案しているうちに、最後尾に到着した。頑丈なドアを開けると、遠くの方に豆粒サイズになった町が見え、雄大な自然が左右に広がっていた。
「スコーンとコーヒーを。」
注文を済ませ、貸し切り状態となっているテラスの端の方に腰を下ろした。
届いたスコーンにブルーベリージャムをつけ、過ぎ去っていく景色を眺めながら食べる。
普段は味わえない、誰にも邪魔されない特別な時間。
心が安らいでいくのを感じながら、コーヒーを口にする。
たまには・・・こういうのも、いいものですね。




