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【連載版】王太子殿下は「今だけ」と言い、幼馴染との思い出作りに励むそうです  作者: 福嶋莉佳


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第6話 ジュリア視点

教室へ入った瞬間、いくつもの視線がこちらへ向けられた。


ひそひそと交わされていた声が一瞬だけ止まり、すぐにまた小さくざわめき始める。


気づかないふりをして自分の席へ向かうと、隣に座っていたリズベットが、頬杖をついたままこちらを見た。


「私の証言も、役に立ったみたいね」


「ええ。おかげさまで」


私は椅子に腰を下ろす。リズベットは呆れたように息を吐いた。


「殿下も困った方ね。あれだけ話が広まっていたのに、自覚もなかったなんて」


「本当にそうね……」


「そうよ。殿下があんな態度を取るものだから、調子に乗っている連中まで増えて、目障りったらありゃしない」


つられてそちらを見れば、慌てて目を逸らす生徒が何人かいた。


おそらく、アイーダと殿下がお似合いだと話していた者たちだろう。


「何かあったの? あ、さっそく殿下に何か言われた?」


「謝罪されたわ」


「あの殿下が?」


リズベットが目を丸くした。


「殿下も人間だったのね。こんなことなら、もっと早く婚約解消をちらつかせてもよかったかもね」


「ふふっ。そうかもしれないわね」


苦笑したものの、すぐに目を伏せる。


「……ごめんなさい」


「何が?」


「あなたも、王太子妃候補だったでしょう。皆の中から私が選ばれたのに……結局、自分から婚約解消を申し出てしまって」


リズベットは一瞬きょとんとしたあと、盛大に顔をしかめた。


「何を今さら気にしてるのよ」


「でも――」


「むしろ、私はよかったと思ってるわよ。王太子妃候補から外れたおかげで、彼と結婚できるのだもの」


さらりと言って、彼女は笑った。


「あなたには悪いけれど、あの選考から外れて助かったと思っている令嬢、案外多いんじゃない?」


「……そう思ってくれているなら、いいのだけれど」


そう答えると、リズベットはしばらく私を見つめた。


「あなたも、そのうちそう思えるようになるわよ」


思いがけない言葉に目を瞬かせる。


リズベットはそれ以上何も言わず、机の上の本を開いた。


私はしばらく彼女の横顔を見つめてから、窓の外へ目を向けた。



その日の放課後、私はさっそく魔法薬研究会へ向かった。


もっとも、私自身は魔法を使えない。


そもそもこの国で魔法を扱える者は、それほど多くなかった。


魔法の適性は幼い頃に現れることが多く、才があっても、使わないまま成長すれば次第に弱まってしまうという。そのため国では子どものうちに適性を調べ、魔法の才が見つかった者には専門的な教育を受けさせていた。


平民の子どもに適性が見つかった場合も、希望すれば貴族家の養子となって教育を受けることができる。その際には、養育や教育にかかる費用の一部を国が援助する仕組みになっていた。


魔法を扱える人材は、それだけ国にとって貴重なのだ。


「ここね……」


目的の部屋は、校舎の端にあった。


魔法薬について本格的に学びたい生徒の多くは、授業でも専門科目を選択している。そのため、放課後まで残って研究を続けたいという生徒は、それほど多くないらしい。


あまり目立たない研究会だとは聞いていたが、実際に来てみると人の気配もほとんどなかった。


扉の前で一度息を吐き、軽くノックする。


「失礼します」


扉を開けると、中には見慣れない器具や大小さまざまな瓶が所狭しと並んでいた。壁際の棚には乾燥させた薬草が詰められ、机の上では何かの液体が入ったフラスコが小さく泡を立てている。


そして、室内にいた数人の生徒が一斉にこちらを見た。


「……」


誰も何も言わない。


まあ、そうなるわよね。


王太子との婚約解消を申し出たばかりの侯爵令嬢が、突然魔法薬研究会へ現れたのだから。


何と声をかけようか迷っていると、その向こうから聞き覚えのある声がした。


「それなら、こっちの薬草を混ぜた場合はどうなるんだ?」


「魔力との相性次第ですね。ただ、まだ試したことは――」


声のする方を見ると、研究会の生徒らしい少年と話していた人物がこちらに気づき、振り返った。


「お。来たな」


そこにいたのは、セドリックだった。


私は思わず目を瞬かせる。


「もう来ていたの?」


「参加するって言っただろう?」


「言っていたけれど……」


部屋の中を見回してから、もう一度彼を見る。


「どうして私より早いの?」


「君がリズベット嬢と話し込んでいるのが見えたから、先に来ただけだ」


「それなら待っていてくださってもよかったでしょう?」


「先に話を聞いておいた方が早いだろう?」


当然のように返され、私は思わず黙り込んだ。


つい先ほどまで、リズベットには、


『婚約解消するつもりなら、次の縁談も少しは考えておきなさいよ。ただでさえ王太子の元婚約者なんて、相手からすれば声をかけにくいんだから』


と、散々念を押されていた。


それなのに私は、次の婚約者を探すどころか、今は見知らぬ器具に囲まれた部屋でセドリックと言い合いをしている。


なんだか妙な一日だ。


「それで?」


セドリックが楽しそうに私を見る。


「君が作りたいものって、何なんだ?」

次はレイナルド視点になります。回想になりますので話が進みません(汗)なるべく連投しますm(_ _)m

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