【番外編】嫉妬【レイナルド視点】
※今回は甘いだけのお話です。苦手な方はご注意ください。
今後の番外編では、レイナルドが反省する描写はあっても、これ以上痛い目に遭わせる予定はありません。ご了承ください。
また、レイナルドへの批判や「もっとざまぁを」といったご感想は、今後はご遠慮いただけますと幸いです☆彡
ジュリアが研究を続けていた美容液は、ようやく製品化に向けて具体的に動き始めていた。
それに伴って、俺はできるだけジュリアを公務から外すようにしている。俺一人で足りるものや、代理を立てられるものまで、わざわざ彼女を連れ出す必要はない。そのたびに相手から怪訝そうな顔をされることはある。
「ジュリア様は?」
「今日は学園の研究会に出ています」
何度同じ説明をしたかわからない。とはいえ、致し方ない。ジュリアには、学生でいる間くらい好きなことをしていてほしい。
これまで彼女は、自分の時間を削って王太子妃になるための勉強を続けてきた。俺のために。
だから魔法薬研究会へ通うことにも異論はない。
ないのだが。
「今年の薬草の収穫量ですが、去年より少し増える見込みです」
「まあ。でしたら、年間ではこれくらい確保できそうですか?」
「そうですね。この薬草は比較的安定していますし、うちなら不足した場合も別の農園から融通できます」
「それなら――」
「……」
椅子に座り、目の前の二人のやり取りを聞く。
……ジュリア。
研究会にはほかにも生徒がいるはずなのに、なぜ君はいつもそいつと話しているんだ。
いや、理由はわかっている。彼の実家は薬草を扱っている。美容液を製品化するなら、原料の仕入れについて詳しく聞きたくなるのは当然だ。
わかっている。
ふと、彼と目が合った。なぜか、小さく頭を下げられる。
おい。なぜ謝る。
別にお前は何も悪いことをしていないだろう。
「はぁ……」
まさか、自分がこんなことを気にするとは思わなかった。
手を触れているわけでもない。二人きりでどこかへ出かけているわけでもない。ただ研究に必要な話をしているだけだ。
それでも、気になる。
――ジュリアも、こんな気持ちだったのだろうか。
そう考えた瞬間、胸の奥が重くなった。
いや。こんなものではない。
俺はアイーダと人前でもずいぶん親しげに接していた。誕生日だって祝った。
ジュリアは、それをずっと見ていたのだ。
拳を額に当て、深く息を吐く。
誰だって、好きな相手が異性と親しげにしていれば気になる。
――ん?
そこで、ふと引っかかった。
アイーダがほかの男と話していたとき、俺はどう思っていた?
学園で男子生徒と話しているところなら、何度も見ている。楽しそうに笑っていたことだってあった。
だが、何も思わなかった。
むしろ、学園に馴染めているのだと微笑ましく眺めていた気さえする。
「…………」
では、あれは。
俺がずっと恋だと思っていたものは――。
「――殿下」
呼ばれて、はっと顔を上げた。
いつの間にか話は終わっていたらしい。ジュリアが俺の前に立っている。
「終わりましたから、戻りましょう」
「ああ」
ジュリアの手を取り、研究室を出る。
馬車へ向かって歩き始めてしばらくすると、ジュリアがこちらを見上げた。
「先ほどから、何を考えていらしたのですか?」
「え?」
「ずっと難しいお顔をされていました。眉間の皺がすごかったですよ」
「ああ……魔法薬の国内需要について少し考えていた」
「……」
ジュリアが無言でこちらを見る。
「いや……」
観念して息を吐いた。
「君が、彼とずいぶん話しているな、と」
ジュリアが目を瞬かせた。それから、すっと口元を緩める。
「ええ。よくお話ししますよ。とても話しやすい方ですから」
「……そうか」
何だ、その情報は。
聞かなければよかった。
「それに、彼の実家へ美容液の製造をお願いしようかと思っているんです」
「なに?」
彼の実家は、地方に領地を持つ男爵家だったはずだ。薬草の栽培にも力を入れており、原料の確保には困らない。王都へ続く街道への便も悪くない。派閥との結びつきも強すぎず、王太子妃となるジュリアの事業に関わらせても問題はなさそうだ。
「……悪くないな」
「でしょう?」
ジュリアが嬉しそうに笑った。
「なら、学園からも資金を――いや」
一度口にして、考え直す。特定の研究会だけに予算を追加すれば、ほかから不満が出るだろう。そもそも美容液は、すでに単なる研究の域を越えつつある。
「俺が出資しよう。学園の予算を使えば、ほかがうるさいからな。俺が個人で出すなら話は早い」
王太子としてではなく、俺個人の資産から正式に出資する形なら、多少口を挟む者はいても問題にはなりにくい。契約もほかの出資者と同じ条件にすればいいだろう。
「まあ、ありがとうございます」
「それで、卸先は?」
「そちらも考えています。最初はサリード商会へお願いしようかと」
思わず足が止まった。
「……そこか」
今回の件で謝罪に出向いた際、五時間にわたって説教された家だ。
当主は最初から最後まで一度も声を荒らげなかった。ただ淡々と、俺が何をしたのか、それによって何が起こり得たのかを確認された。
しかも、一度ではない。
「殿下は、ご自身の立場をどうお考えだったのでしょう」
「……王太子として、あまりに軽率な行動だったと反省しています」
しばらく別の話をしたあと、
「ご自身の行動が、王太子としてふさわしいものであったとお考えですか?」
またそこへ戻る。
「……いいえ」
さらにしばらくすると、
「殿下のお立場を考えれば、あの行動は軽率だったと思われませんか」
「……おっしゃる通りです」
言い方は違うが、結局聞かれていることはほとんど同じだった。五度目には、さすがに返す言葉もなくなった。
「ジュリア。それは……俺のためか?」
彼女は少しだけ目を丸くした。やがて、何でもないことのように微笑む。
「わたくしも殿下の妻になるのですから。夫を支えるのは当然です」
言葉が出なかった。
俺がしでかしたことだ。俺がジュリアを傷つけた。
それなのに彼女は、もう俺のために動こうとしてくれている。
「……殿下?」
繋いでいた手を引いた。
「きゃっ」
そのまま腕の中へ抱き寄せる。ジュリアの身体が一瞬だけ強張った。
「で、殿下……何を……」
「少しだけ」
「……」
「少しだけ、このままでいさせてくれ」
胸元で、ジュリアが小さく息を吐いた。
本当に。
どうして俺は、彼女をずっと見ていなかったのだろう。
「ジュリア」
「……何ですか?」
「愛している」
「……!」
腕の中で、ジュリアが一瞬固まった。
やがて、おそるおそるというように、彼女の腕が俺の背へ回る。
「……わたくしもです」
その声を聞いて、抱きしめる腕に力を込めた。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
とりあえず番外編は、ここで一区切りにしようと思います。
作者のライフポイントが尽きました(笑)
また次作でお会いできましたら嬉しいです!
ちなみに、あの五時間説教の場に同席していた侍従の内心は、
「……さすがに、やりすぎ」
でした(笑)




