【番外編】ジュリアがチョロインな理由【殿下はクズ】
レイナルドがお花畑満載だった頃のお話です。
クズ率アップ☆なので、それでも構わん!という方だけお読みください。
なお、作者も「クズだな」と分かっておりますので、感想欄での過度な罵倒はご遠慮くださいm(_ _)m
「ジュリア、最近顔色が悪いわよ」
午後の授業が終わり、教科書を鞄にしまっていると、向かいに座っていたリズベットが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「そうかしら」
「そうよ。それに……少し痩せたんじゃない?」
言われて、自分の頬に触れる。食欲がない自覚はあった。夜もなかなか寝つけず、朝早く目が覚めることも増えている。それでも、人前ではいつも通りに振る舞えているつもりだった。
「……駄目ね。表情に出るなんて」
「そういう問題じゃないでしょう」
リズベットが呆れたようにため息をつく。
「もう殿下に言うべきよ。ジュリアがこんなに悩んでいること、殿下は分かっていないんでしょう?」
「…………」
分かっていないのだろう。
いや、以前より気遣ってくださるようになったとは思う。私に声をかけることも増えたし、エスコートするときの仕草も柔らかい。
それが、アイーダと親しく過ごしていることを心のどこかで悪いと思っているからなのか、それとも別の理由なのか。私には分からなかった。
「……少し考えるわ」
そう答えると、リズベットはまだ何か言いたそうな顔をしたものの、それ以上は口を出さなかった。
リズベットと別れたあと、私は殿下の教室へ向かった。
今日は急な公務が入ったと、昼頃に殿下の侍従から連絡を受けている。ただ、殿下本人にもすでに伝わっているのかは分からなかった。念のため確認しておこうと思ったのだが、殿下の姿はなかった。
近くにいたクラスメイトに尋ねると、少し前にアイーダと一緒に乗馬部へ向かったという。
胸の奥が、また重くなる。
「……乗馬、か」
あれは何年前だっただろう。私も殿下と馬を並べて、敷地の外れまで散策したことがある。
殿下は乗馬そのものは楽しんでいた。けれど私と話しているときは、どこか遠くを見ているように感じたことを覚えている。
今なら、アイーダとはどんな顔で一緒に過ごしているのだろう。
そんなことを考える自分が嫌になる。
足取りは重かったが、それでも私は乗馬場へ向かった。二人が楽しそうに過ごしているところなど、見たくない。殿下に用がある以上、仕方がなかった。
乗馬場が近づいてきた、そのときだった。
「きゃああああっ!」
甲高い悲鳴が響いた。
驚いて顔を上げると、一頭の馬がこちらへ向かって猛然と駆けてくるのが見えた。その背には、アイーダがいる。
「アイーダ! 手綱を離すな!」
殿下の声だった。
「レイ! 助けて!!」
必死に手綱へしがみつきながら、アイーダが叫ぶ。その後ろから、殿下も馬を走らせて追っていた。
逃げなければ。
頭ではそう分かっているのに、地面を蹴る蹄の音がものすごい勢いで近づいてくる。身体が言うことを聞かなかった。
足がすくむ。
動けない。
「きゃあっ!」
アイーダの身体が大きく傾いた。暴れた馬が前脚を高く上げ、そのまま私の目の前へ振り下ろされようとする。
私は反射的に目を閉じた。
そのときだった。
「ジュリア!!」
身体が強く引かれた。
次の瞬間、私は殿下の腕の中にいた。腰を抱かれ、殿下の胸元へ強く引き寄せられている。
すぐそばを、馬のいななきと激しい蹄の音が通り過ぎていった。
「ジュリア! 大丈夫か!? 怪我は!?」
「殿下……」
すぐ近くにある顔は、見たことがないほど焦っていた。
「どこか痛むところは? 馬に当たっていないか?」
「は……はい。わたくしなら、大丈夫です」
「本当に?」
「はい……」
答えると、殿下はようやく大きく息を吐いた。
「……よかった」
その顔を見た途端、胸の奥を強く掴まれたような気がした。
「きゃああっ!」
再び悲鳴が響く。
私も殿下も、同時に顔を上げた。暴走した馬の上で、アイーダが今にも振り落とされそうになりながら必死にしがみついている。
「アイーダ!」
「殿下、彼女を!」
「ああ。ここにいてくれ!」
殿下は私を馬の進路から離れた場所へ残すと、すぐにアイーダを追った。乗馬部の者たちも駆けつけている。
ほどなくして馬は取り押さえられ、アイーダも助け出された。大きな怪我はないようだった。
「レイ……怖かったよぉ……」
アイーダが涙を浮かべながら殿下の腕に縋る。
「もう大丈夫だ。どこか痛むところは?」
殿下はアイーダを宥めながら身体に怪我がないことを確かめると、すぐに近くの部員たちへ視線を向けた。
「馬が突然あれほど暴れた原因を調べてくれ。制御用の魔石か、馬具に異常があった可能性もある。ほかの馬も念のため確認した方がいい」
「はい!」
指示を受けた者たちが動き始める。
私は離れた場所から、その様子を見つめていた。胸に手を当てる。
心臓が、まだ激しく鳴っている。
馬に踏みつけられそうになったのだから、当然だ。そう思った。
けれど、脳裏に浮かぶのは、目の前まで迫ってきた馬ではなかった。
『ジュリア!!』
私を抱き寄せた腕の強さも、見たことがないほど焦った表情も、まだはっきりと残っている。
そして、ずっと昔に言われた言葉を思い出した。
『君を守れるようにならないとな。俺の妃なのだから』
私は胸元を押さえたまま、アイーダの無事を確かめている殿下を見つめた。
つい先ほどまで胸の中を占めていた重苦しいものが、少しずつ別のものへ変わっていった。
レイナルド、お花畑モードでも――
恋愛感情
アイーダ > ジュリア
命の優先順位
ジュリア >>> 越えられない壁 >>> アイーダ
クズぅ……\(^o^)/
あ、でも殿下は一応有言実行しましたね。
命懸けの救出劇でした。




