↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王太子殿下は「今だけ」と言い、幼馴染との思い出作りに励むそうです【番外編】  作者: 福嶋莉佳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/52

第28話 アイーダ視点

午後の授業を終えたあと、学園祭の出し物を決めるための話し合いが始まった。


「ねえ、今度の学園祭、うちのクラスは演劇にしない?」


誰かがそう言うと、あちこちから賛成の声が上がった。


今年の学園祭まで、あとひと月ほど。各クラスで出し物を決める時期になっていて、私たちのクラスでもここ数日、何をするか話し合っていた。


レイは王太子としての公務があるため、学園祭の準備にはほとんど参加しない。今日も朝から王宮へ出ていて、教室にはいなかった。


喫茶店や展示という案も出ていたけれど、結局、一番票を集めたのは演劇だった。


「じゃあ、何をやる?」


「せっかくだし、恋愛ものがいいな」


「去年も喜劇だったでしょう? 今年はもっと華やかなのがいいわ」


口々に意見が飛ぶ。私はその様子を聞きながら笑っていた。


演劇なんて、今までやったことがない。裏方なら手伝えるかな、と思っていると、マリアベルがぱっと顔を上げた。


「身分違いの恋なんてどう?」


「いいんじゃない?」


「公爵家の令息と、男爵令嬢とかは?」


「ああ、そういうのね。『花盛りの令嬢』みたいなのでしょう?」


何人かが頷く。


すると、別の男子生徒が考えるように顎へ手をやった。


「せっかく俺たちでやるなら、もう少し変えてみないか」


「どう変えるの?」


「身分差を大きくするとか……そうだ、主人公を平民にするのはどうだ?」


一瞬だけ教室が静まり、それから何人かが声を上げた。


「あ、それ面白そう!」


「平民の女の子が貴族と恋に落ちるの?」


「いいじゃない。学園祭なんだから、それくらい思い切った方が盛り上がりそう」


「でも、私たちがそれをやるのって……大衆向けの芝居じゃあるまいし」


「普通の身分違いの恋より、その方が分かりやすくない?」


わあ、と教室の一角が盛り上がる。


離れたところにいた侯爵家や伯爵家の子たちは、互いにちらりと顔を見合わせていた。


「……ずいぶん思い切った設定ね」


一人がそう言うと、別の子が困ったように笑った。


「まあ、演劇としてならいいんじゃない?」


何人かは曖昧に頷き、何人かは何も言わなかった。結局、強く反対する人はいなかった。


最近は、家柄よりも本人の能力を見るべきだという話が、学園のあちこちで出ている。きっと、みんなも少しずつ同じことを考えるようになってきたのだろう。


よかった。みんなも同じように思っているみたいだ。


「じゃあ、主人公はアイーダがいいんじゃない?」


突然名前を呼ばれて、私は目を瞬いた。


「えっ、私?」


「絶対似合う!」


「そうよ。声もはっきりしてるし、その髪色も舞台映えするわよ」


「それに……ねえ?」


女の子たちが顔を見合わせて笑う。


何となく意味が分かって、頬が熱くなった。


「もう、やめてよ」


「だってぴったりじゃない」


「平民の女の子が貴族と恋に落ちる話なんでしょう?」


「私、演技なんてしたことないよ」


「練習すれば大丈夫だって!」


次々に言われて困ってしまう。でも、嫌ではなかった。むしろ少しだけ胸が弾んだ。


「じゃあ……みんなが手伝ってくれるなら」


そう答えると、何人かが歓声を上げた。


「決まり! アイーダが主人公!」


「相手役はどうする?」


「それはあとで決めればいいんじゃない?」


「まず大筋から考えようよ。手持ちの小説も参考にしてさ」


そこからは、やりたい者を中心に脚本を考えることになった。


黒板の前には何人かが集まり、次々と案が書き込まれていく。私も呼ばれて、その輪の中に入った。


「見せ場も欲しいよね。舞踏会とか?」


「シャンデリアはどうする? 幻影魔法で作ればいいかな」


「主人公は、見た人が応援したくなるような性格がいいよね」


みんなが楽しそうに意見を出していく。私も何度か聞かれ、そのたびに思いついたことを答えた。


どんな話になるのかは、まだ分からない。それでも、黒板の上に少しずつ形になっていく物語を見ているうちに、胸がくすぐったくなった。


私が主役だからだろうか。まるで、自分のために作られていく物語みたいに思えた。



教室を出たあとも、浮足立っていた。


学園祭の舞台。しかも、私が主役。


どんな衣装になるのだろう。ちゃんと台詞を覚えられるだろうか。


そんなことを考えながら廊下を歩いていると、向こうから数人の女子生徒がやってきた。見覚えがある。伯爵家や侯爵家の令嬢たちだ。


すれ違おうとしたところで、そのうちの一人が私を見て眉を寄せた。


「……少しは周りをご覧になったら?」


「え?」


思わず足を止める。


「最近、ずいぶん堂々となさっているから」


隣にいた令嬢が小さく笑った。


「殿下に目をかけていただいているからといって、どこでも同じように振る舞っていいわけではなくてよ」


「そんなつもりじゃ……」


「ベクター子爵家に迎えられて、もう何年になるのかしら」


その言葉に、胸がちくりとした。


「ベクター子爵家の名を名乗らせていただいている立場だということを、もう少し自覚なさった方がよろしいのではなくて?」


そう言い残して、彼女たちは私の横を通り過ぎていった。


しばらく、その場から動けなかった。


何だったんだろう。私はただ、廊下を歩いていただけなのに。


――ベクター子爵家の名を名乗らせていただいている立場。


その言葉が、いつまでも耳に残った。


やっぱり、こういうのっておかしいよね。


どこの家に生まれたかなんて、自分では選べないのに。それだけで、いつまで経ってもこうして見られるのだろうか。


さっき教室でみんなが話していたことを思い出す。


身分の違う二人が恋をする物語。


胸の奥に、さっきとは違う熱が灯った。


そうだ。劇を成功させよう。


ただ楽しいだけじゃなくて、見た人に何かを感じてもらえるような劇にしたい。身分が違っても、その人自身を見てほしい。


そんな当たり前のことを、みんなに分かってもらえるような。


私はぎゅっと手を握った。


絶対、成功させよう。


きっとこの劇には、意味がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
高位貴族の令息令嬢も、強く止めなよー。反逆罪に該当しかねないよー。
うぅん、生まれだけじゃなくて言動を問題にされているとは思えない認知の歪み……。
自分達も下級とはいえ貴族だってもことは棚に上げてますよねー。そしてジュリアのように寝る時間も惜しんで努力しても上級貴族だと評価されないのであれば本末転倒。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。