第15話 アイーダ視点
そして、夜会の日。
会場でレイを見つけた瞬間、思わず見惚れた。いつもの制服姿も格好いいけれど、濃紺の正装に身を包んだレイは、それ以上だった。
その隣には、ジュリア様がいた。菫色のドレスをまとった姿はとても綺麗だったけれど、華やかな顔立ちのジュリア様には、もう少し違う色の方が似合うような気もした。
やがて二人が、最初の曲を踊り始める。
「すごい……」
思わず声が漏れた。足の運びも身体の向きも、何もかもぴったり合っている。誰が見ても、お似合いの二人だった。
なのに――なんだか、楽しそうじゃない。
二人とも笑ってはいる。でも、レイが私と話しているときの笑い方とは違っていた。
そのとき、レイと目が合った。
すると、レイが笑った。私がよく知っている、いつもの笑顔だった。
――やっぱり。
曲が終わると、マリアベルに背中を押された。
「ほら、アイーダ。行ってきなよ」
「えっ」
「さっきから殿下、こっち見てるわよ」
振り向くと、本当にレイと目が合った。
「ほら!」
「ちょ、ちょっと!」
もう一度背中を押され、その勢いのままレイのところへ向かう。
「レイ。次は、私とも踊ってくれる?」
レイは笑って、当たり前のように手を差し出してくれた。
学園でもダンスの練習はしていたけれど、大勢の前で踊るとなると勝手が違う。最初は足がもつれそうになったものの、レイがこちらに合わせてくれると、不思議なくらい楽に踊ることができた。
しばらくして、レイが私のドレスへ目を向ける。
「そのドレス、似合ってる」
「……え?」
思わず足が止まりそうになった。
「ほ、本当?」
「ああ」
「ありがとう。レイも、すごく格好いいよ」
嬉しくて、胸がいっぱいになった。
やっぱりレイも、私のことを好きなんじゃないだろうか。そうでなければ、こんなふうに見つめたりしない。こんなふうに笑ったりしない。
けれど、視界の端にはジュリア様がいる。
それだけは、どうしても変わらない。
曲が終わって友人たちのところへ戻ると、案の定ひどく冷やかされた。
「すごかったじゃない!」
「殿下、ずっとアイーダのこと見てたわよ」
「やめてってば」
「絶対好きよ、あれ」
「もう!」
否定しながらも、今度は前ほど強く言えなかった。
だって、私もそう思ってしまったから。
それから少しして、私の誕生日が近づいた。
さすがに自分からレイに誕生日を教えることはできなかった。だから、マリアベルたちがレイに教えていたことも、彼から誘われるまで知らなかった。
知ったときには、あとで何度もお礼を言ったくらいだ。
そして誕生日当日、レイは私を芝居へ連れていってくれた。
以前、街で広告を見かけたとき、「こんなのやってるんだ。一度見てみたいな」と何気なく口にした作品だった。
そんな話をしたことさえ、私はほとんど忘れていたのに。
「覚えてたの?」
「アイーダが話してたからな」
芝居を見終えたあとは、菓子屋へ連れていってもらった。
店の前に着いた瞬間、足を止める。
「ここ……前に私が行ってみたいって言ってたところ。それも覚えてたの?」
「何度も話してただろう」
店へ入ると、奥の個室へ案内された。席に着いてしばらくすると、色とりどりの果物やクリームを使った菓子が次々と運ばれてくる。
ベクター家でも見たことがないほど綺麗で、しばらく眺めているとレイが笑った。
「食べないのか?」
「食べるよ! もったいなくて見てただけ!」
それだけでも十分すぎるくらい嬉しかったのに、最後には小さな箱まで渡された。
「誕生日だからな」
開けると、中には淡い桃色の花をかたどった髪飾りが入っていた。花弁の中央には、小さな宝石がはめ込まれている。
「こんな素敵な髪飾り、持ったことない」
さっそく髪につけて、レイを見る。
「どうかな?」
「ああ。似合ってる」
「……選ぶの、悩んだ?」
「まあ、それなりに」
視線を逸らしたレイに笑ってしまった。
何度も髪飾りに触れてしまう。顔が緩むのを、自分でも止められなかった。友人たちに見せたら、きっとまた騒がれるだろう。
――もしかしたら。
本当に、いつか。
そんなことまで考えてしまった。
翌日、マリアベルたちは予想通り大騒ぎだった。
「髪飾りまで!? もうそれ、完全に特別じゃない!」
「違うってば」
「何が違うのよ。もう、傍から見たら恋人同士みたいじゃない」
笑いながら言われ、私もつられて笑った。
その中の一人が、何気ない調子で言う。
「そういえば昨日、ジュリア様も殿下に何かお話があったらしいわよ」
「え?」
「でも殿下、そのあとアイーダとの約束に来てくださったんでしょう?」
「……そうなの?」
知らなかった。
昨日、ジュリア様もレイに会いたがっていたなんて。
それでもレイは、私との約束を選んだ。
――私を、選んでくれたの?




