第14話 アイーダ視点
レイとは、その後もよく一緒に過ごした。
昼食に誘われて行ってみれば、王族専用の部屋へ案内され、見たこともないような料理が並んでいた。量の多さに驚く私を見て、レイは楽しそうに笑った。
授業で分からないところを尋ねれば、驚くほど分かりやすく教えてくれた。
「ここは、一つ前の式をそのまま使うんじゃない」
「……あっ。本当だ!」
「だから先にこっちを求めればいい」
「分かった! 先生より分かりやすい!」
「それは言い過ぎだ」
人混みでは自然に手を差し出してくれるし、階段では私の歩幅にまで合わせてくれる。そういうところを見ると、やっぱり王子様なのだと思う。
なのに、二人で話しているときは昔と同じだった。私がくだらないことを言えば笑うし、昔の話をすれば、私以上によく覚えている。
そんなふうに接されたら、惹かれない方が難しかった。
もちろん、レイに婚約者がいることは知っている。
ジュリア・アルバイン侯爵令嬢。
淡い金色の髪に、鮮やかなエメラルドグリーンの瞳。白い肌に整った顔立ちの、とても綺麗な人だった。背筋をまっすぐ伸ばし、挨拶をされたときの笑みまで綺麗で、私には少し近寄りがたく見えた。
レイの隣を歩く姿は、どこから見てもお似合いだった。ただ、あまりにも絵になりすぎていて、二人でいるとどこか堅苦しく見えることもあった。
だから、レイとこんなに一緒にいていいのかな、と考えたことはある。
けれど、レイは私を昔からの友人だと言うし、ジュリア様から何か言われたこともなかった。
それに周囲の友人たちまで、
「でも、殿下ってアイーダといるとき、本当に楽しそうよね」
「二人、お似合いじゃない?」
なんて笑う。
「やめてよ。レイには婚約者がいるんだから」
そう答えながらも、嬉しくなる自分がいた。
リシェルにも相談した。
「貴族の婚約って、本人同士が好きだから決まるわけじゃないんだよね? ……じゃあ、レイとジュリア様も……?」
「侯爵令嬢と王太子でしょう? そりゃあ、そういう意味も大きいんじゃない?」
「そっか……」
それを聞いて、妙に納得してしまった。
だから二人でいるときも、あまり恋人同士には見えないのかもしれない。
「可哀想だな……」
「え?」
「レイも、ジュリア様も」
好きでもない相手と結婚しなければならないなんて。そう思うと、胸が痛んだ。
そんなある日、レイと乗馬で競争をした。
勝負は当然のように私の負けだった。
「もう! 少しくらい手加減してよ!」
「競争だろう」
「大人げないなあ」
「同い年だろ」
言い返しながら馬から降りようとして、足を滑らせた。
「きゃっ」
地面へ落ちる前に、レイの腕に抱き止められる。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
顔を上げると、すぐ近くにレイの顔があった。
目が合ったまま、どちらも動かなかった。
胸がうるさい。
――もしかして。
レイも、私と同じなのではないか。
「……悪い」
身体が離れる。その瞬間、現実に戻された気がした。
そうだ。レイには婚約者がいる。
たとえ同じ気持ちだったとしても、どうにもならない。
そう考えると、急に胸が苦しくなった。
その数日後、廊下で声をかけられた。
「ベクター嬢。少しよろしいかしら」
振り返ると、そこにいたのは赤い髪の令嬢だった。切れ長の目が印象的な、凛とした美人だ。
「あまりレイナルド殿下に近づきすぎるのは、おやめになった方がよろしいと思います」
いきなりそう言われ、目を瞬かせた。
「……どうしてですか?」
「殿下には婚約者がいらっしゃるでしょう」
「それは知っています。でも、私とレイは昔からの友達です」
「あなたがそう思っていても、周囲がそう見るとは限らないということです」
少し強い口調に、何も言えなくなった。
レイとは、今しか一緒にいられない。卒業すれば、きっと今のようには会えなくなる。それなのに、友達として過ごすことまでいけないのだろうか。
「とにかく、一度ご自身の立場を見つめ直した方がよろしいと思います」
それだけ告げると、令嬢は去っていった。
後で友人たちにその話をすると、そのうちの一人――マリアベルが小さく鼻を鳴らした。
「それ、きっとカルディア伯爵令嬢よ。きついことで有名なの」
「カルディア伯爵令嬢って、以前は王太子妃候補の一人だったんでしょう?」
「え? そうなの?」
「有名な話よ。今は別の方との縁談があるらしいけど」
「じゃあ……」
もしかすると、カルディア伯爵令嬢もレイと結婚したかったのかもしれない。
それなら、私がレイと親しくしているのを快く思わないのも仕方がない。
「だから、そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「元候補者だから、一言言っておきたかっただけかもしれないし」
そう言われると、少しだけ気持ちが軽くなった。
それからしばらくして、学園の夜会が開かれることになった。
当日のドレスを選ぶため、マリアベルたちと王都の仕立て屋へ行く。店には領地では見たことのない色や布がいくつも並び、王都では流行も違うらしい。眺めているだけでも楽しかった。
「これがいいんじゃない?」
「ええ? ちょっと目立ちすぎない?」
「夜会なんだから、このくらいでいいわよ」
鏡の前で布を合わせていると、友人がにやりと笑った。
「これならレイナルド殿下も見惚れるんじゃない?」
「やめてよ!」
「顔、赤いわよ」
「もう!」
笑いながら否定した。
でも、鏡の中の自分を見ながら、少しだけ思う。
――レイ、綺麗だって思ってくれるかな。




