表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】王太子殿下は「今だけ」と言い、幼馴染との思い出作りに励むそうです  作者: 福嶋莉佳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/20

第10話 レイナルド視点

だが、俺がそう考えていることと、周囲がどう受け取るかは別だったらしい。


「殿下。少しよろしいですか」


ある日の放課後、廊下を歩いているところをセドリック・ヴァルナーに呼び止められた。


ヴァルナー公爵家は王家の傍系にあたり、セドリックとは遠いながらも血の繋がりがある。幼い頃から顔を合わせる機会も多く、同年代の中では付き合いの長い方だった。


軽薄そうに見えるところはあるが、自分の立場を忘れるような男ではない。俺が王太子だからと必要以上に機嫌を取ることもなく、その点では話しやすい相手だった。


「何だ?」


「アイーダ嬢のことです」


またか。


そう思ったのが顔に出たのか、セドリックは眉を寄せた。


「その反応を見る限り、他からも何か言われていますね?」


「何人かにはな」


「でしたら、少しはお考えください。アイーダ嬢とは距離を置かれた方がいい」


王族の恋愛話など、学生にとっては格好の話題なのだろう。誰と話した、誰と踊った、その程度で勝手な噂が立つことなど珍しくもない。


とはいえ、好ましい状況でないことくらいは分かる。


「……分かった。気をつける」


それからは、なるべくアイーダと二人きりにならないようにした。昼食も人目のある場所を選び、乗馬部へ顔を出すのも他の生徒がいる時間に限った。


ある日の午後、乗馬部でアイーダと馬を走らせた。


「ちょっと! 手加減してよ!」


後ろから声が飛んでくる。


「競争すると言ったのは君だろう」


そのまま速度を落とさず走り、当然のように俺が先にゴールした。


遅れてやって来たアイーダが頬を膨らませる。


「もう! 普通、こういうときは女の子に勝たせるものじゃない?」


「そうなのか?」


「知らないけど!」


拗ねたように言いながら、アイーダはすぐに笑った。俺もつられて笑う。


馬から降りようとしたアイーダが、不意に足を滑らせた。


「きゃっ」


咄嗟に手を伸ばすと、アイーダがそのまま腕の中へ落ちてきた。


「大丈夫か?」


「う、うん……」


顔を上げたアイーダと目が合う。互いに何も言わないまま、ほんの数秒見つめ合った。


やがてアイーダの頬が赤くなる。その表情を見た瞬間、胸が大きく鳴った。


――もしかして。


アイーダも、俺と同じなのではないか。


確かめたいと思った。


もし同じ気持ちなら――。


そこまで考えて、思考を止めた。その先を口にすることはなかった。


「……悪い」


身体を離すと、アイーダも慌てたように一歩下がった。


「ううん。助けてくれてありがとう」


それでいい。


そう思うしかなかった。



数日後、今度は母上に呼ばれた。


部屋へ入ると、母上はいつになく険しい表情をしていた。言われたことは、だいたいセドリックたちと同じだった。


「ジュリアが傷ついていないとでも思っているのですか?」


「それは……」


アイーダとのことを許してほしいと頼んだとき、ジュリアがすぐには答えなかったことを思い出す。それでも、最後には頷いてくれた。


「ジュリアは、理解してくれています」


「理解していることと、傷つかないことは別でしょう。ジュリアがあなたの願いを受け入れたのは、あなたを思っているからです。ならば、あなたも少しは彼女の気持ちを考えなさい」


その言葉が、妙に胸に残った。


翌日、王太子妃教育を終えたジュリアと顔を合わせたので、馬車まで送ることにした。


道すがら教育の進み具合を尋ね、無理はするなと声をかける。それだけのことだったが、ジュリアは嬉しそうに笑った。


その様子を見て、母上の言葉を少し気にしすぎたと思った。以前より、ジュリアとも自然に話せるようになっている。


あとは、俺が約束を守ればいい。


やがて、学園内で開かれる夜会の日が近づいた頃、ジュリアがどこか不安そうに尋ねてきた。


「殿下……夜会は、殿下がエスコートしてくださるのですよね?」


なぜ、わざわざ確認するのだろう。


夜会でジュリアをエスコートすることも、最初のダンスをともに踊ることも、俺の中では初めから決まっていた。


「当たり前だろう。君は俺の婚約者なんだから」


そう答えると、ジュリアはほっとしたように笑った。その様子を少し不思議に思ったものの、それ以上深く考えることはなかった。


夜会で音楽が始まると、予定通り最初の一曲をジュリアと踊った。


ジュリアとのダンスは昔から踊りやすい。俺が少し先へ踏み込めば、彼女は自然に身体を返す。こちらが細かく気を配らなくても、足取りが乱れることはない。


だからだろう。


踊りながら、意識がふと別の場所へ向いた。


広間の端に、アイーダがいた。


桃色のドレスを着て、友人たちと話している。いつもより少し大人びて見え、思わず目を奪われる。


ちょうどアイーダもこちらを見た。目が合うと、彼女が微笑んだ。


それだけで、胸の奥が浮き立った。


やがて曲が終わり、ジュリアの手を離す。


アイーダがこちらへやって来た。


「次は、私とも踊ってくれる?」


「言うと思った」


「えっ、なんで?」


「さっきから、目がそう言っていた」


「うそっ。そんなに分かりやすかった?」


分かりやすかった。他の男子生徒から声をかけられても踊らず、こちらを何度も見ていたのだから。


俺はアイーダへ手を差し出した。


「行くぞ」


「うん!」


曲が始まると、すぐにアイーダの動きが固いことに気づいた。


「わっ」


「足元を見るな」


「だって踏みそう!」


「俺を見ていればいい。合わせるから」


「本当?」


「ああ」


アイーダがおそるおそる顔を上げる。


俺が動きを合わせてやると、次第に彼女の足取りも軽くなっていった。一度きれいに身体を返すことができると、アイーダの顔がぱっと明るくなる。


「すごい! 私、ちゃんと踊れてる!」


「だから言っただろう」


「レイ、上手ね。さすが王子様」


楽しそうに笑うアイーダを見て、俺も笑った。


やはり、アイーダといる時間が一番楽しい。


ふと、音楽が終わりへ近づいていることに気づく。


あと少しで、この曲は終わる。そして、学園で過ごせる時間もいつか終わる。アイーダとこうして過ごせる時間も。


いずれ彼女とは距離を置き、別の誰かと結ばれるのを見届けることになる。


それが最初から決まっていた未来だ。


分かっていたはずなのに、目の前で楽しそうに笑うアイーダを見つめながら、初めて思った。


――本当に、終わらせられるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そう、終わらせることはできない…だから君は終わるんだぜ。クズ王子くん。
婚約者に限らす周りの人間の気持ちに一切関心がなく、それ故相手の立場や心情を思いやる配慮など考えもつかず、周りから自分がどんな目で見られているかも気づかない 夜会で婚約者を雑に放置して愛人とずっとイチャ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ