第五話:自分の意思で/第二幕:本当の静寂
四人で終わらせる。
そう思った時には、エイリクの背中が視界を遮っていた。
振り下ろされた長剣を、大斧の柄で受け止める。金属が噛み合う重い音とともに、エイリクの右足が半歩沈んだ。それでも、先刻のように身体ごと弾き飛ばされることはない。
「軽くなったじゃねえか」
大斧を捻り込み、長剣の腹を横へ流す。レヴァナントはすぐに刃を滑らせ、絡め取られる寸前で軌道を変えた。刃が再び噛み合い、押し合う柄が軋む。エイリクの肩がわずかに落ちる。
その隙をナイアの矢が突く。
膝裏を正確に射抜いた。だが次の矢へ伸びた手は、ほんのわずかに遅れた。
敵の右脚が沈む。
シグは剣を横へ払った。
《風撃》
放った風が傾いた巨体を叩く。柄を握る手に返る反動が、いつもより鈍い。踏ん張り切れず身体が流れたが、それでも敵は狙った方向へ傾いだ。
胸が開く。
エルセリアの踏み込みが、一瞬だけ乱れた。何度か瞬きを繰り返し、それでも足は止めず、雷を纏った剣を傷だらけの胸へ突き入れる。
雷鳴が弾けた。レヴァナントの身体が仰け反り、内側で何かが断線したように光が漏れる。長剣が下がり、片膝が石を打った。それでも指は剣を放さない。
「まだ動くのかよ」
エイリクが低く吐き捨て、踏み込んだ。大斧が下から跳ね上がる。肉を断つ重い音とともに、両断された上半身が長剣ごと崩れ落ちた。
誰も動かなかった。
シグは剣を構えたまま待った。
一息。
もう一息。
レヴァナントは起き上がらない。
それでも、剣を下ろす気になれなかった。一度は倒したと思った。その記憶が、まだ腕から抜けない。
エイリクが石突きで死体を押し、反応がないのを確かめてから、担いだ斧の重みに初めて肩を落とした。エルセリアは壁に手をつき、乱れた息を整えている。ナイアは矢筒へ手をやったまま、しばらく次の一本を番えなかった。
低い駆動音が耳に入ったのは、その時だった。
「まだ動いてる」
エルセリアが壁際へ目をやる。床の光は弱まっていたが、消えてはいない。
「私たちが断ったのは、こいつ一体分の供給だけだったってことか」
「たぶんね。遺跡そのものは、別に生きている」
◇
青白い筋を逆に辿ると、枝分かれしていた溝が一つに集約されていく。行き着いた先には、幾重もの金属環を重ねた円筒状の設備があった。低い振動が床から伝わってくる。
「前に来た時は、ここまで光っていませんでした」
「こっちから来てた」
シグが指した先を、エルセリアが刻印ごとなぞった。指先が細かく震えていた。
「古代イル=ラミナ帝群の設備……外の魔力を集めて、人へ回していたものかもしれない」
「そんな昔のもんが、まだ生きてんのか」
「生きてるんじゃない。止め方を忘れられたまま、動き続けてるだけ」
シグは足元の溝を見た。さっき自分が断ったのと同じ流れが、今もこの下を巡っている。
「で、どう止める?」
エイリクは早くも設備の側面を覗き込んでいる。
「壊すのは最後にして」
「まだ何もしてねえ」
「あなたの場合、言っておかないと遅いのよ」
太い伝導路の先に、円形の機構があった。枠の中央を把手が一本横切っている。エルセリアが周囲の刻印へ目を走らせた。
「……供給を切るためのものだと思う」
エイリクが把手を握るが、動かない。両手をかけると、固着した金属から赤錆に似た粉が落ちた。
鈍い音とともに把手が動いた。振動が乱れ、金属環が停止する。青白い光は中枢に近い場所から順に暗くなり、やがて最後の一筋が消えた。
長く遺跡の奥底を満たしていた駆動音が途切れる。
本当の静寂が訪れた。




