第四話:四人の戦場/第一幕:鎧のレヴァナント
巨大な扉の先は、これまでの通路とは造りが違っていた。
天井は高く、壁際には何層もの金属管が走っている。人の背丈を優に超える装置が一定の間隔で並び、その間を青白い光が脈打つように流れていた。
シグは足元を見る。
細い溝が幾筋も合流し、奥へ続いている。
「やっぱり、こっちに集まってる」
エルセリアは歩みを緩め、壁へ伸びる光を目で追った。
「魔力……だと思う」
「思う?」
エイリクが聞き返す。
「少なくとも似たものよ。何に使ってるかまでは分からないけど」
エルセリアはそれ以上近づかず、先へ視線を移した。
エイリクが左手を上げる。
三人が止まった。
《ハンターズセンス》で周囲を探りながら、眉間に皺を寄せる。
「近い」
「さっきの気配ですか?」
ナイアが弓へ手を掛ける。
「ああ。一つだけだ」
エイリクは大斧を肩から下ろし、その柄を床へ突いた。
「だが、でかい」
◇
通路を抜けた先は、円形に近い広間だった。
壁際には大型の設備が並び、その中央に一人の男が立っている。
いや、生きた人間ではない。
血色のない顔。微動だにしない胸。身体を覆う薄い光。
レヴァナント。
だが、先ほどの三体とは装いが違う。黒ずんだ金属鎧は損傷しているものの、肩や胸には幾何学的な装飾が残っていた。右手には幅広の長剣を持っている。
刃にはいくつもの欠けがあった。
それでも、剣を下げた立ち姿には隙がない。
シグが一歩進む。
レヴァナントの顔が動いた。
視線がエイリクへ向き、次にエルセリア、ナイア、最後にシグを捉える。
長剣がゆっくり持ち上がった。
「来るぞ」
エイリクが前へ出る。
誰も返事をしなかった。
ナイアが右後方へ離れ、エルセリアは左へ回る。シグも二人の間から敵を見た。
レヴァナントが床を蹴った。
金属音が一気に近づく。
振り下ろされた長剣を《ルーン・ブレイカー》が受けた。刃と斧身が噛み合い、耳を刺す音が広間へ響く。
エイリクの足が半歩滑った。
「重いな」
押し返した大斧を、敵は剣を引いてかわす。
そこへナイアの矢が飛んだ。
レヴァナントは身体を捻ったが、完全には避けきれない。矢尻が左肩へ食い込み、鎧の隙間へ深く刺さる。
だが、動きは止まらない。
矢の飛んできた方向へ顔を向け、ナイアを捉える。
シグはすでに剣先を向けていた。
《風撃》
風圧が横から胴を叩く。
衝撃を受けながらも、レヴァナントは剣を床へ深く突き立て、強引に体勢を残した。
剣を引き抜くより早く、エルセリアが踏み込む。《雷纏の剣》の青白い雷が長剣とぶつかり、火花を散らす。
敵が力任せに押し返す。
エルセリアは逆らわずに退いた。
直後、シグの目の前からエイリクの背中が消えた。
《プレデターステップ》
敵の死角へ回り込み、大斧を斜め上から振り下ろす。
敵が振り返るが、遅い。
斧刃が肩口を捉え、その身体を鎧ごと叩き落とした。
勢いのまま床を転がり、やがて止まる。
シグは剣を握ったまま、相手の動きを待つ。
肩には矢が残り、鎧は大きく陥没している。
それでも立ち上がり、長剣を構え直した。
今度は真っ先にシグへ向かってきた。
速い。
横薙ぎの刃を屈んでかわす。頭上で風が鳴り、すぐに返しの一撃が迫った。
シグは後ろへ逃げず、踏み込む。振るった剣を敵の刃が受けた。
腕へ返ってきた重さに肘が沈む。剣を押し合えば負ける。シグは力を抜いて刃を滑らせ、そのまま横へ抜けた。
敵が追おうと足を動かした時、膝裏へ矢が刺さった。
レヴァナントの身体が僅かに沈む。
シグは振り返らない。
ナイアなら、そこを狙う。
《風撃》
至近距離から風圧を叩き込む。
傷んだ脚が浮き、敵の姿勢が崩れた。
エルセリアが踏み込む。
雷を纏った刃が鎧の裂け目を斬り広げた。
レヴァナントの長剣が跳ね上がり、エルセリアへ落ちる。
エイリクが割り込んだ。
左腕の《エーテルアイギス》が一瞬だけ輝く。
半透明の障壁に刃が激突し、エイリクの肩が沈んだ。
障壁はすぐに消える。
その時には《ルーン・ブレイカー》が下から振り上げられていた。
鈍い音とともにレヴァナントの身体が浮く。
「シグ!」
呼ばれる前から動いていた。
敵が落ちる先へ踏み込む。
剣を両手で握る。
エルセリアが斬り開いた胸元の裂け目へ刃を突き込んだ。
刃が金属を抜けた瞬間、肉や骨とは違う、粘りつくような抵抗が両手へ返ってきた。
さらに強く押し込み、刃を深く沈める。
レヴァナントの身体が大きく揺れた。
今度こそ、届いた。
シグはすぐに剣を引き抜き、距離を取る。
敵は両膝をついた。
ナイアも次の矢を番えたまま動かない。エルセリアは剣を構え、エイリクはシグより半歩前に立っている。
レヴァナントの長剣が床へ触れた。
倒れる。
そう思った。
「……待って」
エルセリアが胸元へ手をやった。
首飾りの感応石が強く震えている。
「何か来る」
その視線が足元へ落ちた。
広間を巡っていた光が流れを変えている。
壁から床へ。
床から、レヴァナントの立つ場所へ集まっていく。
胸を貫いた傷は残っている。肩の矢も、潰れた鎧もそのままだ。
それなのに、薄れかけていた身体の魔力が再び濃くなっていく。
四人は武器を握る手から力を抜くことができない。
シグは詰めていた息を、ゆっくり吐き出す。
その時、床についていた長剣が持ち上がった。
それは再び立ち上がる。
そして何事もなかったかのように、四人へ向け剣を構え直した。




