第三話:眠れる遺産/第三幕:消えない光
兵装区画を出ると、通路の青白い光が一段と強まっていた。
一定の間隔で壁へ光が昇り、扉の縁を巡って床へ戻る。少し先では閉じていた石扉が低い音とともに開き、しばらくすると再び閉じた。
エイリクが足を止める。左手の紋章が淡く明滅した。
「奥に三つ……いや、四つだ。だが、あの扉の向こうまでは正確には読めん」
《ハンターズセンス》が捉えているのは、隔壁の向こうで蠢く何かだ。
エルセリアは開閉する扉ではなく、床を走る光の軌跡に目を凝らしていた。
「もう一度」
「何がだ」
「開くまで待って」
やがて光が再び壁を昇る。扉の縁に届いた瞬間、重い石板が外側へ退いた。
エルセリアの唇が微かに動く。数えるような間があり、再び石扉が閉ざされる。二度目も同じだった。
「無茶苦茶に動いてるわけじゃない」
「規則があるのか」
シグの問いに、エルセリアは視線を外さずに答える。
「たぶんね。ただ、何のための仕組みかは分からない。私たちを閉じ込めようとしてるのか、元からこういう構造なのかもね」
「上も動いています」
ナイアが顎を引いた。天井近く、壁から突き出した細長い金属装置がゆっくりと向きを変えている。
四人は反射的に壁際へ身を寄せた。
装置の先端に光が集まり、向かいの壁へ白い光が走った。遅れて焼けた臭いが鼻を刺す。
シグは床に視線を落とした。装置の真下を通る青白い溝が、発射の直前だけ鋭く輝いていた。
「撃つ前に、あそこが光ってる」
「……そうみたいね」
エルセリアは次の発光を待つ。
「今」
合図とともに四人が開いた扉を抜けた。
◇
その先は、二手に分かれた広い区画だった。
正面の壁が左右へ分かれ、奥へ続く通路が覗いている。左右の壁面から、複数の装置がこちらへ向きを変え始めた。
同時に、通路の奥からアンデッドの足音が重なる。
「来るぞ」
エイリクが前へ出る。大斧が唸り、先頭のアンデッドを両断して踏み込みを押し止めた。
ナイアはその右手前へ滑るように移動し、脇を抜けようとした一体の膝を射抜く。
シグは剣を構えた。手の内側に汗が滲む。
「シグ、右」
ナイアの声が飛ぶ。斬り結ぶ余裕はない。シグは剣先を敵の胴へと突き出した。
《風撃》
風圧を受けたアンデッドが横へ押し出される。狙ったのは通路の端ではない。壁面装置の射線だった。
次の瞬間、白い光が走り、魔力弾をまともに受けた身体が床を転がっていく。
「そうやって使うのね」
エルセリアが一瞬だけ目を細めた。
正面の壁が完全に開く。
エルセリアが床の光へ目を走らせた、その途中だった。
天井の装置が一斉に発光する。
「来る!」
シグが床を見る。
床を走る光が、一斉に強まった。逃げ込める隙間がない。
シグは無意識に、ナイアとエルセリアの前へ出ようとした。
その肩をエイリクが掴む。
「下がれ」
シグを後ろへ押しやり、左腕を突き出す。
エイリクの篭手から半透明の障壁が広がり、魔力弾を連続で受け止める。一発目で左腕が押し戻され、二発目では身体まで揺れた。靴底が石床を滑る。
「右の通路が空く。シグ、私と一緒に来て」
エルセリアは障壁へ飛んでくる魔力弾ではなく、床を走る光を追っていた。次に発光する装置を見ているのだと、シグは遅れて気づく。指示を待たず、彼女の視線の先へ足を運んだ。
ナイアはすでに走り出していた。障壁を張るエイリクの脇を抜け、先へ駆ける。
「エイリクさん、抜けて!」
障壁が消えると同時に、エイリクが横へ跳んだ。直後、彼が立っていた場所へ光が突き刺さる。
四人が奥の通路へ転がり込んだ瞬間、背後で重い石扉が閉ざされた。
反響する低い振動が消え、静寂が戻る。
エイリクは膝に手をつき、荒い息を吐き出した。
「やっぱり長くは無理だな、こいつは」
ナイアは矢筒を確認し、残数に目を細める。エルセリアは息を整えることもせず、すでに正面の暗がりを見据えていた。
シグは閉ざされた壁を振り返る。
エイリクが庇わなければ間に合わなかった。エルセリアが次の発光を読んでいなければ、進む方向さえ分からなかった。
「行くわよ」
その声に、エイリクが身体を起こし、ナイアが矢筒から手を離した。シグも二人に続く。
正面には、これまでより広い通路が伸びていた。
青白い光が、その奥まで途切れることなく続いている。
シグは足を止めた。
これまでなら、とうに一度は消えている。
もう少し待った。
それでも、光は消えなかった。




