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Chronicle ーエルディア・バース戦記ー  作者: kissaki / 切っ先
第三章:「冒険者への第一歩」

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第五話:届いた名前/第一幕:紋章狩り

 バルサへ戻った翌日、シグは冒険者ギルド本部の掲示板の前にいた。昨日と同じように依頼書を一枚ずつ確認していく。何枚かめくってみても、目に入るのは見覚えのある種類の仕事ばかりだった。


 腰には《風撃の剣》がある。まだ使いこなせてはいないが、それを試すためだけに仕事を選ぶつもりもなかった。


 シグは討伐依頼を一枚戻し、隣の紙へ目を移した。そこで、見慣れない言葉に視線が止まる。


 《紋章狩り》容疑者の調査および捕縛。


「……紋章狩り?」


 声に出すと、隣にいたエルセリアが依頼書を覗き込んだ。


「知らない?」


「聞いたことないな」


 シグは紙を外した。依頼場所はバルサ市内。実行犯と思われる人物が出入りしている場所について情報が入り、対象が本人だと確認できた場合には捕縛する。引き渡しは原則として生存状態。最後まで読んでも、肝心の意味が分からない。


「何を狩るんだ?」


「人の紋章よ」


 シグの目が紙から離れた。エルセリアは周囲へ聞かせるような声では話さなかった。


「他人の身体から紋章を無理に摘出して、奪うの」


「そんなことできるのか?」


「できる。簡単でも安全でもないけれどね」


 シグは自分の右上腕へ目を落としかけたが、途中で止めた。服の下にある黒い紋章を意識すると、無意識に右手の指が縮む。その手を開いて、依頼書へ戻した。


「奪ってどうする?」


「売るのよ」


 答えたのはエイリクだった。


「紋章そのものを欲しがる連中がいる。盗品と同じで、買う奴がいれば売る奴も出る」


「じゃあ、こいつを捕まえても……」


 シグは依頼書の「実行犯」という文字へ目を戻した。


「こいつ一人で全部やっているとは限らない?」


「むしろ一人で済むと思わない方がいいでしょうね」


 エルセリアが答えた。依頼書を裏返しても、依頼人の名前はない。


「依頼人は?」


 シグが受付で尋ねると、職員は紙を確認した。


「非公開です」


「それで受けられるのか?」


「ギルドでは身元を確認しています。依頼内容についても審査済みです」


 それ以上は答えられないらしい。シグはもう一度、依頼書を最初から読んだ。場所は市内。長距離の移動はない。調査対象は一人。ただし、本人だと確認するまでは手を出せない。そして捕まえるなら、生きたまま。


「殺したら失敗ってことか」


「原則としてはそうなるわね」


 エルセリアの返事を聞き、シグは腰の剣へ触れた。これまで剣を抜いた相手は魔獣か、殺されなければこちらが殺されるような敵だった。狙うなら急所を外す必要はなかった。今度は違う。斬れることと、斬っていいことは同じではない。


「難しそうだな」


 シグが呟くと、エイリクが横から依頼書を覗いた。


「やめるか?」

「いや」


 返事はすぐに出た。


「受けたい」


 エイリクがシグを見る。


「理由は?」


 シグはすぐには答えなかった。


 手元の依頼書へ視線を落とす。


「俺はずっと、紋章が欲しかった」


 シグは目線を二人に移して続けた。


「紋章を持ってる奴から無理やり奪って、金にするんだろ」


 依頼書を持つ指に、少し力が入った。


「気に入らない」


「それだけか?」


「それに、やったことがない仕事だ。こいつが本当に犯人か確かめて、殺さず捕まえて連れて帰る。剣を振れば終わる仕事じゃないんだろ」


「そうだな」


「なら、やってみたい」


 エルセリアは止めなかった。シグは依頼書を受付へ出し、依頼を受領した。


 ◇


 ギルドから渡された情報は多くなかった。対象はバルサ市内に住む男。被害者の一人が襲われる前に目撃した人物の特徴と一致し、別の証言からも不審な行動が確認されている。どれも疑うには十分だが、犯人と断定できるものではない。


 ギルド本部を出ると、昼前のバルサはすでに多くの人で溢れていた。仕事着の男が仲間と笑いながら通り過ぎ、その後ろを旅装の一団が歩いていく。誰もがそれぞれの用事を抱えた、ごく普通の通行人に見えた。


 シグは行き交う人々を見た。このどこかに、他人から紋章を奪っている人間がいる。


 魔獣なら姿を見れば分かる。今回は、そうはいかない。


 シグは腰の《風撃の剣》を確かめた。


「行こう」


 三人は人混みの中へ歩き出した。

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